政治

2017年9月14日

【小浜逸郎】政治の本質とは何か――山尾議員疑惑に寄せて

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

報道によりますと、民進党は、8日、
幹部会議で幹事長代行に辻元清美氏を選ぶことに決定しました。

この人選も問題ですが、山尾志桜里不倫疑惑問題の余震をなるべく早く終息させようとの思惑でしょう。
まあ、勝手にやってくれというほかはありません。

山尾議員は不倫の事実を認めず、民進党を離党することになりました。
離党でなく議員辞職すべきだとの声もありますが、ここで論じたいのは、その種の議論ではありません。
解体しつつあるいまの民進党に何を期待しても無駄です。
壊れゆく運命にあるものは、自然の勢いに任せよ。

森友学園問題に始まり、加計学園問題、豊田議員暴言問題、稲田元防衛省失言問題、
そして今回の山尾議員不倫疑惑問題と、ここのところ政局は、スキャンダルに翻弄されている感があります。

もちろん、ここにはワイドショーや週刊誌など、
マスコミの興味本位によるすっぱ抜きや煽動が大いに関係しています。

しかし、中央政局がそれらを大真面目に取り上げなければならない社会背景は
何かということを見ておくことが大切です。

それは、ひとことで言えば、こうした「話題」にたちまち関心を
集中させる国民大衆のどうしようもない空気です。

マスコミもビジネス、そこはちゃんと心得ていて、
政治家のスキャンダルを取り上げ続ければ売れるという読みがあるのでしょう。
マスコミだけではなくネットもたちまち炎上します。
ネットもビジネスですね。

民主政治では、国民が主権者であるという建前があるので、
何となく、自分たち自身が国政とつながっているという幻想が膨らみます。

しかし実際には、国民の意思がよき国政に反映されるというふうにはなっていません。

そこで、なぜ国民はこの種の政治スキャンダルに飛びつくのかと言えば、
要するに憂さ晴らしです。ルサンチマンのはけ口です。「パンとサーカス」です。

政府や政党も、この大衆社会のおそるべき動向を無視するわけにいかず、
仕方なく「正義の政治、清い公党」を装って、ひたすら対応に追われるという按配。

ところで、じつは多くの人が、こうした成り行きを「くだらない」「何やってんだ」と感じているでしょう。
それでも劣情を刺激されてつい視聴者になってしまう。

問題はこの「くだらなさ」の源がどこにあるかです。

民衆とはもともとそういうものだと言ってしまえば、身もフタもありません。
もう少し事の本質をよく見極めてみましょう。

上に挙げた政治スキャンダルには、一つの共通点があります。

それは、「政治に従事する者は道徳的に正しくあらねばならぬ」という
金科玉条をタテにして騒ぎを起こしているという事実です。

この金科玉条は、日本の政治では、疑われたことがありません。
それどころか、日本の国民のほとんどが、
この命題を政治家非難や政治批判のために最優先させるべき武器だと考えているようです。

ここ近年、政治家が引きずりおろされた、または引きずりおろされかけた例を思い起こしてみても、
国民大衆のほとんどがこういう発想をとっていることがわかります。

猪瀬直樹元東京都知事、舛添要一前東京都知事、
宮崎謙介元衆議院議員、今井絵理子衆議院議員、そして上に挙げた人たち。

非難や批判の内容は、汚職、公金流用、不倫とさまざまですが、
一様にこれらを「道徳的な悪」として糾弾し、それをもって「政治家失格」の烙印を押しつけています。

この発想は正しいか。

筆者はこう考えます。

ここには、政治家としての力量、業績、能力によってその適性を
評価するという基準がほとんど見られません。

政治家としての力量、業績、能力とは、
案件を広い視野と公共精神をもって考え、知識と経験を活用して適切な政策を立案し、
巧みな実行力を駆使してその政策を実現に導くことです。

そしてその実現された政策が、
実際に国民の福利の増進に貢献したかどうかが絶えずチェックされなければなりません。

断っておきますが、筆者は、上に挙げた人たちが、
政治家にふさわしいそういう資質の持ち主だったなどと言っているのではありません。

そこそこ能力を持った人もいれば、全然ダメな人もいます。
芳しからぬ政策を取った人もいます。

憂うべきは、そういう判断が、該当する政治家たちの評価基準として採用されず、
ただ清廉潔白であったかどうかという基準のみによって去就を決定させられてしまうという
おかしな風潮が蔓延してしまっていることです。

日本人のほとんどは、近代国家における政治というものの本質がわかっていないのです。

考えてみれば、これは日本の伝統と言ってもよい。
儒教道徳が流布した江戸時代から、孝悌忠信、至誠、質素倹約などばかりが尊ばれ、
こうした徳義に従わない者は人非人であるかのようなまなざしを受けてきました。

政治家も例外ではありません。

江戸時代に沁み込まされた徳治政治こそ良しとする伝統が、
いまなお続いていて、国民性の大きな部分を形づくっています。

ちなみにこういう国民性を戦後になって助長させた「大物」がいます。
立花隆氏です。

彼は、田中金脈問題を執拗に追跡し、盛名を馳せましたが、
その膨大な仕事の中で、田中角栄の優れた政治的手腕(特に通産大臣時代の)に触れたことは、
ただの一度もありませんでした。

しかしもはや近代百五十年、
至誠や清廉潔白などを政治家評価の中心に置くような時代ではありません。

複雑多様化したこの先進社会を維持発展させていくために、
幅広い知識情報にもとづく的確な処理能力と優れた政治手腕とを結集させることこそが問われているのです。

また修羅場である国際社会に向けては、マキャヴェッリ的な巧智がぜひとも必要とされます。

もちろん、道徳は大切ですし、
ことに一般人に比べて公人にはそれが厳しく求められることは論を俟ちません。

しかしそれは、あくまでも政治家としての資格要件の一つであって、
政治家という職能の本質要件ではありません。

政治家の職能の本質は、錯綜した社会問題をいかに調整し、
国民最大多数の最大幸福をいかに実現するかに求められます。

日本人の多くがこのことに気づかず、
いつまでも道徳的判断だけをよりどころにスキャンダル合戦を繰り広げ、
政治家降ろしにうつつを抜かしていると、わが国は内憂外患の増大によって確実に亡びの道を歩むでしょう。

言うまでもなく、日本はいま、北朝鮮の核保有問題や中国の不当な圧力の問題など、
安全保障にかかわる喫緊の課題を抱えています。

しかし日本独自の積極的な国防策は動き出す気配がありません。

また、この数年間、安倍政権の下で、
消費増税、電力自由化、労働者派遣法改悪、農協法改悪、TPP批准、無原則な移民受け入れ、
みなし残業手当廃止、種子法廃止など、国民のためにならない悪政が、大した議論もなく次々と押し進められてきました。

デフレ脱却のための有効策はちゃんとあるのに、
財務省の「緊縮真理教」がこれをずっと阻み続けています。

「パンとサーカス」を求める大衆のどさくさにまぎれて、
これらの悪政や政治的不作為が現にまかり通っているのです。

かつて福沢諭吉は繰り返し言いました。

愚かな政府は愚民によって支えられると。

私たちが世界から愚民国家の住人と嘲笑されないためにも、
政治の王道を外したくだらない「政治家降ろしの風潮」から一刻も早く脱却しましょう。

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【小浜逸郎】政治の本質とは何か――山尾議員疑惑に寄せてへの4件のコメント

  1. 神奈川県skatou より

    政策内容でない、中傷まがいの攻撃は、権力闘争なのかもしれませんですね。

     「世の中を動かすのは、我々(マスコミ関係者)だ」

    テレビ局内のエレベータで聞こえてくるノリでしょうか。
    少なくとも赤坂では聞いた記憶があります。

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  2. robin より

    民間企業は営利目的なので数量的な基準が設けやすいが公共的な評価基準は未だ確立されていない、出来にくいのかな?加点減点で評価するもの難しそうだし。マスコミは(政治)権力嫌いで新自由主義経済学も政治不信だけど国民はどうなのか。民主主義から選挙で選ばれたという建前なのだから政治家は国民の代表だろう、自分達の代表を信じられないのは自分達を信じられないから、自信が無い、寄る辺も無いからなのか。失敗は当たり前で失敗すれば一つ間違いを犯さない方法を知ることが出来るから一歩前進するはずだが失敗の責任を取らせればそこで積みあがるものが何もない、延々0のままを望んでるのか、あるいは完全無欠な政治家しか認めないで当りが出るまでガチャを回し続ける魂胆か。私的営利企業のマスコミの偏見無責任報道よりは落選という形で責任を取らせることが出来る政治家の方を信じた方がまだマシだと思うが。似たようなスキャンダルで不信が続くなら意思決定までの過程を具に検討するべきでは、マスコミはその前提が政治不信の反権力で善悪に関わらず射幸心を煽り新聞を売ることが目的だしその背景の株主資本主義とか市場原理主義の理論も政治不信が前提なのだから何も考えないで報道を鵜呑みにすればその価値観を植え付けられるだけでは。営利と公共という矛盾を止揚しうるのが同じ運命共同体である国民意識では。公共の概念を育てるには子供の頃からその共同体内で責任や役割を持たせることが必要では。それも「労働」と見做されて営利活動として測る基準としてしか統合出来ないのか、統合排斥する必要はあるのか。何でも金で解決した方が効率的で楽だが楽する分他の所でツケが回ってくるのでは、矛盾を矛盾として両立させることで継続的な運動が可能になるのだと思う、相互扶助精神の無い原子的な個人の集まりこそ相手の思うつぼでは。

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  3. とすくん より

    いつもありがとうございます。全く仰る通りです。よくぞ書いてくれました。私の子供のころ、田中角栄を良く言うメディアなど皆無、子供心に「政治家は悪い人」と洗脳されていたことを思い出します。親もそうとしか言いませんでした。このご時世になって初めて日本社会は巨大な重石のようなものを失ってしまっていたんだとつくづく感じます。

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  4. 小浜様、始めまして。

    以下は、佐藤健志先生のブログに投降した私のコメントです。ご参考まで。

    夜中に経世済民の良案を思いついたので、ちょっと書きます。

    サンフランシスコ講和条約で放棄した新南群島と西沙群島ですが、その後の両群島の帰属先については、定めておりません。

    そこで、日本が国際会議を主導して、関係諸国に招集をかけ、両群島の帰属について、話し合せてみれば良いと思いました。招聘国は、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、インドネシア、中国かな。少なくとも最初の会合は、東京で行えばよいでしょう。東京ばかりでなくとも、(親日的な)第三国で開催しても良い。バンコクあたりもいいかもしれません。招聘国からインドネシアを外すんなら、ジャカルタでもいいでしょう。チッタゴン(バングラディシュ)やマドラス(インド)という手もありますね。

    或る程度もし方向性が出たならば、それを国連に付託しても良い。ただ多分、揉めるし、決らないでしょう。中国など、代表を送ってこない公算かと。しかし、それが重要なのです。ちゃんとやってるということが。帰属が決らなくとも、航行の自由を保障する範囲を定めるとか、出来そうなこともあります。

    これは、東南アジアに日本が回帰していく象徴的な会議であり、中国に対する押し返し効果として有益のみならず、樺太と千島の帰属にも、好影響を与えます。似たような方式でやればいいからです。日本は、カードを持ってる状態になるのです。

    後は、早く稚泊トンネル(宗谷海峡トンネル)を掘ることです。樺太は、日本時代を引き継いで、今もゲージは狭軌です。だからJRの車輌はそのまま樺太を走れます。プーチンは、シベリヤ鉄道の北海道延伸とか言ってますが、それは逆で、JR北海道の樺太延伸なのです。

    ことは領土問題なので、金に糸目を付けるのは、おかしいです。また、樺太については、ロシア領と認めるわけでないが、実効支配の現状に鑑み、暫定的にロシア法に服するものとする、として、10年に一度づつくらい、その協定を更新することにすれば、相手にも良いプレッシャーを与えられるでしょう。

    ロシアは、工事費の分担にまともに応えないでしょうから、代りに樺太の天然ガスと石油を貰えば良い。シベリアの石炭を貰うという手もありです。ルーブルなんて貰ったって、どうしようもありませんし、ドルで払えと言っても、あの国には、外貨がないでしょう。肝腎なのは、ちゃんと代金分を受け取ってから、工事を進めることです。そうしないとあの国は、やらずぶったくりをやるでしょうから。

    宗谷海峡は津軽海峡より遥かに水深も浅いし、掘るのは青函トンネルよりもっと容易でしょう。ただ、戦車が向うから北海道に向けてやってくるもしれないので、随所に防火扉ならぬ、防戦車扉を設置、念のため、爆薬を仕掛けておけばよいでしょう。

    稚泊トンネルが出来れば、樺太が全島的に「日本化」するのは、時間の問題です。豊原に設置してある日本の領事館も、忙しくなることと思います。布石が生きますね。新幹線軌道を三軌スラブ式で予め敷いておけば、先々、新幹線を樺太に延伸することも出来ます。

    そうなると、第二青函トンネルを掘ることが次の課題ですね。樺太から物資が届くようになると、一本しかない青函トンネルでは、輸送量がパンクします。

    実は既に、現在の青函トンネルでは、貨物便が想定よりもずっと多くなり、輸送量が上限に届きつつあって、北海道新幹線の運行に支障が出かねない状況で、地元の青森県からは、第二トンネルを掘ってほしいという要望さえ出ているのです。札幌まで新幹線が届いたら、新幹線の便数は激増が見込まれますから、今の内に第二トンネルを掘っておかないと、後できっと困ります。

    不況に悩む北海道に大きく雇用が生れるレジリエントな土木工事のオンパレードで、道民も藤井教授もきっとお喜びになることと思います。

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