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2014年7月23日

【佐藤健志】「コモン・センス」の現代的意義

From 佐藤健志@評論家・作家

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「日本を取り戻す」と言って出発した安倍政権ですが、
今やどうも、「日本をますます喪失させる」ことに邁進しているようです。

そう言えば首相、かつて「戦後レジームからの脱却」も唱えていましたが、
これも今や、「戦後レジームの完成」にすり替わった感が強い。

ただし「現内閣は歴史に残る売国政権」などと批判するのは、ハッキリ言って過大評価です。

1980年代いらい、日本の保守政権(ないし、そう呼ばれるもの)は、たいがい自由主義的な改革路線を基調としてきました。
ところが、そこにはつねに

1)日本を取り戻すと主張しつつ、日本を否定する。
2)戦後(体制)から脱却すると主張しつつ、戦後(体制)を強化する。

というパラドックスが見られたのです。

これはなぜか?

理解していただくには、拙著『僕たちは戦後史を知らない』から出発しなければなりません。
第7章「螺旋(らせん)階段の三〇年」で、私はこう書きました。

「自由主義的な改革(路線)には、日本社会のあり方をアメリカに近づけてゆくという目標も込められていた。(中略)とはいえ、このようなアメリカ化志向は副作用も伴った。アメリカが自国の利益にあわせて、日本社会のあり方を(市場開放や制度改革といった形で)変えるよう求めてきたとき、拒否できなくなってしまうのだ」

「アメリカの国益を踏まえている以上、当の要求はたいてい『日本社会をアメリカ式に変える』意味合いを持つ。ならばそれに応じることは、日本にとっても望ましいはずではないか。双方にとって利益となるのだから、受け入れるのが正しいことは疑いえまい」
(246ページ)

こうしてアメリカの要求を、しぶしぶ・・・どころか、積極的に歓迎して受け入れるのが、改革推進の定番となります。

けれどもアメリカ化にたいし、どうしてこんなに固執するのか?
ここにはさらに厄介なパラドックスがひそんでいるのです。

アメリカは自由主義経済の総本山のような国ですが、そのアメリカによって行われた敗戦直後の占領改革(わけても初期のもの)は、必ずしも自由主義志向のものではありませんでした。

それどころか、ニューディール政策(1930年代の同国で取られた経済政策。平等志向の性格が強かった)の影響が残っていたこともあり、社会主義的な側面まで見られたのです!

つまり自由主義的な改革の推進は、日本をアメリカに近づけるだけでなく、「戦後レジーム」からの脱却にもつながるものと見なすことができる。

『僕たちは戦後史を知らない』より、ふたたび引用しましょう。

「自由主義を志向する形で、戦後日本のあり方を変えてゆくことは、占領改革の否定というニュアンスを持つ。(したがって)日本をアメリカに近づけてゆくのは、アメリカによる占領の影響から自由になることなのである!」

「もっともアメリカ化を推進すればするほど、伝統的な日本のあり方は失われることになるため、これは『日本を消滅させることこそ、占領の影響から自由になること』と主張するにひとしい」
(247ページ。読みやすさを考え、表記を一カ所変更)

しかも日本のアメリカ化を推進することは、「戦後レジーム」を完成させることですから、これは「戦後レジームを完成させることこそ、戦後レジームから脱却すること」と主張するにもひとしい。

こうしてパラドックスは完成するのでした、ジャンジャン♪

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手塚治虫さんの名台詞にならえば、
「支離滅裂、奇怪破廉恥、荒唐無稽、独善茫然自暴自棄、非道残虐陰惨無法、狂乱狂恋百鬼夜行」
というヤツであります。
(手塚治虫『マンガの描き方』、光文社カッパ・ホームズ、1977年、239ページ)

私の本が、じゃありませんよ。
わが国の戦後史が、です。
くだんの支離滅裂、奇怪破廉恥、荒唐無稽、独善茫然(以下略)ぶりを、ずばり浮き彫りにしたという次第。
それはともかく。

安倍政権のやっていることが、上記の枠組みから一歩も踏み出していないことは、もはや明らかでしょう。
暴走もほどほどと言えるかも知れません。

だとしても、日本を真に取り戻したり、戦後レジームから本当に脱却したりするためには、以下の三点について見直すことが不可欠となります。

1)アメリカという国のあり方。
2)良くも悪くも、アメリカに強く影響されてきた戦後日本のあり方。
3)戦後の日米関係のあり方。

わが国の本格的な近代化・西洋化は、ペリー来航から始まっているのですから、本当は戦後日本のみならず、近代日本全体の見直しが求められるところです。

同様、日米関係にしても、開国から太平洋戦争にいたるまでの流れまで見直すことができれば理想的。

しかし、とりあえずは手の付けやすいところからということで、戦後日本だけにしておきます。

そして今週金曜、7月25日に刊行される『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(トマス・ペイン著、佐藤健志訳)こそ、そのための糸口を提供する一冊と言えるでしょう。

『コモン・センス』とは何か?
じつはアメリカをつくった本なのです。
もっと言えば、アメリカ独立戦争の起爆剤となった本。

アメリカはもともと、イギリスの植民地だったわけですが、1760年代後半になると、イギリスが重税を課したことをきっかけに、対立が深刻化してゆきました。

1774年9月には、植民地諸州の代表が集まった「大陸会議」により、イギリスとの通商断絶が決議される。
つづいて1775年4月には、マサチューセッツ州の中心地、ボストン市がイギリスの占領下に置かれます。
そして4月19日に発生するのが、「レキシントンの戦い」。

アメリカの民兵部隊と、イギリス軍との武力衝突です。

そんな緊迫した状況のもと、1776年1月に刊行されるのが『コモン・センス』。
じつはこの時点でも、アメリカ人の多くは「イギリスの姿勢に不満はある、だが果たして戦争に訴えてでも独立すべきなのだろうか?」と迷っていました。
けれどもトマス・ペインは、そんな迷いを一気に吹き飛ばすような熱弁を振るいます。

もはやイギリスとの和解などありえない!
今、われわれが起ち上がらなければ、新大陸アメリカは破滅するぞ!
だが独立を勝ち取ることさえできたら、世界で最も素晴らしい国をつくることができるのだ!
そしてアメリカには、イギリスと戦って勝つだけの力がある!!

尻込みしている場合か?!
やるべし! 起つべし! 独立あるのみ、草莽崛起!!

「草莽崛起(そうもうくっき)」とは、「一般の人々が決起する」ということですよ、念のため。

『コモン・センス』は発売されるや空前のベストセラーとなり、わずか一ヶ月後、2月には増補版が刊行される運びとなりました。
現在ではこの増補版が、『コモン・センス』の定本と見なされています。
むろん翻訳にあたっても、底本としました。

さて。
ペインの熱弁に突き動かされ、アメリカの世論は戦争遂行へと大きく動きます。
もはや流れは決まりました。
『コモン・センス』は「常識」という意味ですが、イギリスと戦ってでも独立を勝ち取ることは、まさにアメリカのコモン・センスとなったのです。

これを受けて7月4日、大陸会議で決議されるのが、かの独立宣言。
宣言の大部分を起草したのは、のちに第三代大統領となるトマス・ジェファーソンですが、彼はこの時期、たびたびペインと会食しています。
大陸会議はフィラデルフィアで開催されましたが、ペインも同市に住んでいましたからね。

かくしてアメリカは、七年間にわたるイギリスとの戦争を完遂、めでたく独立国として認められます。
アメリカの誕生が持つ歴史的な重要性を思えば、
『コモン・センス』は世界史を変えた本の一つなのです!

同書にアメリカのあり方を見直す糸口があることは、こう書けば容易に納得していただけるでしょう。

とはいえ。
ペリー来航(1853年)の約80年前、
日本の降伏(1945年)の約170年前に書かれた本が、
なぜ戦後の日本や、日米関係のあり方を理解する糸口を提供するのか?

それが古典のすごさというもの。
真の古典は、つねに現代的意義を持っているのです。

もっと具体的に言いましょう。
『コモン・センス』において、ペインは当時のアメリカとイギリスの関係をこう論じています。

アメリカ人は自分たちのポテンシャルを分かっていない。
「イギリスはすごい国に決まっている」と思い込み、同国の保護がなければ何もできないと錯覚する始末。
だからこそ植民地の地位に甘んじているのだ。

イギリスは自国の権益確保のため、アメリカの貿易にいろいろな制約を設けたり、重税を課したりと、勝手放題のことをしている。

ところがアメリカは、自分たちの軍隊(とくに海軍)を持っていないこともあって、「イギリスに守ってもらわなければ、どうしようもない」という固定観念にとらわれたままだ。

自分の国は自分で守るという気概を持てば、もっとずっと豊かになれるにもかかわらず、安全保障でイギリスに依存しているばかりに、経済面で不利な条件を押しつけられている。

だがイギリスは、アメリカが自立した国になることなど望んでおらず、ゆえに許すはずがない。
したがって武力に訴えてでも独立しなければならないのだ!

──この主張、どこかで聞いた覚えがありませんか?

そうです。
文中の「イギリス」を「アメリカ」に置きかえ、
「アメリカ」を「日本」に置きかえたら、
いわゆる反米保守の議論とまるで同じなのです!!

独立戦争当時のアメリカは、イギリスとの関係において、現在の日本とよく似た状態にあった。

だからこそ、アメリカとの関係を見直すうえで、『コモン・センス』を知ることには大きな意義があるのです。

予約はこちらで受け付けていますので、ぜひどうぞ!
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『コモン・センス』とトマス・ペイン、あるいはアメリカについては、私の公式サイト「DANCING WRITER」でも取り上げています。
あわせてご覧下さい。

URLは_http://kenjisato1966.com

関連したブログ記事は以下の9本です。
「インデペンデンス・デイ」(7月4日配信)
「臆面もないことのパワー」(7月5日配信)
「トマス・ペインの災難 part1」(7月17日配信)
「トマス・ペインの災難 part2」(7月18日配信)
「コモン・センス見本到着」(同)
「トマス・ペインの災難 part3」(7月19日配信)
「トマス・ペインの災難 part4」(7月20日配信)
「ギロチンが生んだ料理 part1」(7月21日配信)
「ギロチンが生んだ料理 part2」(7月22日配信)

トップページのカレンダーで、該当する日付をクリックすると、当日配信された記事の一覧が出ますので、そこから検索して下さい。

それから私の本については、こちらのURLもどうぞ!
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ここでご購入いただくと、いろいろ特典がありますよ。

最後にひとつ。
「DANCING WRITER」では、オレンジ公ネコという人物(?)が、巨匠・東田剛につづけ! と作詞に手を染めています。

サイトで好評だったオレンジ公のデビュー作を、ここでは完全版でご紹介しましょう。

https://www.youtube.com/watch?v=l2tzY7jFwE4
または
https://www.youtube.com/watch?v=olVFceg2QKQ

ああ わが名はシンゾウ
ああ わが名はシンゾウ
TPPの渦巻くもとで
何をぶち抜く 雄々しいドリル
つづいて第三の矢を 私は放つ
改革推進の方針に迷いはない!

神よ 正しき道を教えたまえ
経済の悪魔を斬り払え!

ああ わが名はシンゾウ
ああ わが名はシンゾウ
いつもいつでも 私の陰に
保護者のように アメリカがいた
固く結ばれた手を 放さずに行く
矛盾だらけと言われても 恐れはない!

神よ 日本の株価を上げたまえ
ドリルよ 岩盤を突き通せ!
神よ 日本の株価を上げたまえ
ドリルよ 岩盤を突き通せ!

ではでは♪(^_^)♪

PS
日本は国家存亡の危機を回避できるのか?
三橋貴明が無料音声で解説中
https://www.youtube.com/watch?v=KHNs1OBKsVc

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【佐藤健志】「コモン・センス」の現代的意義への2件のコメント

  1. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    そういうわけで、『民間防衛』とかいう名著()をステマwする動きがあるようですが、その試みは定めし不首尾に終わることでしょう。丸山眞男ではないですが、国民一人一人に拳銃でも普及させてから言え、という話です。改造モデルガンとか3Dプリンターとかでいちいち色めきたっているお国柄にしてこれがいかに困苦をきわめることか。。。

  2. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    >アメリカの民兵部隊と、イギリス軍との武力>衝突です。太閤秀吉以来、暴力は公権力の独占のもとにあり、市民の自主武装の芽は摘まれている。そこをどう重く見るか、によって如上の類比が成りたつかどうかも決まるでしょう。

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