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2012年8月7日

【藤井聡】経済学が暴走した理由

FROM 藤井聡@京都大学

前回,前々回と,ケインズ研究の第一人者の,
ロバートスキデルスキー氏の言葉,

「最近,圧倒的な力を持っていた新古典派経済学が
どれほどの害悪を与えたかは,簡単には記せないほどである.
歴史上,これほど奇妙な考え方に
優秀な人達が熱中した例はまずない」
〜『なにがケインズを復活させたのか?』より〜

….にまつわるお話をいたしましたが,
今回は特に,

「歴史上,これほど奇妙な考え方に
優秀な人達が熱中した例はまずない」

という部分について,お話したいと思います.

わたしは,経済学という学問そのものを否定する気は,
一切(!)ありません.

当たり前ですが,人間がつくりあげる「経済」という現象は,
人間の幸福で,誇りある暮らしを考える上で,
極めて重要な現象であって,
そのための「学」が不要であるなんてことは,あり得無いからです.

しかし(!),どんな学問領域にも,

「そんな理屈,メチャクチャやがなぁ」

という類の,「邪説」があり得ます.

で,そんな「邪説」が,
ロバートスキデルスキー氏が「奇妙な考え方」と言った
「新古典派経済学」なのです(!).

これは,(前回もご紹介しましたが)チョー簡単に言うと,

「規制の無い自由な『市場』で、
いろんなものを売買すれば、
モノをつくる人も買う人も皆ハッピーになる!」

という理屈です.

…で,この「奇妙」な考え方に基づく「新古典派経済学」は,
何と残念なことに,今,マジで,
「経済学の主流」となっています(残念!).

だからこそ,「自由な市場にしたら皆ハッピーだ」ということで,
世界中のあらゆる規制が緩和されたり,
撤廃された挙げ句に起こったのが,

・世界金融危機や,
・今の日本のデフレ不況,

そして,

・途上国の成長阻害とそれによる南北問題の拡大等々…

なのです.

で,それは,スキデルスキー氏が

「どれほどの害悪を与えたかは,
簡単には記せないほどである」

と記述するほどの大々々被害(!)だった訳です.

で,なんでまたそんな(ジョジョ級の)「奇妙な物語」に,
世界中の優秀な頭脳が絡め取られていったのか….
これは本当に「社会学的」的にも「社会心理学」的にも
非常に興味深い現象です.

ですから,この「奇妙な現象」に対しては,
ジャーナリズム(報道)の対象になるだけではなく,
アカデミズム(学術)の研究対象として,
極めて重要なテーマとなりうるものです.

では,なぜなのか….
これは,もの凄く簡単に,一言で言うと,
(経済学者達の)「群集心理」
なのです.

今の経済学は,全体として人類に巨大な被害をもたらすものです.

しかし,個々の経済学者は(一部の極悪人の例外を除いて 笑),
そういう事態に全く気づいていないか,気づいているとしても,
朧気に気づいている程度であって,
大半の経済学者は,真面目に,
どちらかというと「善意」に基づいて
この奇妙な学問である「新古典派経済学」に
一所(!)懸命,従事しているのです.

ですから,経済学者の方が,自らに差し向けられた批判を目にすると
「何と失礼な!日本,ひいては世界のために一所懸命
研究しているんだ!」
と,本気になって怒るケースもあるわけです.

なぜそうなるかといえば,新古典派経済学が「真」であるのは,
彼等にとっては,「事実」だからです.

そこに「山がある」ということや「川がある」というのが
事実であるように,彼等にとっては,
「新古典派経済学が真」であることもまた「事実」なのです.

しかし,(心理学では)「事実」とは,
(ざっくりいって)次のように定義されます.

「自分だけでなくて,みんなが言っている事」

中には「えっ?」と思われる方がおられるかもしれません.

みんなが言っていようが,言って無かろうが,
事実は事実なんじゃないの?
とお感じかもしれません.

しかし(少々哲学的でややこしいですが),
皆が言ってなければ,
それは事実かどうかは分からないのです.

例えば,自分だけに見えているコップがあったとしましょう.

私はそのコップをしっかり持っている,と思っている.

でも,合う人合う人「全員」に

「お前,バカか?なにも持ってないじゃないか」

と言われ続けたとしたら,
ひょっとしたら,あなたは,「幻想」を
抱いているだけかもしれない….
ということになりますよね...?

…ですから(少なくとも心理学では)「事実」とは,
神様の目から見た事実なのではなくて,
「みんなが言っていること」なのです(!).

…とすると,
1.「小さな経済学者ムラ」の中にいて,
2.そのムラからほとんど出ないようにしている人々が,
3.「新古典派経済学が真だ」なんてことを,いつも囁き合っていたら
4.そのムラの中では,「新古典派経済学が真だ」ってことが,
(群集心理によって)いつのまにか「事実」になっちゃうのです!

で,おそろしいのは,そんな「事実」が
・そのムラ以外の人々には,どれだけ奇妙であろうが,
・どれだけ世界を不幸のどん底にたたき込もうが
一切関係なく,それは,「事実」になっちゃう,という所なのです!

これが,
「世界を破壊する新古典派経済学の暴走」
が起こっちゃった基本的な理由(構造)なのです.

だとすると,「新古典派経済学の暴走」が
起こっちゃった最大の原因は,

「新古典派経済学イデオロギーが培養するような
閉鎖的なムラで,を作っちゃった事」

なのです(!).

それはさながら,

オウム真理教の教えを培養する
閉鎖的な『上九一色村のサティアン』を
作ちゃったことが,オーム問題の根源にある…..

ということと同じなんですね(笑).

じゃぁ,どこのだれが,
そんな,奇妙な「新古典派経済学」のための
サティアンを作ったのか….というのが,
次のポイントになるわけですが….

それについては,また次回!!

京都大学 藤井聡
http://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII?ref=ts

PS
なぜ、経済学者は世間知らずなのか?
http://amzn.to/M27kl5

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【藤井聡】経済学が暴走した理由への1件のコメント

  1. これからが肝心 より

    藤井先生の仰る通りですね。原子力村の論理にしても反原発運動にしても同じように群集心理で動いているように感じます。 何事も一歩引いたところから冷静に判断する人がいないととんでもない所に行ってしまいます。放射能防護の専門家である高田純氏によると福島原発事故による深刻な放射能被害は起きないということがわかっています。一方でさっぱりワヤな政府のせいで避難移動する過程で何千人もの方々がなくなっています。やりきれないですね。

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