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2015年1月14日

【佐藤健志】「国民を見捨てない国」の大事さ

From 佐藤健志

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●月刊三橋最新号のテーマは「フランス経済」。

「ユーロという罠」に落ちた大国の選択とは?
フランスに今が分かれば、日本が見える!

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個人でも企業でも国家でも、信用の有無は大きなポイントです。
これを(逆説的に)裏付けているのが、本紙1月12日の記事「新たなデマ情報」。
冒頭、三橋貴明さんは次のように断じました。

「通貨の信認」「国債の信認」「外需依存国」「国際的な信用」「岩盤規制」などなど、定義不明確な言葉を用い、特定の目的を達成するために情報を歪めることほど、(私が)嫌いな行為はありません。

まったく賛成ですが、例として挙げられている5つの「定義不明確な言葉」のうち、「信」がらみのものが3つもあるのにご注目。
信用の有無は、実際に重要な意味合いを持ちうるからこそ、情報を歪める際のキーワードにしばしば使われるのです。

しかし信用をうんぬんするなら、通貨や国債、あるいは日本経済にたいする諸外国の評価などより、いっそう根本的なものがあることを忘れてはいけません。
つまり、国や政府にたいする国民の信頼です。

選挙を実施することが「国民の信を問う」とも形容される通り、この信頼こそが政治の基盤。
だとしても、国や政府にたいする信頼とは、具体的に何を意味するのか?

ここでご紹介したいのが、岩手県の達増拓也知事の発言。
昨年、復興をテーマに対談させていただいたのですが(「超復興の実務と理想」、『Voice』2014年4月号)、その中で知事はこうおっしゃったのです。

復興の仕事をしていて思うのは、国の外交や防衛というのはある程度、犠牲を払ってでも国益を追求し、目的を達成しなければならない。最も極端な例は戦争です。国家には戦争の勝利という目的のため、ある程度の人的犠牲は厭(いと)わない、という側面があります。
しかし、地方自治というのは取りこぼしが許されない。地方自治法にある「住民の福祉の増進」は、すべての住民の方が一人残らず享受すべきものです。(中略)大事なのは、一人ひとりに事情とニーズがあり、その人ごとの復興があるということです。「一人一復興計画」の総体が、県の復興計画です。
(132ページ)

取りこぼしが許されない。
裏を返せば、これは「誰一人として見捨てない」ことを意味します。
だから県民一人ひとりの復興計画を積み重ねていったものが、県全体の復興計画ということになる。

知事は国政と地方自治を対比させる形で語っておられますが、国政においても「取りこぼしは許されない」という姿勢は大事だと思います。
というか、むしろ国政においてこそ大事。
なぜか?

発言にある通り、政府は時として、国民に犠牲を求めねばならないからです。
それは国家の宿命とも言うべきもの。
だとしても「宿命なんだから、国民は犠牲を受け入れて当たり前」などと構えたら最後、大変なことになります。
遅かれ早かれ、そんな政府は国民に愛想を尽かされるでしょうし、国そのものが崩壊の道をたどるでしょう。

国民が(必要とあらば)犠牲を受け入れるのは、国や政府にたいする信頼が保たれているときだけ。
当の信頼の基盤となるのは、「たとえ犠牲を求めてくることがあっても、国や政府は結局のところ、あらゆる国民を見捨てない」という心情ではないでしょうか。

自分が死んでも、残された家族は国が守ってくれる。
いざとなれば、国家が最終的に責任を持ってくれる。
そう信じられるかどうか。

『戦場のメリークリスマス』などで知られる映画監督の大島渚さんは、1966年に発表した「<パパ> この健気な英雄」というエッセイの中で、戦前の日本にはそんな信頼感が確かにあったと語っています。
だからこそ、日本人は徴兵にも応じたし、戦場にも向かった。
しかるに戦後は、国家への信頼感がなくなってしまい、それに代わる新たな連帯感も生じていないのだと。

ご存じの方も多いでしょうが、大島さんは思想的には左翼です。
つまり戦前の日本には批判的。
それでも、こう書いたのです。

ならば日本を取り戻すためにも、「国家は国民を見捨てない」「犠牲を求めることがあったとしても、結局は取りこぼしを出さない」という信頼感を確立することは、きわめて重要となります。
「戦後からの脱却」はもとより、景気回復にしたところで、この感覚に裏打ちされていなければ、そもそも達成できないか、達成できたとしても不安定、かつ脆弱なものにすぎないでしょう。

達増知事の言葉をもじれば、国家の真の強靱性とは、国民一人ひとりが国にたいして抱く信頼感の総体なのです。
ずばり「これに代わるものなし」(There Is No Alternative)。
グローバリズムにとことんハマるのならともかく、日本を取り戻すというのなら、この道しかありません。
ではでは♪

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