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2023年3月15日

【藤井聡】インフラ政策が日本を救う(前半)

みなさんこんにちは。京都大学の藤井聡です。

当方のメルマガ「クライテリオン編集長日記」https://foomii.com/00178にて、久々に道路や新幹線がどれだけ大切なのかをまとめた記事「インフラ政策が日本を救う」を配信しましたので、今日はその一部をご紹介しようと思います。
(ストック編)https://foomii.com/00178/20230314154546106686⬅今回はコチラを紹介
(フロー編)https://foomii.com/00178/20230315122908106720

この記事はとある依頼で、インフラの重要性を短く簡潔に、しかも可能な限り網羅的にとりまとめたのですが、とても分かり易くまとまりましたので、メルマガで紹介差し上げていた次第です。

皆様も是非、ご一読いただき、日本が今のままインフラ政策を十分に進めないような状況じゃ、日本の凋落は絶対に止まらない……という「真実」をしっかりとご理解頂きたいと思います。

…………

■■■インフラ投資の縮小が日本の衰退を導いた
 道路や鉄道、河川、ライフラインなどのインフラとは、インフラストラクチャーの略だが、これは「下部構造」を意味する。つまり、我々の社会・経済活動を下から支えるのがインフラだ。だからその下部構造であるインフラが脆弱であればその上部の社会・経済活動が停滞し、衰微していくことになるのは必然だ。

 今やもう、かつて20世紀の日本人が信じていた経済大国の地位から、誰の目から見ても分かるほどに後退し、さらには先進国とすら呼ぶのも烏滸がましい程の国に凋落してしまった。かつて世界2位だった一人当たりGDPは今となっては香港やマカオ、アラブ首長国連邦よりも低い27位にまで、その水準はトップのルクセンブルグの3割以下の水準にまで凋落した。

 この激しい転落を導いたのは、直接的には1997年の消費税増税であることが知られているが、その凋落を加速させた最大の原因がその経済の下部構造であるインフラの貧弱さであった。逆に言うなら、消費税によって大打撃を受けた日本経済は、もし十分かつ適切なインフラ整備が推進されていれば、早晩V字回復していたことは確実であったのだ。なぜなら、インフラ整備を推進すれば、必然的に経済は成長するのであり、したがってそうしたインフラ整備を「十分」に行えばV字回復することは当然だからだ(この点については後に詳述する)。
 ところが我が国は十分なインフラ整備を全く行ってこなかった。むしろ、インフラ投資額を「縮小」し続けた。図1をご覧頂きたい。これは、地方と中央を合わせ政府による「行政投資」の総額の推移だ。ご覧の様にかつて平成7年(1995年)には50兆円以上もあった行政投資が、今やその半分以下の24兆円にまで下落した。ここまで政府による投資が縮小すれば、それだけで日本経済に激しい低迷圧力をかけることになるのだが、日本政府はそれと平行して消費税の増税を行ったのであるから、日本経済は政府による失策によって事実上人為的に凋落させられ続けているのである。

図1 行政投資額の推移

■■■日本はインフラ後進国であり、それ故に経済が低迷している。
 以上はインフラ投資額という経済の「フロー」の縮小問題だが、インフラの問題はやはりその整備水準、つまり「ストック」の質的問題の方がより長期的でより深刻だ。そして致命的な事に、日本の主要インフラの整備水準は軒並み欧米先進国よりも低いのである。
 例えば、図2は、日米独英のそれぞれの時速80kmで走行可能な高速道路のネットワーク図だ。ご覧の様に、日本においてのみ圧倒的に低い整備密度だ。特に日本には四国や山陰、東九州、西東北など、未整備エリアが散見されるが、英米独にはそういうエリアはない。
 こうした道路インフラの整備格差は成長率に経済成長率の格差に直結する。
 図3は、各国のGDP成長率と道路の整備水準(自動車一台あたりの道路総延長)との関係を示したものだ。ご覧の様に、道路の整備水準が高い国ほど成長率が高くなる一方、道路網が貧弱であれば成長率が低くなる。だから、貧弱な道路ネットワークしか整備されていない我が国は必然的に成長率が低迷するのだ。
 事実、この図3において我が国は「一番左」に位置している。これはつまりクルマ一台あたりの道路量が、(西側先進諸国中)”最低水準”であることを意味している。
 日本の経済低迷の主要因の一つが、道路インフラの脆弱さなのである。

図2 アメリカ・ドイツ・イギリス・日本の時速80km以上で走行可能な高速道路網

図3 GDP成長率と道路整備水準

 こうしたインフラ格差は、「日本のお家芸」というべき新幹線においてすら見られている。図4は新幹線を導入している代表的な欧州の国である独仏と、我が国日本の新幹線(高速鉄道)ネットワーク図だ。
 ご覧の様に独仏はやはり、全国各地にまんべんなく新幹線が整備されている。ところが、日本は確かに本州の南東側、九州の西側には新幹線が整備されてはいるものの、それ以外の地域、とりわけ日本海側や北海道、四国、東九州には全く、ないしは殆ど新幹線が整備されていない。
 事実、独仏では20万人以上の人口を擁する都市は(ごく一部の例外を除いて)全て新幹線が整備されているが、我が国には新幹線が近隣に存在しない20万都市が、20以上もある。
 そしてやはり、道路と同様、新幹線もまた、整備水準が高い程に経済成長率が高いのだ。図5は、新幹線(高速鉄道)を導入している諸国の、その整備水準と経済成長率とを表現(プロット)したものだが、ご覧の様に新幹線がよく整備されている国の方がより高い成長率を記録している一方で、あまり新幹線が整備されていない国の成長率がより低くなっている。
 この図で、日本は左右の横軸でちょうど真ん中あたりに位置しているが、これは、日本は新幹線後進国ではないとはいえ、決して(かつて多くの国民が信じていた)新幹線「先進国」ではもはやないことを意味している。だからこそ、我が国の潜在的な経済成長率を上昇させるためには、全国各地の未整備の計画路線を迅速に整備することが必須だと言わねばならないのである。

図4 フランス・ドイツ・日本の高速鉄道の整備状況

図5 GDP成長率と新幹線(高速鉄道)の整備水準

■■■フロー効果も加味すれば、インフラ投資の縮小が日本経済を破壊した真実が見えてくる
 ここで改めて、以上に述べたストック効果とは別の「フロー効果」について改めて解説しておくこととしよう。
     ……※以下、後半https://foomii.com/00178/20230315122908106720に続く。

 

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【藤井聡】インフラ政策が日本を救う(前半)への4件のコメント

  1. 利根川 より

     「歴史の謎はインフラで解ける」でも紹介されていた図3ですが、かなりインパクトがある図ですよね。なにせ、日本のインフラ整備が遅れていることが視覚的にわかるわけですから。

    外人「日本の交通網は言うほど網になってないよね。交通ライン?」

    これを言うと、日本は山間部が多いから網状にできないだけという言い訳をされるんですよ。しっかり金も時間もかけて、それでも国土的な性質のせいで失敗した、できなかったというのなら話は分かりますが、

    >>ご覧の様にかつて平成7年(1995年)には50兆円以上もあった行政投資が、今やその半分以下の24兆円にまで下落した>>

    やってないんですよね。
     まあ、こういうのはセクト(カルト)と同じで分かりたくない人にどれだけ「データを見ろ」って言ってもダメなんでしょうけど…

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  2. 利根川 より

     本日の記事とは関係ありませんが、「農業国防研究所」の方でお知らせがあるとの事で…

    JA「この度、昆虫食を普及させるためにコオロギパウダーを使ったチョコをJAから販売いたします」

    農業国防研究所「おい、ふざけんな」

    ということでした。
     以前にも話しましたが、昆虫食はヨーロッパからアジアまで幅広くみられる文化ですので否定はしませんが、

    食いなれない物まで食わねばならない事態に陥らないように、まずは主要穀物を中心に食料自給率を高めましょう

    という話でしてね。まあ、こういった話をしたらどこぞのサルに文章を切り貼りされて「こいつは昆虫食えって言ってるぞ」とかやられたわけですが…
     まあ、コメ農家を廃業の危機に追い込んだ状態でほったらかしておいて「昆虫食推し」というのは頭がどうかしてるんじゃないですかって話ですね。
     
    「農業消滅 農政の失敗が招く国家存亡の危機 鈴木宣弘」

    によると

    年/輸入数量制限品目/食料自給率/備考

    1962年/81品目/76%/
    1967年/73品目/66%/ガット・ケネディ・ラウンド決着
    1970年/58品目/60%/
    1988年/22品目/50%/日米農産物交渉決着(牛肉・柑橘
    1990年/17品目/48%/
    2001年/05品目/40%/ドーハ・ラウンド開始
    2019年/05品目/38%/

    貿易自由化の進展とともに食料自給率が低下していった事実があります。そのため、海外で何かあるたびに食料品や飼料・肥料の価格が跳ね上がって苦しむといった

    もろい経済構造

    になってしまいました。
     もし、自民党の議員が本当に「国防の強化」を考えているのであれば食料自給率を高めることの必要性と何をすればいいのかは分かっているものと思います。

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  3. 利根川 より

     これも本日の記事とは関係ありませんが、消費税廃止・インボイス制度廃止を訴える街宣にれいわ新選組の山本太郎議員と安藤裕前衆議院議員が登壇されたということで…
     ”常に思っていることですが”党派を問わず人の話を真面目に聞くことができるというのは当たり前にようでいて難しいことなんだなと。山本太郎議員と安藤裕議員はそれができる稀有な才能を持った議員ということで、今後の活躍にも注目していきたいと思います。街宣ありがとうございました。
     立憲の原口議員や国民民主の玉木代表も積極財政の必要性をうったえておられますが、元々は藤井聡教授が

    「話を聞いてくれるのであれば左右の政治スタンス関係なくお話させてもらいます」

    ということで保守層から「裏切り者」よばわりされながらも講義を続けた成果かと思います。聞く方にも度量が求められたのは言うまでもないことですが。
     「税は財源ではない」という話は政治スタンスなど関係ない単なる事実なのだから、そういった部分ではしっかり協力したらいいのに「仲間外れになるのが怖くて話ができない」とかあまりにも幼すぎる。

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      1. 利根川 より

         もう一つ、安藤裕前衆議院議員と山本太郎議員の対談では短時間ではありましたが国防に関してのお話もありました。そのお話は非常に重要だと思いましたので、個人的にちょっとピックアップさせていただきます。
         現代の戦争は

        ハイブリッド戦

        が意識された戦いに完全に移行しています。詳しくは、

        「変異する資本主義 中野剛志 ダイヤモンド社」

        をお読みください。
         ハイブリッド戦の起源の一つと言われるのは、1999年に中国の喬良と王湘穂という二人の軍人が示した「超限戦」という概念。
         「超限戦」とは主体(国家、非国家、国際機関)、領域(軍事、政治、外交、経済、文化、宗教、心理)、手段(武力、テロ、経済援助、貿易制裁、外交斡旋、文化浸透)、段階(局地戦~大戦)などあらゆる区分を超え、組み合わせることによって遂行されるもの。
         喬と王は「超限戦」に移行した背景について次のように論じています。
         第一に、兵器が発達し、ハイテク化して行くにつれ、最新鋭の兵器、すなわち「新概念の兵器」を開発・装備する軍備競争の中で、軍事費・軍事研究開発費が膨張していった。
         これは費用対効果の観点から非合理であるばかりでなく、財政そして国民経済を圧迫し、最悪の場合は国家を破滅させることになる。実際、東西冷戦の軍備競争の結果、ソ連は経済的な負担に耐え切れずに自滅し、解体した。
         いくら技術が進歩しようが「新概念の兵器」というものには、自滅への落とし穴がある。そこで必要になるのは、「新概念の兵器」ではなく、「兵器の新概念」である。狭義の「兵器」の境界を越え、経済制裁であれ、金融市場の操作であれ、サイバー攻撃であれ、敵国首脳のスキャンダルの暴露であれ、敵に対して物質的あるいは精神的打撃を与えることができるなら、それが何であれ「兵器」と呼んでよいというわけだ。

         というわけで、現代において「軍事」というのは何も「軍備」だけを指すものではないわけですが、自民党は古いタイプの戦争に固執していらっしゃるようで。そんなんじゃ何度でも負けそうですけど…
         まあ、現在の自衛隊の能力は

        ・ミサイルが飛んできても分からず、着弾してからJアラートが鳴る

        ・非難しろと言われても非難する場所がない

        ・戦闘機も防衛費をケチって車庫を作らなかったので錆び錆び

        ・保有している戦闘機の半分が動かない

        こんななので、「軍備も」増やさないといけないのは分かりますが、この状態でほったらかしにしてきたのも自民党でしょって話。
         

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