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2021年11月26日

【施 光恒】法務大臣もかぶれている「グローバル化史観」という危険なイデオロギー

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

 

こんにちは~(^_^)/(遅くなりますた…)

先日、久しぶりにチャンネル桜の討論番組に出演させていただきました。
(【討論】属国という生き方[桜R3/11/22])
https://youtu.be/ugN3pgZY1Bk

この中で印象に残ったのが、討論の参加者の一人である室伏謙一さんが指摘していた最近の古川禎久法務大臣の発言です。

ご存じのとおり、岸田文雄政権は、外国人労働者の在留資格「特定技能」のうち、長期在留や家族の帯同が可能な「2号」資格の対象分野の大幅拡大を検討しています。(下記の『夕刊フジ』の記事をご覧ください。)

(「岸田首相、大丈夫か!? 「外国人就労拡大」急浮上で“移民解禁”大論争 欧州では治安悪化と行政負担増 門田隆将氏「衆院選で国民に問うてない」『ZAKZAK by 夕刊フジ』2021年11月21日)
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/211121/pol2111210001-n1.html

「特定技能2号」は、永住可能で、配偶者や子供の帯同も可能な在留資格です。一応、熟練した技能を持つことが条件となっていますが、「熟練した技能」というハードルはさほど高いものではありません。

上記の記事にあるように、現在、特定技能2号が認められているのは、「建設業」と「造船・船用工業」の2分野だけですが、これを2022年度中にも「農業」「漁業」「飲食料品製造業」「産業機械製造業」「外食業」など他の分野に大幅拡大していこうというのです。

これが行われれば、事実上の移民解禁だと言えるでしょう。

上記の記事でも指摘されているように、欧州諸国では、移民が大問題になっています。それを全く認識していないかのような安易な、今更ながらの日本の移民解禁路線に大きな懸念を覚えます。

(欧州の移民問題について、以前、私は次のような記事を書いたことがあります。
「欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ――これから日本にも「同じこと」が起きる」『東洋経済オンライン』2018年12月30日)
https://toyokeizai.net/articles/-/256915

チャンネル桜の番組のなかで室伏さんが指摘していたのは、出入国管理を担う監督官庁の長である古川禎久法務大臣の発言です。

古川法務大臣は、就任直後の記者会見(2021年10月5日)で次のように述べていました。(下記で引用している部分は、「入管行政に関する質疑について」の項目の最後の方にあります)。
https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00237.html

「この時代の流れにおいて,やはり日本は,日本人だけで生きるものではありません。世界で生きているわけですから。外国人と共に生きていく,共生といいますかね。それは日本に限らず,世界における時代のすう勢だと思っています」。

つまり、いわゆる「グローバル化」「多文化共生」は時代の趨勢(抗うことのできない時代の流れ)だというのです。

また、古川法務大臣は下記のように続けます。

「……日本人と外国人ということに境界線を引くということが,やはり,本来の日本人の姿からいったときに,私は,時代の流れの中で,ちょっとそぐわないなということを感じています。時代の大きな流れの中で,そこはより解消されていくべきもの,緩和されていくべきものであり,それが日本人自身の幸せ,あるいは,発展につながっていくのだと,私は固く信じています」。

すなわち、古川法務大臣の見方によれば、日本人と外国人という区別自体が、時代の流れのなかでは解消されていくべきもの、緩和されていくべきものだというのです。国境線、あるいは国籍による区別は時代遅れであり、そんなものは取り払われていってしかるべきものなのだと考えていると言ってもいいでしょう。

こうした見方は、私が、拙著『英語化は愚民化』(集英社新書、2015年)などあちこちで批判してきた「グローバル化史観」とでも呼ぶべき誤った宿命論的な歴史観です。

つまり、「グローバル化こそ、抗うことができない時代の流れだ。人類社会の進歩したかたちなのだ」「国民国家というものは20世紀の遺物であり、今後、EUのような、よりグローバルな地域統合体やひいては世界政府のようなものに統合されていかなければならない」などという見方です。「国境・国籍、あるいは各国・各地域の文化や言語にこだわるのは時代遅れだ。これからはそれを克服し、地球市民意識をもたなければならない」という見方と言ってもいいでしょう。

この種の「グローバル化史観」は、歴史認識として非常に一面的であると同時に、近代社会や自由民主主義社会の基盤を壊してしまう恐れのある危険なものの見方であると私は考えます。

詳しくは、拙著『英語化は愚民化』の前半部分をご覧ください。または、ネット上でしたら、次の拙文をご覧ください(バベル翻訳専門職大学院のウェッブサイト上のコラム)。

施「世界を混迷から救うカギは翻訳にあり!(1)――近代社会の基礎は翻訳が作った」(2017年7月17日)
https://www.babel.edu/the-professional-translator/mission41/

施「世界を混迷から救うカギは翻訳にあり!(2)――明治日本の経験から考える」
https://www.babel.edu/the-professional-translator/mission42/

これらで書いたように、活力ある近代社会を作り出す鍵となったのは、各国・各地域の多数の庶民(普通の人々)が、能力を磨き、発揮し、社会参加しやすい環境を各地でそれぞれ(各地の文化や伝統、言語を基礎に)作り出すことなのです。

前近代社会では排除されていた多数の普通の人々が容易に学べ、能力を発揮し、社会にいきいきと参加できるようになったことが社会に大きな活力をもたらし、西欧にしろ、日本にしろ近代的社会の建設へと導いたのです。

グローバル化や移民国家化は、そうした環境を作り出すどころか損なってしまう可能性が高いのです。グローバル化や移民国家化は、むしろ、各地の庶民を社会の中心から排除してしまう恐れがあります。安定した、活力ある近代社会を作り出すどころか、多数の庶民を社会から排除するという意味で、中世のような社会に舞い戻ってしまう危険性をもたらすものなのです。

「グローバル化史観」は、最近の古川法務大臣だけでなく、現代の多くの政治家や財界人、知識人に広く共有されてしまっています。現代の強力かつ危険なイデオロギーといってもいいでしょう。

たとえば、鳩山由紀夫元首相の「日本列島は日本人だけの所有物じゃない」発言(2009年)や、安倍首相の「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」発言(2013年)などにみられるように、リベラル(左派)、保守(右派)を問わず、「グローバル化史観」は広く浸透しています。

海外でも、例えばトニー・ブレア英国元首相なども、かつて「立ち止まってグローバル化の良し悪しを議論しなければならないという人がいるが、これはおかしい。夏の次に秋が来るべきかどうかを議論しろといっているようなものだ」という趣旨のことを述べたのはよく知られています。ブレア氏も、歴史法則主義的な「グローバル化史観」に染まってしまっていたのでしょう。

また、言うまでもありませんが、日経新聞など読むと、毎日のように、財界人が「グローバル化は時代の流れだ。それに乗り遅れるな」としたり顔で述べていてうんざりします。

「グローバル化史観」の誤りをただし、多くの人々が安心して暮らせる活力ある社会づくり、国づくりに向けての当たり前の努力を取り戻すことが、当然ながら必要なのです。

長々と失礼しますた…
<(_ _)>

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【施 光恒】法務大臣もかぶれている「グローバル化史観」という危険なイデオロギーへの6件のコメント

  1. 拓三 より

    最近、AIに期待する今日この頃…

    映画「ターミネーター」では AI が独自の思考に目覚め、人間を排除する世界を描いていますが、AI がまともな知性を持てくれれば、今の政治家、インテリだけ排除してくれるんじゃねw

    薄い期待はさておき、インテリさん達には歴史を学んで欲しいですね。
    未だナショナリズムが戦争を引き起こすと思っているね。
    何年か前、高橋洋一も「国家間が起こす戦争が一番の悪」と言うニュワンスでグローバルを推進してたけど、戦争を起こすのは全体主義なのに。

    その全体主義が何において生み出されるのかを理解してほしい。精神的な限界、つまり「変化への対応から来るストレス」。そのストレスを他者に対し攻撃する様。

    身近で言えば、タバコの喫煙者が禁煙した人に多い異常な喫煙者への攻撃や、今回のコロナでも見られた様に異常な監視警察ごっこ。

    そのストレスの捌け口を容認するのがインテリが勝手に作った「正義」…

    でも、たぶんインテリさん達は、この歴史の繰り返しをAI の進化による「社会の監視」で押さえ込めると思っているんやろな…

    お前らが勝手に作る正義を監視せなあかんのに…

    やっぱし、AI の進化を待つしかないかもねw

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  2. 多文化で単一文化破壊共倒れ憎悪社会 より

    比我混交のぐちゃぐちゃ社会
    そこで笑うのはグローバル経営者、最低賃金下げ放題だからな
    内戦で滅びるのは当時国のみ
    対外核戦争よりはマシだから
    オーストラリア ニュージーランド イタリアを見れば一目瞭然
    だがアメリカはそうは行かない
    民兵の武装権利 3億5千万丁の重火器が官吏共を待ち受けてるからだ
    日本はチョロいな、支那も同様。

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  3. この世は既にあの世 より

    高度人材という言葉がよく聞こえて来たのは何年前でしょう?「移民政策やります!」と言ってた馬鹿を「やめろ」と言ったのに、

    「安倍さんの他に誰がいるんだ?」「じゃあどうするんだ?」などと言って応援したのは誰でしょう?

    地獄行きの列車にまともな人は乗らないし飛び降りる、何度説明しても分からないんだから仕方ないでしょう。

    室伏なんてただの情弱。

    安倍は左翼ですよ、親米の水島も左翼。

    左翼同士の内ゲバ。

    右派は非常に少ないのですが、西田もヘイトスピーチ解消法で安倍をアシスト。戦後日本には左翼しかいないんですからこうなるでしょうね。

    前から決まっていたことが今ってだけです。

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  4. この世は既にあの世 より

    ネットを見てると気が付くことがある、それは分配に全く興味を示さない人々がいる点である。

    しかし多数の人が興味があるのは自分に入って来るお金であるはずです。

    ところが酷いのになると「賃金を上げたから値上がりしている」という馬鹿がいる。インフレも賃上げもダメってことですよね?なのにデフレ脱却ってどういう意味だろう?

    また需要が無いことにより投資しないのに、供給ばかり強化しようとする馬鹿。何で馬鹿か?というと、分配に対するプロセスを一切言わない点である、

    そんなのは一切通用しませんwガキが。

    分配が先、ベーシックインカムですね。給付金ですね。それが嫌なら賃上げですね。

    公務員批判とか政治家批判はですね、マクロ糞経済学がどうとかいう話しではなくて、公平性に欠けるから民間が下がれば?はい、下げるのが当たり前。

    それとも何ですか?仕事しない売国奴は給料与えなくていい。皆んなで問題意識を共有しなければならないから下げるのが正しいのです。下げたくなければ仕事しろ、ということです。

    下げても得しないなら上げても得しない、キープでも得しないんでしょ?なら仕事しないんで下げても影響無しです。2000万円を1000万円にすれば良い。200万円の人を100万円にすると困るが2000万円はもらいすぎ。

    下げたくなかったら仕事すりゃいいだけ。

    公務員はそこまで高くないでしょう。

    さて、賃上げ反対、ベーシックインカム反対、減税反対となると、

    移民ちゃんを増やして胃袋を増やすことによって消費を拡大する。移民ちゃんは最賃を下回る賃金で働いてもらうしかないでしょう。差額は俺らが回収。

    インバウンドの再開によって消費を増やす。財界人によれば、日本人は劣っているので外国人の種によってハイブリッドさせる。
    だから日本人男性は要らなくてホモ化させ、日本人女性を外国人と触れ合う機会を増やしてハイブリッドをたくさん産んでもらう。

    どうですかね?どれもこれもダメなら話が前に進まないじゃないですか。

    それとベーシックインカム、給付金無いんで自粛は出来ません。だからコロナは考えるだけムダとなります。金が先。需要が先、分配が先。

    小泉政権時「実感なき景気回復」は何故か?を考えなきゃなんない。安倍政権も同じですが。

    ただ当時と違うのは現在は正社員も大した給与ではなくなったという点が小泉政権時とは異なる。さらに悪くなったということですね。

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