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2014年6月12日

【柴山桂太】0.025%

From 柴山桂太@滋賀大学准教授

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●●月刊三橋がCDで聴けるようになりました!
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38CDNEWS_C_2980/index.php

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五月初旬にドイツに行ってきました。街のいたるところに人の顔写真が貼ってあって、新手のビジネスでも流行しているのかと勘違いしそうになりましたが、よく見れば選挙ポスターでした。日本のものよりサイズが大きく、形式も少し違うのですぐには気づかなかったという訳です。

それにしても選挙ポスターって、なんであんなに胡散臭く感じるのでしょう。国内だと知った顔もあるので麻痺していますが、外国に行って異邦人の目から選挙ポスターの自信満々の表情を見ると、誰も彼もあまり信用できなさそうな顔に見えるから不思議です。

もともとクローズアップされた人間の顔というのは、見る人に不気味な感覚を呼び起こすものです(好意を寄せている相手でない限り、ですが)。選挙ポスターになると、その不気味さが際だってしまうということなのでしょう。

話が脱線しました。私が見たポスターは欧州議会選挙のものでしたが、事前の予想どおり、反EU政党が大幅に得票を伸ばすという結果に終わりました。フランスではマリーヌ・ルペン率いる国民戦線の得票率がトップになり、この選挙を象徴する出来事として大きく報じられています。
http://jp.reuters.com/article/jp_eurocrisis/idJPKBN0E512Y20140526

もっとも、反EU派が獲得した議席は全体の2割程度。また、欧州議会には大きな権限はないために、この選挙結果からただちにEUが機能不全に陥るということはありません。反EU政党には右派も左派もあって一枚岩ではないので、今のところは結束して行動することもなさそうです。

ただし、欧州統合懐疑派の支持が伸びたことで、今後の各国政治に影響が出てくる可能性があります。ユーロ圏の国々では、緊縮財政のルールを緩めるべきだという声が、これからも大きくなっていくでしょう。

フランスで国民戦線が得票を伸ばしたのは、緊縮財政への反発があったためと考えられます。オランド大統領は、財政拡張を公約にして当選しましたが、結局はドイツに配慮して緊縮路線を転換せず(できず)、支持を急速に落としてしまいました。その不満の受け皿になっているのが国民戦線です。

国民戦線はもともとは移民排斥を唱える政党でしたが、最近になって戦略を切り替えているようです。今のマリーヌ・ルペンは、移民反対を前面には出さず、財政拡張や保護主義的措置の導入、ユーロ離脱などを訴えて支持を広げています。特に、TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)の阻止を最優先の政治課題にしているとか。
http://jp.ibtimes.com/articles/57855/20140528/1401252144/page3.htm

逆に欧州統合推進派は、TTIPの締結を重要な政治目標としています。例えば、イギリスのブレア元首相は、今回の選挙結果を受けてEUはさらに構造改革に進まなければならない、そのためにも各国首脳はTTIPを「強力に推進 big push」すべきだと述べています。
http://www.project-syndicate.org/commentary/tony-blair-proposes-a-new-approach-and-agenda-for-reform-to-realize-the-eu-s-potential

私は国民戦線の主張に詳しくないため、彼らの反グローバリズムがそれなりの理論的な裏付けを持つものなのか、それともただの選挙戦略なのかを判断することはできません。(勝手な推測ですが、おそらく後者だろうと思います。)しかし、「反EU政党の躍進」と呼ばれる現象の背後に、欧州の進みすぎたグローバル化に対する反発があるのは間違いないところでしょう。極端なグローバル化は、極端な反動を呼び起こすのです。

TTIPをめぐっては、欧州内部でも論争が次第に激しくなっています。内容は、TPPをめぐって日本で起きているのと、ほとんど同じ。ISDSや食の安全をめぐる不安や、知的財産権等のルール作りでアメリカに押し込まれるのではないかという反発など、日本のTPP論争と瓜二つです。

以下の研究にTTIPの経済効果が出ています。それによるとTTIPによる経済効果は、「信頼できる推計」でGDPの0.025%(!)、「野心的」に見積もってGDPの0.05%だそうです。2%でも5%でも、0.2%でも0.5%でもなく、0.02〜0.05%です。何をどう強弁しても、大きい数字とは言えませんね。
http://www.voxeu.org/article/problem-ttip

TPPもTTIPも、従来の貿易協定よりもはるかに広範囲、かつ「深い」協定の合意を目指しています。それによって得られるメリットが国家の命運を左右するほどに大きい、というのなら一考してみる価値もありますが、経済効果が(GDP全体で見れば)わずかで、かつ国家主権がさらに制約される危険も生じるとなれば、反対論/懐疑論がわき起こるのは自然なことです。

今後、TTIPは欧州の重要な政治的争点となっていくでしょう。欧州委員会は、今後も「強力に推進」する立場を崩さないでしょうが、そのことがかえって反EU政党を勢いづけることになります。いまはバラバラな反EU勢力も、これを機に結束を強めていくことになるかもしれません。TTIPのような「深い」自由貿易協定は、そうした政治的リスクを冒してまで進めなければならないものなのでしょうか。

国民戦線のような政党が支持を広げるのが「危険」だと言うのは簡単です。しかしその「危険」は、グローバル化が足りないからではなく、グローバル化が(国家主権を激しく制約するほどに)進みすぎたことへの反動として生み出されているという事実にもっと目を向ける必要があります。日本が今回の欧州選挙から学ぶべき教訓はそのようなものであるべきです。

TPP締結後、日本でも過激な政党が出てきて、選挙で「危険」な水準の得票率を獲得したとしても、私はまったく驚きません。

PS
行き過ぎたグローバル化が韓国国民にもたらしたものとは?
https://www.youtube.com/watch?v=ZK5RY5rIGs8

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【柴山桂太】0.025%への1件のコメント

  1. とも より

    柴山先生の記事、いつも楽しく拝見しています。欧州でも自由貿易が必ず善だという考え方がまだ根強いんだということを再認識させられました。日本が目を醒ますのもまだまだ先になりそうですね。

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