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2021年6月4日

【藤井聡】コロナにおける「ゼロリスク」問題~リスク心理学からの教え~

From 藤井聡@京都大学大学院教授

リスク心理学、という学問分野が心理学にはあります。

その分野では、交通事故とかパンデミックだとかそういった様々な(死の)「リスク」をどういう風に人々は捉えるのか、そして、そのリスク認識とどの様に付き合って行けばいいのかという社会政策を考えたりしています。

当方は、この分野の研究を20年以上続けており、当方の研究活動の主要な「柱」になっています。
(例えば、今から丁度20年前こちらのリスク心理学研究にて林知己夫賞を表彰いただきました。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbhmk/28/1/28_1_9/_article/-char/ja/

そして、今回のコロナに対する人々の認識や意識の問題も、完全にこのリスク心理学の領域の問題なのです。そして、このリスク心理学の中で長らく問題になってきたものが、

「ゼロリスク」

問題です。

そもそも人間の身の回りにはたくさんのリスクが存在しており、それらのいずれか一つでも顕在化すれば、人間は深刻な状況に陥り、場合によっては死に至ってしまいます。ですから、人間は「全てのリスク」とうまく付き合い続けていかなければならないわけです。

そんな状況の中で、人々が特定のリスクを「ゼロ」にすることばかりに意識を集中させてしまうと、人々は大変に危険な状況に追い込まれてしまうことになります。

なぜなら、特定のリスクについて「ゼロリスク」を目指すと、それは原理的に不可能なので、人間が持っている全資源を投入せざるを得なくなるからです。その結果、他のリスクに対する対応がおろそかになってしまうからです。

つまり、ゼロリスクを目指す心理に陥ると、人間はある意味「盲目」になり、生命維持にとって極めて危険な状況となってしまうのです。

だから、リスク心理学においては、人々がゼロリスクに陥らないようにすべきであるという問題が、長年研究対象とされてきたのでした。

しかし残念ながら、多くの人々がコロナの問題について「ゼロリスク」志向に陥ってしまっているのが実態です。

例えば、政府や政府系の専門家がよく使う「コロナを抑え込み」という言い方はゼロリスク志向そのものです(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/seifunotorikumi.html)。

緊急事態宣言がここまで延長されているのは、この「抑え込み」を目指すためと言うことも出来るでしょう。

このゼロリスク試行が恐ろしいのは、仮にワクチンを打っていたとしても、感染リスクはゼロにならないという問題があるからです。だから、ワクチンを打った人でも今、宴会にも行けないし、マスクも付け続けないといけない、ということになっています。

いずれにしても、こうしたコロナについてのゼロリスクを求める風潮のせいで、様々なものが犠牲になっているのです。

その典型が、経済被害であり、それに伴う倒産、失業、うつ病、自殺の問題であり、そして、若者の教育機会の問題なのです。

こうして、我々はゼロリスクを否定せざるを得ない局面がどこかで必ず訪れるのですが、ゼロリスクを否定するということはつまり、リスクを受け入れる、ということであり、「仕方が無い」と諦めることを意味します。

それを目にしたゼロリスクの方々は、

「お前は、高齢者を見殺しにするのか!」

と居丈高に叫び出す事になります。そしてその言葉を真に受けつつ、そして、それ以外のリスクについても対処しようと努力し始めるとまた、そういう方々は

「やっぱりお前は、高齢者を見殺しにするんだろ!」

と罵倒し始めることになります。

こうして社会が疲弊し、人々が「うつ」になっていく……それが今の哀しい日本の現実です。

これは明確にリスク心理学の中心課題なのですが、一旦こういうサイクルに陥ってしまうと、なかなか抜け出すことが出来なくなってしまいます。

ですから、例えば私達の20年前の研究からは、特定のリスクに注意が過剰集中している場合、簡単な話ですが、それ以外のリスクに注意が向くような様々なオペレーションをかけていくことが重要となる、というような事が知られています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbhmk/28/1/28_1_9/_article/-char/ja/

したがって、自殺や経済被害などのデータをしっかり公共に提供していくことが必要なのですが、ゼロリスクに陥った人々はそうしたデータについても、別の解釈(例えば、徹底補償をすればそういうリスクはゼロになる、というような解釈)を行い、ゼロリスクを「保守」し続けることになります。そして、一旦その解釈を信じ込んだ場合、その現実性/非現実性は目に入らなくなっていく、という危険な状態に陥ります。

本当に難しい話ですが、ゼロリスクが猛威を振るい続ける限り、被害を免れることは不可能なのです――それが、リスク心理学の教えである以上、何とかその困難に打ち克っていく必要があるのです。

さもなければ、本当に我が国は、過剰な自粛と緊縮で、自滅する他ないのです。
https://www.amazon.co.jp/dp/4828422269

コロナに限らずあらゆるリスクについて、バランスの良い精神状況を保ち、決してゼロリスクに陥る事の無いよう、少なくとも本メルマガの読者の皆様方だけでもご注意いただきたいと思います。

それではまた、来週

追伸:最初は単なる「ゼロリスク」認知は、長い時間をかけるとどんどん病理性を帯びていく様になります。皆様是非、ご注意下さい。
https://foomii.com/00178/2021052916444180681
「コロナ脳」の正体 ~公的コロナ被害でなく「自分がコロナに罹るリスク」の最小化だけを目指す浅ましき「お為ごかし」精神~
https://foomii.com/00178/2021052916444180681

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【藤井聡】コロナにおける「ゼロリスク」問題~リスク心理学からの教え~への11件のコメント

  1. たかゆき より

    ゼロリスク化 と PB黒字化

    どちらも 同じ 臭い

    一言で 申せば アホ

    本質を理解できないことに 由来する
    ブザマ さ、、

    そのようなヒトのDNAなんぞ 地球上から
    消え去ってしまったほうが

    他のDNAにとっては 
    とてもとても 素晴らしいこと

    と 念う 今日この頃で ございます ♪

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      1. おくび より

        ゼロリスクを勝手に持ち出してるのは藤井じゃん。

        賢そうなことばっかヌかしてるけど、ほんとアタマ大丈夫?

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  2. 麦粒 より

    世の中には当然そういう人もいる。しかし、リーダーたちの考えや精神は違う。藤井さんにはそれが分からないということだ。

    それと。
    尾身さん、ご苦労様です。支持してるよ。

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  3. 大和魂 より

    それだから国際社会を影から動かしているFRBやらBISの関係者つまりは国際社会の国際機関を操る財閥とか財団関係者や資本家と、その走狗に位置する【CSIS関係者】などのパワハラを黙認してきたから問題なんであり、それらは【腐敗に満ちた既得権益】を打破するべく誰であろうが、私は臆することなく指摘して来たし酷い場合には非難しているだけのこと。

    そこで先日、自民党の二階幹事長が政治とお金について行った発言は、私はまんざらでもなく少し前の出来事になるが、石原慎太郎の引退の真相も実のところは石油王に君臨してるロックフェラーの番頭に当たるキッシンジャーが統率するCSISの子分辺りからの通達だったと踏んでいるし、維新の会の背後にいる竹中平蔵や日米関係者は、疑いもなくCSISの走狗ですから浜田宏一や西鋭夫や藤井厳喜なんかも同じ穴の狢なんですよね、分かりましたか軽薄な永田町の住人のみなさん。

    つまりは表向きの国際社会や法律や媒体なんかだけを取り上げて指摘や誹謗やちょび髭とか非難する建前だけで発言してる軽薄な奴等の劣化した姿勢の見極めこそが肝要なんですよ。

    ちなみに私以上に、日本で権力者や闇の勢力など誰に対しても既成事実を発言してる方々を見受けたことは残念ながらないですし、やはり歴史を勉強すれば日本国民ならば反日を根絶するのが宿命であり使命ですよ。

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  4. この世は既にあの世 より

    アヘ信者がやっと終わったかな?と思ったら次はコロナ脳ですから私は疲れました。ちなみに三橋さんには悪いですけど、三橋さんの言うことなら何でも賛成の三橋信者ってのもありまして、ネット界隈ではよく言い争いになってました。

    アヘ信者は自身への利益誘導という人もいたんですけど。

    コロナについても私は「行ったらんかい!突撃したらんかい!」という性格ですからコロナ脳な人や、その様な本質がある人とは私は水と油です。しかし闇雲に誰でもコロナで死ねばいいとは思ってません。ある程度の自然淘汰は仕方ないと思ってるだけです。

    また私は誰かの信者にはなりません。

    それより私がコロナ禍で確信したのは、やはり日本は自主独立は到底無理だな、と言うことで、こんな感じでは尖閣問題など話題にしたところで、日本人の多数派は関心を寄せないという事実ですね。

    90年代初頭までは私は日本の技術力は世界一で核武装だっていつでも出来ると思っていて、二十歳そこそこだった私にとって日本は自慢の国だったのですが。

    現在ではポリコレなのか日本人の臆病さなのか、利権作りなのか、あれこれゼロリスクを求める様になって大変生きにくさを感じてますから、余計に日本が嫌いになって、私は長生きなんかしたくないなと10年ほど前から思っています。

    何かというと、「危ないよねー、恐いよねー、そう思うでしょう?ねえ、そうだよねー、差別はいけないよねー、あれ差別だよねー、よし排除しよう、規制しよう、異論は無いよねー」ですから、何かの病気だと思います。

    この問題は政策でも言論でも解決出来ないと思えて、戦後左翼の高齢者とあまり危険を知らない社会で育った若手にもその部分はあまり期待出来ず、そこに私は挟まれてる様でため息しか出ません。

    日本人がこうでなかったら、とっくに日本は独立してるはずですし、原発だって稼働してるはずです。また何かあると現代日本人は、その浅はかな思考でその訳の分からない病気を発症させるのですか?と思うと嫌になります。

    コロナの話題もそうですが、戦争、暴力、少しでも命を脅かす話題になると日本人は黙ってしまいます。私には日本人が黙ってしまう理由が全く解らないのですが。

    でもその代わり日本人は内弁慶なんですよね。建前とか世間体とか空気を必要以上に読むとか、何でそこだけ引き継いでるのですか?みたいな。

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      1. 通りすがり より

        日本人が日本を諦めたら終わりですよ。少なくとも藤井先生は日本国民に絶望していると言いながらもいつかはとどこかで希望を持たれている。私も同じ考えです。無知なだけで考える力がないわけではない。考えるに十分な材料がそろうような世の中ではなかったということです。

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  5. 多摩単複 より

    ゼロリスク指向はある種の思考停止です。
    リスクがゼロでないと判断した時点で、感染危険度の評価を
    放棄しています。

    ゼロリスク指向
     感染危険度の程度は無視してリスクがゼロでない行為を
     すべて行動抑制の対象とします。
     行動に対する許容の可否は、行動の回避の可能性で決める
     (不要不急の外出の制限・生活必需品以外の販売の禁止等)
     また 行動の把握が難しい行動は感染危険度が高くても野放しに されます。
     (換気の悪い屋内での大声を出してのホームパーティ。
      一見営業の有無が不明な換気の悪い飲み屋など)
     行動の把握が容易な行動を抑制することで、行動が把握しずらい感染危険度の高い行動への遷移にもつながり、感染抑制に逆行する可能性もあります。
     (屋外のバーべキュー⇒ホームパーティ 
      感染抑制に努めているチェーン店の飲み屋⇒もぐりの飲み屋など)
     広範な範囲の行動に抑制がかかることで社会的な影響は極めて大きいわりに、感染抑制の効果ははっきりしません。
     なお、社会全体が自粛ムードになることで、
     行動の把握が難しい行動への抑止が一定程度働く効果はあります。

    感染機会の減少指向
     感染危険度の高い行動を抑制(特にスーパスプレッディングな行動)し
     実行再生産数を1未満にすることで感染の抑制を図ります。
     濃厚接触者の追跡によって感染者を隔離していくこと
     (所謂クラスタ対策)も 感染機会の減少につながります。
     日本の当初の感染対策は、押谷教授中心にこの対策が採られていました。
     飲食店中心の営業自粛もこの方針上にあります。
     (諸外国との違いは、営業自粛の保障が無いことです。
      雀の涙程度の協力金のみが支給されます)

    多くの日本人の感染対策(概ね合理的)
     多くの日本人は感染危険度の高い行動は回避し
     感染危険度の低い行動には特に抑制はかけていません。
     (外出時は必ずマスクする。
      ?華街へ買い物には行くが、飲み会は控える
      旅行にはいくが歓楽街へは行かないなど。)
     また、感染者数の増減で飲み会の参加を調整している人も多いです。
     政府や都道府県知事の 意味不明な政策にかかわらず
     日本国内で感染爆発していないのは
     多くの日本人の感染対策 が大きく影響していることと関係ありそうです。。

     接触感染の危険が極めて低く、空気を介した感染が主流と言う見解が広まってきているので
     (あのCDCでさえ、接触感染が殆ど無いことを認め Airborne感染をTopにしている。)
     それに合わせた感染対策を広報すれば、多くの日本人の感染対策は より合理的になる可能性があります。

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  6. より

    藤井さんに反論です

    藤井さんはかつて補償求めても政府はどうせやらないからと言ってましたが、消費税減税はずっと主張していましたよね?
    しかし現在進行形でその成果はありません

    消費税ゼロを目指したばかりに、補償言及したい人の邪魔になり補償がおろそかになったじゃないかと言われたらどう返答しますか?

    ゼロリスクに対する成果が失敗するなら、消費税ゼロの主張の成果もまた失敗する可能性が高いです。
    そして失敗したことによる被害は大きいものです。

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      1. より

        消費税ゼロを目指しても、補償を言及したい人の邪魔にはなりません。また、補償の必要性も藤井教授は言及されています。

        藤井教授を批判される方々の多くが「補償を求めても政府はどうせやらないから」この言葉をピンポイントで使って論理展開しすぎな気がします。

        前後の言葉や状況からも判断して、コロナ禍では”緊急的な対処”という時間軸を考慮されて、上記の発言だと受け取れます。もちろん、長期的な言論活動の末に、国土強靭化や積極財政を目指すことは変わりないと思います(変える必要もない)。

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        1. より

          緊急的な対処であればなおのこと、消費税ゼロのような早期に実現性見込みが低いものより補償を求めた方がより補償の充実が計れたのではないでしょうか

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  7. 110ito より

    一言
    “ゼロリスク”が最も恐ろしいリスクということに皮肉を感じますね。

    (正確には”ゼロリスク信仰”ですが)

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