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2015年6月10日

【佐藤健志】〈九条の会〉と安倍政権

From 佐藤健志

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●●三橋貴明が実践する経済ニュースを読む技術とは?
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

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いわゆる安保法制をめぐる国会論戦が、いろいろ話題になっています。
もっとも肝心の論戦自体が充実しているかどうかは、また別の話というのが困りものですが・・・

そんな中、面白い画像をツイッターで発見しました。
白い柵のある薄緑の草むらに、若い女の子が立っている。
袖のないシャツにジーンズ姿で、胸のあたりまである髪を真ん中で分けています。
で、女の子の脇にこんなポエムが。

想像してみよう
もしも明日
この国が戦争を受け入れて
あなたがその手で
誰かを殺すのを
あなたの父や母や兄弟や
友だちや恋人が
誰かに殺されるのを

それでもあなたは
憲法9条を放棄しますか

「東大和9条の会」が作成したポスター(およびチラシ)なのだそうです。
調べてみたところ、〈冬服姿の女の子が、枯れ葉の上に横たわる〉写真に、同じポエムを記したポスターがまずつくられ、それが好評だったので〈草むらに女の子が立っている〉ポスターが「夏バージョン」としてつくられたとのこと。

実際の画像をご覧になりたい方はこちらを。
http://megumiboxy.exblog.jp/9867086

このポスター、2009年にはつくられていたようなので(2005年という説もあります)、本来、安保法制とは無関係。
ただし「集団的自衛権は憲法違反」という主張をアピールするため、あらためてツイートされたものと思われます。

それ自体は、むろん言論の自由のうち。
とはいえ驚かされるのは、〈戦争への危機感〉を表現したつもりと思われるポエムの内容です。

3行目「この国が戦争を受け入れて」という箇所にご注目。
「この国が戦争を始めて」ではないのです。
あくまで「戦争を受け入れて」。

おまけに「あなたがその手で/誰かを殺すのを」「あなたの父や母や/兄弟や友だちや恋人が/誰かに殺されるのを」と来るのですから、ここで想定されているのが、他国が日本に攻め込んでくる「本土決戦」的状況なのは疑問の余地がないでしょう。

憲法9条が改正されようと、日本が戦争を始めることはなく、戦争がありうるとすれば、他国の攻撃を受けた場合のみである!
どうやらこれが、東大和9条の会の現実認識のようですが、ならば9条があったところで、何の役にも立たないのでは?

攻撃を受けたら最後、9条があろうとなかろうと、日本は「戦争を受け入れる」しかありません。
でなければ屈服する以外ないのです。
ついでに屈服したところで、人道的に扱ってもらえることなど保証されないのは、歴史における幾多の事例が証明する通り。

つまり東大和9条の会は、主観的には9条の重要性をアピールするつもりでいながら、実際には9条がいかに無意味な代物かをアピールしたにひとしい!
論より証拠、ポエムを一箇所だけ書き直してみます。

想像してみよう
もしも明日
この国が他国に攻め込まれて戦場となり
あなたがその手で
誰かを殺すのを
あなたの父や母や兄弟や
友だちや恋人が
誰かに殺されるのを

「そんな悲惨な事態を引き起こさないためにも、防衛力の強化による安全保障の確立を!」という結論が引き出せませんか?
必要なら集団的自衛権も、積極的に行使すべしという話になるでしょう。

国益の観点から判断するかぎり、日本が戦場になって、日本人が犠牲になるより、他国が戦場になって、他国民が犠牲になるほうが望ましいに決まっているのです。

・・・東大和9条の会の論理を突き詰めると、集団的自衛権は〈合憲であろうとなかろうと、やったほうがいい〉ことになる!

自分の主張、ないし世界観に、いかなるパラドックスがひそむか自覚しないまま、なんとなく発言していると、こういう自滅的な結果が待っているのです。
現在のように、国のあり方が根底から問い直される時期には、わけてもそれが起こりやすい。

トマス・ペインは「コモン・センス」で、〈公の席であれ、私的な集まりであれ、何も考えずに発言する連中の主張を聞き、知ったかぶりのナンセンスが出るたび、内心ツッコミを入れる〉のを楽しみの一つに挙げましたが、これも当時のアメリカが、独立戦争前夜で大揺れだったことと無縁ではないでしょう。

詳細はこちらをどうぞ。
「コモン・センス完全版 アメリカを生んだ『過激な聖書』」(PHP研究所)
http://amzn.to/1lXtL07(紙版)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

けれども問題は、自滅的なポカをやらかすのが、9条を守ろうとする立場の方々に限られないこと。
安保法制を成立させたがっている安倍政権も、みごとにやってくれました。
こちらの記事をどうぞ!

【与党参考人が安保法案「違憲」】

衆院憲法審査会は(注:6月)4日、憲法学の専門家3人を招いて参考人質疑を行った。憲法解釈変更による集団的自衛権の行使を含む新たな安全保障関連法案について、与党が推薦した参考人をはじめ全員が「憲法違反だ」と批判した。与党が呼んだ参考人が政府の法案を否定するという異例の事態となり、“人選ミス”で墓穴を掘った。

自民党や公明党などが推薦した早稲田大の長谷部恭男教授は審査会で、安保法案について「憲法違反だ。従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかない」と明言した。(中略)

関係者によると、自民党は参考人の人選を衆院法制局に一任したという。ただ、長谷部氏は安保法案に反対する有識者の団体で活動しているだけに調整ミスは明らか。「長谷部氏でゴーサインを出した党の責任だ。明らかな人選ミスだ」(自民党幹部)との批判が高まっている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150604-00000538-san-pol

菅義偉官房長官は同日の記者会見で「(注:安保法制は)憲法解釈として法的安定性や論理的整合性が確保されている」としたうえで、「まったく違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」と述べたそうですが、これは弁明にならないどころか、いっそう墓穴を掘るにひとしい発言。
http://mainichi.jp/select/news/20150605k0000m010085000c.html?fm=mnm

安保法制を合憲と主張する憲法学者が見当たらないのならともかく、そのような立場を取る著名な学者が多々いるとすれば、当該の方々をさしおいて、違憲だとする人物を推薦したことの意味合いは、ますます重くなるのです!

主観的には憲法9条を守りたがっている人々が、9条の無意味さをアピールしてしまい、
主観的には安保法制を通したがっている人々が、同法制を違憲と見なす学者を参考人として推薦する。
国会論戦が充実しないのも当然ではありませんか。

ここから浮かび上がってくるのは、〈右〉も〈左〉もみずからのあり方に重大なパラドックスを抱えており、しかもそれを自覚していないという点です。
このパラドックスを(できるだけ)解消しないかぎり、わが国が将来への方向性を見出すことはありえないでしょう。

真の意味における日本の保守は、〈右か左か〉という二者択一の発想を捨て去ることから始まるのです。
ではでは♪

PPS
6/10まで。大阪都構想、緊縮財政、TPP、成長戦略、、、日本経済の大問題とは?
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv.php

<佐藤健志からのお知らせ>
1)〈右〉も〈左〉も、主観的な意図と正反対の行動をしてしまう!
このパラドックスからどう脱却すればいいのか?
三橋貴明さんも「読んで『これだ!』と思った」と絶賛!

「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

2)6月16日発売の「表現者」61号(MXエンターテインメント)に、評論「汝の右手がなすことを」が掲載されます。

3)「文藝春秋スペシャル 教養で勝つ大世界史講義」に、評論「ウェストファリア条約〜『宗教戦争』の終わらせ方」が掲載されました。

4)単行本「福田恆存 人間・この劇的なるもの」(河出書房新社編、同社刊)に、評論「福田恆存の劇的精神〜敵が立派なのは良いことだ」が収録されました。

5)みずからのあり方に重大なパラドックスを抱えつつ、それを自覚しなかった国民の記録です。
「僕たちは戦後史を知らない 日本の『敗戦』は4回繰り返された」(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

6)「フランスでは、観念論にかぶれた革命派が屁理屈で国を動かし、社会を崩壊へと追いやる制度を築こうとしている。(中略)こんな勝手が許されるとなれば、従来の原理原則はすべて効力をなくしてしまう」(271〜272ページ)
225年前の警告は、重要性を失うどころか、かつてなく切実です。

「〈新訳〉フランス革命の省察 『保守主義の父』かく語りき」(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj_(紙版)
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7)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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