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2014年7月22日

【藤井聡】大変な冷え込みが報告されています

From 藤井聡@京都大学大学院教授

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内閣府は、毎月の景気状況を「月例経済報告」という形で報告しています。

先週、その7月分が公表されました。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/2014/0717getsurei/main.pdf

下記でも、新聞されている通り、「景気の基調判断を、1月以来、半年ぶりに上方修正した」とのこと。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140717/fnc14071718390012-n1.htm

曰く、『緩やかな回復基調が続いている』という見通しとのこと。

つまり、この内閣府の報告を見る限り、「消費税の増税ショックを、日本経済は乗り越えられるようだ」という印象が、報告、報道されている次第です。

・・・・

では、この内閣府の判断の根拠となったデータを、確認してみましょう。

【需要側統計:個人消費】
まず、(需要側の統計である)「個人消費」については、「一部に弱さが残るものの、持ち直しの動きがみられる。」と評価されています。

この根拠となっているのが、「家計調査」(5月)における、

『実質消費支出は前月比3.1%減となり、「除く住居等ベース」では同0.6%増』

というデータです。この(除く住居等ベースでの先月比)「0.6%増」というところが、「持ち直しの動き」と言う文言の根拠となっています。

ですが、住居等を除くと、やはり、「前月比3.1%減」であることは間違いありません。

しかも、この3.1%減というのは、あくまでも、「消費税増税の直後の4月に比べて」です。が、より重要なのは「前年に比べてどうか?」という視点です。

この点について、総務省が、下記の様なグラフをつくっています。
http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_rf2.pdf

いかがでしょう?

確かに、「除く居住等」のグラフは、4月から5月にかけて持ち直しの動きが見られる、という表現は、事実と乖離しているわけではありません。

ですがこのグラフを見て、誰もが瞠目するのは、そんなわずかな持ち直しの動きではなく、消費支出の「赤い線」が、4月、そして5月へと、(文字通り、奈落の底に転落するかの様に)「大きく減少している様子」ではないかと思います。

しかも驚くべき事に、この4月、5月の消費支出の減少は、消費税の前回増税時(97年)や導入時(89年)よりも、遙かに深刻な水準にあるのです。

・・・

ただし、実はこれは、誠に残念なことに、「驚くべき事」でも何でもありません。

そもそも、89年当時は、バブル景気まっただ中、でした。

そして、97年当時は、バブル崩壊後ではありましたが、まだ日本経済は、「デフレ」に突入する「前」でした。

ところが、今回の増税は、はじめて「デフレ不況中」に断行されたものでした。

そもそも消費税増税は、97年の例が示すとおり、日本経済を「インフレ」から「デフレ」へと導く程の破壊力を秘めたものでした。

ですから、「デフレ中の増税」は、そのデフレをさらに悪化させる潜在的破壊力を秘めていたとしても、何も「驚くべきこと」ではないのです…….

【供給側統計】

次に、「供給側の統計」については、

「小売業販売額(5月)は前月比4.6%増となった。」

と報告されており、これもまた、「緩やかな回復基調が続いている」という表現の根拠となっていると考えられます。

確かに、経産省が公表している「商業販売統計速報」によりますと、小売業販売額は、11兆160億円(4月)から11兆4,340億円(5月)へと、増加しています。
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/result/pdf/h2sapdfj.pdf

しかし、「卸売り」については「減少」しており、かつ、卸売りと小売りを合わせた「商業計」もまた減少していることが、「全く同じ表」から読み取る事ができます。

さらに、「前年同月」で比べて見ますと、これらの指標はいずれも、

「マイナス」

の水準となっていることが分かります。

これらを総合的に考えますと、需要側統計から「緩やかな回復基調が続いている」と判断することは難しいのではないかと、筆者には思えます。

【民間投資】
民間の「設備投資」については、月例報告では、

『増加傾向にあるものの、このところ弱い動きもみられる。』

と評価されています。つまり、弱い動きも見られるが、基本的には「増加傾向だ」という評価です。

この根拠として挙げられているのが、

「需要側統計である「法人企業統計季報」(1−3月期調査)でみると、2014年1−3月期は、前期比3.1%増となった。

というものですが、これはナント(!)、消費税増税「前」の数値です。

そもそも、7月報告で、多くの関係者が関心を寄せているのが「増税ショックによって、どれだけ投資が冷え込んでいるのか?」という点なのですから、この数値は、そうした関心には無関係のものといってもいいでしょう。

とりわけ、「1−3月期」は、駆け込み需要で投資が増加していた時期です。ですから、この「前期比3.1%増」という数値は、『設備投資は、増加傾向にある』という評価の根拠には、一切なり得ない、とすら言うことができるでしょう。

では、『設備投資は、増加傾向にある』という表現がどこから来たのかと言えば、この月例報告においては、次の様な「根拠」が明記されています。

『「日銀短観」(6月調査)によると、2014年度設備投資計画は、全産業で3年連続の増加、製造業で4年連続の増加、非製造業では3年ぶりの減少が見込まれている。設備過剰感は、製造業において依然として残るものの、改善傾向にある。また、「法人企業景気予測調査」(4−6月期調査)によると、2014年度設備投資計画は、大企業製造業、大企業非製造業ともに増加が見込まれている。先行指標をみると、機械受注は、持ち直している』

少々、ややこしい表記ですが、要するに、「景気予測」や「計画」といった「先行指標」に基づいて「増加傾向にある」と判断しているように思われます。

しかし、先行指標とは要するに、単なる「見込み」であり、実際はもっと悪化することは十分あり得ます(これについては、後で詳しく解説します!)。

とにかく、景気判断において重要なのは、「実績」です。

で、この「投資」についての「実績」については、この月例報告では言及されていないのですが、誠に残念ながら極めて深刻なデータが報告されています。

民間の投資は、しばしば「機械受注」で評価されますが、5月におけるこの数値が、

「事前の予想が+0.7%」

であったところが、蓋を開けてみると、実に、

「マイナス19.5%」

という、超絶に悪い数値が報告されています。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=534670816633866&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=1

これはもちろん、消費税増税が民間の投資にどれだけ「破壊的」なマイナスインパクトを与えたのかを意味しています。

ただしそれと同時に、(事前予測が+0.7%であったという時事実は)、如何に多くの人々が消費税増税ショックを「著しく過小評価」していたのかを意味しています。

(#同じく、上記レポートでは、実際の5月の家計の消費支出はマイナス8%だったのですが、それについては、マイナス2.3%という、今から思えば極めて「楽観的」な予測がなされていたことも示されています)

したがいまして、『設備投資は、増加傾向にある』という月例報告の判断そのものが、楽観的に過ぎるものである可能性は、残念ながら、十二分にあると考えられるのではないかと思われます。

【住宅投資】
最後に、今後の景気動向に大きなインパクトを持っている住宅投資については、月例報告では、

「消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動により、減少している。。。。当面、減少傾向が続くことが見込まれる」

と、これまでの雰囲気と大きく異なり、悲観的な評価となっています。

ですが、その根拠となっている数値は、

「5月は前月比3.7%減」

という数値なのですが、この数字だけでは、住宅市場の悲惨さは、ほとんど伝わらないのではないかと危惧します。

そもそもこの数値は、大きく落ち込んだ4月の値を基準とした「先月比」のものですが、「同月前年比」で比較しますと、より一層、くっきりと住宅市場の「惨状」が見えて参ります。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS3002V_Q4A630C1EE8000/

新設住宅着工数は 15%マイナス
持ち家着工数は  22.9%マイナス
分譲住宅は    27.1%マイナス

という、大変な冷え込みが報告されているのです。そして、もっと悲惨なのが、

マンションが 43.3%マイナス

というものです。

しかもこの数値は、4月、5月、6月と、どんどんと悪化していっていることもまた、報告されています。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=537405783027036&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=1

繰り返しますが、住宅投資は、デフレの動向を占う上で、極めて重要な尺度です。今後、住宅市場が回復しなければ、銀行に預けられたマネーが実体市場にますます出回らなくなり、デフレが深刻化してしまうことが、強く懸念されます。

。。。。。

以上、いかがでしょうか?

7月の月例報告が適正なものかどうかのご判断は読者各位にお任せ致しますが、少なくとも、本メルマガ読者の皆様だけでも、冷静な状況判断をなさることを、祈念いたしたいと思います。

どの様な状況にあろうとも、そうした冷静な状況判断こそが、国運が開けるにあたっても、何よりも大切な契機となるに違いないのですから。。。。

以上、ご紹介まで。

PS
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【藤井聡】大変な冷え込みが報告されていますへの5件のコメント

  1. 卑民ボヤッキー(筒井作品と竜の子作品が脳内腸詰状態) より

     まさに、卑怯にも反共を盾に、グローバリズムのヘタレドリルが天使なんだと宣う、3年殺し政策。このままの時代錯誤シャブ逆輸入政策では、6年殺し(ヴァージョンアップ大量虐殺政策)は免れない。‥‥こんな大抽象表現じゃ理解してもらえないか。「オイッ!貴様は反逆コメント罪で、民間J刑務所に永久投獄だっ。来いっ!」あーあ、米国だってデフレを回避するのに大型財政出動してるって言うのに。シャブ汚染政策万歳ーぃ!「言いやがったなっ!非情手段決行ぉーっ!」カチッ〆GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGう゛ー。血に飢えた仮想人工思考経済嗜好内閣府だったのか…?(底まで行きかねないと思う、蟻喰い政策内閣府の舌の粘液に捕らわれて喰われる蟻一匹は、儚くも皮肉にも、強靭集団の星に願い♭、を唄うしかなかった。左を見て右谷を見たらもう一度左を見てから横断歩道を渡ろうよ基本的には解るんだけどさ…知っているのに知らんぷり。蔓延御礼)

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  2. 吉田豊昭 より

    NHK「深読み」【896の市町村が消滅する】に対する討論:http://www001.upp.so-net.ne.jp/cslty122/nhkfukabori.pdf に対して、ある市の市議会議員さんから、“今なら地域の再生に間に合うと思います。年寄りが声を揚げましょう“”との申し出がありました。そこで、私から、以下の提案をさせて頂きました。?”まだ、地域通貨運用で、消滅を回避できること?地域通貨の成功の手順として、 1)地域通貨の信用を構築するために、市役所に地域通貨で予算執行をお願いしたい。  例えば、現状の生活保護費の○○円の内の2割を、地域通貨に変える     公共建築を木造にすることで、建築公共費の1割を、     森林産業再生の為の、林地の買取資金の5割(高額ですから、年金支給も)を、     同、現代建築に必要な木材を供給する為の製材設備の充実補助金に、     地産地消宅配を実施する為の、惣菜工場の建築補助金に、     消防団員の、日当、慰労金に、     身体障害者の自立支援施設建築、運営費の補助金     犯罪者更生作業所の建築、運営費、営業費の補助金     など、 2)地域通貨発行体が、市役所に無利子/無期限の融資を行います。 3)地域通貨の販売は、入会時は5割、通常購入時は3割のプレミアムを付けます。 4)既存の商工会議所の商品券販売に供する(無利子/無期限可能) 5)NPO法人や一般の融資も行えます。勿論、無利子/無期限  ただし、返済が滞ると、次回の融資には制限が課されます。  ・・・・・よろしdfくお願いいたします。何なりと、お申し付け下さい。地域が造幣局を運用するから、自立&自律した地域行政が実現すると考えます。地域通貨を誰がやる?:http://www001.upp.so-net.ne.jp/cslty122/chituukadare.p

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  3. 吉田豊昭 より

    市場原理主義からの脱出:http://www001.upp.so-net.ne.jp/cslty122/sijyougenride.pdf方法1:政府紙幣発行方法2:地域通貨(FRBから個人が造幣するへ)        無利子/無期限の融資   政府が予算措置しても、我田引水で効果なし。   大企業は、配当と余剰金を増やすだけ方法1は、財務省、日銀が反対で不可能方法2は、LOOP型地域通貨(Edy to Edy)で資金決済法を順守

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  4. 古事記 より

    藤井先生の本日の記事に関連しておりますが、昨年度より厚生労働省はアルバイト、パート、非正規雇用者を雇い入れに対して助成金を支給しておりますがご存知ですか?正社員の雇い入れでは無い所に違和感を感じます。日本国民は賃金低下に向うのにと思うが真の目的は何でしょうか?データーには雇用改善が見られる!為の。一般国民や労働者が知り難い(あくまでも個人の見解ですが)今だけの見せかけの小手先政策。そんな感じがします。此の世に生まれて来た意義や意味を一度も考えた事も無い様な欲望だけの拝金主義の人が哲学が金儲けの産業競争力会議やら民間有識者と云う、何やら怪しげな人達と役割を忘れ給与労働に徹する生活第一の役人が集う魑魅魍魎が、何千年の永年の積み重ねで出来て来た基礎基盤の在る現在の日本人をタダ食いしている様に感じてなら無い。今の日本を作り、自然を文化を伝統を守る為に少しずつ個人の欲望を犠牲にして現在の日本を残して下さった先人、先祖日本人の為にも日本国民の為の経済、政策をお願いします。国民は思考しダマされ無いで若者に将来に希望を与える責任が在ると思いますが。

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  5. ぬこ より

    他国は藤井大老が行っておられる分析を、軍隊や諜報機関が行っているのでせうね(日本の様な、丸腰の金持ちの平和国家(笑)の他国経済を籠絡させるために)。何処まで、親マイ自民党は日本人を苦しめるのでせうか?(日マイ構造協議とかございましたわよね)今、確実に日本を潰し(狩り)にかかっていると思うのは、小生だけなのでしゃうか?

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