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2013年11月30日

【松浦光修】最悪の未来

From _松浦光修@皇学館大学教授

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※座談会のメンバーは、三橋貴明、さかき漣、平松禎史、古谷経衡。
新自由主義がもたらす恐ろしい悪夢ほか、縦横無尽にメッタ斬り。
本とは関係のないオフレコ話も、、、

※Amazon以外の街の書店でお買い上げの方も、応募できます。

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かつて私は、三橋貴明氏の『新世紀のビックブラザーへ』(PHP研究所)が出版されたさい、その紹介文を『正論』(平成二十一年八月号)の「読書の時間」に書いた。今から四年前のことである。
当時は、「民主党政権、成立前夜」で、私は、かなり絶望的な気分で、あちらこちらで「民主党政権が成立したら、日本は大変なことになります。たとえば…」などと、書いたり話したりしていたものであるが、マスコミをあげての「政権交代」の声に抗するすべもなく、ついに民主党政権は成立し、以後、三年三か月の間、文字どおりの“サンザン”な時代がつづいた。本書は、いわばその「続編」にあたる「近未来小説」である。

かつて『新世紀のビックブラザーへ』で独立を失った日本が、本書では、ふたたび独立を取り返している。それはよいのであるが、そこは「道州制」のもと、「新自由主義」「グローバリズム」が支配する日本になっていた…という設定である。ありとあらゆるものが「民営化」され、外国資本が参入している。
電気、水道、警察、消防のみならず、国防さえ、アメリカのセキュリティ・サービス会社に委託され、「中央銀行総裁」も、ウォール街出身のアメリカ人である。

「学校株式会社」は、「株主の多くがグローバル資本家に占められ」、そのため「校内公用語」は英語になっているが、その描写に、著者は鋭い一文をつけくわえる。そのような学校で「耳に入る言葉はほとんどがスラング」と。もちろん、医療も崩壊している。医療保険の種類により、国民は、「救急車を呼べる人」と「救急車を呼べない人」に二分されるのである。

しかし私が、もっとも戦慄を覚えたのは、「道州制」により、「日本国の解体」が進んでいく場面である。本書には、こういう一文がある。

「仮に東京州知事が『奥羽州を助けよう』と呼びかけたとしても、おそらく州民のほうは納得しない。『なぜ自分たちの税金が、他の道州のために使われなくてはならないのか』と訴えるでしょう」。

かつての日本には「困った時は、お互いさま」という美徳があった。しかしそれは、もはや過去のものになりつつある。自分たちの地域さえよければ…”という利己主義が、すでに今の日本には蔓延している。

たとえば、かつて三重県知事・鈴木英敬氏は、東日本震災の「ガレキ」の処理を受け入れる、と明言した。「さすがは…」と感心したものであったが、いざ…三重県内の処理施設をもつ市町村に、その要請をすると、すべての市町村が知事の要請を断り、ついに鈴木知事は、三重県への「ガレキ」の受け入れを断念せざるをえなかった。
本書は、「道州制」の日本を、「東京州、東海州、中央日本州という“勝ち組”三州」と「その他の“負け組”同州」に二分された、と描く。「勝ち組」は「負け組」に情をかけることはない。かくて「負け組」の「道州」は、「止まるところを知らない人口流出と経済低迷」に見舞われる。むしろ、「道州制」こそが、「一極集中」を招いてしまうのである。

こうして「地方」は疲弊していく。その原因の一つとして、本書が「一票の格差」を言い立てる「裁判所」の判決をあげているは、まことに「わが意をえたり」である。
しかし、去る十一月二十日、最高裁は、昨年の衆議院選挙を「違憲状態」とする判決を下している。そのような「悪しき平等原理」を極端にまで押し進めていけば、の結果、どうなるか? 当然のことながら「人口が少ない地域ほど、住民の声が国政に反映されづらくなる」のである。

とうとう困窮化のやまない「負け組」の一つである「奥羽州」は、「関税」を設け、「独自通貨」を発行しようとしはじめる。そのあたりの描写も、妙にリアリティがある。また、そのさい、なぜか過去の歴史を引合いに出して、その試みを正当化しようとするあたりなど、特にみごとな描写といえよう。本書では、「奥羽州」のデモ隊が、「奥州藤原の再興を!」と叫んでいる。

今もNHKの「反日歴史ドラマ」は、東北や沖縄の「悲劇」を好んで題材にする。
それは、おそらく歴史を「悪用」して、「中央」と「地方」、あるいは「地方」と「地方」の対立を煽り、「日本国の解体」を進めるためなのであろうが、著者は、そのような「日本国解体」を進める人々の「手法」も、かなり的確に把握している。
「近未来小説」の一つの重要な役割は、「たとえ一見すると麗しい概念も、それが現実のものになり、極端化すると、このような無残な未来がまっていますよ」と、世に警鐘を乱打することにある。かつての『新世紀のビックブラザーへ』も、そのような役割を果たした良書であった。

その「続編」である本書は、「道州制」のもと、「グローバル化」と「新自由主義」、が暴走すれば、このような未来が待っている…ということを、みごとにリアリティのある物語にしてくれている。「荒唐無稽」と揶揄するのは容易なことであるが、「新自由主義」、「道州制」の波は、確実に私たちの身辺にも押し寄せつつある。

さて…現実に進行しつつあるそのような時代の波に、私たち一人ひとりは、どう「応戦」していけばいいのか。そのさい、私たちが、まずなすべきことは、「最悪の場合、こうなる」という、正確な「ハザード・マップ」を描いておくことである。

「応戦」の方法は、人それぞれであろう。しかし、それがどのようなものであれ、すべて人は、そのような「ハザード・マップ」をもととして、ことに臨まねばなるまい。それが「危機管理」の鉄則である。その意味で、「道州制」のもと、「新自由主義」と「グローバリズム」が、いきつくはての「最悪の未来」を、正確にシュミレーションしてくれた著者に、私は感謝してやまない。

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“三橋&さかき本”は、「顔のない独裁者」で最後です。
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「独裁者」特設ページ⇒ http://rensakaki.jp/release/dokusaisya.html

先の三部作もお読み頂ければ幸いです!
三部作の内容紹介⇒ http://rensakaki.jp/works/

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【松浦光修】最悪の未来への2件のコメント

  1. 概念の虜 より

     学校株式会社?…‥・School_?…‥・親の世代の玩具商品と化す生徒世代…‥・バトルロワイヤル? ? 政府って会社ですか?。概念だけに囚われ振り回される第3の矢は小泉概念殺しに放ち、本来の成長な意味合いでの矢を改めた上で引いていただきたいのであります。…‥・グサッ ! 「何故か寒いですね、」

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  2. cheesetoast より

    何でも民営化して無責任な経営の果てにJR北海道のようなことになるのは私も反対です。それも政府や地方自治体がさんざん贅沢をした挙句の結果ならなおさらです。しかし今回の瓦礫処理はもともと広域処理する必要のない瓦礫を高い運賃を支払って拡散し、余計な被爆をひきおこした環境省と細野のミスです。実際の線量被曝の被害の程度が1ミリシーベルトならよいのか20ミリシーベルトならダメなのかはっきりわからないのなら国民のことが大事なら安全な方を取るのが自然だと思います。科学的に間違っていることと情緒的にすごいなと思うことは今度の福一の事故にはあてはまらないと思います。経済学も大切かとは思いますが、原発事故とは切り離しては語れないことだと思われませんか。TPPでごちゃ混ぜにして人的被害を誤魔化したいだけだのずるいやり方です。国を守っていくために政府があるのではなく政府を守るために国民がいるのでしょうか。本末転倒もいいところです。

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