アメリカ

2017年11月22日

【佐藤健志】トランプ来日と横田基地

From 佐藤健志

11月5日に訪日したドナルド・トランプ大統領は、
安倍総理とのゴルフ、天皇・皇后両陛下との会見、日米首脳会談、北朝鮮による拉致被害者家族との面会などを経て、
11月7日に離日、韓国に向かいました。
https://news.infoseek.co.jp/feature/trump_visit_japan/

ゴルフ中には、バンカーから抜け出そうとした安倍総理が、バランスを崩してすっ転ぶというハプニングもあったものの、
これも「おもてなし」のうちと解釈すべきでしょう。
https://breaking-news.jp/2017/11/07/036422

「おもてなし」については、この本の「政治経済用語辞典」に正確な意味を書いておきました。

『右の売国、左の亡国 2020年、日本は世界の中心で消滅する』(アスペクト)
https://www.amazon.co.jp/dp/475722463X(紙版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B06WLQ9JPX(電子版)

それはともかく。
今回の訪日で話題になったのは、入国のときも、出国のときも、トランプが在日米軍の横田基地を用いたこと。

アメリカ大統領が訪日にあたって、米軍基地を使った事例が、過去に皆無というわけではありません。
クリントン大統領は、2000年7月21日~23日の訪日の際、嘉手納基地から出国しました(入国は那覇空港)。
https://americancenterjapan.com/aboutusa/usj/1247/
オバマ大統領も、2016年5月25日~27日の訪日の際、岩国基地から出国しています(入国は中部国際空港)。

けれども東京周辺の米軍基地を使った大統領となると、トランプが初となる模様。
入国と出国の両方について基地を使った点も同様です。
北朝鮮情勢が緊迫しているのを思えば、そのほうが安全だということになるのかも知れませんが、だとしてもねえ。

ちなみに保守前衛の一部では
「レーガン来日のときもそうだった」
という主張が見られたものの、これは事実に反します。

大統領在職中、レーガンは1983年(11月9日~12日)と、1986年(5月2日~7日)に訪日しました。
けれどもアメリカン・センターの記録によれば、どちらの場合も、入出国に使われたのは羽田空港です。
https://americancenterjapan.com/aboutusa/usj/1251/
https://americancenterjapan.com/aboutusa/usj/1252/

そもそも、前例があろうがなかろうが、
〈他国の首都を訪問するときに、その国にある自国軍の基地を使う〉
というのは、上から目線と受け取られても仕方ないところ。

レーガンのときもそうだったと錯覚する人が出てくるのも、
「見下されるのは今度が初めてじゃない!」
と信じ込むことで、プライドをどうにか守ろうとしているのかも知れません。

トランプは韓国入りのときも、ソウル南方にある在韓米軍の烏山(オサン)基地を使ったので、
日本だけが見下されているのではないと主張することはできます。

ただしこれは、
〈日本と韓国は、アメリカ、ないしトランプの視点からすれば同レベルの存在にすぎない〉
ことも暗示する。
「日米同盟の絆」を誇り、韓国を低く見たがる保守前衛にとっては、やはり不都合な話と言わねばならないでしょう。

だいたい。
1955年11月15日、自民党の誕生にあたって発表された「党の政綱」という基本文書の第六項には何と書いてあるか?
どうぞ。

世界の平和と国家の独立及び国民の自由を保護するため、集団安全保障体制の下、
国力と国情に相応した自衛軍備を整え、駐留外国軍隊の撤退に備える。
https://www.jimin.jp/aboutus/declaration/index.html#sec09

ここでのポイントは、「集団安全保障体制(つまり日米安保)の下」という語句が、「自衛軍備を整え」の箇所までしか修飾していないことです。

だって、そうでしょうに。
最後に出てくる「駐留外国軍隊」とは、どう考えても在日米軍。
日米安保が存続していながら、在日米軍が撤退する事態は、ちょっと考えられません。

言い替えればこの箇所は、
「とりあえずは日米安保の下でアメリカに従属するが、その間に十分な軍事力を整備し、安保体制がなくなっても大丈夫なようにする」
と謳っているのです。

のみならず、1960年の安保改定にあたっては
「(1970年以後)日本側が一方的に条約を終わらせることができるようにする」
という内容を盛り込むことが大きなポイントになりました。

それまでの旧安保条約では
「日米双方が条約終了について合意するまで、安保条約は続く」
(=日本側が終わらせたいと望んでも、アメリカが拒絶したらアウト)
とされていましたからね。

すなわち「駐留外国軍隊の撤退に備える」とは
〈いつかアメリカが在日米軍を引き揚げても困らないようにする〉
ではなく
〈自衛軍備が整ったら最後、在日米軍には出ていってもらう〉
という意味に受け取らねばならない。

62年前、自民党にはこれだけの主体性があったのです!!
ならば現在はどうか。

自民党ホームページは、「党の政綱」について
「立党時から今も変わらず自民党の基礎として受け継がれる宣言や綱領などの基本文書」
に含めています。
とはいえ今の自民党が、在日米軍の撤退に備える姿勢を見せているか?

日米同盟の絆なるものを、ひたすら強調してばかりではありませんか。
戦後史は堂々めぐりを繰り返すどころか、ズルズル後退しているのかも知れません。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

昨今のわが国で炎上が頻発するのも、こうなるとますます良く分かる。
ズルズル後退を続けているのに、前進しているつもりだから、あとになればなるほどストレスがたまり、炎上するしかなくなるのです。

『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)
http://amzn.asia/7iF51Hv(紙版)
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エドマンド・バークの名言にならえば、
「バカげた理念を、行き当たりばったりの実践でどうにか埋め合わせようとする過程」というところ。

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
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し・か・も。
RT(ロシア・トゥディ)ニュースによれば、横田基地に着く前、トランプは大統領専用機の中で、北朝鮮についてこう語ったそうです。

“They’re warm, much warmer than the world really knows or understands. They’re great people. And I hope it all works out for everybody.”

世界は北朝鮮の人々について、本当には分かっていない。彼らは一般的なイメージより、ずっと温かいんだ。
偉大な国民だね。みんなが満足する結果になることを願っている。
https://www.rt.com/usa/408824-trump-north-koreans-great-us-power/#.Wf6z9U-xy7c.twitter

ン?

11月6日に行ったトランプ大統領との共同記者会見で、安倍総理はこう述べたはず。

対話のための対話では全く意味がない。
北朝鮮の政策を変えさせるため日米が主導し、国際社会と緊密に連携して、
あらゆる手段を通じて北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全に一致した。
http://news.livedoor.com/article/detail/13852429/

どうも温度差があります。
完全に一致したってホントなの?
ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)11月24日(金)、赤坂CHANCEシアター(東京都港区赤坂2-6-22 デュオ・スカーラ2B1F)でトークライブをやります。
題して・・・
「勝手にしやがれ! 天下国家VOL.2
 天高く総崩れの秋~希望も足りない! 絶望も足りない!」

18:00オープン、19:00スタート。
司会はSayaさんで、チケットはワンドリンク付3500円です。
参加のお申し込みや問い合わせは、主催団体「カルティベイトの会」までどうぞ。
http://peatix.com/group/52292
または
cultivate1group@gmail.com

2)日本文化チャンネル桜の番組『FRONT JAPAN 桜』で、キャスターを務めました。共演は佐波優子さんです。

トピックス
・若者が政治に求めるのは「結果」である
・トランプ大統領は慰安婦に関心があったのか?
・国連の本質と本音~国連人権理暫定報告書
・左翼リベラル「改憲」への目覚め
https://www.youtube.com/watch?v=vsEUk5GMDn8

3)11月29日(水)、文化放送の番組『おはよう寺ちゃん 活動中』に出演します。三橋貴明さんのピンチヒッターです。
http://www.joqr.co.jp/tera/

4)戦後脱却も、ただやればいいというものではありません。堂々めぐりどころか、ズルズル後退するような戦後脱却だってありうるのです。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)

5)堂々めぐりや後退を続けた果て、保守もリベラルもすっかり自己矛盾に陥ってしまいました。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

6)「事態は日を追って収拾がつかなくなっている以上、革命政府は唖然とするようなトンデモ政策を次々と打ちださざるをえないのだ」(8ページ)
政治の目的は経世済民の達成です。物事が総崩れの様相を呈しているときこそ、この基本に立ち返りましょう。

『本格保守宣言』(新潮新書)
http://amzn.to/1n0R2vR

7)「独立の偉業さえ達成できれば、負債など物の数には入らない。そもそも、国は負債を持つべきなのだ」(176ページ)
どうも最近のわが国は「従属の偉業さえ持続できれば、主権など物の数には入らない」に近いようで・・・

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

8)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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【佐藤健志】トランプ来日と横田基地への3件のコメント

  1. 反孫・フォード より

     話から少しそれますが、
    自民党リンクを見ていたら、小さな政府を進めることや、
    ‘経済成長の鈍化と財政悪化からくる財政諸機能の不全に現在も我々は苦しんでいる。少子化による人口減少は国の生産力を低下させると言われる。’と、あるんですね。
     藻谷氏の人口減少デフレ説を踏襲したまんまで、経済成長と財政悪化について原因と結果の履き違いもそのまんまなんですね。

     無知だったオイラに事実は溜まりますがそれはどんどん絶望的な事実ばかりです。そんな極稀な現象を観ることが出来るのも幸運なのでしょうか。
    失礼しました。

  2. あまき より

    「そう!そうそうそう! うんうん、そう。そうそう!」
    読んで、大納得時の伊藤貫さんが浮かんで来た。
    佐藤さん、きょうも切れ味、絶好調。
    キャスター、素晴らしかった。

  3. 赤城 より

    独立自尊を根本的信条にしているような国家にとって日本のような国は心中とてつもない侮蔑と嘲笑の対象でしょうね。
    どんなに都合の良い傀儡国家だとしても70年縋りつくだけのおんぶに抱っこの気色悪さだもの。

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