日本経済

2019年10月12日

【竹村公太郎】不思議な日本共同体(その5)東京の消費を支える地方

From 竹村公太郎@元国土交通省/日本水フォーラム事務局長

東京の繁栄の秘密
 明治5年、新橋で汽笛一声が響きわたった。
 流域に分断されていた日本列島は、鉄道によって貫かれ1つに結ばれた。その鉄道は全て東京に向かっていた。
 全国の若い人材と資金は、鉄道に飛び乗り東京へ向かった。人材と資金を東京に集中させた民族は強かった。団結して企業を起こした。口角泡を飛ばし議論をした。そして、世界史の最後の帝国国家に滑り込んで行った。
 日本列島に住む人々は、東京へ集中することに全く躊躇しなかった。
 なぜ、地形で分断されていた人々が、あっという間に東京に集まったのか?
 それは、日本人は水運という情報システムで、同じ言語を読み、情報を共有していた。日本人は参勤交代という社会システムで、同じ江戸弁という言語で会話していた。
 そして、江戸の街は、全国の日本人によって造られた。江戸・東京は自分達日本人が誇るべき都市であった。実は、江戸・東京は全国の人々によって造られただけではなかった。
 その繁栄、消費は全国地方の人々によって支えられていた。

参勤交代
 江戸の街のインフラは、地方の人々の資金と知恵と労力で造られた。
 江戸のインフラの上に花開いた江戸の商業、文化、芸術の繁栄も、地方の人々に依存していた。それは決して抽象的な概念ではない。地方が江戸の繁栄を支える具体的なシステムが存在していた。
 それは「参勤交代」であった。(図―1)は広重による日本橋を渡る参勤交代。
 家康の時代から始まったこのシステムを、三代将軍家光は「武家諸法度」に付け加えた。親藩も含め全ての大名に参勤交代が、義務付けられた。


図―1 東海道五十三次「日本橋・朝之景」(広重)

 大名達は妻子を江戸に住まわせ、2年に1度、自分は領地と江戸の間を行き来する。妻子は江戸に住んでいたため、江戸中期になると、ほとんどの大名は江戸生まれになっていた。こうなると妻子が江戸の人質というより、大名が地方の領地へ単身赴任するという構図となる。

江戸の繁栄
 大名達の江戸での生活は費用がかかった。
 諸大名は江戸で家族の上屋敷、控えの中屋敷、郊外の別荘や倉庫を兼ねた外屋敷などを持ち、江戸常勤の家臣を多数召しかかえる必要があった。
 江戸での大名たちは純粋な消費者であった。江戸には生産する土地もなく、働いてくれる領民もいない。江戸ではただただ消費を行うのみであった。その経費を捻出するため、諸大名は自藩の農作物、海産物、衣料そして工芸品を江戸に運び込み貨幣に換えた。
 江戸には全国の物資が集まり、江戸の消費経済は繁栄をみせた。消費とともに盛り場や遊郭が生まれ、芸能や演劇が育ち、浮世絵や美術品が製作され、世界でも屈指の洗練された江戸文化が花開いていった。(図―2)は広重が描いた上野広小路である。稽古事を習う娘たちが花見へ向かい、男たちがそれを冷かしている。消費する江戸の華やかな様子が見事に描かれている。


図―2 下谷広小路(広重)

 文化とは消費である。
 その消費する文化には支援者、パトロンが必要となる。支援者がいなければ文化は成立しない。この江戸文化を支えたのは消費する大名や商人たちであった。そして、その江戸で消費する人々を支えていたのは、年貢を払う地方の人々であった。
 江戸文化の真の支援者・パトロンは、全国各地の地方の人々であった。
 江戸っ子たちは、自分たちが江戸文化を生んだと自慢し、地方の人々を田舎者と馬鹿にした。しかし、その地方の人々が江戸文化のパトロンであった。
 江戸の都市インフラは「お手伝普請」で地方の人々によって整備された。江戸の上部構造の消費と文化は「参勤交代」で地方の人々に支えられていた。
 江戸はインフラ整備と消費のすべての面で、地方に支えられていた。

近代東京のインフラ整備
 明治になり江戸は東京となったが、東京が地方に支えられる構造はなんら変化しなかった。
 明治政府のインフラ投資は、東京圏を最優先させた。
 街道に代わって国鉄の東海道線、横須賀線、中央線、東北線、常磐線と東京を中心に放射状に整備され、都内では環状の山手線が整備された。これらの整備には、全国の人々から集めた税金が投入された。
 鉄道以外の道路、街路、河川改修、港湾、下水道、地下鉄、飛行場と東京のインフラは最優先された。もちろん東京都民の一部負担もあったが、これらも全国から集めた税金によって整備されていった。
 全国から集まった税金を投入していく現代版「お手伝普請」で、東京の近代インフラは優先して整備されていった。
 インフラだけではない、近代東京の消費も地方に支えられている。

近代東京の参勤交代
 江戸時代、消費生活を支えたのは地方の大名達であった。彼らの消費は江戸の経済と文化の繁栄の源であった。
 ところが、21世紀の今でも、多くの地方の人々が東京で消費し、東京の経済と文化を支えている。その消費を端的に表しているのが東京の「学生」である。
 学生は純粋な消費生活者である。実家から仕送りを受けて消費生活をしている。アルバイトをしても、その収入は貯蓄に回らず、消費に向けられる。この東京で純粋に消費活動をしている人々が学生である。
 文部科学省の全国学校総覧によると、全国の専門学校と大学を合せた7000校のうち一割が東京都内にあり、全国学生総数約400万人のうち4分の1の約100万人が東京都内にいるという。
 都内学生のうち下宿やマンション生活している地方出身学生の割合は、文科省のデータではない。以前の明治大学が発表したデータでは、明治大学の学生の40%が下宿や寮やマンション生活をしているという。
 この明治大学のデータ40%を利用すると、都内の学生100万人のうち地方から上京して東京で生活している学生数は40万人となる。
 学生達は一人平均して月々いくら送金されているのだろうか?手元にデータはないが、15万円の仕送りを受けていると仮定してみよう。
 そうすると毎月毎月、地方から東京へ600億円の現金が送られてくることとなる。年間ではない、毎月なのだ。毎月、学生を通して600億円の現金が東京に集金され、純粋に消費されているのだ。(写真-1)は全国の若者で賑わう竹下通。


写真―1 全国の若者たちでにぎわう竹下通り 出展:Wikipedia

 送金する人は地方のサラリーマン、商店、農業、漁業、地方公務員の親達である。
 学生たちは卒業しても、毎年毎年、地方から補給され続ける。この学生の存在は、尽きることのない東京への重要な集金システムの一つであり、東京での消費システムである。
 東京で消費生活をする学生とその学生に現金を送り支える地方の親たちは、現代版の参勤交代である。

東京一極集中はマスコミ
 400年間、東京のインフラは地方の人々によって休むことなく整備され続けてきた。この東京が、安全で快適であるのは当然である。
 400年間、東京には黙っていても全国から現金が送り込まれ、消費する人々が地方から集まってきた。東京が繁栄するのは当たり前である。
 地方の人々は、堤防やダムのインフラ整備が先送りにされても耐えた。高速道路や新幹線整備が先送りにされても耐えた。耐えて東京の整備と繁栄を支え、その東京の繁栄を自分たちのように喜んだ。
 東京は日本の首都であり、自分の子供たちや孫たちが活躍する場でもある。地方の人々は、嫌々東京を支援したのではない。喜んで自分たちのアイデンティティーの東京を支援してきた。
 しかし、この東京の安全と快適さが、地方の人々によっていることを、東京の人々は知らない。
 東京の消費と多様な文化は地方に支えられていることを、東京の人々は知らない。
 なぜなら、それを伝えるメディアが存在しないからだ。
 (図―3)は「宣伝会議」出版の「マスコミ電話帳」に掲載されていたオピニオンリーダーの住所を、棒グラフにしたものである。


図―3 地域別オピニオンリーダー数
『宣伝会議別冊 マスコミ電話帳 ’97』(株式会社宣伝会議 発行)「ジャーナリスト、ルポライター、ノンフィクション作家」分野及び「政治、経済、経営、社会、軍事、外交評論家」分野より作成

 この図を説明するまでもない。日本のオピニオンたちは、東京に住んでいる。行政権限が東京に集中していると指摘されるが、マスコミを中心とする情報の東京一極集中は極端に凄まじい。

東京の人々が知るべきこと
 オピニオンたちはテレビに登場し、新聞、週刊誌で意見を開陳していく。その彼らは、安全で快適で消費豊かな東京に住んでいる。
 彼らは、江戸から東京の安全と快適さが、地方に支えられているとは露知らない。東京が消費する食糧とエネルギーが、地方から注入されていることに気がつかない。東京で発生したゴミを地方が受け持っていることを忘れている。
 そして、先送りされていた地方のインフラ整備が、いま行われているのを見て、まだインフラ整備をするのかと批判する。
 今、マスコミに求められていることは、日本列島の地方の現状を報道することだ。地方の問題は、東京の問題である。地方の衰退は、東京の衰退につながる。日本全体の存続と発展にとって、地方の自立と発展が不可欠であること。その認識が必要である。
 全国の各地方がいかにして自立し、活性化していくか。地方と東京がいかに連携していくか。
 東京に住む人々はこのことに、知恵を出していかなければならない。なぜなら、東京の生活は、地方によって支えられているから。

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【竹村公太郎】不思議な日本共同体(その5)東京の消費を支える地方への3件のコメント

  1. たかゆき より

    地方に寄り添う 
    って か、、、

    先の大震災 被災地に寄り添う
    とかって 仰ってた 方々
    はたして どなたが 寄り添って
    くれました っけ、、

    被災地の 松の木 一本燃やすのさえ
    拒否

    よくぞ 寄り添って くれました。。。

    ちなみに
    >全国から集まった税金を投入していく現代版「お手伝普請」

    これですよ これ。。

    税が財源という バイアス

    いまの 日本 ちゃう でせう 

    東京という 首から上の住人は
    地方という 手足胴が どうなろうと

    生存可能と お考えかと、、
    お幸せな 連中で ございます ♪

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  3. 大和魂 より

    我が国が誇れる江戸時代。その伝統文化を確立させた根幹こそ、その当時の最高峰にあった教育制度でした。それで具体的には我が国に限って言えば、明治期に活躍した福沢諭吉が唱えた学問のすすめの要点は、当てはまらず。なぜなら基本的な知性が優れているからです。それにしても、言語道断なのが我が国のインテリ連中のバカの壁であり、何かあれば屁理屈と言い訳しかできない卑劣な態度でホント残念ながら一利すらありませんよ。オイオイ、いつまでも調子に乗って寝ぼけるんじゃないぞ!

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