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2015年6月24日

【佐藤健志】発送電分離という責任放棄

From 佐藤健志

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●●日本は「発展途上国」へと転落するのか? 豊かで安全な日本を後世に残すための条件
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

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電力の発電と送電の別会社化、いわゆる「アンバンドリング」を2020年4月から行うとする改正電気事業法が成立しました。
まずは報道をどうぞ。

大手電力会社の送配電部門を発電部門から切り離す「発送電分離」を平成32年4月に実施するための改正電気事業法が17日、参院本会議で可決、成立した。電気料金の引き下げやサービスの多様化につなげる電力システム改革の総仕上げと位置づけられている。
電力小売りは28年4月に全面自由化することが決まっている。今回の法改正では大手電力が保有する送配電網を新規事業者も公平に利用できるようにする。事業者間の競争を促し、料金引き下げやサービスの向上に結びつくと期待される。
http://www.sankei.com/life/news/150617/lif1506170031-n1.html

よくぞ、これをやったもの。

わずか5年前、2010年の時点における、自民党のある有名政治家の発言をご紹介しましょう。
この方「日本のエネルギー政策は今後どうあるべきかについては、政府がどう変わろうとも、政権がどうなろうとも、真理は不変であるという信念」をお持ちでした。
ならば、その真理とは何か?
いわく。

エネルギー政策の推進には、三つの要素が考えられます。それは「セキュリティ」(注:安定性)と「環境」、そして「競争原理(経済性)」です。
この中で、プライオリティ(注:優先順位)をどう定めるかが大きな問題になってくる。トップにあげられるのは、やはりセキュリティですね。
エネルギーを安定的に供給できることがもっとも大事です。これは、これから先のことまで見通して取り組んでいくべきです。

立派な見識ですが、この政治家はどなたでしょう?
甘利明さんです。
現在の経済再生相。

加納時男さんの著書「三つの橋を架ける 国政参画十二年の挑戦」(日本電気協会新聞部)に収録されたインタビューから抜粋しました。

加納さんは東京電力の副社長を経て、1998年〜2010年にかけ、自民党の参議院議員として活躍された人物。
2002年に施行された「エネルギー政策基本法」の立役者でもあります。

議員時代、加納さんは甘利さんとエネルギー政策で組んでいました。
甘利さん、「息がぴったり合っていて、いわば『あうんの呼吸』でやってきた」とまで語るほど。

ならば加納さんは、発送電分離についてどう述べているか。
「三つの橋を架ける」の第三章には、興味深いことが書かれています。

国会議員になる前から、きわめて気になる動きがあった。それは、一言で言うと「市場原理至上主義」が蔓延しつつあったことだ。それが電力業界やガス業界へも侵食しようとしていた。1990年代の後半にさしかかっていた頃である。
(62ページ。表記を一部変更、以下同じ)

発送電分離の議論も、この動きの一環だったのですが、背後には日本の電力市場への参入をもくろむアメリカのエネルギー資本や金融資本があった、とのこと。

市場参入への障壁となっているのは、日本政府と日本のエネルギー産業が掲げる「エネルギーの供給責任」という使命感に基づいた鉄壁の守りであり、これを打ち破る論理として「市場原理至上主義」が持ち込まれたのである。
(同、63ページ)

事実、アメリカ通商代表部は、2000年と2001年に日本政府へ提出した規制改革要望書で、発送電分離を強く求めています。
これを受けて加納さん、向こうの政府高官と議論したのですが、そこにはこんなくだりが見られました。

規制改革の先陣を切り、アンバンドリングを率先して行ったカリフォルニアで電力危機が現実に起こっている。

私は現地に入ったが、電力需給のバランスが崩れ、輪番停電が生じていた。(中略)最大の驚きは関係者の誰に訊ねても「私の責任ではない」と一様に言うだけで、誰一人として「私の責任だ」と言わなかったことだ。

アンバンドリングによって確かに目先の価格(注:電気料金のこと)が下がったことは認めるが、火力発電設備の買い手は「供給責任」など重視せず、いかにして追加投資をせずに短期的利益を高め、機を見て上手に「売り抜けるか」を考えている。
その結果、いったん値下げ後、値上げになった例もある。さらに、全米を見ても、アンバンドリングを採用したという州は半数にも満たない。その上、失敗して逆戻りしたところもある。
(80〜83ページ)

冒頭でご紹介した記事には、発送電分離が「事業者間の競争を促し、料金引き下げやサービスの向上に結びつくと期待される」とありましたが、これにどの程度の説得力があるかは、すでに明らかと思います。
しかも、加納さんの話はまだ続く。

1941年8月に配電統制令が施行されてから1951年までのおよそ十年間、日本ではアンバンドリングを実施した。戦争目的のために「電力統制」が行われ、自由企業の電力会社が行政に恣意的(しいてき)に再編された。

この結果は惨めな失敗に終わった。電気は特殊な商品で、たえず変動する最終需要に合わせて、「発電」、「送電」の部門をコントロールする必要がある。さらに、発電、送電設備の建設・増設にはリードタイム(注:建設にかかる時間を見込むこと)が必要なので、小売り段階での需要見通しが迅速に発送変電部門に反映されなければならない。いわば心臓と手足のような関係で、これを分断すれば身体はうまく機能しない。
(83〜84ページ)

今回の改正電気事業法成立が、2000年前後の動きとどこまで関連しているかは知りません。
とはいえ、そんなことは二次的な話。

わが国は、
1)_ _ _ 電力危機を引き起こす恐れがあると分かっており、
2)_ _ _ 電気料金を引き下げる保証もなく、
3)_ _ _ かつて一度やって見事に失敗した政策を
堂々とやることにしたのです!

ふつうに考えれば、エネルギー供給責任の放棄としか思えないのですが、それが「電気料金の引き下げやサービスの多様化につなげる電力システム改革の総仕上げと位置づけられている」らしい。
だから、今の日本はパラドックスに陥っていると言うのですよ。
ではでは♪

PS
「大阪都構想」騒動とは一体、何だったのか? 三橋貴明が解説中
https://www.youtube.com/watch?v=ox0dS84nBHQ

<佐藤健志からのお知らせ>
1)自滅的な〈改革〉が、なぜまかり通るのか?
三橋貴明さんも「読んで『これだ!』と思った」と絶賛!

「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
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2)「われわれは長年の固定観念に惑わされ、迷信のせいで大損害を被(こうむ)ってきた。(中略)向こうはこちらに愛着など持っていない、ソロバンを弾(はじ)いているだけである」(124ページ)
アメリカ独立前夜に発せられた言葉に、われわれも耳を傾けるべきではないでしょうか。

「コモン・センス完全版 アメリカを生んだ『過激な聖書』」(PHP研究所)
http://amzn.to/1lXtL07(紙版)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

3)「事態は日を追って収拾がつかなくなっている以上、革命政府は唖然とするようなトンデモ政策を次々と打ち出さざるをえないのだ」(8ページ)
225年前の警告は、重要性を失うどころか、かつてなく切実です。

「〈新訳〉フランス革命の省察 『保守主義の父』かく語りき」(PHP研究所)
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http://amzn.to/19bYio8_(電子版)

4)歴史から何かを学びとったつもりで、じつは何も学んでいなかった国民の物語です。
「僕たちは戦後史を知らない 日本の『敗戦』は4回繰り返された」(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

5)「表現者」61号(MXエンターテインメント)に、評論「汝の右手がなすことを」が掲載されました。

6)「文藝春秋スペシャル 教養で勝つ大世界史講義」に掲載された評論「ウェストファリア条約〜『宗教戦争』の終わらせ方」が、以下でもご覧いただけるようになりました。
文藝春秋スペシャル公式サイト
http://hon.bunshun.jp/category/bungeishunju-special
BLOGOS
http://blogos.com/blogger/gekkan_bunshun_2015summer/article/

7)単行本「福田恆存 人間・この劇的なるもの」(河出書房新社編、同社刊)に、評論「福田恆存の劇的精神〜敵が立派なのは良いことだ」が収録されました。

8)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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