政治

2019年11月8日

【施 光恒】ビジネスと政治の癒着に厳しい目を

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

こんばんは~(^_^)/(遅くなりますた…)

大学入試の英語への民間検定試験の導入、延期が決まりましたね。

トーフルなどの英語民間検定試験の導入については、だいぶ以前から、多くの高校や大学の教員などが中心となって制度設計のまずさを指摘していました。

私も、かなり前から本メルマガや拙著『英語化は愚民化』(集英社新書、2015年)などで同様の批判をしてきました。

【施 光恒】「TOEFLもマスト?」(『「新」経世済民新聞』2013年4月19日配信)
https://38news.jp/archives/01594

【施 光恒】「『英語入試改革』で教育現場は大混乱」(『「新」経世済民新聞』2019年9月13日配信)
https://38news.jp/politics/14597

英語民間試験の導入が延期されたのはひとまず良かったと思いますが、延期ではなくて本来「撤回」すべきです。延期したところで、上記の記事で触れたような問題が解決されるとは思えません。一度、撤回し、根本から今回の「改革」案を批判的に検討し直すべきでしょう。

民間試験導入について、文科省の態度は頑なでした。批判に耳を傾けつつ、よりよき制度を作っていこう態度はありませんでした。

例えば、民間検定試験の導入を進めた会議の議事録はこれまで非公開でした。今回、大きな問題となったため、やっと公開されるようですが…。遅いですよね。

「英語民間試験延期 文科省、推進経緯の適否検証へ 国会で疑問相次ぐ」『産経新聞』(2019年11月5日付)
https://www.sankei.com/life/news/191105/lif1911050009-n1.html

真摯な対応が遅れた影響で、政府が業者から損害賠償を要求されるのではないかという懸念も出ています。

「英語民間検定100億円規模需要が一変損害賠償にも」『日刊スポーツ』(2019年11月2日)
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201911020000091.html

なぜ数々の批判にもかかわらず、文科省は批判に耳を傾けなかったのでしょうか。

今秋発売の週刊誌では、業者との癒着が指摘されています。例えば、ベネッセコーポレーションとの癒着です。

「安倍“お友だち”と英語試験業者の蜜月」(『週刊文春』2019年11月14日号)
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191107-10000968-bunshuns-pol
(有料記事です)。

「第2の「加計疑惑」!?「英語民間試験ごり押し」 本当の理由は「あの業者に甘い汁」」(『週刊新潮』2019年11月14日号)

『東京新聞』は、国会でも、政府とベネッセとの間に癒着があるのではないかと問題視されたと報じています。

***
「英語試験法人に天下り 旧文部省次官ら2人 衆院予算委」(『東京新聞』2019年11月7日朝刊)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201911/CK2019110702000159.html

衆院予算委員会は六日、安倍晋三首相と関係閣僚が出席して集中審議を行った。二〇二〇年度の大学入学共通テストへの導入が延期された英語民間検定試験に関し、実施団体の一つベネッセの関連法人に旧文部省、文部科学省から二人が再就職していたことが明らかになった。野党は、英語民間試験導入の背景に官民癒着があるのではないかと追及した…(後略)
***

この記事中の「ベネッセの関連法人」とは、ベネッセと共同で英語検定試験GTEC(ジーテック)を実施している一般財団法人・進学基準研究機構を指します。この法人はベネッセ東京本部と所在地が同じですので、実態としてはベネッセそのものだといってもいいでしょう。そこに、元・文部事務次官(佐藤禎一氏)が理事長として天下りしていることなどが問題視されたのです。

英語民間試験の導入にまつわるこうした疑惑については、十分な検証が必要です。

審議過程の議事録が公開されたら、「導入をごり押ししていたのは誰か」「導入に対する様々な批判を軽視していたのはなぜか」など解明しなければなりません。

英語民間試験導入の問題は、これ自体大いに吟味すべきですが、それにとどまらず、いわゆる新自由主義的改革全般の危うさを議論するきっかけにもすべきです。

「政府を小さくして無駄を省こう」「民間に任せよう」という掛け声の下、政府の仕事を民間委託する流れがもう長らく続いています。

公的機関が従来、担ってきた仕事を民間委託する際、その枠組みをどう作るか、どの業者を選定するかといった場面で、当然ながら大きな利権が発生します。

政府が担ってきた事業は、ビジネスの観点からしたら非常においしいものである場合が多いからです。国民生活の根幹に関わるため、安定的な需要が見込まれ、不況下でも大きな稼ぎが予想できる。一度、受託できれば、そこでノウハウを身に着け、長く稼ぐことも可能である。そういった事業が少なくありません。

今回のような教育や入試に関するものもそうですし、電力や水道などの社会的インフラ関連、雇用関連(外国人労働者受け入れなど)の事業もそうです。

国民生活の根幹に関わるというわけではないですが、カジノ(「統合的リゾート」)も企業からみれば、非常においしい事業です。カジノ解禁は、日本のギャンブル市場を、外資を含む民間事業者に開放するものにほかなりません。

枠組み(スキーム)作りの段階から企業関係者が関われれば、特定企業に有利になることは大いにありえます。企業関係者が自分たちに有利なように制度設計をする可能性は否定できません。

これまでも、竹中平蔵氏が会長を務めるパソナが、外国人労働者受け入れなどの業務を請け負っていることに問題はないのかなどとたびたび指摘されてきました。

カジノ関係者と政府の密接な関係も取り沙汰されてきました。

企業と政府との関係について、近年、どうも監視が弱まっているように思います。「民間活力の導入」「規制緩和」「規制改革」などというスローガンの下、公的業務の民営化や民間委託はいいものであるというイメージが定着したからでしょうか。

あからさまなものとしては、「企業担当制」という外資系企業の便宜を、政府幹部が図ってやるための制度といってよいものまであります。「李下に冠を正さず」という言葉は忘れ去られてしまったかのようです。

【施 光恒】「企業担当制」という約束(『「新」経世済民新聞』2015年4月3日)
https://38news.jp/archives/05453

英語の民間検定試験の導入で注目を浴びつつある企業と政治との密接すぎる関係について、心ある政治家やマスコミにはどんどん切り込んでいってもらいたいものです。

また、それを契機として、政治の役割や目的とは一部の企業の便宜を図ることではなく国民全体の繁栄や福利であるという当たり前のことをあらためて確認してもらいたいものです。

長々と失礼しますた…
<(_ _)>

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【施 光恒】ビジネスと政治の癒着に厳しい目をへの2件のコメント

  1. コメントに返信する

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  2. 大和魂 より

    この問題も日韓関係の問題と密接につながっていますから、当事者間に割って国際経済を牛耳る米国の内政干渉は断じて許されナイ!なので、これを断片的に片付けるべきではなくて、それは根本から改めるべきです。また分かり易く言えば、話題のドイツの選挙結果も、所詮はEUから脱しなけれぱ何の意味すらないわけですよ。それから我が国の政治の与野党議員やら役人を含めたインテリ連中のだらしなさは恥ずべきもので愚かな事。

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