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2014年2月24日

【三橋貴明】「衰退産業」が日本を牽引

From 三橋貴明

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【今週のNewsピックアップ】
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現在の日本は、かつて経験したことがない奇妙な「転換期」を迎えようとしています。「デフレ→インフレ」という転換期は是清の時代、1930年代に一度経験していますが、当時と比べても少し状況が違うように思えます。
いずれにせよ、戦後初めてのケースであることは間違いありません。

今年の4月に消費税が増税されます。結果的に、民需の落ち込みは避けがたいわけですが、加えて平均給与は上がらず、物価が少し上昇に転じたため、実質賃金は明確にマイナスになっています。橋本政権による消費税増税前、つまり96年の実質賃金は、1%以上の上昇でした。実質賃金が堅調に伸びていたタイミングであったにも関わらず、橋本政権の消費税増税はその後15年も継続するデフレーションの発端となったのです。

橋本政権期と違うのは、現在は日銀が量的緩和を継続し、多額の日本円が金融市場に供給され続けている点です。
具体的な数字で書いておくと、12年9月から13年9月にかけ、日銀保有の国債・財融債、国庫短期証券の総額は約70兆円増えました。一年間で、70兆円ものお金が市中に供給され、確かに株価上昇や国債金利低下に貢献してはいますが、国民の「所得」を押し上げるには至っていません。
国民の所得が増えるには、誰かがモノ、サービスを購入しなければなりません。日銀が通貨を発行する際に購入する国債や、株式は、モノ・サービスには該当しません。すなわち、量的緩和それ自体「のみ」で国民の所得を押し上げることはできません。
デフレマインドが染みついた民間が銀行融資を増やしてまでモノやサービスを買おうとしない以上、財政出動の出番なのですが、こちらは「人手不足」がボトルネックになり、公共事業の消化が順調に進まず、東北の復興も遅れています。

財務省は、通常は年度末に消滅する各地方自治体の公共事業予算について、
「年度をまたいで、使ってほしい」
と、異例の呼びかけをしています。さらに、財務省は各官庁に対し、数値目標を設定し、「予算消化」を促している有様なのです。財務省が「金を使え!」と檄を飛ばすなど、わたくしが記憶している限り初めてです。
要するに、消費税増税のネガティブなインパクトが大きいと予測し、
「このままでは、15年に消費税を10%にアップすることはできない。しかも、増税した挙句、デフレ深刻化で政府が減収になったら(橋本政権パターン)、財務省の権威は失墜する」
と、焦っているのでしょう。無論、増税した挙句にデフレを深刻化させ、政府の税収が減ってしまったら、これは安倍政権にとっても大ダメージです。

さて、暗鬱とする話ばかり書いていますが、実のところわたくしは日本経済について、別に絶望しているわけではありません。理由は、もちろん「人手不足」が全国に広がっているためです。

そもそも、人手不足がこれほど深刻であるにも関わらず、名目賃金が増えていないという点で異常なのです。人手不足とは、国内の供給能力が足りないという話であり、需要に対する供給能力の不足、すなわちインフレギャップが発生していることを示唆しています。

インフレギャップがあるにも関わらず、全体では名目賃金は伸びない。一部、物凄い勢いで伸び始めている業界がありますが、名目賃金が伸びても人手不足が解消されない。すなわち、労働者側の供給能力が高まらない。
「働き手」がどこに行っているかといえば、実は生活保護だったりします。驚くなかれ、日本の生活保護受給世帯数はリーマンショック前と比べ40万世帯も増え、しかも現在も増え続けています。

長引くデフレにリーマンショックが追い打ちをかけ、数十万の労働者が労働市場を去り、日本の供給能力は激減しました。結果的に、デフレギャップは「供給能力が減る」形で埋まりつつあるというのが現在の日本なのだと思います。

上記の様々な矛盾、不整合を理解すると、解決策は明らかです。
企業側が給与を引き上げ、労働市場から去った人たちを呼び戻せばいいのです。
とはいえ、民間がそれほど急激に給与を上げることはできませんので(トヨタ自動車などはベアを決定したようですが)、政府がやればいいのです。
公共事業の予定価格や診療報酬、介護報酬などを引き上げれば、事業を受注する企業側が高い給与で人を雇用することが可能となります。
もちろん、政府支出の「単価」が上がれば、民間の「発注者」も対抗して発注価格を引き上げざるを得ません。今後の日本では、需要を満たしてくれる供給能力の「奪い合い」が発生することになります。
すなわち、完全なるデフレ脱却です。

結果的に、急成長する産業は何でしょうか。もちろん、土木、建設に加え、運送、資材、内装工事、電気工事、IT開発など、「内需」に関わる産業が、今後の需要拡大を受け(すでに膨らんでいますが)、急成長していくことになるでしょう。そもそも、「成長分野」とは「需要>供給能力」になっている産業分野なのです。

皮肉な話ですが、政府の産業競争力会議が「衰退産業」と認識している複数の産業が、今後の日本経済の成長を牽引することになるでしょう。

変な話ですが、公共事業の消化ができず、「次の増税」を目論む財務省が予算消化を推進すること自体も、上記の「成長」をもたらす可能性があるわけです。

ここまで読み進め、混乱した方が少なくないと思いますが、当然です。現在の日本経済には、あるいは日本経済の行く末には、様々な不整合が存在しています。とはいえ、この不整合(代表が「人手不足&名目賃金低下」)が解消されたとき、冗談でも何でもなく日本は80年代並みの成長を取り戻す可能性があります。

それほどまでに、日本経済の供給能力が落ち込んでしまったという話なのですが、いずれにせよ「人手不足」とは働く人にとって大変ありがたい環境です。何しろ、それまでと同じ労働を提供するだけで、所得が伸びるのです。
「ならば、よりたくさん働いて、所得を稼いでいい生活をしよう」
「生活保護受給をやめて就職し、所得を稼いでいい生活をしよう」
と、多くの日本国民が思い始めたとき、真の意味で日本経済の夜明けがやってくることになるわけです。

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【三橋貴明】「衰退産業」が日本を牽引への3件のコメント

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  2. 赤い彗星 より

    >「ならば、よりたくさん働いて、所得を稼いでいい生活をしよう」「生活保護受給をやめて就職し、所得を稼いでいい生活をしよう」本当にこういう時代にしていかなければなりませんね。

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  3. ヌコ より

    元IT系(ミッツ師匠の居られた某外資会社の大取引先(笑))の万年短期契約派遣社員として、一筋の光明が見えた気がしておりマウス

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