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2015年2月4日

【佐藤健志】ゴダールの大予言

From 佐藤健志

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●月刊三橋最新号のテーマは「フランス経済」。

中東の混乱、ISILの背景にある「ある問題」がわかる

https://www.youtube.com/watch?v=eQUSqYvie2s

「ユーロという罠」に落ちた大国の選択から、
なぜ、明日の日本が見えるのか?

フルバージョンが聞けるのは、2/10まで。

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1973年に大ベストセラーとなった五島勉さんの「ノストラダムスの大予言」(祥伝社)は、もともと「10人の予言者を扱った本」という企画として持ち込まれたそうです。

しかし同社の名編集者・伊賀弘三良(いが・こうざぶろう)さんが、ノストラダムス一人に絞ることを決定、あの形になったとか。
当初のタイトルは「世紀末を語った10人の予言者」だったと言われますが、これではヒットしなかったでしょう。
伊賀さんの功績は偉大です。

よって「大予言」という言葉も、伊賀さんの考案である可能性が高い。
こちらも秀逸でした。
何せノストラダムスいらい、天下国家、あるいは人類の将来に関する予言については、「大予言」と呼ぶのが通例となったのです。

しかし大予言が、いつもオカルトめいた形で出てくるとは限らない。
フランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダールが、1966年の映画「メイド・イン・USA」に盛り込んだ次の言葉も、イスラム国をめぐる問題を的確に見通しており、その意味で大予言と見なすことができます。
いわく。

すでにフィクションは現実を凌駕(りょうが)した。
すでに血も流れ、状況は謎に包まれている。
すでに私は、「ハンフリー・ボガートが主演を務めるディズニー映画」の世界を漂流している気がする。
ゆえに、この映画は政治映画なのである。

解読すれば以下の通り。

1行目「すでにフィクションは現実を凌駕した」
イスラム国は「国」を名乗っているものの、国際的に承認されているわけではなく、架空、ないし虚構の国家という側面を持つ。
しかしイスラム国が、現実の諸国家にたいする脅威となっているのも否定しがたい事実。つまり虚構の国家が、現実の国家を凌駕しているのである。

2行目「すでに血も流れ、状況は謎に包まれている」
説明不要。1月の日本人拘束事件では、湯川遥菜さんと後藤健二さんがそろって犠牲になった。また1月20日に最初の殺害予告動画が投稿されてからの事態の推移が、きわめて不透明だったのは周知の通り。

3行目「すでに私は、『ハンフリー・ボガートが主役を務めるディズニー映画』の世界を漂流している気がする」
キーワードは「ハンフリー・ボガート」。名作「カサブランカ」(1942年)の主役として知られる人物だが、もともとはギャング映画の悪役を多く演じていた。スターとなった後も、ハードボイルドのイメージで売っている。

すなわちボガートがディズニー映画に主演するとは、「甘く優しい夢の世界に、タフでハードな世界が割り込み、しかもなぜか一体化してしまう」ことを意味する。
「甘く優しい夢の世界」を「憲法前文、ないし九条的な世界観」(あるいは「対米協調さえしていれば大丈夫という世界観」)、「タフでハードな世界」を「テロの現実」と読み替えれば、現在の日本が置かれた状況そのもの。

4行目「ゆえに、この映画は政治映画なのである」
「メイド・イン・USA」は、表面的な内容だけを取ればギャング映画の一種であり、政治の問題を直接的に扱っているわけではない。
しかし虚構が現実を圧倒し、「甘く優しい夢の世界」と「タフでハードな世界」の区別も曖昧になった状況においては、「政治の問題を直接的に扱うこと」と「政治的であること」もイコールではなくなる。

政治を直接的に扱っていようと、「甘く優しい夢の世界」に留まっているようでは、真に政治的とは言いがたい。
逆に一見、政治とは関係ないようなものでも、虚構が現実を圧倒した状況を浮き彫りにしていれば、本質的なレベルで政治的と呼びうる。
わが国における言論、および文化のあり方をめぐっては、まさにこのパラドックスが成立しているのではないだろうか。

前回記事「愛国のパラドックス」では、「経済の問題は、政治、社会、イデオロギー、あるいは文化の問題と切り離すことはできません」と論じました。
ならばゴダールの言葉は、「今や『政治的な事柄』と、『政治的でない事柄』を切り離すことはできない」と解すべきでしょう。

ちなみに映画のタイトル「メイド・イン・USA」も、この状況をつくりだしたのが(主として)アメリカであることを暗示したものと受け取れます。

では今後、世界はどのような方向に行くのか?
ゴダールの最新作(現在公開中)の邦題は、これをめぐる予言となるかも知れません。
ずばり、「さらば、愛の言葉よ」。

ではでは♪

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4)イスラム国の拘束事件をめぐる「ハンフリー・ボガート主演のディズニー映画」的状況についてはこちらを。
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5)そして、ブログとツイッターはこちらです。
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