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2013年12月12日

【柴山桂太】グローバル化は止まった

From 柴山桂太@滋賀大学准教授

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イギリスの経済誌『エコノミスト』(10月14日号)に、興味深い記事が載っていました。2008年の金融危機以後、グローバル化の流れが止まりつつある、という記事です。

グローバル化とは、世界中の貿易や投資が増大していく現象です。貿易については1980年代の半ばから、投資については1990年代から、世界的に急増する傾向が見られました。

ところがリーマンショック以後、この傾向に変化が生じています。世界のGDPに占める貿易の割合は、1986年から2008年まで順調に伸びていましたが、その後はほとんど横ばい。つまり増えていません。

金融はもっと極端で、グローバルな資本移動は二〇〇七年の11兆ドルをピークに下落。いまはピーク時のおよそ三分の一(4.6兆ドル)しかありません。貿易は頭打ちで投資は急激に減退している、つまり「グローバル化は明らかに止まっている Globalization has cleary poused」というのが世界経済の現状なのです。

もちろん、これはリーマンショック前の過剰なブームの反動として理解すべきものでしょう。記事によると、資本流入の落ち込みが激しいのはアメリカとヨーロッパ、そして中東です。BRICsとして持て囃されたロシア、ブラジル、インドでも資本流入の落ち込みが見られます。(逆に中国では増えていて、これはこれで危険と言えます。バブルを助長している可能性があるからです。)行きすぎたレバレッジの解消で、世界的にマネーの流れがやせ細っているわけです。

いま、その流れを支えているのが先進国、特にアメリカの緩和マネーです。しかしそれも近いうちに縮小が見込まれています。そうなると何が起こるのでしょうか。6月のバーナンキ・ショックで新興国からマネーが逃げ出して大混乱になったのは記憶に新しいところです。来年、アメリカの量的緩和が本格的に縮小すると、次は何が起きるのでしょうか。いずれにせよ、グローバル金融はまだまだ大きな爆弾を抱えていることだけは確かです。

また記事では、グローバル化が止まった原因として、「隠れた保護主義」の台頭が指摘されています。一九三〇年代の大恐慌では、関税の引き上げや輸入制限を行うなど、保護主義措置が各国で取られました。しかし現在はWTOルールがあるので、どの国もあからさまな保護主義を取ることはできません。

しかし、政府による自国企業の救済はさまざまな形で行われています。アメリカがGMやAIGを救済したのはその典型ですね。本来なら市場競争で淘汰されるはずの企業を、自国企業であるという理由で救済するわけですから、純粋な自由貿易の理念からすればこれも保護主義、ということになります。

こうした「隠れた保護主義」は、先進国よりも新興国で多く見られます。記事で紹介されていたある国際機関の統計によると、2009年以後のG20の保護主義措置のうち、実に60%がアルゼンチン、ブラジル、インド、インドネシア、ロシア、南アフリカ、トルコに集中しているとのことです。これには事情があります。社会福祉がまだ未整備なこれらの新興国では、経済ショックから自国を守るには(あるいは政権の安定を維持するには)、保護主義的な措置をとらざるをえないのです。

いま世界ではFTAがブームになっています。TPPもその一つですね。この動きだけを見ると、自由貿易の理念はいまだに健在に見えます。しかしその一方で、経済危機から自国の産業や雇用を優先的に守ろうとする動きも、同時に起きています。これから各国の市場開放はもっと進むのでしょうか。それとも国内の事情を優先して閉じるところは閉じる、という動きに切り替わるのでしょうか。いま世界はその分岐点に立っていると言えます。

今後の世界はどちらの方向に進むのでしょう。『エコノミスト』誌は、自由貿易の旗手たるにふさわしく、最終的にはグローバル化の流れを元に戻さなければならない、と主張しています。ただし、2008年以前の世界に戻ることは難しいだろう、とも結論づけています。1930年代ほど極端に世界経済が分断される可能性は低いが、かといってグローバル化が以前のようなペースで進むとも考えにくい、というわけです。

では、今後の世界はどちらの方向に進むのが望ましいのでしょう。金融の流れをもっと活発にして、自由貿易をこれまで以上に進めていくのがいいのでしょうか? その場合、どんなやり方をとるのがいいのでしょう? あるいは、グローバル化を進めるという発想そのものを捨てて、別の道を追求するべきでしょうか?

『エコノミスト』誌は(あるいは日本の経済論壇の論調も)、グローバル化を進めるという以外の選択肢について何も触れていません。というより、一般的に言って、それ以外の道について考えることがまずありません。市場開放を進めて貿易や投資を活発にする以外の選択肢などない、というのが世間の通り相場です。でも、本当でしょうか?

この問題を考える上で、必読書とも言える本がまもなく出版されます。ダニ・ロドリック著『グローバリゼーション・パラドクス』(白水社)です。

http://www.amazon.co.jp/dp/4560082766(Amazon)
http://honto.jp/netstore/pd-book_25973716.html(honto)

著者のダニ・ロドリックは現在、プリンストン高等研究所の教授(原著出版時はハーバード大学の教授でした)。国際経済学の専門家で、最近では政治経済学の分野で多くの優れた論文を書いています。

この本、何が重要かと言うと、グローバル化を進めるだけが唯一の道ではない、ということを「世界経済の政治的トリレンマ」という独自の図式を使って見事に説明しているからです。

この図式に従うと、世界経済には今後、三つの道があります。

1. 自由貿易を進める代わりにに民主主義を犠牲にする。
2. 自由貿易を完全なものにする代わりに国家主権を諦める。
3. 民主主義と国家主権を守る代わりに自由貿易を制限する。

この三つはそれぞれどういうことなのでしょうか。大方のエコノミストは、(自覚しているか否かにかかわらず)1の選択肢しかない、と考えています。でも、この本はそれが唯一の選択肢ではない、ということを冷静に説明しています。そして最終的には、3の選択肢が有望だ、と結論づけています。

詳しくは本書をお読み頂ければと思いますが、グローバル化の功罪を巡るこの一〇〜二〇年の経済学(政治経済学)の議論のほとんど決定版と言って過言ではないと思います。途中、専門的な話題も出てきますが、エッセンスだけを知りたい方は第九章から十二章をお読み下さい。

さらにエッセンスを知りたい方は、白水社のHPで公開されている訳者あとがきをご覧下さい。
http://www.hakusuisha.co.jp/topics/08276/afterword.php

それ以外にも「どうして経済学者は自由貿易を単純化して説明したがるのか」という俗っぽい話や、モーリシャスの経済発展に理論的な基礎を提供したミードという経済学者のエピソード、なぜ一九世紀にあれほど帝国主義が猛威を振るったのかについての鋭い分析など、読み物としても面白い内容になっています。

グローバル化の現実には、単純な自由貿易の理念では割り切れない複雑さがあります。「鎖国か開国か」といった単純な二元論では、この複雑な現実に対処することはできません。国による制度の多様性を守りつつ、それでも貿易や投資のメリットを最大限に享受するには、どのような世界経済のビジョンが必要なのか。危機の時代には目先の処方箋ばかりが求められがちですが、本当に必要なのは、グローバル化の本質を掘り下げる、息の長い議論なのだと思います。

PS
グローバル経済の植民地と化した韓国の惨状とは? 無料Videoを公開中
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_video.php?ts=sidebar

<柴山桂太からのお知らせ>
ロドリックのトリレンマについては以下の本でも説明しています。
http://amzn.to/V42zOt

日本の問題はこちら。
http://amzn.to/17Z0fkf

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【柴山桂太】グローバル化は止まったへの3件のコメント

  1. ゆう より

    Youtubeで”竹田恒泰 – 世界が日本になる日〜TPPからみるパラダイムシフト〜”を検索してみてくだせえ。素晴らしい動画です。 

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  2. ウミユリ より

    税金は上がるのに、給料は上がらないし、上がるということが想像できない。こんな状況で、若者が車、言えを買うはずもないし、旅行へ行くはずもない。食費や医療費がないと死にますから。若者は、消費意欲が無いとか、財界は嘆いていますが、先立つものがなければ、消費意欲など沸くもはずもないです。自分にカネがあるから、全ての人間にカネがあると思うのは、典型的なマリー・アントワネット頭です。

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  3. ヌコ より

    車も家も家庭も諦めつつある日米の99%(アメに到っては老後はトレーラーハウスとも..)。日本でも軽自動車増税すら関係無い人間も増えておりますから。日本でも会社法とかちょっと見れば判るのですが、極論、株主の為に会社がある様なものどすわよ。建前債権者保護が会社法の目的みたいなのですが、果たしてどうだか… ・企業買収対価の規制緩和(時価総額連呼と連動し日本企業や銀行が米資傘下に)・社外取締役導入(異様に増えた青い目&わし鼻の取締役)・電子投票による総会・役会決議参加(外国などの遠隔地から利益分配指示)・会計監査を行う大手監査法人はいずれも米資というオゾましさ(エンロンさま不正経理の流れを汲む法人もあるとか(笑))現代においては、国家そのものが巨大金融資本さまの、東インド会社ちう事なのでっしゃろかいなん?(日本もアメも金融プランテーションの住人なんでっしゃろけ?)1%の方々には、足るを知るちう価値観が徐々に浸透していくのを待つしかないのでせうか?んな事、あの欲深(ぐりーど)な連中に期待できまへんがニャ。アメ政権誕生から左翼的になりつつある自分が怖いのん。合掌!

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