From 上島嘉郎@ジャーナリスト(『正論』元編集長)
5月25日付の産経新聞(東京朝刊)の次の記事を読んだとき、思わず「またか」とつぶやいてしまいました。
〈韓国紙の東亜日報(電子版)は23日、自民党の石破茂前地方創生担当相が慰安婦問題をめぐる平成27年の日韓合意に関し「(韓国で)納得を得るまで(日本は)謝罪するしかない」と述べたとするインタビュー記事を掲載した。
記事は、石破氏が日韓合意に反する発言をしたと受け取られかねないが、石破氏は24日、産経新聞の取材に「『謝罪』という言葉は一切使っていない。『お互いが納得するまで努力を続けるべきだ』と話した」と述べ、記事の内容を否定した。ただ、抗議はしない意向という。
日韓合意は、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的解決」と、両政府が国際社会での批判や非難を控えることを確認した。日本政府は合意に基づき元慰安婦を支援する財団に10億円を拠出したが、韓国では合意見直しを訴えた文在寅(ムン・ジェイン)大統領が誕生した。〉
なぜ石破氏は記事の内容を否定しながら、「間違ったことを書いてくれるな」と抗議しないのでしょう。おかしなことです。
私が「またか」とつぶやいたのは、石破氏には同様のことが以前にもあったからです。
平成20年(2008年)に遡ります。中国共産党系のメディア『世界新聞報』(1月29日号)に、当時現職の防衛大臣だった石破氏はこう語りました。
〈第二次大戦の時に日本の戦争指導者たちは、何も知らない国民を戦線に駆り出し、間違った戦争をした。だから私は靖国神社に参拝しない。あの戦争は間違いだ。多くの国民は被害者だ〉
〈日本には南京大虐殺を否定する人がいる。三十万人も殺されていないから南京大虐殺そのものが存在しないという。何人が死んだかと大虐殺があったかは別問題だ〉
〈日本には慰安婦についていろいろな見解があるが、日本軍が関与していたことは間違いない〉
〈日本人が大東亜共栄圏の建設を主張したことは、侵略戦争に対する一種の詭弁だ〉
〈日本は中国に謝罪するべきだ〉
これは石破氏の発言の重要部分です。これに対し「石破防衛大臣の国賊行為を叱る」と題して厳しく批判したのが故渡部昇一先生でした(『WiLL』(平成26年6月号)。
石破氏は、渡部先生の批判に対し、〈翻訳というバイアスのかかった記事中の発言の一部分を切り取って「こんなことを言っている」と批判するのは、論壇誌としてフェアだと思いません〉(『正論』平成20年9月号「防衛大臣としての真意を語ろう」と反論しましたが、
〈私の話を中国語に訳した上で日本語に訳された文章を読み返して、全て事実その通りかと言えば、決してそうではない。(略)ならば事実と反する部分を、なぜ抗議しないのかとも責められていますが、そこも正直、一々抗議していたら、どんなに時間があっても足りません。またお叱りを受けるかもしれませんが、今回は抗議するほどのことではなかった、そう判断しています〉(同)と述べています。
果たして現職の防衛大臣が中国メディアにこう語って「問題なし」と言えるでしょうか。また抗議の必要はないのでしょうか。
石破氏はかつて田母神俊雄氏が航空幕僚長を事実上“更迭”される引き金となった論文発表に関し、「国益を踏まえ」「立場を自覚し、自分の発言が何をもたらすかについての想像力を働かせなくてはならないのに、それが決定的に欠如している」と田母神氏を批判しました。これはそのまま自身に向けられるべき言葉でしょう。
『正論』での石破氏の反論を踏まえ、渡部先生は概略こう再批判されました。私が直接伺った話です。
「私は、石破氏が『正論』で語った話をふくめ、氏の歴史認識の誤り、歴史観そのものの歪みに危惧を抱いています。
中国のメディアはすべて共産党の影響下にあります。石破氏は中国のプロパガンダに利用される可能性を予想しなかったのか。フェアな報道がなされるかどうかの警戒感もなかったとしたら、それこそ防衛大臣としての資質が問われるものではないでしょうか。
石破氏は、〈私はこの国を誇りに思い、御皇室を崇敬しており、常に、その立場から発言したつもりです。祖国を貶める意図は微塵もない〉(『正論』)と答えましたが、中国共産党の一党独裁体制について〈中国を治めることが、どれほど大変か、もっと日本人は考えるべき〉(同)で、〈共産党一党独裁も、人民解放軍が国民のものではなく党のものであるという考え方も、我々とは大きく異なっているが、そうでもしなければあの国を統治することは困難なのではないか〉(同)と中国の立場を過剰に斟酌します。
そもそも国の名誉と利益を擁護すべき大臣が、なぜ中国に対しそこまでするのか。一方、祖国に対してはあまりに事情を汲むところがないのではないかというのが疑問なのです。
石破氏に日本を貶める意図はないとしても、不当な非難に抗して日本の名誉を守る意欲が感じられません。日本国の大臣である以上、中立という立場はあり得ないということがわかっていない。石破氏は歴史学者や評論家ではないはずです。」
石破氏は将来の総理大臣候補の一人であると見なされていますが、相応しいかどうかの判断材料の一つがここにあります。
〈上島嘉郎からのお知らせ〉
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●大東亜戦争は無謀な戦争だったのか。定説や既成概念とは異なる発想、視点から再考する
『優位戦思考に学ぶ―大東亜戦争「失敗の本質」』(PHP研究所)
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【上島嘉郎】なぜ抗議しないのかへの5件のコメント
2017年6月2日 2:36 PM
人を悪く言うのはあまりよくないとは思いつつ・・・
石破氏といえば軍事通のように言われていますが、その実、トンデモ軍事評論家と組んでピンボケ提言をするような程度の低いオタクで、ああよくも大臣やったものだというのが自分の印象です。
キヨタニでググればいろいろ見つかるかと。。
それが次期総理候補というのですから、なんというか。なんというか。
なにかに詳しくない、ということは、誰にでもよくあることですが、それにしてもそれが神髄か、記号だけか、すこし考えて自分で気づくことができるかどうかで、そのひとの評価ができるとすれば、もっとも悲観的だとしか思えません。
そういうひとは上の役職は無理でしょう。小さなちいさなセクトに区切られる専門職が向いてそうです。そうでなければ迷惑です。ゼークト理論でいうショケイ対象です。
>石破氏に日本を貶める意図はないとしても、
>不当な非難に抗して日本の名誉を守る意欲が
>感じられません。日本国の大臣である以上、
>中立という立場はあり得ないということが
>わかっていない。石破氏は歴史学者や評論家
>ではないはずです。」
全くです。全くです。
抗議すべきことかどうか、ご自身で判断する確たる知識(=現実の認識)がないのではないか。
だから評論家みたいなスタンスに逃げてしまう。
せまい評論を披歴して悦に入る。そして、これをすごいとおもう有権者のレベルも随分。そう思いました。
関係ないですけど真夏の東京、炎天下アスファルトでフルマラソンを3年後にやるそうですね。失敗必定かと。
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2017年6月2日 5:49 PM
この人、最近しゃしゃり出て来てはるのをよう見るけど、なんか怪しすぎやわ。渡部昇一さんが批判してはったんですね。そらそうやろ、と思います。基本的に自己中で無責任な人やと思います。あんまり友達もいなさそうやね。あ、あんまり人のこと悪うゆうたらあかんけど、やっぱり支那寄りの発言は、その立場からしても許されへんと思いますね。
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2017年6月2日 6:00 PM
上島さんのような百戦錬磨、嗅覚の鋭い論壇人には、夕映えの安倍政権などもはや論じるに値しないらしい。政治家の歴史認識を問うエントリーでありながら安倍首相の名が一度も出て来ないだけでなく、結語に「石破氏は将来の総理大臣候補の一人」とあるところを見ると、軸足がいよいよ次期首相に移ってきていることを窺わせる。
私見を述べれば「安倍がいいと言うのなら、石破だっていいことになる」と思っている。そもそもどこに違いがあるのか。しかも安倍首相には深謀遠慮に見えても、相手が石破氏となるとこれだけ徹底した批評が展開されるのだ。歴史認識のみならず、バカの一つ憶えのように構造改革を語るのかどうか、移民受け入れ検討発言の真意など、一つ一つが保守の間から予断なく(?)間断なく問い質されてゆくことになるだけでもまことに健全ではないか。保守論壇も久しぶりに健康な丁々発止を取り戻し、テールスキッド擦りまくりの業界にとっても僥倖となるに違いない。
何よりも石破氏には、現政権のようにその場を適当にごまかして当座をしのぐことも、それに慣れることもおそらく許されない。「安倍さんでなければもっと大変なことになっていた」式の無邪気な許し難い売国的言辞を追い風にした、現在最も問われている政権の許し難い一連の対応、すなわち、社会を大きく毀損させる「逸脱の標準化」の進行が止められる。立憲主義の保守が改めて掲げ直されることになる。これは自民党に向けられた深刻な疑念を幾許か払拭することにも繋がるだろう。
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2017年6月3日 2:30 PM
同感です。安倍総理を棚に上げて分かりやすいシナシンパを槍玉に挙げては叩いて溜飲を得ていると相対的に総理を上げることになるので、今では自称保守の弁が正しくとも応援する気はなくなった。安倍総理がこれまでのどの反日総理より速く日本社会を破壊してアメリカに売国している状況を変えるには退場してもらうしかない。クズしかいなくても破壊スピードが遅い方が亡国への猶予が出来る分マシだしたしかに自称保守たちも自民を攻撃するようになるだろうね。
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2017年6月3日 10:09 PM
>中国のメディアはすべて共産党の影響下にあります。石破氏は中国のプロパガンダに利用される可能性を予想しなかったのか。フェアな報道がなされるかどうかの警戒感もなかったとしたら、それこそ防衛大臣としての資質が問われるものではないでしょうか。
故渡部先生の仰る通りだと思います。中国や韓国のメディアは平気で嘘や自分達の都合のいいように改変してきます。特に日本人に対しては言っても無い事や事実関係まで改変し捏造してきます
自分も何度もそういう記事は見てきました。なので日本人が韓国のメディアに取材受ける時は相当用心しないといけないと思います。石破氏は安易過ぎます。
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