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2015年2月18日

【佐藤健志】<演劇的経済論>スター主義と新自由主義

From 佐藤健志

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●日本を大恐慌に突入させないために必要なこととは?

http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=mag

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先週の記事「演劇の『足し算プロデュース』」のおさらいからまいります。
ここでは、わが国の演劇界(の大部分)において

総キャパ(公演に来て下さるお客様の数の最大想定値)=メインキャストのファン数の合計

という公式が成立していることをご紹介しました。
しかるにこれは、以下の前提なしには成立しません。

ある公演にたいする観客の期待(=観に行きたいと思うかどうか)は、「自分の好きな役者(とくにスター)が出るかどうか」のみによって形成されると考えて良い。

よって、このような姿勢は「スター主義」と呼ばれます。
けれどもスター主義は、本来正しいものではありません。
演劇の魅力は、まずもって作品自体の魅力。
どんな素晴らしいスターでも、つまらない作品で輝くことはありえない。

同時にスター主義に頼っていては、ロングラン公演は不可能。
演劇の公演は週8回が基本です(休演日1回、1日2回の公演日2回。ゆえに7マイナス1、プラス2で8となります)。
いいかえれば一年間のロングランをやった場合、ステージ数は400あまり。
劇場の客席数を1000とすれば、総キャパはなんと40万人強!

スターの動員できるファン数は、ほとんどの場合1万人前後ですから、ロングランはどう考えても無理です。
つまりスター主義は、演劇本来のあり方に反するだけでなく、商業性という点を取っても、決して望ましいことではない。

芝居の芸術性がどうこうと、高邁な理屈をこねる必要はありません。
冷静にソロバンを弾いてみれば、
スター主義に基づく「足し算プロデュース」をやめて、作品自体の魅力で勝負した方が、儲かる確率も高くなる!
という結論が出るのです。

けれども、このような「作品本位プロデュース」に徹したのは、私の知るかぎり劇団四季ぐらいのもの。
あとは一部の大型海外ミュージカルが上演される場合に限られます
後者の場合、ロングランしないことには到底、元が取れませんので、否応なしに「作品本位プロデュース」をしなければならない次第。

とはいえ、変な話ではないでしょうか?
すでに述べたとおり、作品本位プロデュースのほうが、芸術的にも商業的にもメリットが大きいのですよ。
にもかかわらず、現実には足し算プロデュースがあいかわらず続いている。

じつはここにも、それなりの理由があるのです。

作品本位プロデュースで成功するには、優れた作品を取り上げるだけでは足りないんですね。
なぜなら優れた作品であればあるほど、ちゃんとした形で上演するには、役者やスタッフが高い技術を持っていなければならない。
とくに役者は、脇役やその他大勢まで含めて、全員のレベルが高い状態でそろっていることが求められます。

要するに「舞台表現のインフラ(=基盤)」を整備する必要がある。
しかしこれは、公演組織の構築に始まり、トレーニングの方法論の確立、それに基づく役者やスタッフの育成といった、さまざまな大仕事を伴います。
一朝一夕にやれることではありません。
相当な規模の投資と、十年単位の時間がかかるのです。

くだんの整備ができていないまま、作品本位プロデュースなどやったら、無残に失敗するのは目に見えている。

ところがスター主義なら、インフラが整備できていなくとも、無残な失敗とはなりません。
「作品がつまらなかろうが、表現のレベルが低かろうが、好きなスターが出ていれば良い」というお客様しか、どのみち観に来ないんですから。

スター主義は「インフラ整備の手間を省いたまま、そこそこ儲ける」チャンスを提供してくれるのです!
ただしこれには、以下の3つの弊害がつきまといます。

1)スターの基準は「人気があるかどうか」であり、「演技が上手いかどうか」ではない。よって人気さえあれば、メインキャストが下手でも良いことになりかねず、「舞台表現のインフラ」をさらに低下させる危険がある。

2)同様、観客が「好きなスターが出ていれば良い」と構えている状態では、スタッフの腕も磨かれにくい。だが優れた作品であればあるほど、上演には高いレベルの技術が要求されるのだから、これは「優れた作品はかえって取り上げられない」ことにつながる。
ゆえに「作品本来の魅力で観客を集める」という、本来なされるべき需要喚起はますます難しくなる。また比較的少ない上演回数で採算を取らねばならない都合上、入場料が割高になりやすく、その点でも需要は冷え込む。

3)スターの人気に頼っている以上、当然ながらスターのギャラは高くなる。よって他の役者(とくにその他大勢)のギャラは抑制されざるをえず、キャスト間の待遇格差が広がる。

インフラが悪化し、
需要は喚起されないか、下手をすれば冷え込み、
格差が広がる。
どこかで聞いたような話だと思いませんか?

そうです。
スター主義の弊害は、新自由主義に徹することの弊害と言われるものと、きれいに重なっているのです!

考えてみれば、当たり前の話。
現在の日本で新自由主義を唱えるのは、要するに
1)経済が「放っておいたら、拡大どころか縮小しかねない状態」(=デフレ状況)を脱していないにもかかわらず、
2)積極的な財政出動によって「成長のためのインフラ」を整備しようとしないまま、
3)それでも経済をどうにか成長させようと目論むことを意味します。

けれども演劇界におけるスター主義は、要するに
1)観客数が「放っておいたら、拡大どころか縮小しかねない状態」(=デフレ状況)を脱していないにもかかわらず、
2)作品本位プロデュースを可能にするための「舞台表現のインフラ」を整備しようとしないまま、
3)それでも利益をどうにか上げようと目論んだ結果のものなのです。

ちなみにスター主義のもとでは、「演技が下手でも人気さえあれば、主役を張って高いギャラを取れる」ことが起きます。
「人気スターが主演しているだけで、つまらない作品がけっこうヒットする」ことも起きます。

これらはさしずめ「規制緩和によって自由化を進めれば、新たなビジネスチャンスがあちこちに生まれるので、ベンチャー的に起業しても大いに儲かる」と謳うことに当たるでしょう。
なるほど、そんな事例も出てくるに違いない。
しかしその背後には「インフラが悪化し、需要は喚起されず、格差が広がる」という問題がひそんでいるのです。

ついでにベンチャー的なビジネスは、えてして不安定なもの。
となると、真にしっかり儲かるのは、すでに基盤の確立されている一部の多国籍企業に限られることになるでしょう。
演劇界で目下、真にしっかり儲かっているのが、ブロードウェイやウエスト・エンド(ロンドンの劇場街)で基盤の確立されている、一部の大型海外ミュージカルに限られるように、です。

演劇は社会全体の縮図。
「経済再生」や「日本再生」をめざすのであれば、いかに大規模な投資や時間が必要であろうと、インフラ整備の大仕事から逃げてはならないと思います。
ではでは♪

<お知らせ>
1)おかげさまで発売以来、23日間連続でアマゾンのイデオロギー部門1位を記録しました!
「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
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2)2/24(火)の6:00〜7:00、文化放送「おはよう寺ちゃん 活動中」に出演します。
http://www.joqr.co.jp/tera/

3)2/16(月)発売の「表現者」59号(2015年3月号、MXエンターテインメント)に、「ヒトラーがSF作家だったら」が掲載されました。
あのアドルフ・ヒトラーが、独裁者ではなく作家の道を歩み、みずからの思想をSFで表現したら、いったいどんな内容になるのか? そこから読み解く民主主義の真実とは?
同号の特集座談会「プラトンに倣(なら)い、民主主義を疑え」にも参加しています。

4)2/20(金)発売の「言志」03号(2015年3月号、ビジネス社)に「戦後日本のサクリファイス」が掲載されます。
戦後70年、どこまで認め、どこまで否定するのか? アンドレイ・タルコフスキー監督の映画「サクリファイス」を題材に、この点を考えました。

5)「テロに屈しない」「テロを許さない」というのも、じつは現実逃避にすぎないのではないか? 自己欺瞞を抜け出さないかぎり、「日本の悪夢」は避けられない!

有料メルマガ「踊る天下国家」
「『テロに屈しない』という現実逃避〜政府と野党の欺瞞の構造」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar726619
「日本よ、自己欺瞞をやめろ!〜イスラム国の拘束事件をめぐって」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar716370

6)先週につづき、演劇と社会の関連性については、この本もどうぞ。
「僕たちは戦後史を知らない」(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

7)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

PS
最新Videoを公開中。「言葉の定義」を間違えると、悲劇が起こります。
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=mag

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