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2015年2月13日

【上島嘉郎】「安倍談話」に望むこと(その一)

From 上島嘉郎@ジャーナリスト

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●経済ニュースには、どんな裏があるのか? 歪みが生じるカラクリとは

http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=mag

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昨年7月末まで約15年、産経新聞社が発行する「正論」という保守系オピニオン誌の編集をしていました。平成17年11月から26年6月まで「別冊正論」編集長を務め、18年11月から22年9月までは「月刊正論」の編集長を兼ねました。

フリーランスになって、旧知の三橋貴明さんから、編集という“黒衣の仕事”だけでなく、「何か書いてみませんか」と声をかけていただき、本欄に筆を執ることにしました。

私は、「正論」の編集に当たるに際し、「日本を主語とした」雑誌をつくろうと心掛けました。
戦後の日本は、自ら起つという気構えに発する議論よりも、誰に寄り添えばよいか、「アメリカがこうだからこうしよう」とか「中国はこうだからこうせざるを得ない」とかの議論があまりに多いと思っています。それは他者への適応を第一にした話で、自らどんな人間でありたいか、日本は如何なる国として歩んでいくのか、という主体的な話に展開していかない。
「そんなことが現実に出来ると思っているのか」
と、産経社内からも、あるいはお付き合いのあった“識者”からも何度か言われました。

しかし、戦後日本の現実を変更不可能と諦めるのではなく、変えていこうとする意志を持ち続ける日本人でありたい。あらゆる「戦略」は、それを構想する者の気概、志に帰着するものだと考えています。こんな問題意識から、本欄では折々、「大きな絵」「小さな絵」を描かせていただきます。

今年は先の大戦の終戦から70年という節目です。安倍晋三首相が8月の終戦記念日にどのような「談話」を出すか。種々の議論がされていますが、その前提となる歴史の大きな流れに対する視点があまりにも欠けていると思います。

やや旧聞ですが、1月5日の米国務省の定例記者会見でサキ報道官が、「安倍談話」について、「村山談話、河野談話が示した謝罪は、日本が近隣諸国との関係改善に努力をする中で重要な節目になったというのが米側の見解だ」と述べました。

安倍談話について、まず謝罪ありきを求める戦勝国の圧力めいた発言ですが、サキ報道官は翌6日の会見で一転、「圧力を意図してはいない。言い直させてほしい」と弁明しました。安倍首相の年頭会見での「戦後の平和への貢献」や「大戦への反省」という言葉を「前向きなメッセージ」と歓迎し、「謝罪」には触れませんでした。

この二つの会見の経緯について、産経新聞のワシントン駐在客員特派員の古森義久氏がこうリポートしています。

オバマ政権を対外的に代表する国務省の報道官がなぜかくも軽々しい対応をみせたのか。実は、定例会見のメカニズムに原因の一端がある。各国記者からの誘導傾向のある矢継ぎ早の質問に、即座に答えねばならないのだ。
サキ報道官の5日の言明も、実は質問者は日本のTBSテレビ。ワシントン支局現地採用の、若い米国人助手への答えだった。米側が安倍談話に特定の語句の挿入を求めるのかという、安倍政権批判の強いTBSらしい問いだった。
翌日、共同通信の特派員から「昨日の言明は日本政府への圧力だとみる向きもあるが」という質問が出ると、サキ報道官はあわてて圧力の意図を否定。とってつけたように「安倍首相のメッセージを歓迎する」と述べたわけだ。
いずれにしても、米側は最初から安倍談話への要求など準備していたわけではない。
(《米国務省報道官の朝令暮改の陰にTBSの誘導質問》「週刊文春」Web_ 2015.01.15)

サキ報道官の発言の裏には「日本悪しかれ」を実践する日本メディアの“誘導”があったというわけです。

私が安倍談話に望む第一は、世界史(西欧が語る世界史ではなく)の流れの中での日本の歩みを踏まえてほしいということです。

現下の日本が独立国としての要件を欠いているという自覚を持ち、その状態を強い続ける「戦後体制」と戦っていると意識するならば、この戦いに敗れないために不可欠な一つが歴史に対する俯瞰の視点です。大東亜戦争を抜書きして論じるのではなく、今日に至る世界秩序(勢力図)は、どのような経過をたどって形成されたかを踏まえなければなりません。

19世紀に至るまでヨーロッパ諸国によって営々と続けられた植民地経営という名の征服戦争がありました。15世紀以降の地理上の発見とともにヨーロッパ諸国がアフリカとアジアと南北アメリカで行った植民地の収奪で、歴史の教科書にも載っています。

その彼らの飽くなき征服意欲を支えたのは、たとえばアメリカ史に出てくる「明白なる天意」という意識であり、また当時のヨーロッパの人間がキリスト教徒以外の有色人種を人間とは見なしていなかったという事実です。インディオは人間か否かという議論があり、ローマ教皇パウルス三世が「新大陸のインディオも理性ある人間として扱われるべきである」という回勅を出したのは1537年です(ちなみに、ピサロがインカ帝国を征服したのが1532年)。

この回勅があっても、白人キリスト教徒による有色人種への弾圧、収奪は続きました。ヨーロッパ人の何世紀にもわたる蛮行が彼らにとって自然だったのは、聖職者はともかく、一般には宗教的な信条に反しているとは考えられなかったからでしょう。

用語解説ふうの話をすると、「教皇子午線」を知っている日本人はどれほどいるでしょうか。スペインとポルトガルの植民地獲得競争を円滑化するために、1493年、時のローマ教皇アレクサンドル6世が地球上に引いた分割線で、大西洋のベルデ岬諸島の西を通る子午線から西方をスペイン、東方をポルトガルの勢力圏と決めました。

その後、この境界線はスペイン、ポルトガル両国の交渉によってトルデシリャス条約(1494年)、サラゴサ条約(1529年)と修正が加えられましたが、日本人のまったく知らないところで、日本列島は近畿地方以北がスペイン領、以南の中国四国、九州はポルトガル領にされていたのです。

こうしたヨーロッパ人の征服欲が頂点に達し、世界の分割がほぼ完了したのが19世紀で、シナのアヘン戦争、インドのセポイの乱などは、すべてヨーロッパ人の支配に対する非ヨーロッパ人の戦いで、それを武力で鎮圧した際のヨーロッパ人の冷酷な徹底ぶりは、人が動物を狩る感覚での虐殺と変わりませんでした。

アフリカ南端を回ってインド航路を発見した人物として教科書で教えられているバスコ・ダ・ガマは、二度目にインドにやって来た1502年2月、数百人の船客を乗せて停泊中の船を拿捕し、積み荷を没収して船に火を放ち、何人かを除いて乗客のほとんどを焼死させました。港に大砲を撃ち込み、現地民をとらえて帆架につるしたり、彼らの手足を切断して王宮に送りつけ脅したり…、まあ、やりたい放題。しかし、アジアとアラビアの商人たちの抵抗はヨーロッパの近代火器の前に潰えざるを得なかった。

こんな残虐が当たり前に行われた時代が続いた結果、19世紀末までに、日本などわずかな例外を除いて地球上のほとんどすべての地域がヨーロッパ人の支配下に置かれたわけです。アフリカの分割は完了し、南北アメリカから原住民の王国は消滅し、アジアも英領インド、英領ビルマ、英領マレー、仏領インドシナ、オランダ領スマトラ、オランダ領ボルネオ、オランダ領ジャワ、米領フィリピン、ドイツ領ビスマルク諸島となり、オーストラリアはイギリスが獲得しました。

歴史家のディエル・デル・コラールは、近代の科学と技術を産み出したヨーロッパを「魔法使いの弟子」と呼んだそうですが、そうした彼らが猖獗をきわめた時代の荒海に、幕末以後の我が父祖は乗り出していかざるを得なかった。

いかにも日本は大東亜戦争でビルマやマレー、インドシナ、フィリピンなどで戦いました。そこで現地の人々を戦火の巻き添えにしたことは否めない。しかし、日本は現地の人々を敵としたわけではありません。そこに居座っていたヨーロッパと、アメリカと戦ったのです。まずはこの点をしっかりと踏まえておきたいものです。
次回もこの話の続きを──。

PS
戦後日本の情報の歪みとどう向き合うべきか?
もし、あなたが、そんな問題意識をお持ちなら、このVideoがお役に立つはずです。
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=mag

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【上島嘉郎】「安倍談話」に望むこと(その一)への5件のコメント

  1. kanata より

    桜での上島さんの冷静なご意見には、常に眼を開かされ、深く納得させられます。新日本経済新聞でも上島さんの論説を読むことができるのは大きな喜びです。欧米により国土も言葉も文化も民族の純血種さえ奪われた南米などの人々は、かつての支配者にどのような感慨を持つのでしょうか。日本も、いまだに属国として収奪の対象ですが、真の独立を勝ち取るのか、それとも完全なる属国として国体さえも破壊されてしまうのか、ここ数年から数十年の間に決まっていくのでしょう。さて、いま日本はどちらの方向に向かっているのか、上島さんの論説に注目しています。

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  2. 言起 より

    上島さんって、あの上島さんですよね。チャンネル桜の「闘論倒論討論」でよくお見かけしております。その上島さんのメルマガがここで読めるとは・・!。上島さんのご発言は、H26.4.1のチャンネル桜「闘論倒論討論−言論最前線の現在」で感じ入りました。今後も、毎回楽しみにしています。

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  3. ofu_1 より

    三橋貴明(敬称略)のグラウンドに載せられるか分かりませんが、歴史の教科書とかキリスト教が出てきましたので、大変参考になるyoutube、宮脇淳子と日下公人の通算10時間以上に渡る公開話談です。https://www.youtube.com/playlist?list=PLdoANlSaeHvcoqe3ZrV077ea1s0O0iNlo たった150年くらい前には奴隷の身分(征服された地域の人の色を問わず。西欧の白人種を崇拝するのは明治維新時代のマスコミ人?のねつ造です)の者をゴキブリやばい菌のように殺していました。 キリスト教を葬った織田信長の先見がうかがわれます。一つの信仰しか認めないキリスト教は侵略の理屈付けに利用された、ということです。 

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  4. たかゆき より

    歴史に学ぶ♪「大きい絵」と「小さい絵」、、全ての事象にはマクロ的視点からとミクロ的視点からの観察方法がございますね。次回以降のお話も楽しみにしております?そういえば福沢諭吉先生も「一身独立して一国独立す」とおっしゃってました。独立自尊 明治は遠くなりにけり

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  5. 神奈川県skatou より

    むかし年寄りから聞いた話ですが、東南アジアを支配した白人は現地の召使いの前で、女も平気で裸になったそうです。犬に見られてもはずかしくないのと同じだったと。植民地とは経済的なはけ口であり、収奪のため、相手の存立を一切考慮しない経営だったと理解すれば、日本のやった併合と同化政策とは、区別あってしかるべきだと思います。#1945年まで日本は悪の枢軸だったそうですが、アメリカの#公民権運動は1960年代だったような。。アメリカさんお忘れですか?なお、今の価値観で併合は良し悪しを言うことはあるかもしれませんが、それは歴史に対するスタンスとは違うので無駄な議論になりそうです。身に沿わないプライドを背負い込むと認識がねじれるようで、歴史を修正する国ほど、相手を修正主義と罵倒するようですが。植民地と併合・同化。わずかではあるが違い、でしょうか。ただ、日本も隣国の見苦しいプライドを他山の石とすべきですね。

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