From 島倉原@評論家
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「ユーロという罠」に落ちた大国の選択とは?
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おはようございます。
先週の柴山桂太さんに引き続き、ギリシャ問題について、より金融的な切り口から取り上げてみたいと思います。
↓ちなみに、柴山さんの記事はこちらです。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/08/shibayama-43/
昨年後半以降、ギリシャ国債の利回りが急上昇しているのは柴山さんもご指摘の通りですが、もう1つ生じているのが「長短金利の逆転」。
これは、満期の短い債券の利回りが、満期の長い債券の利回りを上回る現象です。
(参考記事)ギリシャ国債利回り急上昇、長短金利が逆転(ロイター、2014年12月10日)
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0TU2NK20141210
定期預金の金利などでおなじみのように、満期の異なる金融商品の間では、満期の長い商品の利回りの方が高いのが通常です。
お金の出し手から見れば、満期が長くなるほど、自分の資金を他の用途に使えず機会損失が発生する可能性が高まることに加え、金利変動リスクや貸倒れリスクといった、将来に関する不確実性リスクが高まる訳ですから、その対価として高い利回りを要求するのは、いわば理の当然でしょう。
ところが、今回のギリシャのような長短金利の逆転現象は、金融市場でも時折発生します。
上記記事でも軽く言及されていますが、こうした現象が発生するパターンは、大きく2通りあるといわれています。
1つは、先行きの景気後退が予想されている場合。
近い将来の景気後退が予想される局面では、先行投資意欲が低下します。
先行投資を行う際には、ある程度長めの期間で投資資金を調達するのが一般的ですから、経済全体で先行投資意欲が低下する局面では、長めの資金需要を反映する長期金利に低下圧力がかかります。
資金の出し手から見ても、先行きの景気後退予想は将来の金利低下予想に直結するため、長短金利の逆転にも一応の合理性が存在します。
例えば、現在の1年物金利が5%、1年後の1年物金利は景気後退によって3%に低下すると予想されている場合、今後2年間の資金運用を1年物商品2回転で運用した場合の予想平均利回りは約4%になりますから、「現在の2年物金利」の理論値もまた、現在の1年物金利より低い4%となります(景気後退予想が支配しているのであれば機会損失リスクは小さいと評価されるでしょうし、国債であれば貸倒れリスクはほぼ無視できるでしょう)。
こうした形での長短金利の逆転は、しばしばバブル期の最終局面に生じます(実際、アメリカのITバブル、サブプライム・ローン・バブル、あるいは日本の1980年代バブルでも、長短金利の逆転が生じました)。
もう1つの長短金利逆転パターンは、債務不履行(デフォルト)懸念が高まった場合です。
債務不履行が実現すると、貸出期間の長短にかかわらず、しばしば一律に返済額がカットされます。
例えば、満期1年の債券と満期10年の債券の返済額が共に50%カットされると予想され、額面の半額で取引されているようなケースでは、1年物の「計算上」の利回りは100%、10年物のそれは約7%となります(満額の返済が予想されていないわけですから、言うまでもなく、この利回りは「期待利回り」とは別物です。なお、説明の便宜上、経過利息などは無視しています)。
長期金利が急上昇している今回のギリシャは、言うまでもなく後者の債務不履行懸念パターン。
しかも、こうしたパターンが生じているのはギリシャだけではありません。
実は昨年後半以降、ギリシャに先行して、ウクライナ、そしてロシアでも同様な現象が生じているのです。
ウクライナについては、債務不履行を防ぐための追加支援策が直近でも表明されています。
(参考記事)欧州委員長、ウクライナに追加金融支援2500億円表明(日本経済新聞、2015年1月9日)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM09H4P_Z00C15A1EAF000/
これらの国々のいずれかで実際に債務不履行が生じた場合、金融危機が周辺国、特に東欧諸国に波及するシナリオが懸念されます。
昨年、特に7月以降、ユーロ安や新興国株安が進んでいますが、ハンガリー、ポーランド、チェコといった国々では、通貨も株式も、さらに低調な動きを示しています。
あるいは、18年前のアジア通貨危機がロシアなどにも波及したように、上記の国々と同じくらい通貨や株式が低調なコロンビアやブラジルをはじめとした、他地域の新興国に波及する可能性もないとは言えないでしょう。
新興国全般が金融危機に対する惰弱さをはらんだ状態であることは、以前本メルマガでもご紹介した、下記の記事で論じたとおりです。
(参考記事)新興国危機が起こるとしたら…(島倉原ブログ、2014年9月30日)
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-66.html
あるいは、先進国の中でもポルトガル、オーストリアなど(いずれもユーロ導入国)は昨年の株式市場のパフォーマンスがギリシャ並みに悪かったように、危機が先進国に波及して大規模なパニックが生じる可能性も否定できません。
17年前も、アジア通貨危機が波及したロシア危機がさらに転じて、アメリカのヘッジファンドLTCMの破たんをもたらし、世界の金融市場が動揺しました。
さて、ひるがえって我が日本。
あくまでも部分的、一時的な現象でしかありませんが、今回のテーマである「長短金利の逆転現象」は、実は年始早々の日本でも生じていました。
(参考記事)金利、「5年」「3カ月」並ぶ 日銀緩和、市場にひずみ(日本経済新聞、2015年1月6日)
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO81582780V00C15A1EN2000/
この現象、一義的には、残存期間3〜5年の国債を買い入れターゲットの1つとした日銀の金融緩和(供給サイドの要因)がもたらしたものであることは言うまでもありません。
他方で、お金を融通する価格である「金利」を決めるのも、あくまで「需要と供給のバランス」です。
したがって、こうした歪んだ金利形成が、需要サイドの投資意欲(あるいはその背景となるはずのインフレ期待?)低下を反映した結果であり、さらに言えば、金融緩和に偏った現状の経済政策ではそうした事態を打開できないことを反映した結果であることも、また事実でしょう。
ちなみに、先述したポルトガル、オーストリアをはじめとして、「昨年の株式市場のパフォーマンスが悪かった先進国」として上位に並ぶのはほとんどユーロ圏諸国ですが、日本のそれも米ドル建てではマイナス5パーセント強、「スペイン以上オランダ以下」のポジションでした。
こうしてみると、「日本経済は事実上、景気後退予想パターンの長短金利逆転モードにある」といっても、あながち間違いではないかもしれません。
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