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2013年9月19日

【三橋貴明】日本経済の正念場

FROM 三橋貴明@三橋ブログ

先日は東京都ロジスティック協会の講演に大勢の方々にお越し頂き、ありがとうございました。相変わらずの中野節、三橋節、楽しんで頂けましたでしょうか。

一つ気になったのは、最初の挨拶で本部長さんが仰った、
「すでにトラック、トラック運転手が不足し始めている」
という一言ですね。供給能力不足が運送業界にまで及ぶと、建設サービスの供給能力不足と同様に東北復興、国土強靭化、そして東京五輪のボトルネック(制約条件)になりかねません。

これまた聞いた話ですが、最近の東京では内装の職人さんやIT技術者までもが不足気味になりつつあるようです。長年の不景気で人が労働市場から去ってしまった、あるいは別業界に転職してしまったそうです。その後、アベノミクスで「少し」景気が良くなり、需要が増えた結果、たちまち人手不足に陥ってしまったとのことでございます。

何と言うか、日本経済はデフレの下で限界を超えたスリム化を強いられていたように思えます。東京五輪は七年後ですが、これを、
「七年もある」
と見るか、
「七年しかない」
と見るかによって、今後の企業の投資マインドは変わってきます。「七年もある」とアニマル・スピリットを発揮してもらえば、国内の供給能力は拡大していきますが、「七年しかない」とみられてしまうと、企業は設備投資や人材への投資に躊躇するでしょう。そうなると、東北復興、国土強靭化、東京五輪といった各プロジェクトは成功というゴールにたどり着けないでしょう。

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特に心配なのは、やはり建設サービスです。

国土交通省によると、12年4月から13年1月までの期間において、公共事業の落札業者が決まらない「入札不調」が、岩手県で15%、宮城県では38%に上っています。宮城県では、入札のおよそ四割が「落札者なし」という事態になってしまったのです。

入札不調は大規模事業より中小規模の工事の方が深刻です。12年の一年間を通した被災三県発注の土木工事のうち、1億円未満の中小規模の事業が入札不調の約76.3%を占めています。特に、福島県では入札不調の90%超が1億円未満の中小規模になります。

我が国の建設業許可業者数は99年に60万社でピークを打ちました。その後は業者数が減る一方で、12年には47万社にまで減少してしまったわけでございます。
99年以降、何と10万社以上の業者が倒産、廃業してしまったのです。そして、消滅した企業の多くは、中小規模の事業を請け負う中小企業でした。ゼネコンは未だ健在ですが、中小規模の事業者が姿を消し、被災地の入札不調に拍車をかけているわけでございます。

『【入札不調続出】国が進行管理を(8月6日)
http://www.minpo.jp/news/detail/2013080610117
東日本大震災からの復旧・復興の公共事業で、入札不調が相次いでいる。建設業界などの人手不足、資材の高騰などが主な原因だ。このままだと、工事の遅れや復興予算の未執行の増加など悪循環に陥り、復興のスピードを減速させかねない。(後略)』

上記は先月の記事ですが、復興事業すら入札不調が相次いでいる中、東京五輪の事業が始まって、本当に大丈夫なのでしょうか。政府が本腰を入れて対策に取り組まなければ、まずい状況だと思います。

扶桑社から「国富新論 」が発売になりました。本書はサブタイトルからも分かる通り、「奪い合う」経済、すなわちレント・シーキング的な経済から脱却し、ナショナル・エコノミー、国民経済の復活を目指すために書いた一冊になります。

●『国富新論〜[奪い合う]経済からの脱却』(扶桑社)
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日本国民は、過去二十年間、デフレ下で「おカネ」を妙に有難がる傾向が続いていました。とはいえ、経済にとって重要なのはおカネではありません。需要に対応可能な供給能力です。長引くデフレで、我が国の国民経済からは供給能力が失われていきました。

東京五輪開催で膨れ上がる需要に、日本の国民経済が対応できるかどうか。変な話ではございますが、2020年東京五輪開催が決まったことで、却って我が国の経済は「正念場」を迎えることになったのです。

ちなみに、「国富新論 」の「国富」とは、統計的にはインフラや設備のことですが、実際には「国民が働き、モノやサービスを生み出す力」のことを意味しています。我が国は東京五輪開催が決まった結果、おカネではなく「国富」を増やす経済に転換できるかを試されているわけです。

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