コラム

2020年3月27日

【施 光恒】カタカナ語氾濫の背後にあるもの

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

こんにちは~(^_^)/(遅くなりますた…)

「パンデミック」、「クラスター」。「オーバーシュート」「ロックダウン」。ほんと、新型コロナウイルスについての報道、わけのわからないカタカナ語が蔓延してますよね。「トリアージ」とかもときどき出てきて、「なんじゃこりゃ~、わかいやすい日本語でいわんかい」と私も思っていました。

(ちなみに、「パンデミック」は「感染症の世界的大流行」、「クラスター」は「小規模の感染者集団」、「オーバーシュート」は「患者の爆発的増加」、「トリアージ」は「患者の治療の優先順位」だそうです)。

ですので、先日の河野太郎防衛大臣の3月24日の発言にはまったく同感です。産経の記事を引用します。

***
河野太郎防衛相は24日の記者会見で、新型コロナウイルスに関する政府の説明に片仮名用語が多いとして疑問を呈した。日本語で分かりやすく説明するよう、厚生労働省など関係省庁に求める考えだ。

河野氏は、ロックダウン(都市封鎖)、オーバーシュート(爆発的患者急増)、クラスター(小規模の感染者集団)を例に挙げ、「ご年配の方をはじめ『よくわからない』という声は聞く。日本語で言えばいいのではないか」と述べた。(略)
***
「ロックダウン、オーバーシュート…「日本語でいい」 河野防衛相」(『産経新聞』令和2年(2020年)3月25日付)
https://www.sankei.com/politics/news/200324/plt2003240022-n1.html

本当に、カタカナ語が氾濫していますね。企業などが宣伝文句でカッコつけるだけならまだましなのですが、近年は、公務員や政治家、あるいは公共放送のはずのNHKまで、わけのわからないカタカナ語を多用します。

私が以前、非常に疑問に思ったのは、2018年9月の北海道での大規模停電のことでした。このとき、NHKの報道番組まで大規模停電のことを「ブラックアウト、ブラックアウト」と連呼していたので強い違和感を持ちました。「ブラックアウト」などとカッコつけずに、
「大規模停電」「全域停電」「大停電」などといったほうがどんな人にもよくわかります。

(まあ、NHKは昔の「教育テレビ」ではなく、数年前から「Eテレ」に名称変更したことからも、日本語を大切する気があまりないのはわかってましたが…)
(´・ω・`)

ちなみに、こういうカタカナ語は、多くの場合、英語だとも言い難いものです。例えば、英語で「クラスター」(cluster)とは、「類似したモノや人の集まり」ぐらいの意味です。「クラスター」だけでは「感染者の集団」という意味は思い浮かびません。英語が良くできる人でも、「クラスター」と聞いただけでは「感染者集団」だとは普通、わからないのです。

カタカナ語を多用すると、専門家やその分野に精通している人以外、よくわかりません。初めて見聞きする言葉は、説明がないと理解できません。また、記憶にも残りがたいのです。

その点、日本の伝統的な外来語の取り入れ方である漢字熟語を用いて、外来語を置き換えていくやり方は優れています。

「クラスター」や「ロックダウン」では初見ではなんのことかわかりませんが、「小規模感染者集団」とか「都市封鎖」と書けば、普通の日本人はすぐわかります。また、記憶にも残ります。

(この点について、以前、言語学者の鈴木孝夫氏の議論に触れながら、当メルマガに書いたことがあります。こちらもぜひご覧ください)。
施 光恒「日本人の底力」(「『新』経世済民新聞」2013年10月18日)
https://38news.jp/archives/02491

私は、特に、役人や政治家、公共放送たるNHKなど、公けの物事に関わる人々や機関がわけのわからないカタカナ語を得意げに使う風潮は大いに問題だと思います。

公けの物事を報じたり論じたりするときに大切なのは、なによりもまず「わかりやすさ」です。「万人によくわかること」です。

よくわかれば、その後、「問題の深刻さはどの程度なのか」「その問題に対処するためにはまず何をすればいいのか」などを一人一人が考えることにつながりやすくなります。

例えば、「ブラックアウトが生じた」では何をすべきかよくわかりませんが、「大規模停電(全域停電)が生じた」であれば、「これはまずい」とすぐに感じ、「その地域の電力供給の仕組みのどこに問題があったのか」、「一人一人は予期せぬ事態にどう対処し、何に気を付けるべきなのか」という思考に進むこともできます。

(以前、カタカナ語の多用が問題をぼかしてしまい、物事をさらに深く認識し考えることを妨げているのではないかということについて、「ヘイトスピーチ」という言葉を例に書いたことがあります。こちらもご覧ください)。
施 光恒「『ヘイトスピーチ』 レッテル貼りの恐れは」(『産経新聞』(九州山口版)2015年1月22日付)
https://www.sankei.com/region/news/150122/rgn1501220036-n1.html

では、なんで、こういうわかりにくいカタカナ語が、公けの事柄を論じるときにも多用され、蔓延してしまうのでしょうか。

もちろん、「インテリぶりたい」「カッコつけたい」などという理由も大いにあるでしょう。それに加えて私は、政治や災害報道などの公けの領域にも、ビジネスの論理が広まってしまっていることに一つの原因があるのではないかと考えています。

「ちょっとわかりにくくても、目新しい感じがし、人目を引くことができる」「その言葉を使っている人や組織が、かしこそうで素敵に見える」ほうがいいというのは、ビジネスの場面では大切なことが多いでしょう。新商品のキャッチフレーズや企業のイメージ広告では、そういう印象が優先されるのが普通でしょう。

わかりにくいカタカナ語が政治や行政、報道などにまで蔓延しているのは、そういう領域にもビジネスの論理がどんどん越境して広がってしまっているからではないかと考えます。そして、役人や政治家や公共放送の職員らの少なからぬ人々が、公けの仕事の意義を忘れ、ビジネス偏重の風潮に染まってしまっているからではないかと思うのです。

たとえば、近頃の行政の現場では、コンサルタント会社などに多くの業務を委託しています。このこともカタカナ語の氾濫の一因ではないでしょうか。

コンサルタント会社の人々が、業務の受託を目指しプレゼンテーションをする際、自分たちの企画を良く見せようとカタカナ語を多用することが結構あります。また、彼らが作った企画書や報告書などを公務員や政治家が使うことも多いでしょう。

また、地方自治体や大学の業界でもそうですが、緊縮財政主義の流行のもと、各種の補助金は、競争的に獲得していくべきだということが言われるようになってきました。ビジネス以外の領域にも、ビジネスのような競争を持ち込んで「効率化」をはかろうというのです。

こういう補助金獲得競争では、コンサル会社の場合と同様、プレゼンテーションが重視されますし、プレゼンでは他者に勝つために「よくわからないけど、目新しく人目を引くこと」「かしこそう、頭よさそう、素敵そう」に見えることが優先されがちです。

このようなかたちで、ビジネスではない公けの領域にビジネスの理屈や空気が持ち込まれるようになったことが、そして役人や政治家や公共放送の職員などが「公共に奉仕する」という本務を忘れ、それに浸ってしまったことが、政治や報道の世界でもカタカナ語が得意げに多用されるようになったことの背景にあるのではないでしょうか。

そうだとすれば、これはやはり問題です。

政治や行政、あるいは今回のような感染症の報道などについては、「万人によくわかり、正確に伝わること」が何より大切です。ターゲットにしている一定の消費者層だけではなく、お年寄りも若者も、高学歴層にもそうでない層にも、その問題に興味がある人にもそうでない人にも、よくわかることが大切です。

そのためには、目新しさやカッコよさは二の次で、たとえ泥臭い言葉だと感じられたとしても、ともかくわかりやすい、日常的な言葉で語ることが必要です。

つまり、当たり前ですが、政治や行政、報道といった公けの事柄に、ビジネスの理屈が持ち込まれてしまってはまずいのです。政治や行政、報道が語り掛けるべき相手は、そういう多種多様な人々がいる国民全体ですし、国民全体のことを何よりも考えて行動すべきなのです。

言葉に関して言えば、政治や行政、報道では、変にカッコつけることなく、万人にわかりやすい日常の言葉で語りかけることが何よりも大切なのです。

長々と失礼しますた…
<(_ _)>

追伸
政治や行政の領域に、ビジネスの理屈が持ち込まれ、そちらのほうが「かっこいい」「優先されるべきだ」とみなされがちな昨今の風潮への疑問について、少し前に次のような文章も書きました。こちらもご覧くだされば幸いです。
【国家を哲学する 施光恒の一筆両断】「公務員らしさ」の大切さ(『産経新聞』(九州山口版)2020年3月2日)
https://www.sankei.com/region/news/200302/rgn2003020006-n1.html

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【施 光恒】カタカナ語氾濫の背後にあるものへの14件のコメント

  1. 西川博 より

    福田恆存の言った所謂似而非近代化の一種でしょうか?言語は文化や歴史、伝統と密接な関係にあります。言語の不理解が一般人に広まるということはそれ即ち文化や歴史、伝統との齟齬が存在するということです。

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  2. たかゆき より

    マウントを 取る

    あらゆる職種で ソレに血眼かと、、

    カタカナ言語は 業界用語が主

    昨夜のNHKテレビ

    広告代理店の三部門
    (営業 クリなんたら プレなんたら)が

    いかに 自分の主張を通すか

    シミュレーションドラマを 展開

    小生には 彼等の話す言語が 全く意味不明

    業界用語は業界内で留め置いて欲しいもの。。

    ちなみに

    日本の目立ちたがり 経営者って

    どうして

    スティーブ・ジョブズの出で立ちを 真似なさるのか、、

    彼等の首から上は

    12歳のママなのか と

    クスッとしてしまう 春の宵

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  3. 日本晴れ より

    施先生の全く言う通りだと思います
    ほんとコロナの事に限らず最近カタカナ語が氾濫し過ぎてる
    意味がよくわからない伝わって無いのに使うのは明らかに間違ってますよ。NHKも日本語を大事にしろといいたいです
    政治家や官僚も含めて。最近のnhkや小池都知事は特に酷いなと思います 

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  4. 村上重義 より

    サムフェア族、エニフェア族というカタカナ語を流行らせたのは誰でしったけ?                         先生の「英語化は愚民化」は面白かったですけどね。

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      1. エニウェア サムウェアは愚民化 より

        なぜか施さんはエニウェア、サムウェアをその言葉を翻訳もせずにいつまでもごり押し。
        施さんの知り合いのみが無理して使ってるぐらいで
        流行ってない

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          1. エニウェア サムウェアは愚民化 より

            分かりにくいし
            コロナのおかげ?で
            グローバル化も本格的におしまいっぽいので。

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  5. 日本晴れ より

    施先生の言う通り ビジネスライクもそうだと思うけど
    無意識に英語を擦り込もうという意識もあるんだと思います
    日本の文化を下に見たい人達がやってる下らない人達がやってると思います

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  6. 大和魂 より

    結論を先にしますと、言語の乱れは心の乱れとなり、やがては社会の乱れとなります。ましてや、お金や名誉や権力を駆使して行使する立場にある者ならば、言語こそ重大な要素なりと自覚するべき!しかし残念なことに安倍首相の言語の軽さは特筆ものなり。これでは国民をバカにし、その心は離れていく一方です。そして、それを諫言できない保身の役人と周囲の愚かな連中もトップを貶めていることに気づくべきなり!

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  7. no name より

    「英語化は愚民化」は,施 光恒先生の著書(集英社新書、2015年)のことです。

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  8. F-NAK より

    この記事を読んだ直後に、首相記者会見の「当面のキャッシュ(現金)がない人…」という発言を見て、よく分かりました。
    彼が、国民に語りかける気がないということを。

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  9. TEaD より

    「ビジネスの勝者は人生の勝利である」
    「幸せになりたいなら、ビジネスを成功させよ」

    この平成時代に根付いた「是」に私は心底疑問を抱いていました。
    この「是」を役人も採用してしまっては、惨めな思いをする人が増えるだけです。ビジネスの業界の支持層を持つ政権は保身を是とするから、この「是」を歓迎したのでしょうが。

    ノーウェア? サムウェア? 先生はかつてそんな言葉を頻りに定義の説明なしに使ったと聞きます。この文章は、先生自身への戒めでもあると私は考えています。
    そんな言葉を使わず、例えばノーウェアについては、「縋る藁もなくただ溺れるだけの惨めな根無し草」と表現すれば良いでしょう。どうかまずは、「初見の読者が読んでも容易に理解できるか?」という疑問を持たれて記事を書かれますことをお願い申し上げたく存じます。

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  10. 大ネズミ警ら隊 より

    こういう事がゴマカシであり意図的な策動である事に慣らされている今の日本人は感受性が鈍化している。特に団塊世代以降でこの事に触れると、あの分かってる風なチャンネル桜の社長なる人物でも怒り出す位で、業界人らしく軽薄でイントネーションまで若者風だ。かつて密航朝鮮人神父が北九州で朝鮮語の本国読み要求裁判を起こし以降、朝鮮名の漢字表記がカタカナ表記になり不逞在日朝鮮人が事件を起こしても日本人から見て記憶に残りにくくなった上に通名報道し無用に朝鮮人を保護している。ジンケンガーと騒ぐ人達でレッテル貼りが大好きなのは言語の効果効能を良く知ってる事ゆえだと思う。これは大東亜戦争以降で日本がプロパガンダ戦で負け続けている歴史の延長線上にある。

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  11. wachtelhund より

    むかし『英語青年』か何かで読んだ記憶があっただけでずっと思い出せないでいた。とろとろ調べてやっとわかった。

    山下浩。山下さんも施さん同様カタカナ語の濫用に怒っていて、しかも「日本語の認識も英語の認識も不足している英文学者に多くみられる」と身内に弓を構えた。

    あの刊行誌は昔からおっかないところがあったけれど、書誌学の先生はやっぱりおっかねえ人が多いなあと思った。当時抱いたそんな感想まで施さんのおかげで思い出すことが出来た。

    認識とは足を止めてみること。実方中将は名取笠島の道祖神の前で下馬せず通り過ぎたので神罰を受け客死した。

    小池や安倍や省庁に限らず、私も注意したいと思う。

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