アジア

2017年12月13日

【佐藤健志】慰安婦問題と日馬富士引退

From 佐藤健志

11月7日、ドナルド・トランプ米大統領は、日本につづいて韓国を訪問しました。
その際、青瓦台(韓国大統領府)で開かれた国賓晩餐会の席に、李容洙(イ・ヨンス)さんという元慰安婦が招かれ、
大統領と抱擁したのをご記憶でしょうか。

慰安婦問題については、2015年の日韓合意で
「今後、両国は互いに相手を非難・批判しない」
旨が確認されています。

晩餐会の席で、李さんや韓国政府関係者が、慰安婦問題を持ち出し、わが国を非難・批判したわけではなさそう。
けれども韓国の行動が、「嫌がらせ」的な意味合いを持つものであり、合意の精神に反しているのは否定できません。

菅義偉官房長官は不快感を表明、合意の着実な実施を求めました。
ところが李さんは李さんで逆ギレ。
韓国紙「中央日報」の記事をどうぞ。

李さんは9日、CBSラジオ『キム・ヒョンジョンのニュースショー』とのインタビューで
「耳もなく目もなく良心もない」とし、
「他の国から貴賓が来られ、私が行こうが行くまいが、何か口出しするようなことがあるのか」と厳しい口調で述べた。

日本政府の態度に「生意気なことこの上ない」とし、
「恥ずかしく鼻でも隠してネズミの穴にでも入るべきで、あれこれほざくことが正しいことなのか」
と憤りをあらわにした。
(読点を二箇所追加)
http://japanese.joins.com/article/240/235240.html

青瓦台は晩餐会のメニューに、竹島周辺で取れたという「独島(竹島の韓国での名称)エビ」を出しており、
菅長官はこれについても「コメントを差し控えるが、どうかとは思う」と述べました。
李さんはまたもや逆ギレ。
いわく。

風味があり甘みがあってとてもおいしかった。
私たちの独島で獲れた料理にまで干渉する。これが本当にXXでなくて何だ。

XXという伏せ字になっているところが、本当は何だったのかは、じつに興味深いところ。
炎上日本ならぬ炎上韓国という感じではありませんか。

『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)
http://amzn.asia/7iF51Hv(紙版)
http://amzn.asia/cOR5QgA(電子版)

もっとも、この話には皮肉なオチがつく。
トランプ大統領との抱擁について、李さんはこう語りました。

夢のような感じ。
私が手を振ると、トランプ大統領がやってきてすぐに抱きしめてくれた。
本当に長生きした甲斐があった。楽しい気持ちが湧いてきた。
「慰安婦問題を解決してノーベル賞を取ってください」と言いたかったが、できなくて残念だ。

日韓合意によって、慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決しています。
したがってトランプが、あらためて解決するなど不可能ですが、これは脇に置きましょう。
注目すべきは李さんが、「トランプが慰安婦問題に関心を寄せているはずだ」と決めてかかっている点なのです。

いいですか、トランプは「アメリカ・ファースト」の男ですよ。
性格的にも自己中としか思えないし、男尊女卑の傾向も強そう。

そんな人物が、
1)自国とは関係がなく
2)70年以上前の出来事である
慰安婦問題にたいし、本当に関心を寄せるのか?

・・・案の定、こういう記事が出るんですね。
どうぞ。

米国のナッパー駐韓代理大使は(11月)10日までに、
トランプ大統領が訪韓中の晩餐(ばんさん)会で、韓国大統領府が招待した元慰安婦女性を抱擁したことについて
「単なる人間的なジェスチャーで、政治的な観点から見たくはない」と述べた。
韓国記者団との懇談会で説明した。

トランプ氏は当時、周囲に通訳がいなかったため、女性が誰か知らなかった可能性も指摘されている。
(二番目のカッコは原文)
http://www.sankei.com/world/news/171110/wor1711100034-n1.html

通訳がいなかったとする記述は、
「『慰安婦問題を解決してノーベル賞を取ってください』と言いたかったが、できなくて残念だ」
という、李容洙さんの発言内容とも一致します。

韓国(人)にとって、慰安婦問題は切実な意味合いを持っているのでしょう。
そして韓国にとって、アメリカが重要な国であることも疑いえない。

しかし、この二つを根拠にして
〈アメリカ(大統領)も慰安婦問題に関心を持っているはずだ〉
と考えるのは、誤った三段論法にすぎないのです。

た・だ・し。
それを言い出したら、安倍総理が何かにつけて強調したがる「日米同盟の絆」にしたところで、
向こうがどれだけ実感しているかは疑問と評さねばなりません。

来日したとき、トランプは総理の前で「アメリカ経済こそ一番だ。あんたらは二番にしてやるよ」という旨を公言したのですぞ。
まるっきり子分扱いではありませんか。

北朝鮮情勢が緊迫する現在、日本(人)にとって、日米同盟の強化は切実な意味合いを持っているでしょう。
そして日本にとって、アメリカが重要な国であることも疑いえない。

しかし、この二つを根拠にして
〈アメリカ(大統領)も日米同盟の絆を重視しているはずだ〉
と考えるのは、三段論法として正しいか?

どうもドングリの背比べという印象がぬぐえないのであります。

だとしても北朝鮮による核開発、およびミサイル開発が、米朝の軍事衝突にいたりかねない危機をもたらしているとき、
韓国はなぜ、こんなことをするのでしょう?
日米韓の足並みがそろわなければ、北朝鮮危機はいっそう深刻化するのに。

理解のカギは、『対論「炎上」日本のメカニズム』の第三章にあります。
この章では、おなじみ認知的不協和の理論にもとづいて
〈不都合な真実を隠蔽しようとする際の行動パターン〉を論じているのですが、
当該のパターンにはこういうものが含まれているのですよ。

不都合な真実の存在は(しぶしぶ)認めるが、
安心して取り上げることのできる問題を別に持ち出し、
そちらにひたすら関心を向けることで、不都合な真実から目をそむける。

韓国にとり、北朝鮮問題は、不都合な真実としての性格を強く持っています。
万一、軍事衝突となったら、少なくとも数十万、多ければ数百万の犠牲者が出かねません。
物的被害も恐るべきものとなるでしょう。
にもかかわらず、対処法はきわめて限られている。

となれば、認知的不協和の理論にもとづくかぎり、次のような反応が生じるのも必然ではないでしょうか?

北朝鮮危機の深刻さは(しぶしぶ)認めるが、
安心して取り上げることのできる問題を別に持ち出し、
そちらにひたすら関心を向けることで、北朝鮮危機から目をそむける。

そして慰安婦問題は、
〈被害者の立場から、日本の行動や道義性を批判できる〉点で、
安心して取り上げられるもの。

11月24日、韓国国会では
「日帝下の日本軍慰安婦被害者生活安全支援と記念事業などに関する法改正案」が成立、
来年から8月14日を「日本軍慰安婦被害者をたたえる日」にすることが決まりましたが、
〈北朝鮮危機から目をそらそうとする国家規模の現実逃避〉と考えるとき、
このすべてはキレイに筋が通るのです。
慰安婦問題は、再燃するべくして再燃していると言えるでしょう。
http://www.sankei.com/world/news/171124/wor1711240029-n1.html

と・こ・ろ・が。
ドングリの背比べは、なんとここでも起きてしまう。

北朝鮮は11月29日、
アメリカ全土を射程に収めるとされるICBMを発射しましたが、
この日、わが国のメディアは何にひたすら関心を払ったか?

そうです。
暴力沙汰を起こした横綱・日馬富士の引退会見です。

「違うだろ~~~っ!!」
──豊田真由子(元衆議院議員)

だ・か・ら、
「右の売国、左の亡国」と言うのですよ!

『右の売国、左の亡国 2020年、日本は世界の中心で消滅する』(アスペクト)
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「あまりにバカらしくて批判する気になれない。(中略)ゆえにさらなるコメントは差し控える」
──エドマンド・バーク

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
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http://amzn.to/19bYio8 (電子版)
(※)引用した語句は301ページに登場します。

かくして事態は、日を追って収拾がつかなくなってゆくのでした。
ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)日本文化チャンネル桜の番組『FRONT JAPAN 桜』で、キャスターを務めました。共演は本紙でもおなじみ、浅野久美さんです。

トピックス
・アメリカと組むしかない胸の痛み
・保守とリベラル、どちらも変なのか?
・巡航ミサイル導入~シェルター整備にも着手を
https://www.youtube.com/watch?v=OWFlElnkZiY

佐波優子さんと共演したこちらの回もどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=vsEUk5GMDn8

2)12月16日発売の『表現者』76号(MXエンターテインメント)に、評論「フリードリッヒ・リストの晩春」が掲載されます。

19世紀前半、「国民経済」の重要性を説いたものの、世に受け入れられず自殺した政治経済学者フリードリッヒ・リスト。
そのリストの名が、小津安二郎監督の名作『晩春』(1949年)で強調されているのをご存じでしょうか?
『晩春』と言えば、結婚をめぐる父と娘の心情を細やかに描いたホームドラマ。
それと国民経済に、いかなる関係があるのか?
ぜひご覧下さい。

3)戦後史は、わが国がだんだん認知的不協和に陥っていった過程と見ることもできます。となると、その行き着く果ては・・・

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
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4)不都合な真実を隠蔽しようとしすぎた結果、保守もリベラルもすっかり認知的不協和をきたしてしまいました。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

5)政治の目的は経世済民の達成です。社会を保守するとは、この状態を保ちつづけることなのです。物事が総崩れの様相を呈しているときこそ、基本に立ち返りましょう。

『本格保守宣言』(新潮新書)
http://amzn.to/1n0R2vR

6)「何よりワケワカで、目が点になるのはこれだ。完璧な独立を達成するだけの実力を持ちながら、われわれはイギリスへの従属をめざしている」(225ページ)
例によって認知的不協和。まあ世の中には、完璧な積極財政を達成するだけの実力を持ちながら、あくまで緊縮財政にこだわる国もありますからねえ・・・

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

7)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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