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2015年3月25日

【佐藤健志】<演劇的経済論>演出家としての政府

From 佐藤健志

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先週のおさらいから始めます。
中野剛志さんの新著『資本主義の預言者たち ニュー・ノーマルの時代へ』(角川新書)は、以下の5人の経済学者の業績を踏まえつつ、資本主義という経済システムのあり方を根本から問い直そうとしたもの。
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1)ハイマン・ミンスキー
2)ソースタイン・ヴェブレン
3)ルドルフ・ヒルファーディング
4)ジョン・メイナード・ケインズ
5)ジョセフ・シュンペーター

そして結論は、次のようにまとめられるでしょう。

1)人々が豊かで充実した人生を送ることに奉仕する(=「経世済民」の実現に貢献する)のが、経済が本来果たすべき機能である。
2)しかるに企業の所有と経営とが分離し、金融の発達した20世紀以後の資本主義は、人々が豊かで充実した人生を送ることよりも、金融資本が巨大化すること自体に奉仕するようになりやすい。
3)しかもそのような資本主義は、本質的に不安定で、恐慌を引き起こす危険をつねにはらんでいるのではないか。

ならば現在の資本主義経済をして、
「経済が本来果たすべき機能」を果たさせ、経世済民の実現に貢献させるにはどうすればいいか。
中野さんの結論を、私なりに要約すればこうなります。

1)経済効率ばかりにこだわることなく、多様な価値観を容認し、
2)かつ長期的な視点に基づいた発展や繁栄をめざす共同体が、
資本主義が安定化するか、少なくとも極端に不安定な状態に陥らないよう、たえずコントロールしてゆく。

というのも、「不安定に変動する、不確実性の高い社会においては、人間は、目の前の事態への対応に追われてしまう」からです(256ページ)。
本からさらに引用しましょう。

将来の見通しをおおよそ立てることができる安定した社会でなければ、自分の人生を長い目で見て設計することはできない。しかし、無規制な自由が認められた市場は予測不可能に変動し、社会の不確実性を高める。

そのような不安定な社会で自由を認められても、誰も自分の望むような人生を送ることはできない。そして、その不確実性の最悪の事態が、資本主義がもたらす恐慌なのである。
(270〜271ページ)

つまり、
社会規模において、過去・現在・未来に(おおよそ)筋が通っていなければ、誰も豊かで充実した人生を送ることはできず、よって経世済民も実現されない
ということになります。

他方、資本主義経済をコントロールすべき共同体の代表格は国家。
そして国家の実務を担うのは、言うまでもなく政府です。

ならば経世済民の実現のために、まずもって政府がなすべきは、
国民が豊かで充実した人生を送りやすくなるよう、国家の過去・現在・未来に(おおよそ)筋を通すこと
となるでしょう。
財政政策にせよ、金融政策にせよ、このような筋張りがうまく行ってこそ、真に有効なものとなるのです。

しかるにここでご紹介したいのが、劇団四季を長年率いてこられた、名演出家にして大プロデューサー・浅利慶太さんの言葉。
浅利さんの著書『時の光の中で 劇団四季主宰者の戦後史』(文春文庫、2009年)からの引用です。

いい芝居の筋を見つけると惚れこんでしまう。(中略)演出家とは筋張り職人なのである。開幕から(ドラマの世界の)観光案内人としてお客様を山を越え谷を渡って導き、いわゆる「起・承・転・結」という作劇の法則通りの道を、大団円という広々とした野まで送り届ける。

途中には恋あり、涙あり、名台詞あり、名場面あり、思想あり、情念あり、哲学ありなのだが、とにかく演出は「筋道」を貫くことが仕事である。
(78ページ。表記を一部変更。カッコは引用者)

どうでしょう、みなさん。
ここで語られている演出家の仕事は、資本主義経済を安定させるため、さらには経世済民を実現させるために、政府が果たすべき役割とそっくりだと思いませんか?

2月25日の記事「岩手まるごとおもてなし隊〜想像力と地方創生」でも書きましたが、20世紀フランスを代表する劇作家のジャン・ジロドゥなど、『パリ即興劇』という作品に、こんなやりとりを盛り込みました。
「『総理大臣、都市計画にも少し無茶を、財政にも少し夢を、農業経済にも少し演出を』なんて言えっていうのか!」
「そうすると悪くなると思うのか?」

しかり。
資本主義経済を安定させ、経世済民を実現するために必要なもの、それは「日本の過去・現在・未来に筋道を通す演出」なのです。
演劇においては、すぐれた演出家がいないかぎり、台本がいくら良くても観客が感動することはありませんし、役者もスタッフも力量を発揮できません。
同様、政府がしっかりと経済を、いや国家そのものを演出しないかぎり、いかに成長のポテンシャルがあっても、ムダになってしまう恐れが強い。

シェイクスピアの名言「世界は舞台、男も女もみな役者」ではありませんが、演劇はまさに国や社会の縮図。
政治や経済のあるべき姿をさぐるうえでも、すぐれた芝居は大いに役立つと言えるでしょう。

なお浅利さんはきたる4月、ジャン・ジロドゥの代表作『オンディーヌ』を東京で演出します(4月19日〜5月5日。浜松町の「自由劇場」にて)。
日本を代表するスタッフ・キャストによる公演ですので、興味の湧いた方はぜひご覧下さい。
チケットは好評発売中です。
http://ondine2015.com

ではでは♪

<お知らせ>
1)日本のあり方に筋を通すには、まず逆説(パラドックス)を直視しなければ!
「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

三橋貴明さんも「読んで『これだ!』と思った」と絶賛!
紙版に続き、電子版も発売されました。
若い読者が「我が意を得たり」とばかり、本書の議論をどんどん広めてゆくのではないかという賛辞もいただいています。

2)KADOKAWAのメルマガ「踊る天下国家」が更新されました。
「<お花畑>と全体主義〜自民党大会から見えてくるもの」。

安倍政権は地方自治体を、知事が自民党系かどうかで差別する?
先ごろ開かれた自民党大会で、驚異のトンデモ発言がなされていた!
その背後にひそむ「高次元お花畑」構造をさぐる!

3/25(水)の8:00配信開始。
1時間に及ぶ音声ファイルつきです。
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar754163

最近のバックナンバーもどうぞ。
どれも音声ファイルがついています。
「恐怖の<ダブルお花畑>〜曽野綾子さんのコラムをめぐって」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar747124
「さらば、愛の行為よ〜日本で男女関係は成り立つか」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar736635
「『テロに屈しない』という現実逃避〜政府と野党の欺瞞の構造」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar726619
「日本よ、自己欺瞞をやめろ!〜イスラム国の拘束事件をめぐって」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar716370
「石原慎太郎から安倍晋三まで〜2015年はどんな年になるか」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar706735

3)戦前と戦後に筋を通すための条件については、この本もどうぞ。
浅利慶太さんと劇団四季も、折に触れ登場します。
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4)「古くから受け継がれた価値観を抜きにして、社会がちゃんと機能するかどうか試してみたあげく、経済も学問・文化もすべてパアにしてしまえば、国家はいったいどうなる?(中略)そんな国には何もないし、未来への展望も望みえない」(113ページ)
225年前の警告は、現在も生き続けています。
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5)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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