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2013年8月16日

【古谷経衡】団地萌えと“51C型”公団住宅の知恵

From 古谷経衡(著述家&『月刊三橋』ナビゲーター)

“団地萌え”という言葉、聞いたことありますか。その名の通り、全国各地に点在する公団住宅をこよなく愛する人たちのことを指します。わたくしもそれに漏れぬ団地萌え族の一人。

緑の少ない北国(北海道)で育った私は、青い水田とか日本家屋とか、そういった“古き良き日本の原風景”よりもコンクリートのほうが余程愛着がある。土台、水稲耕作の歴史に薄い蝦夷地には、画一的で均質的な、瓦屋根のない無機質なコンクリートの家々が並んでいます。そんな風景こそ、私の心の原風景でありました。

だからこそ、昨今“団地萌え”ブームには胸のすく思い。暇を見つけては遠出をして、公団住宅(現UR)に紛れ込んで写真を撮っています。いつか写真集を出したい、というのが私の密かな目標。ひび割れたコンクリの外壁。煤煙と排ガスでくすんだコンクリの地肌は、無機物の美を通り越して私の心の奥底にある郷愁を誘うのです。

大都市の郊外に整然と並ぶ公団住宅は、まるで高度経済成長の象徴の様に感じる方も多いと思います。しかし、実際、コンクリートの公団住宅は戦前から存在していて、住宅公団の原型となる組織、即ち「同潤会」は関東大震災以降、「燃えにくい庶民アパート」を提供することを目的として主に都内各所に「同潤会アパート」を建設するに至りました。

この同潤会アパート、最も有名なのが青山や代官山の物件です。近年老朽化で取り壊されましたが、その設計思想は戦後も生かされるのです。「51C型」という言葉を聞いたことがある人、いるかも知れません。これは同潤会アパートを引き継いだ、戦後の住宅公団がその間取りの基本概念として採用した住宅の原型です。

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「寝る所」と「食べる所」を分離するという間取りの発想。つまり「寝食分離」の住まいを強く希望する庶民の声は、戦前からありました。寝室と台所(DK)を分離した、当時としては画期的な間取りこそが、「51C型」の最も重要な発明でした。戦争を経て、戦後の公団はこの要望を全面的に取り入れて、「51C型」(1951年度C型の意)の公団住宅を次々と日本各地に建設します。

日本が戦災から立ち直る過程で、健康で文化的な最低限度の生活─の理想を限られた面積と建築予算で実現したのが「51C型」の公団住宅だったのです。当時の公団住宅は、この様な近代的工夫を多分に取り入れたのが好奏し、入居倍率が何百倍になるほどの大人気になりました。公団住宅は庶民の憧れの的だったのです。以後、全ての公団住宅の基礎となった「51C型」には、当時の先人の想いと知恵が詰まっていたのです。

現在、日本各地の公団住宅は軒並み老朽化の問題を抱えています。入居者の高齢化に加えて、公団住宅よりも質の高い民間住宅が大量供給されたのが主因です。最早高度成長時代と違って、住宅不足の時代から供給過剰の時代へと移り変わりました。量から質への転換。人々のライフスタイルも変貌しました。“団地”といえばその古臭いイメージから、若い入居者には嫌厭される向きもあるのでしょう。

そんな中で、古き良き日本の“団地”を巡る想いは、また格別の意味を持ちます。「人からコンクリート」へ。公団住宅の中に秘められた日本人の叡智は、まだまだ東京や大阪の郊外で現存しています。週末は是非とも、郊外の団地へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

そして今、UR(旧公団)では古い団地のリノベーション(内装の改装・近代化)を積極的に行なって不動産価値の温存を図っています。実は結構な掘り出し賃貸住宅もある団地。駅からやや遠い物件が多めですが、その分、駐車場が完備された広くて低廉な家賃が多いのが特徴です。引越し先の候補としても、十分検討の価値がある気がするのは、私だけではないでしょう。

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【古谷経衡】団地萌えと“51C型”公団住宅の知恵への3件のコメント

  1. 土瓶 より

    某公団専門の不動産屋に5年程勤めた時初めて団地の良さに気付きました。現在は独立してやってますが今でも古い団地は優先して投資してますよ。特に5階以下の団地は耐震基準を満たしている物件も多いですしね。

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  2. 高層老齢 より

    萌え(って、草木が芽ぐむ、って意味だったんですね。)ではないコメントですけんど許しておくんなせ。>日本各地の公団住宅は軒並み老朽化の問題を抱えています。 わたしも何か起こったら逃げ切れる歳ではなくなってしまいました。まして階段を昇り降りる遅さも尋常ではなくなりました。このままではわし等のような一人身高齢者は・・・で思うんですけど、 増税(財政均衡)と強靭化を天秤に掛けるような考えは尋常じゃないと思いました。 わたしの頭も老けてまいりましたけど。

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  3. こじこじ@京都 より

    古屋さんのメルマガは、皆さんとは違った話しなのでとても面白いです♪私は来年地元を離れて就職なので、候補として前向きに検討したいと思います!!

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