From 三橋貴明@三橋ブログ「FITの恐怖」
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●電力自由化をめぐるレント・シーキングを特集した
月刊三橋最新号『日本のエネルギーが危ない!』の配信は、7/10まで。
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電力関係の取材で北海道にいます。(どこにいるか分かるかな?)
FIT。再生可能エネルギー特別措置法に基づく、再生可能エネルギーの固定価格買取制度。
とにかく、このFITという制度は、とんでもないのです。制度の中身も酷いのですが、「大企業・投資家側」からはもちろん、「反大企業・反投資家側」からも批判の声が出ないため、制度の問題点が全く国民に知られていないという点が最も「とんでもない」わけでございます。
例えば、わたくしは「アメリカの資本主義の異常性(新古典派、新自由主義的に)を日本に知らしめたジャーナリストとして、堤未果氏を高く評価しています。(意外と仲がいいのです)
堤氏の最新刊「(株)貧困大国アメリカ (岩波新書) 」も、アメリカの「1%対99%」の問題、アメリカの政治、司法までもが「大企業」にジワジワと蝕まれていく様を取材された名著だと思いました。
とはいえ、堤氏がFITを批判するかと言えば、恐らくしないのではないでしょうか。理由は、堤氏が原発に反対の立場をとっているためです。FITの批判は、原発容認に繋がってしまいます。
すでにゲラ段階にある「国家の階層−ザ・レント・シーキング」で大きく取り上げていますが、FITこそが典型的な「1%対99%」であり、レント・シーキングが「完璧に成功した例」なのです。FIT導入を目論んだ企業家、投資家たちは、「反原発」「脱原発」の国民感情を利用し、2011年7月に再生可能エネルギー特別措置法を成立させました。
つまり、経済産業省の前で「げんぱつはんた〜い、ドン、ドン、ドン」とかやっている連中が騒げば騒ぐほど、「1%」を利するFITが正当化され、原発容認派の国民はもちろん、原発反対派の国民からも「賦課金」という名目で、所得が吸い上げられ、メガソーラや風力発電の企業、投資家に所得が移転されるという構図になっているわけでございます。
というわけで、FITは「再生可能エネルギー」の制度であるため、左派系ジャーナリスト(あまりカテゴライズしたくないのですが、他に呼びようがないので)からも、もちろん大企業、投資家側の構造改革主義者たちからも批判されないという、極めてまずい状況にあるのです。この問題こそが、現在の日本における「FITの恐怖」なのです。
ならば「政治家」が動かなければならない、という話になりますが、何しろ参議院選挙が迫っていますので、各政治家は「批判を浴びる可能性がある」FIT批判に乗り出せないのでございます。
参議院選挙が終わった後は分かりませんが、いずれにせよ制度はすでに始まっていますので、わたくし達の所得の一部がFITの事業者、投資家に吸い上げられる構図は、最短でも20年は終わらないということになります。ちなみに、我々から「賦課金」として所得を吸い上げているのは、日本国内の事業者、投資家に限らず、「外国の投資家・事業者」も含まれています。皆さんの大嫌いな「あの国」とか「あの国」の事業者、投資家も、あまりにも「美味しい」日本のFIT制度に、続々と日本で事業を開始していっているわけです。
『再生エネ 固定価格買い取り制度導入から1年の総決算
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130703-00000181-economic-bus_all
原発に代わる自然エネルギー、再生可能エネルギーで発電した電力の、買い取りを大手電力会社に義務付けた「固定価格買い取り制度」が7月1日で、2年目に入った。この1年間で、運転を開始した再生可能エネルギーの発電施設は、原発1基分に相当するという。
経済産業省資源エネルギー庁によると、再生可能エネルギーの全国導入状況は、平成24年7月〜平成25年2月までに運転開始したのは、太陽光発電125、7万kw、風力発電6.3万kw、中小水力発電0.1万kw、バイオマス発電3.0万kw、地熱発電0.1kwで、合計135.2万kwとなっている。
これを見てもはっきりしているのは、太陽光発電施設が、再生可能エネルギー全体の93%を占めていることだ。これは、他の再エネに比べ施設の設備が容易なことと、買い取り価格が、割高で、十分な利益を確保できることから、建設、不動産、スーパー、宅急便、IT産業、郵便局などあらゆる産業が太陽光発電事業に参入し、相次いで大規模太陽光発電所(メガソーラー)設置に乗り出したためと言えよう。
太陽光発電の買い取り価格は、25年度に入り、出力10kw以上の太陽光で、1kw時当たり、37.8円と前年度から1割引き下げられたが、それでも風力の約2倍の高値、今後も太陽光発電の拡大は続くと見られている。こうした日本の太陽光発電拡大に、海外の太陽電池メーカーの参入が、この1年目だった。日本と比べてモジュール価格は相当安く、中國を始め、韓国、カナダなどその攻勢は依然として続いているのが現状だ。
しかし世界的にみると太陽光発電市場は一つの過渡期にきているといえよう。それを端的に表したのが、今年3月の世界最大の中国サンテックパワーの破たんである。価格競争による、採算悪化や、太陽光発市場の低下による供給過剰が背景にあると見る向きもある。日本のメーカーは、需要はあるが、価格下落で、赤字に転落する企業も増えるのでは、と懸念する声もあるのは確か。』
なぜ「太陽光発電」(いわゆるメガソーラ)に投資が集中するかといえば、記事にもある通り設備設置が容易であり、かつ買取価格が高いためです。そりゃまあ、ビジネスとして美味しければ、発電事業への異業種の参入が相次ぐことになるでしょう。
とはいえ、「誰かにとって美味しい(得をする)」ということは、誰かにとって損になっているという話でもあります。FITの制度で損をしているのは、一般の家計と企業になります。すなわち、みなさんです。
恐ろしいことに、FIT制度による再生可能エネルギーの買取には「上限」がありません。事業者側は、とにかく投資して電気を「生産」すれば、電力会社に「需要と無関係に」「固定価格」で買い取ってもらえます(代金は一般の家計や企業が払うのですが)。もちろん、新規の申し込みは価格を引き下げられる可能性はありますが、既存設備は価格が一定です(最大20年)。
これほどまでに「反市場主義」的な制度は、ほかに思いつかないのですが、なぜか常日頃、
「市場原理の導入を!」
などと叫んでいる人たちまで、FITについては口をつぐみます。
何度も繰り返し書いていますが、再生可能エネルギーで原発の代替をすることはできません。電力サービスに求められるのは「安定性」ですが、再生可能エネルギーの発電安定性は、著しく低いのです。現在、最も増えているメガソーラは、当たり前ですが夜は発電できません。そして、街一つを賄うような蓄電池が存在しない以上、再生可能エネルギーのみで日本国民の需要を賄うなど、現時点では夢物語です。
この「夢物語」のために、わたくし達は電気料金の賦課金として、所得の一部を事業者や投資家に献上し続けています(くどいですが、事業者、投資家には外国人、外国企業が含まれます)
本問題は我が国のエネルギー安全保障を覆す可能性がある、極めて深刻な問題なのです。とはいえ、解決のためにはまずは日本国民が「FITの恐怖」について理解しなければなりません。今後も本件は繰り返し取り上げていきたいと思います。
PS
「FIT制度の買取は許さん」「電力自由化を舞台にした<強制所得回収制度>を許すな!」という方は、こちらも参考になるはずです。
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980_2013_06/index.php
PPS
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