日本経済

2017年10月4日

【藤井聡】日本の防衛力を激しく弱体化させた、「世界最低の経済政策」

From 藤井聡@京都大学大学院教授

米朝有事が勃発する可能性が今、密かに、しかし確実に高まりつつあります。

言うまでも無く、米朝有事の際に日本は文字通りの「当事者」となります。つまり、日本は極めて近い将来、戦争状態に突入する可能性があるのです。

そうなれば、横須賀や横田をはじめとした重要基地や、東京や大阪などの重要都市に対する「核」や「化学兵器」による攻撃や、新幹線等に対する「テロ攻撃」も含めたあらゆる恐るべき事態を覚悟せねばなりません。

もちろん当方は、いたずらに危機をあおる事を目途としてこう書いているのではありません。冷静に考えればそういう事が起こっても致し方無き状況に立ち至りつつあると覚悟せねばならない、と主張しているに過ぎません。

筆者はそうした最悪の事態が生じぬ事を、そうした最悪の事態を回避するための最善の外交努力が続けられん事を心の底から強く祈念していますが―――一寸先は闇、であることは何人たりとも否定する事できないのです。

「偶然」というかもちろん半ば「必然」ではありますが、そんな危機的状況の中で今、日本の政治の方向を決定づける総選挙が行われようとしています。

日本の政治家達がこれからどのように主張し、そして日本人達がどの政治家・政党を選択するのかは分かりませんが、あらゆる日本人は今、この北朝鮮有事の「危機」をしっかりと見据えながら判断せねばなりません。それができなければ、我が国は判断を誤り、もう二度と復活できない程の深刻なダメージを被ることともなりかねません。

ただし、北朝鮮有事の対処は、残念ながら小手先の対処だけでどうにもならぬものでも―――あります。

そもそも我が国はこれまで、自主防衛を蔑ろにし続けてきたという現実は、何人たりとも否定することなどできはしません。

端的に言うなら今、北朝鮮からのミサイルが飛来したとするなら、それらを全て「確実」に撃ち落とす能力を我が国は所持してはいないのです。

つまり我が国は、「専守防衛」を掲げてきたにもかかわらず、その「専守防衛」すら確実に行うことができる力など持ち合わせてはいないのです。

その背景にはもちろん、「憲法九条」や「核の傘を巡る日米関係」という問題が横たわっています。しかし、それらだけが原因ではありません。こうした本質的な問題を完全に解消できなかったとしても、我が国の防衛力をさらに拡充することはいくらでも可能だったはずなのです。

それを阻止し続けた中心にあったものは、防衛費を低く抑え続けた政府財政当局の
「緊縮」(オーステリティausuterity)
の姿勢です。

GDPの1%ではなく、せめて国際的に標準的水準である2%程度の支出を過去数十年にわたって継続していれば、今とは見違える程の防衛力を身につけていた事は間違い有りません。

もしも「2%防衛費」が、財政当局の事情とは別の「政治的」な理由で困難であったとしても、GDPそれ自身が拡大していれば、それだけでも日本の防衛力は全く違ったものであったことも間違いありません。

ところが我が国のGDPは過去20年間、恐るべきことに成長どころか「衰退」し続けてきたのです。

改めてこちらのグラフをご覧下さい。

このグラフは過去20年間の「GDP成長率」の世界ランキングを示したものです。これはこれまで何度か引用してきたものですが、これからの日本のあり方を考える上で極めて重要ですので、何度もご紹介したいと思います。

ご覧の様に、我が国の成長率は文字通りの世界最低。しかも、「衰退」しているのは我が国一国だけであり、成長率はなんと「マイナス」20%。一方で世界中は成長し続け、その平均成長率は140%程度に達しています。

成長率が世界最低ということは、過去二十年間の「日本政府の経済政策」は、まさに文字通り「世界最低」であることを証明しています。

そしてその「過去20年感の日本の経済政策」の基本的な方針もまた、
「緊縮」(オーステリティausuterity)
なのです。

もしもこの20年の間、緊縮的姿勢を放棄し、積極的な財政が展開されていたなら、デフレは終了し、日本一国だけが衰退する、という常軌を逸した状況は回避されていた事は間違いありません。

もしも日本が世界と同程度の成長を遂げていたとするなら、今日の中国とほぼ同程度の経済力、1000兆円以上のGDPを持つ国に成長していたわけですし、それに併せて防衛費も2倍以上に拡大し、日本の防衛力も今とは全く違う水準に強化されていた筈なのです。

もちろん、もしもそうなっていれば日米関係も今日程に隷属的なものとはならなかったことすら考えられます。そして日米関係だけでなく、日露関係、日韓関係、日中関係も、今よりもずっと日本側にとって有利な状況へと展開していたことも十二分以上に想像されるところです。

返す返す、財政当局の「緊縮」思想の罪は重いと言わざるを得ません。

「緊縮」のせいでデフレが続き、世界最低の成長率が持続されてあらゆる国力が衰退し続け、外交関係も弱体化し、防衛力も弱体化し、その結果として「有事」で日本人の生命と財産が激しく奪われる危機に直面しているのです。

もちろん、経済成長さえしていれば全ての問題が解決したであろうとまでは言いません。しかし、国防や教育、社会保障や防災、科学技術、さらには「財政悪化」に至るまでの今日のあらゆる問題が「経済成長」によって「改善」ないしは「解消」していたことは間違いないのです。

だからこそ今我が国には、欧米で日に日に拡大しつつある「反緊縮」(アンチ・オーステリティ、anti-austerity)の国民運動が何よりも求められているのです。

ついては是非とも、ひとりでも多くの国民に、今、目の前にある「北朝鮮」という危機に隠れて存在する、もう一つの「緊縮」という恐ろしい「敵」がひっそりと我が国の活力を蝕み続けている現実を、しっかりとご認識いただきたいと思います。

追伸:
「反緊縮」の考え方の基本論理にご関心の方はぜひ、下記をご一読ください。
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【藤井聡】日本の防衛力を激しく弱体化させた、「世界最低の経済政策」への5件のコメント

  1. ddc より

    内閣官房参与っていったい何なのですか?内閣官房参与の助言で変わらなければ一体どうすればよいのでしょうか?そのあたりの内情をご教示ください。

    返信

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  2. 赤城 より

    このグラフは過去20年間の「GDP成長率」の世界ランキングを示したものです。これはこれまで何度か引用してきたものですが、これからの日本のあり方を考える上で極めて重要ですので、何度もご紹介したいと思います。

    ご覧の様に、我が国の成長率は文字通りの世界最低。しかも、「衰退」しているのは我が国一国だけであり、成長率はなんと「マイナス」20%。一方で世界中は成長し続け、その平均成長率は140%程度に達しています。

    成長率が世界最低ということは、過去二十年間の「日本政府の経済政策」は、まさに文字通り「世界最低」であることを証明しています。

    そしてその「過去20年感の日本の経済政策」の基本的な方針もまた、
    「緊縮」(オーステリティausuterity)
    なのです。

    もしもこの20年の間、緊縮的姿勢を放棄し、積極的な財政が展開されていたなら、デフレは終了し、日本一国だけが衰退する、という常軌を逸した状況は回避されていた事は間違いありません。

    もしも日本が世界と同程度の成長を遂げていたとするなら、今日の中国とほぼ同程度の経済力、1000兆円以上のGDPを持つ国に成長していたわけですし、それに併せて防衛費も2倍以上に拡大し、日本の防衛力も今とは全く違う水準に強化されていた筈なのです。

    この異常な状況が一目で分かるグラフや図を少しでも多くの国民に見せることは効果的だと思いますのでどこでも何度も見せるべきです。こんな恐るべき自体を20年も隠蔽してきたこと知らされなかったことが繰り返された愚行と失敗の最大の原因です。
    それをしてきたのは財務省と日本政府ですがそう仕向けたのは隣国の工作であると容易に推察できます。
    国家財政を握る国家運営するエリートを抑えればこんなにも簡単に国を自然衰退、自滅亡国することができるというのが主権の無い、対スパイ工作防衛が全く出来ない日本という属国の現実です。

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      1. 反孫・フォード より

        >そう仕向けたのは隣国の工作であると容易に推察できます。

         やはり国会(マスコミ有識者エスタブリッシュメントに成る人達)は知らぬ降りをしているスパイだらけに成っているんですね。エコノミンテルンだらけ。

        失礼しました。

        返信

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        1. 赤城 より

          政治家に立候補して当選できるだけの状況を持てる人たちはこぞって隣国のために政治政策する人たちだけですからね。GHQの時代から変わらない日本の影の力関係があるのは間違いないでしょう。
          占領を脱しても今もずっと日本国民のために他国の諜報組織の工作からの悪影響を封じる対諜報組織も法律もないのだから当たり前ですね。

          返信

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  3. はっちゃん より

    まさに一目瞭然。
    こんなことになってしまっていることが、もはや不思議なことだと思います。
    この記事読んで理解できないとすれば、頭の中によっぽど何かが詰まっているのではないか?と思います。

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