From 三橋貴明@ブログ http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/
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●世界を動かす力の正体とは?
https://www.youtube.com/watch?v=xSpcGUoATYk&feature=youtu.be
※※月刊三橋『激流グローバルマネー』より
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現在の世界の人々(特に先進国の国民)は、「奇妙な世界」に生きています。何しろ、長期金利が1%を切る国が続出しているにも関わらず、政府が「財政出動」という正しい政策に乗り出さず、インフレ率が一向に上向かないのです。
銀行のお仕事は、基本的には、
「預金を国民から借りて、企業などに貸し出し、金利差を稼ぐ」
というものです。すなわち、国民から預金を「借りる」のみで、放置しておくと、逆ザヤで倒産してしまいます。銀行預金に対しては、金利を支払わなければならないためです。
現在、日本、スイス、ドイツといった国々では、長期金利が1%を割り込んでいます。スイスに至っては、一時は長期金利が「マイナス金利」になっていました。(さすがに、0.02%程度に戻りましたが)
なぜ、国債金利が超低迷するのか。別に、難しい話ではありません。民間の資金需要が乏しいためです。「経済のデフレ化」により、企業は設備投資に意欲を見せず、家計もお金を借りてまで消費や住宅投資をしようとはしないため、銀行に「貸し付けられた預金」が過剰になり、国債が買われ(=政府に貸し出され)ているというだけの話です。難しい話は、何もありません。
特に、独自通貨の先進国(日本、スイス)の場合、銀行に預けられた日本円やスイス・フランは、日本国内、スイス国内でしか使えません。ユーロの場合は、まだしも「他のユーロ加盟国に」という選択肢が銀行側にあるのですが、日本とスイスは無いのです。
結果、貸出先を確保できず、銀行が苦境に追い込まれるという「意味不明な事態」が進行していっています。
『スイスの銀行、マイナス金利の転嫁計画−クレディSやUBS
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NIKU286JIJUP01.html
スイス国立銀行(中央銀行)が市中銀行の預金にマイナス金利を課し始めたことから、このコストの顧客への転嫁を決めるスイスの銀行が増えている。
クレディ・スイス ・グループは、機関投資家と大企業から預かる資産の一部に課金する計画だとしている。UBS グループも同様の対応を検討中だという。両行とも料率などは明らかにしていない。
ジュネーブを本拠とするプライベートバンク、ロンバー・オディエは10万スイス・フラン(約1370万円)を超える現金に料金を課すと発表している。料率は中銀が市中銀行の要求払い預金に課すマイナス金利と同じ0.75%。チューリヒ州立銀行も22日、一部の大口預金に0.75%のマイナス金利を課すと発表した。貯蓄預金やその他の口座の条件を変更する可能性もあるという。 』
またもや「新たなマイナス金利」の登場でございます。(三つめかな?)
国債が買われ過ぎて「マイナス金利」になるのではなく、中央銀行が当座預金にマイナス金利をかけるのではなく、今度は正真正銘の「銀行預金にマイナス金利」です。つまりは、大口の預金者に対し、金利を支払うのではなく、「金利を徴収する」という形のマイナス金利でございます。
なぜ、クレディスイスやUBSが大口の預金者にマイナス金利をかけるのか。お分かりですね。巨額のスイス・フランを預金されても、その運用先が見つからないためです。
【スイスのマネタリーベース(左軸)とインフレ率(右軸、単位:対前年比%)の推移】
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_49.html#Swis
スイスはECBが量的緩和を決断する前、1ユーロ=1.2スイスフランの為替レートを維持するため、非不胎化方式(発行したスイス・フランを回収しない)で為替介入を継続しました。結果的に、スイス国立銀行がマネタリーベースを五倍に拡大したにも関わらず、インフレ率は何とゼロです。インフレ率とは、「生産者が生産したモノやサービスの購入価格が上昇すること」です。中央銀行がどれだけ莫大なお金を発行したとしても、モノやサービスが買われなければインフレ率は上がりません。
そして、現在のスイス、日本、ドイツをはじめとするユーロの一部の国々では、デフレ化で「充分なモノやサービスが買われない」という環境になっているわけです。モノやサービスの購入とは、消費と投資です。消費や投資(特に、投資)が増えない以上、お金が借りられず、モノやサービスが買われず、インフレ率は上昇しない。
反対側で、溢れかえったお金が金融市場(特に、株式)に向かい、世界同時株高の様相を呈しています。とはいえ、残念なことに金融市場でどれだけ資産(株式、土地、為替など)が買われても、モノやサービスが買われたわけではないため、インフレ率は直接的には上昇しません。
結局、スイスの経済政策は(日本も同じですが)、
「政府が国債を発行し、お金を借り入れ、国内で消費、投資として使う」
つまりは財政出動を増やすしかないのです。
ところが、やらない。
日本に至っては、デフレギャップが存在し、完全雇用も達成できておらず、実質賃金が下がり、さらに国債金利が相変わらず、0.34%と超超低迷している状況であるにも関わらず、「財政健全化」が政府の経済政策の柱になりつつあります。
『財政健全化計画へ向け議論開始 財政審
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150226/k10015768441000.html
政府がことしの夏までに策定する財政健全化計画への提言に向けて、財務大臣の諮問機関の財政制度等審議会が26日から本格的な議論を始めました。
政府は、税収などで政策に充てる経費がどれだけ賄えるかを示す基礎的財政収支を、2020年度までに黒字化することを財政健全化の目標として掲げています。この目標の達成に向けた提言をまとめるため、財務大臣の諮問機関、財政制度等審議会は26日から本格的な議論を始めました。
この中では、内閣府の試算として、名目で3%以上の経済成長が続き、さ来年の4月に消費税率を10%に引き上げたとしても、2020年度の基礎的財政収支は9兆4000億円の赤字が見込まれることが説明されました。
これに対し、委員からは「成長率を高く見積もっており楽観的な試算だ」などと、財政健全化に向けて前提条件は厳しく見るべきだという意見が出されました。また、歳出の抑制については、「中心となるのは社会保障になるが、財政の健全化は地方財政なども含めて進めるべきで歳出では選択と集中が問われる」という意見が出されました。
審議会はことし5月に提言をまとめることにしています。』
いい加減に突っ込むのが面倒になってきたのですが(それでも、やりますが)、成長率が名目3%で『楽観的な試算だ』って、どれだけ成長する気がないのですか。実質ではなく、名目(物価上昇率を含む)ですよ。
さらに言えば、そもそも「財政健全化」の意味を取り違えています。財政健全化の定義は、政府の支出を抑制することでも、プライマリーバランスを黒字化することでもなく、政府の負債対GDP比率を引き下げることです。
色々と勘違いしている人たちが、現在、日本の中枢を握っています。安倍政権が緊縮財政路線に舵を切った以上、我が国がデフレから脱却し、実質賃金が安定的に上昇していく環境は、暫くは訪れないでしょう。
そして、今、スイスをはじめとする世界の多くの国々も、日本同様の「勘違い」をしているわけでございます。奇妙な世界とは、思いませんか?
PS
三橋貴明のニュース解説サービス『月刊三橋』では、
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【三橋貴明】奇妙な世界への3件のコメント
2015年3月1日 10:30 PM
奇妙な世界なんて存在しないでしょ。現実の世界が存在するだけ。
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2015年3月2日 4:29 PM
「奇妙」で思ったのは不安に耐えられない政治家の存在。政治家としての目標は自尊心と足場を確保しつつ如何に敬愛する愚民と安易な目標を共有するか。長い時間をかけて勉強した「インフレ期にしか役に立たない経済学」への誇り、財政と家計簿を一緒にすることで安易な目標を共有し国民との一体感を得ているのではないか。「賄う」の意味は「限られた範囲内で用を達する」ですが、限る時間を1年(仮)とするのは何故でしょう?例えば100年とした場合「何もしない」が最善策となる期間が有りうるが実績を残したい政治家としては余計なことをやりたがる。「限る」のは分かり易くやり易い政治が必要だからだ。能力主義、個人のパフォーマンスの最大化の裏に個人の能力を超えることをしてはならないとあるなら次世代に思いをはせる必要もない。自分が死んだ後の政治はただ不気味なものと映るのか。
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2015年3月3日 11:46 AM
安倍談話・歴史認識に関する上島氏の記事について談話・歴史認識で一番問題なのは、どちらが正しいかではなく、どちらの宣伝力があるかということだと思います。日本が正しい事は証拠もあり、明らかです。しかし、アメリカの国会議員がアメリカのマスメディアやアメリカの教科書に洗脳され、中国からお金をもらっていることが一番の問題なのです。ですから、日本としてはニューヨークタイムズやワシントンポスト、ウォールストリートジャーナルに影響を及ぼせるように株式を買い増すなどの対策が必要だと思います。一方でアメリカの支配下にある朝日・読売・日経・毎日・産経・ジャパンタイムズ・NHKをアメリカから買戻し、日本側の正しい情報を世界に配信・プロパガンダできる新聞やテレビ局を日本とアメリカに設置することが必要です。朝日だけでなく、ニューヨークタイムズやワシントンポストを倒産に追い込むための戦略が必要です。それを戦後70年間やってこなかった日本人の怠慢です。
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