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2013年3月22日

【施 光恒】日本の交渉力

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From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

おはようございます(^_^)/

ワールド・ベースボール・クラッシック(WBC)、残念でしたね。
結構、熱中して応援していたんですが…。

テレビ観戦していてあらためて思ったのですが、今は、ストライク、ボールのカウントのしかたが昔と違うんですね。昔は、「ストライク、ボール」の順番でコールしていたのに、いまは「ボール、ストライク」に変更されています。たとえば、ストライクが二つで、ボールが三つだったら、昔は「ツーストライク、スリーボール」だったのに、今は「スリーボール、ツーストライク」です。

ネットで検索して調べてみると、日本でも1997年の春の選抜大会(だいぶ前ですね)から高校野球の審判のコールの仕方がまず変わり、3年前の2010年シーズンから、大学、社会人、プロも変更したそうです。それに伴って、球場の表示も、「SBO」(ストライク、ボール、アウト)式から、「BSO」(ボール、ストライク、アウト)式に順次切り替わっていったみたいですね。テレビやラジオの中継も追随したとのことです。

野球の「国際化対応のため」だそうです。つまり野球の国際大会が増えてきたので、アメリカ式に合わせたんですね。

昭和生まれの私としては、2010年度の変更から3年たっても、どうもしっくりきません。
子供のころ、よく父親とキャッチボールしたり、友達と野球をしていましたが、「ツー・スリー」といえば「ツーストライク、スリーボール」でしたし、「ツー、ナッシング」といえば「ツーストライク、ノーボール」でした。

私の世代の人気野球漫画『タッチ』のクライマックスシーンで、上杉達也が須美工の最後のバッター・新田に投げたのは、「ツー、ナッシング」からの渾身のストレートだったはずですし…。

「野球の国際大会が増えた」っていっても、数えるほどでしょうし、出場するのは、野球人口の何百万分の一の超エリートなんでしょうから、彼らが国際大会のときだけ頭を切り替えてくれればいいのになと考えます。または、国際試合では日本チームのメンバー同士で、つねに声を掛け合って確認するとか…。

いやいや、もっと積極的に、野球人口って、アメリカ以外では、おそらく日本が一番多いし盛んなのでしょうから、自分たちから変更するのではなく、日本が有利になるようにもっと強気に他国に対して主張すればよかったんじゃないでしょうか。

「「ボール、ストライク」という数え方はヘンだ。だって、「プラスマイナス」、「善と悪」、「美と醜」、「多い、少ない」など、肯定的なほうを最初にもってくるのが普通なんだから、「ストライク、ボール」の順番のほうが普遍的だ!アメリカこそ変更すべきだろ!野球の国際化のために当然の痛みを受け入れろよ!」とまずふっかけたらよかったんではないでしょうか。

まあ、これが少々無茶な主張だとしても、最初にそう言い放っておいて次善の策として、「国際大会でのストライクやボールのコールの順番は、開催地ごとに変えるべきだ!」と主張したらよかったんじゃないでしょうか。少し前まで日本の球場のスコアボード表示は、すべてSBO(ストライク、ボール、アウト)の順番だったわけですので、それが合理的で公平だったと思います。

いや、日本人は、控えめですからね。そういう主張でも苦手ですよね。

私も例にもれず、「でも、野球の発祥の地は米国だからな…」とか、「それぞれその国の野球があれば、野球にまつわる思い出もあるだろうからな」とか、「まあカウント法の変更も、少し経てば慣れるだろ。日本の今の世代が少し我慢すればいいことなんだから」とか自分で自分に少々ツッコミながら書いているのですが…。

前置きが長くなりました。
さて、本題は、TPPにおける日本の交渉力です。

安倍首相は、先週、TPP交渉参加を決めてしまいました。
「交渉によって日本の国益は必ず守る!」と言っておりますが、本当にできるんでしょうか。

私はとても懐疑的です。日本に、米国と対等な交渉ができるとは残念ながら思えません。

米国人の結構多くは、「自分たちのルールや制度ややり方こそ、普遍的であり、それを世界に広げるべきだ」とわりと素朴に考えているんじゃないでしょうか。
あるいはそこまで単純でないとしても、米国人や米国企業がなじみやすく活動しやすい場を国外に広げてやるぞ!と戦略的に考えているでしょう。

そういう相手と対等に交渉するために日本側に必要なのは、「日本の積み上げてきたルールや制度ややり方こそ、普遍的であり、世界に広げるべきだ」という強い信念でしょう。あるいは、「日本人や日本企業がなじみやすく活動しやすい有利な環境を、日本国外に何が何でも広げてやるぞ!」という攻撃的な心構えでしょう。

一例をあげれば、TPPの場合、市場規模からみるとほとんど日米で圧倒的な割合を占めるので、TPP域内では、英語と日本語を公用語にすべきだと主張すべきではないでしょうか

せめて、TPPの交渉分野のなかの「政府調達」(公共事業)では、日本企業が入札しやすいように、米国をはじめとする全加盟国の政府や自治体は、日本語で応札できるように便宜をはからなくてはならないという主張をぶつけるべきでしょう。次のような感じです。

「高速鉄道や耐震化など日本のインフラ整備技術は世界一である。日本企業の進出こそ、域内の安定と繁栄のためになる。したがって、日本企業が各国の公共事業の入札に参加しやすいように、手続や仕様書の日本語表記を義務付けるべきだ。英語は、日本人にとって深刻な参入障壁であり、非関税障壁である。グローバル化時代の真に公正な競争を阻むものにほかならない」

他の例では、最近話題になっている軽自動車規格ですが、日本は、軽自動車規格を普遍的に広げるべきだ!と主張したらどうでしょうか。

「TPP参加国は、アメリカみたいにだだっぴろい平地ばかりの国ばかりではない。ベトナムやチリには山間部も多いし、シンガポールのような国土の狭い人口過密国もある。また今後の世界では、ますます省エネやエコが大切になる。軽自動車こそ、燃費も良く、エコであり、人類の将来に資する自動車規格である。日本の規格をみならって、域内すべてで軽自動車規格を取り入れるべきだ!」

健康保険制度に関しても、日本人の平均寿命はほぼずっと世界一なので、もっと強い主張を行うべきではないでしょうか。

「世界一の長寿国である日本の保険や医療の制度こそ、見習うのが合理的だ。だいたい、貧富の差によって、受けられる医療水準が異なり、貧乏人は低レベルの医療しか受けられず、金持ちのほうが長生きできるなんていったいいつの時代の話しだ? 人類の普遍的な道徳的直観に反する。米国をはじめとするTPP加盟国は、世界一の実績を誇る日本の健保や医療の制度を見習い、自国制度の構造改革を抜本的に行うべきだ」

それに、だいたい、米国の「マイル」や「ヤード」や「ガロン」っていう前近代的な単位、あれ、なんですかね。WBC観てても、「球速は88マイル」なんて言われても、全然、わからないじゃないですか。あれも国際標準のメートル法に変えるべきでしょう。

米国のように「我こそは普遍なり!米国のルールや制度に合わせて、他国は自国の制度を作りかえるべきだ」と思っている国と対等に交渉するためには、日本も、同じように「日本こそ普遍だ!他国は、日本のやり方に合わせるべきだ。そのほうが各国の国民は幸せになれるはずだ」と強く信じていなければならないはずです。

あるいはせめて「日本の優れたやり方を、米国をはじめとする国外に広めてやる。そして域内の需要を根こそぎ奪い取ってやる」という強い戦略的思考を持つべきです。

「普遍 vs. 普遍」、あるいは「戦略的思考 vs. 戦略的思考」となってはじめて対等な交渉と呼べるわけですから。

と、ここまで書きつつ、日本人には、そんなやり方、つくづく向かないよなあ、と感じています。

日本は一神教の国ではありませんから、多くの日本人は、各国では、それぞれの国民が自分たちの文化や伝統に根差した国づくりを行っていくのがよいことだと考えているのではないでしょうか。

つまり、「各国、各地域ごとに、それぞれ自前のやり方がある。それを互いに尊重すべきだ。そのほうが、各々の現地の人々は幸せだ。世界全体でみても、そういう相互尊重の枠組みこそが公正な世界秩序だ。軽々しく「普遍的だ」とか「世界標準だ」とかいって、自国のやり方を他国に押し付けたり、世界をのっぺらぼう的に画一化したりしていくべきではない」というふうに、日本人の多くは感じているのではないでしょうか。

だとすれば、日本は、やはりTPP交渉参加は、止めておくべきでしょう。

加盟各国の文化や伝統、発展段階、国土の特性、産業構造などを無視し、社会制度を大規模に変革し、統合された単一の市場を合理的に作っていくというTPPの根本的発想自体が、米国的であり日本人の肌には合わないのだと思います。多くの日本人は、他国の国内ルールを自分たちに都合よく改変したり、互いに互いの国内需要を奪い合ったりするという世界に対して嫌悪感を抱くはずです。

それよりも、各国が、自国民の幸福を願い、自国の文化・伝統、発展段階、国土の特性を考慮し、特色ある国づくりをそれぞれ行っていく多元的な世界秩序のほうが、日本人にはしっくりくるでしょう。

ですので、いまにいたっては理想的すぎるものいいかもしれませんが、今回のTPPはどうにかしてうやむやにしてしまい、あらためて日本は、そうした多元的世界秩序の構築の正当性を訴え、特色ある国づくりを相互に支援する国際的枠組み作りの必要性を主張していくべきだと思います。

相変わらず長々と失礼しますた<(_ _)>

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【施 光恒】日本の交渉力への3件のコメント

  1. 名前はまだ無い より

    結局安倍自民党にも施さんのおっしゃるような価値観を持った経済論は全然見えてきません。日本人にはつくづく向いていない方向に全力で進んでいるように思います。

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  2. yoyo より

    「マイル」や「ヤード」や「ガロン」、なるほど、前近代的な単位ですね。野球のカウント順にしろ、なぜ、日本は妥協、容認を繰り返し、明らかに不合理な要求までも受け入れ続けるのでしょう?日本では、交渉事をまとめる上で相手との妥協や容認が重要なことが少なくありませんが、こと、国外に至るとそれが通用しない。そもそも、自分が先に引いて相手の歩み寄りを促すという考え方は、「和を以って尊し」良い意味で日本人的な事の進め方ではあっても、海外においては「ならばこちらがいただこう」といった具合になるだけで得るものは何もありません。だからといって、「和を以って尊し」という考え方が間違ってるというわけでもなく、むしろ、世界へ広めていく価値のある崇高なものではないかと思います。ただ、世の中には善人ばかりではないのだから、それ相応の心構えが必要であり、こと国外との交渉事については、多くの日本人の将来を背負っていることを自覚してもらいたいものです。残念ながら、これまでは「和」というものをはき違えた妥協が繰り返され続けているのが現状でしょう。もっとも、近年の日本の凋落はそんな高次なことではなく、日本を弱体化しようとした戦後教育の成果であるように思いますが。「正義は勝つ」という言葉がありますが、高い理念を掲げただけでそれが実現できるならとうの昔に世界平和が実現しているはずですが未だに紛争は絶えません。高い理想もそれを実現する戦略が無ければ絵に描いた餅であって、そこには様々な駆け引きが伴います。明治以降、大日本は発展を遂げたにもかかわらず、戦争に敗れ、過去の行いはすべて否定されてしまいました。しかしながら、戦前世代が第一線を退き、戦後教育を受けた世代が中心になっって以降、日本はおかしくなってしまったように思います。その一方で、それら矛盾のなかで新たな世代が育ちつつあるようにも思います。今の日本はその転換点に立っているのではないでしょうか?かつて、東亜の秩序を謳い「大東亜共栄圏」が掲げられ、日本は広くアジアに進出しましたが敗戦後、アメリカをはじめとする連合国側の価値観を、占領政策、こと教育によって押し付けられ、戦後世代はそのことを疑うことなく受け入れてきたように思います。TPPは貿易協定というよりも、アメリカ(主にグローバル企業)による新しい秩序造りという側面が大きいように思います。内容がどうであれそれに関与しないとすれば、日本の地位低下は免れません。望ましくないなら望ましくないで中身を変える努力が必要であり、新しい秩序造りは、日本にとって超えなければならない試練でもあると思います。「和を以って尊し」という崇高な振る舞いの本質を理解し、且つ、戦後教育を克服し、一方的な歴史観から脱却する。日本の交渉力のネックはこれらを履き違えたり、勘違いしたままであることが原因でしょう。さて、安倍総理が目指しているものは何なんでしょうか?

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  3. 名無し より

     施先生の意見に同意します。 そもそも、TPPで取るべき利益は推進派が示すべきであり、USTR並みにどぎつい要求をしても構わないはずですよね。しかし、TPP参加予定国のうち、日米でGDPの8割を占めると反対派から言われるまでは、「アジアの成長」がTPPのメリットでしたし、言われた後も施先生がおっしゃるような米国内の非関税障壁を撤廃するという意見は出てきません。 相手国から1つも譲歩を勝ち取ろうとせず、自国の条件だけは絶対に守ろうという姿勢で、一体どれだけまともな交渉ができるのでしょうか。 結局、TPP推進派の考えるメリットはグローバル化に乗ることなんでしょうね。彼らは海外市場に打って出ようとも、国際貿易ルールのイニシアチブを取ろうとも考えてないんです。グローバリズムを叫んでいる自分たちが一番内向きなんですよね。 日本には髪を茶髪や金髪に染める人がいますが、外画を見ていて髪を染めたアジア系俳優は見ません。周りが黒髪ならば、明るい髪はオシャレになるかもしれませんが、世界を見ればそうとは限りませんし、逆に黒髪という自分の特徴を殺すことにもなるでしょう。 私にはTPP推進派やグローバリスト達がこれと同じに思えてなりません。

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