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2015年10月24日

【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第十八話

From 平松禎史(アニメーター/演出家)

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「中国の読み方–地獄に引きずり込まれないために日本人が知るべきこと」

http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php

●他国と違う・・・中国経済成長率の算出のカラクリ
●中国に存在する”鬼の城”とは?住んでいるのは一体誰なのか?
●日経新聞に煽られて中国進出した日本企業の悲劇
●地図を横にすると見えてくる…日本は中国の世界進出を邪魔する”蓋”

「中国の読み方–地獄に引きずり込まれないために日本人が知るべきこと」

http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php

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 ◯オープニング

アニメーターとしての仕事にも段階がありまして、頭を使う創作的な段階と、材料が揃った後たくさん仕上げていく大量生産的な段階です。
前者の時は外からの情報はジャマになってしまいますが、後者の段階はある程度なら大丈夫です。
なのでYouTube動画をラジオのように流したり、過去の三橋塾の講義録など聞いたり、音楽や映画を流しながら仕事しています。

勢いをつけるには明るい音楽ものやアクション映画が適していて、最も勢いがつくのがアメリカのスーパーヒーローものです。

第十八話:「存在価値の喪失と成長物語」

 ◯Aパート

ヒッチコック監督のアクション映画的なもののほとんどは「巻き込まれ型」物語です。
主人公の生活とは関係なくすでに起こっていた国際犯罪などに巻き込まれ、無実の罪を着せられて逃走しながら真相を追う、というものです。
イギリス時代から人気のある物語なのですが、アメリカでは非常に受けました。
渡米当初は『風と共に去りぬ』で有名なセルズニックプロデューサーのもとでロマンティックスリラーを何本か撮ったのですが『レベッカ』『汚名』のヒット以降は不調に陥ります。
向いてなかったんですね。
その後、巻き込まれ型の代表作『見知らぬ乗客』でサスペンスの面白さをアメリカ国民に印象づけます。

その原型がイギリス時代の『三十九夜』
原題は”THE 39 STEPS”つまり「三十九階段」で、これはスパイ組織のコードネームだそうです。
主人公ハネイは「三十九階段」を追う女エージェントに組織の秘密を死の直前託される。
女性殺害で警察に、秘密を知ったために敵組織に、濡れ衣で二重に追われることになるのです。
警察には殺人事件の嫌疑をかけられているためスパイ組織のことを話すことができません。
彼はただの外交官だったのに、その存在価値を喪失し自由も失ってしまうのです。
彼の冒険は、失った存在価値を取り戻すためなのです。

その後のアメリカ映画の定番は、単に取り戻すだけでなく、体験を通して成長することに意義をおくようになります。
存在価値の喪失と成長は、アメリカ、ハリウッドスタイルの特徴のひとつと言えます。
このような物語がアメリカで受けたことと、近年大人気のスーパーヒーローものには関連があるのではないか?
ということが今回のテーマです。

スーパーヒーローはマーベルなどのコミックスが原作で、ボクは原作漫画のほうはほとんど読んでいません。
なのでアメコミヒーローファンってわけではないのですが、映画は割と見てますので彼らの特徴はある程度理解できます。
スーパーヒーローの元祖、「スーパーマン」は第2次世界大戦前夜、1938年生まれだそうです。
ヒーロー物の隆盛には、’60年代のコミックス規制の影響で多くのコミックスが消えていく中、ヒーロー物が残ったという事情もあるようです。

元々学生だったり社会人だった「アメリカ市民」が主人公。飛び抜けた才能や、強いコンプレックスやトラウマが、事故などをきっかけにスーパーパワーを身につけ生まれ変わり、挫折を経験しながら悪と戦う道を選ぶ。
悪者も同様に、以前は普通の「アメリカ市民」だったのが、授かったパワーを挫折や野心によって悪い方向に曲げてしまった者として描かれたりします。

主人公は、それまでの普通の人間としての存在価値を一度失い、ヒーローとして生まれ変わって成長していくのです。
おそらく、ほとんどのスーパーヒーローはこのような物語を基礎としていると思いますが、アメリカ国民だけでなく他の国々でも、我々日本人もがスーパーヒーローに惹かれるのは、自分の存在価値が一度失われ、挫折から善き道を探ろうとするヒーロたちの真摯な姿勢にあると思うのです。

 ◯中CM

仕事の勢いをつけるために(というと失礼ですが、何度かちゃんと観て気に入ったものを選んでますので誤解なきように…)「アイアンマン」を買って流していました。
この映画も好きなんですが、例によって日本を揶揄する描写があるんですよね。
冒頭、軍需産業の社長で大金持ちのトニー・スタークはプライベートジェット内で刺し身と日本酒を飲んで有頂天な様子が描かれます。
テロリストに捕らわれて命からがら逃げ帰った彼は、生まれ変わり、まっさきに「チーズバーガーが食べたい」と言うのです。これは目覚めの表現ですから、日本の刺し身や酒は自分を見失って浮かれてた時の象徴として使われる。
初めて観た時は嫌味だなぁ、なんて思ったものですが、この映画のテーマからして単なる嫌味と受け取ってはいけないなと思いました。

金儲けのために誇りを捨てるような態度では、世界の誰からも尊敬されないのです。
日本をネタにしてはいますが、アメリカ自身にも批判の目を向けているわけですからね。

国家運営をビジネス化する安倍政権のやり方は、まさしく冒頭の無自覚トニー・スタークと重なります。

 ◯Bパート

さて
存在価値の喪失と成長の物語はアメリカの歴史を思い起こします。
アメリカは、主にイギリスから追い出されるように北アメリカ大陸に渡ってきた敬虔なキリスト教徒、プロテスタントが主流で、移民が作った多民族国家です。
彼らは、元々の土地を追われたり新天地を求めてやってきた人々ですから、存在価値を一度喪失した人たちと解釈することが可能です。
西欧や日本のような歴史を持たず、元の価値観もバラバラな多民族がまとまるために「民主主義」「正義」を国民共通のパワーとしたのです。

スーパーヒーローはチームを作ったり、彼らをまとめる政府公認の組織(「S.H.I.E.L.D」など)がありますよね。
政府公認で国民にも愛されるヒーロ。これがスーパーヒーローのおもしろいところです。
アメリカ国民が一丸となって支持できる存在で、政府の上位にあると言って良い。つまり「民主主義」や「正義」の旗のもと、アメリカの人々はスーパーヒーローと一体化することが出来るわけで、挫折を乗り越えて生まれ変わり、成長していくことを信じられるのだろうと思います。
(現実のアメリカが及ぼす結果の善し悪しはおいといて)

誤解と策謀によって十字架にかけられ、神の子として再生するイエスキリストは、存在価値を喪失し生まれ変わって成長するスーパーヒーローと見事に重なると解釈できます。
アメリカに限らず、ほとんどの物語の基本は、欠落や喪失の再生物語であって、これはキリスト教(ユダヤ、イスラムを含む一神教)とも深い関係があると思っています。

欧米では国家の成立と目的がはっきりしています。
始まり、変形、成長、完成へと一直線に進んでいく。起承転結です。
この物語意識は、国民国家の発生とマルクスなどの発展段階説が広まって以降、現在まで定着しています。

アメリカで、国を挙げてのスーパーヒーローという特異な存在が人気なのは、新興国の多種多様な人々が求める共通のシンボルだからではないでしょうか。

存在価値の喪失〜新たな形への生まれ変わり〜成長が描かれ、完成が目指されるアメリカのヒーロー物語は、国家成立の正当性を確認することにつながり、それ自体が存在価値となる。
国家を形成する「民主主義」と「正義」のシンボルがスーパーヒーローと言えましょう。

 _ _ _

日本のヒーローはどうでしょうか。
大雑把に言って二種類です。
はぐれ者のダークヒーローと人間を超越したヒーローです。
前者代表は「どろろ」「デビルマン」、「キカイダー」など石ノ森章太郎のヒーロー。
後者代表は「ウルトラマン」とその兄弟たち。「遠山の金さん」「水戸黄門」
あるいは「ゴジラ」など巨大怪獣も、ヒーローではありませんが後者に属するでしょう。

前者のアレンジは山ほどあって「ブラックジャック」や「相棒」の右京さん。古くは「弁慶」や「子連れ狼」「丹下左膳」など時代劇にもいますね。
ダークヒーローは人々に理解されない奇異な存在で、権力者側なのにはぐれ者であったりします。読み手、視聴者に共感を呼び影響を及ぼすのが特徴で
ヒーローは変化せずに周りの人物が影響を受け変化していきます。

後者のウルトラマン、ウルトラセブンは宇宙人でもともと人間の味方ではなく、人間のハヤタ隊員やモロボシ・ダンの勇気を尊重して人間の味方につきます。彼らが去って行く時、人間が求める気高さを象徴する存在として印象付けられます。ただし、シリーズ化にともなって成長要素が次第に増えていきますが。
「遠山の金さん」や「水戸黄門」は、普段は「遊び人」や「越後のちりめん問屋」に扮していますが庶民を助けるためにいざとなれば権威を使います。ダークヒーローと超越ヒーローの合わせ技と言えましょうか。彼らが物語で変化することはありませんし、長期シリーズでいろんな役者が継承しています。
怪獣たちは自然の化身なので人間も時代も超越しています。

アメリカ製の怪獣はどうしても人間以下なんですよね。「キングコング」は美しく悲しい映画ですが、人間と心を通じてやっと死ねると解釈するとあわれですし、あわれむ「人間」本位なのだと気付かされます。

日本の物語の原型は神話につながると思います。
前者のダークヒーローはヒルコや素盞鳴尊(スサノオ)など荒っぽい神々に源流があり、後者の超越ヒーローは天照大神や神武天皇など地上をしらす(治める)歴代天皇を象徴していると思えます。
両者は基本的に背骨のように存在し、悩み続けるか、まったく悩みと無縁の超越した存在で、成長も完成もないところが共通しています。
明暗の違いがあるだけで一つのものと解釈できます。

日本の場合、国家成立が明確でなく、日本人がいつどこから存在したのかも不明瞭で目的もはっきりしません。なので、日本の物語は起承転結が曖昧で成長も明確ではありません。
「友情」はあっても「民主主義」「正義」などイデオロギーはないのです。

日本の物語は、自分たちの存在を問うような、見直しをし続けるような形になる。
最もミニマムなものは時間の止まったホームドラマであり、自分探し物語。「俺たちの戦いはこれからだ!」という結末が受け入れられるのも、成長して完成させる意識がない…必ずしも是としない…からであり、継承すべきものに価値をおくからではではないでしょうか。

塚本晋也監督の『野火』からもそんな感触を得ました。

そんな視点からすれば、超越的な美少女たちをモチーフにしたいわゆる「萌えアニメ」も極めて日本的と言えます。

 _ _ _

成長と言えば、本メルマガでは経済成長ですね。

デフレ下の日本人が成長を求めようとしないのは、古来からの物語意識が影響しているのかもしれません。「保守と継承」という態度は「完成形を設計し成長する」目的意識とは相反します。
であれば
日本人にそういう性質があることを見直して、ではどうするべきか、と意識することが必要なのかもしれません。
もはや懐かしのスローガンですが「日本を、取り戻す。」の「日本」を明確に定義することが難しいのですから、成長!成長!と言い、蜃気楼を追いかけてても気が付かない。成長を掲げる政府が狂った羅針盤を見直せないのもむべなるかな、という気がします。
目に見える日本すら継承できないレベルにまで衰退している現実を認識するには、めんどうでも相対化して当面の目標を見える化する必要があるんだと思いますが、狂いを見直せないのは、都合の良いスパンでみたり、数字の見方を変えて認めようとしなかったり、「日本に負けなし」とか都合の良い歴史しか観ないからではないかとすら思います。

日本が外交上「日本国」を使い独立して1400年程になる。それ以前の黎明期はシナ文明圏の端っこにある「倭国」でした。最初から独立した日本文明というのは神話の話であって事実ではないのです。
長い歴史を再確認するのはかなり骨の折れる作業ですが、苦い歴史も受け入れて、「継承すべき日本とは何か」をいつでも何度でも見直さないといけないと思います。

 ◯エンディング

以上のようなことを、物語の作者が意図しているわけでなく(意図する場合もあるのでしょうが)、自然とそうなっているんだろうと思います。

経済面で考えれば、確実に数字を出せるのがアメコミヒーロー物というアメリカ映画業界の現実もあるんでしょう。
「ユニバース」化で、次々いろんなヒーロー映画を観たくなる仕掛けはうまいものだと思います。

いずれにしましても
国家の歴史・文化をしっかり背負ったスーパーヒーロー物語が今も絶大な人気を持って作られ続けるアメリカ文化は素晴らしいと思います。

日本でも、(外圧への対抗でなく、あくまで自然な感覚として)国家の歴史・文化を背負った物語を堂々と作り出したいと思います。

 ◯後CM

存在価値の喪失し、何を継承すべきなのか、見直す力を失った人々の物語。
アニメ(ーター)見本市第22話 「イブセキ ヨルニ」
原作:さかき漣「顔のない独裁者」、監督:平松禎史
http://animatorexpo.com/ibusekiyoruni/

**** メルマガ発行者よりおすすめ ****

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  2. 學天測 より

    成長、成長言って実際してればいいんですけどねw現状、南無妙法蓮華のお題目と化しています。ヒーロー像に問題があるのやもしれませんねwヒーロー=神と世界観と自分との関係性です。ヒーロが尽くす様なのではいけませんw我々はこの世界の脇役で居候ですwブドウ園の主は神です。

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