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2015年2月25日

【佐藤健志】岩手まるごとおもてなし隊〜想像力と地方創生

From 佐藤健志

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●世界を動かす力の正体とは?

https://www.youtube.com/watch?v=xSpcGUoATYk&feature=youtu.be

※※月刊三橋『激流グローバルマネー』より

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「地方創生」の時代にふさわしく、最近は全国各地に「ご当地アイドル」が存在する模様。
とはいえ2014年2月、岩手で結成された「岩手まるごとおもてなし隊」は、そんな中でも異彩を放っています。

同県の魅力を広く発信することを使命とした美女5人のユニットでそれぞれ岩手の観光資源を擬人化したキャラになっているのですが、少なくとも2人は人間ではないのです!
公式サイトの情報に基づき、順番にご紹介しましょう。

リーダー格が「サクラ凜(りん)」さん。
盛岡名物「さんさ踊り」の舞姫という設定です。

つづいて「リアス渚」さん(このネーミングは圧倒的!)。
北限の海女で、「三陸のマーメイド」と呼ばれます。

三人目が「清基秀泰ノ泉(きよもとひでやすのいずみ)」さん。
800年の時を経て甦った平安貴族。

1192年には源頼朝が征夷大将軍に任命され、鎌倉時代が始まったのを思えば、正確には(少なくとも)「820年あまり」のはずですが、それは脇に置きます。

さらに「マジカル河童ちゃん」さん。
「ちゃん」は名前の一部です。
岩手生まれの河童で、ふだんは銀河を泳いでいるとのこと。

そして「めんこいワラシ」さん。
つまりは座敷わらしで、「幸運を呼ぶ守り神」なのだそうです。
http://iwate-omotenashitai.com

河童と座敷わらしは、ともに妖怪ですので、「人三化七」(にんさん・ばけしち。人間三割、化け物七割の意で、容貌に難のある女性を形容する表現)ならぬ「人三妖二」ということに。
いえ、おもてなし隊は美女ぞろいですよ。念のため。

しかも人間三人のうち、リアス渚さんは「海女に化けている人魚」という設定で、清基秀泰ノ泉さんは平安時代人。
残るサクラ凜さんも、いったん踊り出すや、鬼を退治するほどの力を持っているのだそうです(すべて公式設定より!)。

岩手に「平凡な美女」はいないのか?!?
・・・そんなツッコミを入れたくなるところですが、このキャラ設定、「戦隊配列」(※)を手本にしつつも、じつに秀逸なものを感じます。

(※)戦隊配列とは、5人のグループを作る際、メリハリをつけるために使われるキャラの振り分け方。「熱血漢のリーダー、クールな二番手、優しい力持ち、紅一点の美女、頭のいいチビ」が典型例。赤、青、黄、ピンクなど、衣装の色で違いを際立たせる場合も多い。テレビの「戦隊もの」でおなじみなので、こう呼ばれます。

岩手まるごとおもてなし隊は、同県の観光資源を擬人化したというより、「岩手県人の想像力」を擬人化した存在なんですね。
まあ河童と座敷わらし(とくに河童)は、必ずしも岩手特有のものではありませんが、この点も脇に置きます。

想像力を擬人化することの何が秀逸なのか。
20世紀前半のフランスを代表する劇作家で、外交官でもあったジャン・ジロドゥの言葉をご紹介しましょう。

「国民は強力な非現実生活を持たなければ、偉大な現実生活を持つことができないということを、国家が理解しようとするか否かが問題だ。
国民の力は想像力である。(中略)
エッフェル塔を照らすのは良い。
しかし脳に光を与えるほうが良いとは思わないか?」
(『パリ即興劇』より。寺川博訳。表記を一部変更)

「強力な非現実生活」とは、つまり豊かな想像世界のこと。
それがなければ「偉大な現実生活」、つまり豊かな暮らしはありえないというのです。
なぜか?

お分かりですね。
いかなる「開発」「発展」「成長」も、最初は「社会がこうなったらいいのに」というビジョンから始まるからです。
理想と言い換えてもいいでしょう。
これが貧困だったら、いくら頑張ってもさしたる成果はあがりません。

すなわち地方創生に必要なのは、
1)地域の望ましいあり方をめぐる優れたビジョンと、
2)そのビジョンをしっかりと現実化できるような合理的戦略
の二点。
後者は理論やデータの世界ですが、前者は多分に想像力の世界です。

ジロドゥの『パリ即興劇』には、こんなやりとりまで出てくるのですよ。
「『総理大臣、都市計画にも少し無茶を、財政にも少し夢を、農業経済にも少し演出を』なんて言えっていうのか!」
「そうすると悪くなると思うのか?」
(同)

ゆえに岩手県の力は、ずばり岩手県民の「非現実生活」。
そこから抜け出してきたようなキャラ設定になっているのが秀逸なのです。

たんに「地元の美女を5人そろえました」というだけでは、よくある「観光誘致のご当地アイドル」にすぎない。
おもてなし隊は、「岩手はこんな想像力を持った人々のいるところです」という点を体現することで、「岩手の地方創生ポテンシャル」とでも呼ぶべきものを表しているのです!

ちなみに本年2月5日、「河北新報」に掲載された紹介記事によれば、おもてなし隊誕生のきっかけは、盛岡市のイベント会社「アネシス」が、県の緊急雇用創出事業を受託したこと。
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201502/20150205_33004.html

メンバーは一般公募で、全員、岩手の出身。
歌や踊りのレッスンを重ねたあと、2014年8月、盛岡の「さんさ踊り」でデビューしました。

サクラ凜さんによれば、「思うように笑顔がつくれなかったり、練習についていけなかったりして何度も泣いた」とのことですが、今では地元を中心に、さまざまなイベントに登場しています。

3月末まではJR盛岡駅の新幹線改札内広場で、週二回、さんさ踊りを披露するパフォーマンスも展開中。
木曜日の午前10時〜12時30分と、金曜日の午後3時〜7時だそうです。
ただしお休みの場合もあるようなので、盛岡に行ってみようと思われる方は事前にご確認下さい。

また今週後半は、東京の丸の内で開かれる「イーハトーヴいわて“絆”物産展」(丸ビル1F、マルキューブ)に登場する予定。
http://www.marunouchi.com/event/detail/2234

2月26日(木)と27日(金)は、サクラ凜さんとマジカル河童ちゃんさんの二人だけですが、28日(土)と3月1日(月)は全員がそろいます。
詳細は上記URLと、おもてなし隊の公式サイトをチェックして下さい。

ますますの活躍を期待したいですね。

なお「岩手まるごとおもてなし隊」、ローマ字でイニシャルを並べると「IMOT」(アイモット)に。
この略称、「愛、もっと」と読めるが・・・とツイートしたところ、同県の達増拓也知事(くしくも外交官出身です)より、
「岩手の愛、もっとさしあげます」の意味だろうとフォローをいただきました。
ではでは♪

<お知らせ>
1)三橋貴明さんも「読んで『これだ!』と思った」と絶賛!
発売以来、30日間連続でアマゾンのイデオロギー部門1位を記録しています
「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
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2)KADOKAWAのメルマガ「踊る天下国家」が更新されました。
2/25(水)の8:00配信開始。
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar736635

今回のテーマは「さらば、愛の行為よ〜日本で男女関係は成り立つか」。
恋愛に関心を持てず、セックスには嫌悪感までおぼえる若者が増え、夫婦の半数近くはセックスレスとなっている現在の日本。
その背景には何があるのか?
どうすれば脱却できるのか?
ご覧下さい。

最近のバックナンバーもどうぞ。
「『テロに屈しない』という現実逃避〜政府と野党の欺瞞の構造」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar726619
「日本よ、自己欺瞞をやめろ!〜イスラム国の拘束事件をめぐって」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar716370

3)2/16(月)発売の「表現者」59号(2015年3月号、MXエンターテインメント)に、「ヒトラーがSF作家だったら」が掲載されました。
同号の特集座談会「プラトンに倣(なら)い、民主主義を疑え」にも参加しています。

4)2/20(金)発売の「言志」03号(2015年3月号、ビジネス社)に「戦後日本のサクリファイス」が掲載されました。

5)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

PS
もしあなたが「情報の歪み」から日本を守りたいとお考えなら、こちらがお役に立つはずです。
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv2.php

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