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2023年2月24日

【藤井聡】「土木建築殉職者慰霊塔」のはなし ~〝平和の戦士〟として祀られた土木建築殉職者達の〝英霊〟

From 藤井聡@京都大学大学院教授

こんにちは。表現者クライテリオン、編集長の藤井聡です。

 クライテリオンの執筆者のお一人で、以前、表現者奨励賞をとられた仁平千香子さんから教えてもらったのですが、彼女が東京の芝公園を歩いていると、増上寺にこんな石碑がありましたよ、とのことで、写真を送付いただきました。
 そこにあったのは「土木建築殉職者慰霊塔」の碑石。当方の専門が土木ということで教えてくださったわけですが、この碑石の言葉を観ると、令和の御代と戦前の昭和の時代(昭和12年(1937)3月21日)とでは、土木建築に関わる者に対する社会の態度が、ここまで変わってしまったのかと愕然としてまいります。

この碑石には次の様に書かれています。

『土木建築事業ハ一國文化ノ象徴産業ノ先躯ニシテ厥ノ能ク山岳ヲ貫キ雲閣ヲ築クや固ヨリ険ヲ犯シ危キヲ怖レス斯ノ高業ニ従フモノ洵ニ平和ノ戦士トモ謂フベシ而シテ不幸ソノ職ニ殪レシモノ豈ニ其ノ英霊ヲ祀リ其ノ幽魂ヲ慰メスシテ可ナランヤ茲ニ全國同業者ノ寄進ニ依リ慰霊塔ヲ建立シテ永ク其ノ菩提ヲ弔ハントス』

ほぼ現代文ですが、改めて口語に直すとこうなります。

『土木建築事業は一国文化の象徴産業の先躯であって、山岳を貫き雲閣(摩天楼)を能く築きあげるものだが、そもそもその仕事は大変な危険を冒しつつも危うきをおそれぬものである。したがってその素晴らしい事業に従事する者は、誠の平和の戦士とも言うべき存在である。ついては不幸にしてその事業において命を落としてしまった者の英霊(秀でた者の霊魂)をここに祀り、その霊魂を慰めぬことなど絶対にあってはならない。ここに全国同業者の寄進によって慰霊塔を建立して永くその菩提を弔う。』

もう多言を弄する必要はありませんね。

そもそも建設という仕事は、昔も今も、たくさんの方が亡くなる仕事なのです。例えば、戦後、黒部ダムを造った時、100人以上の方がそのトンネル工事だけで亡くなっています。今でも、厚労省の報告によれば、建設業の労働災害による死亡者数は288人(2021年)で業種別では最多となっています。

そもそも土木という仕事は、人が棲むことが出来ないこの自然の中に、人が棲める文明環境を作り上げる仕事。

したがって、必然的にその「現場」は、「人が棲めない環境」となるのであり、したがって、命は保障されていない場所となっているのです。したがって、必然的に死と隣り合わせなのです。

もちろん、建設業が高度化するにしたがって、建設の現場の方々の長年にわたる努力の結果、命を落とす方はどんどん少なくなってきてはいるのですが、その「現場」の性質上、それをゼロにすることは現実的に不可能となっています……。

一方で、土木が「人が棲める文明環境」を作り上げる仕事であるということは、翻って考えるならば、現代の我々が生きていることができるのは、土木という仕事があったからこそであり、さらに言うなら、土木という仕事なかりせば、我々は誰一人今の暮らしをする事などできない、という実態が見えて参ります。

その仕事の崇高さは、瑞穂の国日本で何よりも崇高なものとして、文字通り「祭り」上げられている「農」に匹敵するものといってよいでしょう。それ以外の職業は無くても生きていけなくは無いわけで、あの命を守る「医」という「仁術」ですら、それが無くとも多くの人々が健康に生きていけるわけで、人類は繁栄することができます。しかし、農と土木は、それなかりせば、人類が繁栄するどころか存続することすら不可能となるものなのです(もし両者がなければ、原始狩猟時代に戻らねばならなくなりますね)。

というよりも、農は土木なかりせば始めることすらできない営為です。田畑をつくるのは土木なのですから、土木の崇高さたるや農を凌ぐという側面すらあるように思えてきます。

今日の令和の御代にこうした認識を持つ者はほぼ皆無と言ってもいいでしょう。それほどに、現代日本人は「忘恩」の極致に至っているわけですが、戦前の日本人はそうではなかったのです。

この碑文にある様に、土木建築の仕事は「一国文化の象徴産業」であると同時に、そこで働く人々は「平和ノ戦士」であり、したがって、そこで亡くなった人々の魂は、あの靖国神社に祀られている戦争で亡くなった方々の魂と同じ「英霊」であると断じているのです。

……

こうした言葉が、戦前の昭和12年には、当たり前の様にあったのです。

私たちは、いつの間にか親に甘やかされ過ぎてスポイルされてしまった(=ダメになってしまった)「お坊ちゃん」のような、あらゆる恩義を忘却し、自分達だけで生きていると勘違いしている傲慢極まりない存在に堕落してしまったようです。

……今度、是非、この令和の御代においてもなお、ひっそりと残り続けているその小さな碑文と、その碑文を立てた当時の日本人の遠い思いを探しに、増上寺に行って参りたいと思います。

是非皆さんも、芝公園あたりに訪れられたときには、増上寺の境内を探してみられてはいかがでしょうか。

追伸1:この記事は当方のメルマガ『表現者クライテリオン編集長日記』からの抜粋です。無料メルマガ上では書きづらい事等、有料の形で配信しています。ご関心の方は是非、ご登録下さい。

追伸2:『編集長日記』ではここ一週間下記記事を配信しました。ご関心のものがあれば是非、ご一読下さい。

「スローガンに群がる愚」について〝ゲーム理論〟の視点から解説します ~SDGs/AI批判序説~
https://foomii.com/00178/20230224082557105944

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【藤井聡】「土木建築殉職者慰霊塔」のはなし ~〝平和の戦士〟として祀られた土木建築殉職者達の〝英霊〟への2件のコメント

  1. 利根川 より

     本日の記事に目を通して思い出したのがアフガニスタンの支援を行っていた中村医師のことでした。何事にも最低限というものはございまして、産業がない食料がない、そんな場所で医療を提供しても結局、食料を得るために兵士になるしか道はなく、せっかく治療しても戦争や飢えで死んでしまう。なので、まずは最低限からと言うことで食べられるようにしよう(農業を根付かせよう)ということだったそうです。
     さて、農業をやると簡単に言っても農業をやる為には水が必要です。その水を引いてくるためには灌漑を行う必要があるわけですが、そのための土木技術も道具も無いと…だから、中村さんは持ち出しでショベルカーを購入したり、それを操作するための技術指導を行ったりしたそうです。土木技術をみればその国の技術力が分かるなどと言われたりしますが、築土構木は重要ですね。
     その重要な築土構木を怠ってきたのが日本の政治家とその支持者たちなのですが、なぜか「無駄削減」とか言っている連中が「保守」とか「愛国」とか口にするんですよね。腹が立つな~。
     大石久和さんや森永康平さんも指摘していましたが、今日本で食料品の価格が上がっているのは輸入価格が上がっているからですが、その理由の一つに

    港の整備を怠ってきたから

    と言うものがあります。
     1980年代、世界の港のコンテナ取扱個数ランキングトップ20に日本の港が3つ入っていた。それが2020年には日本の港は3つ合わせてようやく20位です。港のシェアはほとんど中国の港に取られました。
     国内の牛肉価格はウクライナ戦争が始まる前から高騰し始めていた。出荷する側からするとひとまとめに一か所に卸せた方が都合がいい。しかし、日本には大量の荷物を一挙に卸せるような深くて広い港がない。それが中国にはある。中国の富裕層がアメリカから卸された牛肉を食べ、残りが日本にやってくる。だから、牛肉価格があがっていたわけだ。
     港に限らず、鉄道網や道路整備も他の先進国に大きく水を開けられる状況になっています。やっちまったな~

    歴史の謎はインフラで解ける 産経新聞出版

    をお読みいただきたいと思います。

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  2. 利根川 より

    >>現代日本人は「忘恩」の極致に至っている>>

    たぶん、これは違うと思います。12月1日参議院予算委員会の山本太郎議員の質疑や三橋TVに出演された桜井あき人さんのお話をうかがうかぎり

    最近の若者はそもそも「恩」を受けていない

    のだと思います。個人的に受けた恩はあるのかもしれませんが、社会から恩を受けたことはないのではないでしょうか。
     ”桜井あき人さん”曰く

    世界中がコストプッシュ型インフレで困っている中、歌舞伎町だけがディマンドプルインフレ(ヒアリングではあるが売り上げベースでコロナ前前年同月比2~10倍)

     歌舞伎町の特徴として政府による資金は入らない、銀行借り入れもできない。なので、銀行から借り入れして設備投資とか開業といった資本主義のビジネスモデルが存在しない。供給済み貨幣(マネーストック)のみで歌舞伎町は好景気になっている、なぜか?

    答えは、新規産業=イノベーションとその新規産業に対する需要が爆増したから

     コロナ禍の時、藤井教授は「朝生」でも粗利保障せよと与党の政治家に檄を飛ばしていましたが、結局最後までろくな支援もなく、風俗業に関しては政府の休業要請に協力したにもかかわらず

    「あんな産業」

    よばわりで全く支援は得られませんでした。
     そんな中、新入大学生は孤立、特に上京者は地元にも帰れない、キャンパスでの交流もバイトも仕送りもない、奨学金(学生ローン)だけが残る。
     そんな若い層がどうしたのかというと政治家や官僚の皆さんがオススメしたように「自助努力」をして歌舞伎町に「イノベーション」を起したのだそう。
     風俗業にもいろいろあるが、ホストやキャバクラ、深夜バーといったところで働けた者達はまだマシで、多くがフリーランスの性売買に流れたのだそう。そして、彼らのそうした「自助努力」が若いフリーランスの性売買を求めるオッサンマネーに繋がり、歌舞伎町外から大量の外貨が流入。こうしてイノベーションが起きてしまったとのこと。
     彼等若い層は社会から「恩」を受け取ってないどころか、むしろ政治的に虐待されているまであるわけで、そんな者達に「恩を感じろ」とか「愛国心はないのか」と言ったって

    「無いに決まってんだろ」

    という話にしかならんのだとおもいます。
     先ほど「供給済み貨幣(マネーストック)のみで」という説明があったように、彼らは新たにマネーを生むことなく、既存のマネーの奪い合いという「殺し合い」の場に生きているわけで甘やかされてダメになったのではなく、鈴木傾城先生の言うようにサバイバルのやり過ぎで価値観が逆転してしまったのではないでしょうか。人間性が犠牲になるとかどこのダークソウルだよ…
     
    現場の人のお話と言うのは本当に貴重ですね。現場を知り、尚且つマクロ的視点も持ち合わせた方が政治家を志してくれるというのは本当にありがたいと思います。
     世の中、私と大して変わらないようなド阿呆が大勢政治家の椅子に座ってらっしゃるようで…ヤバめの新興宗教のケツをなめてまで椅子にしがみついているのだからある意味大したものです。できれば、そうした連中を追い落としてやってもらいたい。私もしっかり投票に行こうと思います。

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