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2013年8月12日

【三橋貴明】経済人の終わり

FROM 三橋貴明

【今週のNewsピックアップ】

●若年層失業率65%の国
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11589173555.html

●国家の安全保障
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11589800437.html

ピーター・F・ドラッカーは1939年に、ナチスの影響が濃くなったウィーンにおいて、若干29歳にして「経済人の終わり」を出版しました。本書は、

「完全に自由な経済活動が自由と平等の社会をもたらさず、将来ももたらしえないことを悟った大衆がファシズムをもたらし、ナチズムを誕生させた」

ことを憂えた名著です。要するに、経済人を中心とした経済学(当時は古典派経済学)の限界と終焉について語った書籍なのです。
ドラッカーは同書でナチスとスターリンのソ連が「手を結ぶ」ことを予見していましたが、非・民主主義という意味ではナチズムもコミュニズムも同じです。
具体的には、国民経済がバブル崩壊という試練に会い、デフレが深刻化し、失業率が上昇したとき、大衆は「自由な経済活動が幸福をもたらす」ことを信じなくなるのです(現実に、自由な経済活動が国民所得の拡大をもたらすことが不可能になるため)。
結果的に、エキセントリックな政治的な暴走、あるいは民主主義の暴走が発生し、「理性」「経済合理性」とはまるで方向が違う政府が誕生し、国家が変貌してしまうという話です。

とはいえ、バブル崩壊後に失業率が急騰している時期に、大衆が「経済学」を信じなくなるのは、むしろ「合理性」という面では正しいのです。あるい意味で、理性的であるとすら思います。何しろ、失業率高騰を政府に放置されてしまうと、自分が飢え死にしかねないのです。というわけで、バブル崩壊後の失業率が急騰した局面において、大衆が「経済人」とは別の何かに姿を変えてしまうのは、三橋から見れば見事に合理的なのです。

ただ、経済人という「経済合理性のみを追求する人間」を中心にしなければ学問を語れない経済学者(古典派、新古典派)たちが困惑するだけの話です。

そして、「経済人」を基本に発展した経済学(古典派、新古典派)が考慮に入れていない「重要な概念」こそが、国家の安全保障です。たとえば、国防一つとっても、自衛隊という「軍隊」の存在は、戦争が起きなければ「ムダ」「非効率」ということになってしまいます。非常時に備える「軍隊」の存在は、経済合理性で説明することはできません。

といわけで、アメリカでは「軍隊」についてまで、市場原理を応用した「民営化」が進んでいます。日本でも、自衛隊の装備品調達が、次第に「自由化」「規制緩和」されていっています。

とはいえ、国家の安全保障についてまで「民間企業」、特に利益を追求する「株式会社」に委ねてしまっていいのか、という疑念を覚えずにはいられません。何しろ、純粋に利益のみを追求するのであれば、「ムダの削減」というテーマが必ず浮上します。05年に道路公団が民営化され、各「高速道路株式会社」が利益を出すことを要求されたとき、インフラのメンテナンス費用は削減されざるを得ません。結果的に、中央自動車道の笹子トンネルのような事故が起き、国民の安全に危険が及ぶようになったにも関わらず、

「本当に、これでいいのか?」

という疑問を感じない方がおかしいと思います。

そもそも、経済学とは言葉の定義で言えば、「経世済民」の学問のはずです。経世済民とは「国民を豊かにする政治」のことなので、そもそもが「政府の学問」であるはずなのです。

ところが、現実の経済学は政府、国家ではなく「市場」を中心に進化しており、この時点で古典派も新古典派も本来の意味における「経済学」ではないという話なのだと思います。

いずれにせよ、若年層失業率が65%に達したギリシャで、政府が雇用対策に乗り出せない。理由が「経済学」のためであるとなると、ドラッカーの若き頃と同様に、ギリシャでも「非理性的」な思いを大衆が抱くようになるでしょう。結果的に、大恐慌期同様に「失業」という問題が壁となり、新古典派経済学も失墜せざるを得ないとわけです。戦前に、全く同じ理由から古典派経済学の権威が地に落ちたように。

現代の「人類」は、経済学という学問について、改めて考え直さなければならない時期なのです。

PS
新古典派経済学の違いの結果、韓国はグローバル経済の餌食となり、
自殺者数NO.1の格差社会に。構造改革の結果、日本はどうなるのか?
隣国の惨状が参考になるはずです。
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_384KR_S_D_3800/index.php

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【三橋貴明】経済人の終わりへの7件のコメント

  1. 古事記 より

    高尚な理想では有りません。時と所と位に応じた行為が日本の伝統的生き方です。『我良く他人良く、共に良く、我だけチョット良く。』これが日本の伝統です。少なくとも社是や組合の設立意義、運動の根本を外れる行為は二の次で、掲げた理想を優先。先駆者は全てこれを守り日本社会を築いて来た結果が現在の日本です。江戸、明治、大正の学者達。大正デモクラシーの故、河合栄次郎先生の理想主義です。教育に関しても金儲けの学問を否定しておられます。結果としての利益までは否定はされておりません。国を語る時は国を優先。カルトでも全体主義でも貴殿は根本に我利我利と亡者の様に巣食う人の性を優先されては居られませんか?時と位と場所に依って、ヤッテ良い事、悪い事が有り時代や国に依っても変わるのです。掲げた理想を曲げるから、優先順位を変えるからカルトに変身し全体主義に変身するのです。理屈を曲げても蒔いた種は生える、因は縁に触れて結果を生じる。三橋グループはそれぞれの人が今迄これが守られています。『人は言葉で無く、その継続する行為を見よ』理想は厳しく運用は寛容を持って行う。(最近は逆です)

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  2. 名前はまだ無い より

    追記。8/15付けの新世紀のビッグブラザーへの記事『日本の独立を考える』の記事は素晴らしいと思いました。アメブロの会員ではないのでこちらに感想を。私は軍事はよく分かりませんので武器輸出・集団的自衛権等の問題についてははっきり是非を言うことができません。しかし世界情勢、特に日米中それぞれの抱えるジレンマを考えると記事の内容に全く同感です。戦後レジームはここに来てアメリカの衰退と中国の国内矛盾の高まりによって否応もなく形を変えつつあります。日本にとってはピンチでもありチャンスでもある。安倍さんに全部おまかせにするつもりはないですがこの状況に対してどう対応されるのか注意深く見ていこうと思っています。大切なのは日本の自立に向かう一歩を踏み出せるか否か、でしょう。

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  3. 通りすがり より

    上の件、私の妻も多少同感とのことです。気になる人は気になるのかもしれませんね。私は三橋さんの熱い姿勢は好きなのですが、好意的に受け取ってくれる人ばかりではないようです。別件ですが「赤池まさあき」議員の件で、私も意見があります。三橋さんとこに書くのは筋違いなのですが、すみません。(1)チャンネル桜で赤池さんの動画を見ていて気がついたのですが、発言の頭に「いや」「いえ」という否定形の枕詞がつくことが多いと感じています。例えば「いや、そうなんですよ」とか「いや、じつはですね」など。たぶんクセなんだと思います。でもこれが連発するから気になります。できれば「はい、そうなんですよ」とか「はい、じつはですね」というふうに肯定的な枕詞だと見ていて気持ちいいです。否定が頭にくると「偉そう」「理屈っぽい」「面倒くさそうな人」という印象を持ってしまいます。あくまで私個人の感じ方かもしれませんが、視聴者に与える印象はバカにできません。(2)赤池さんのFacebookをウォッチする場合、友達申請するしかありません。フォロー許可やリスト許可をOFFに設定しているためです。私は赤池さんとは友達でないため、赤池さんのFacebookの更新情報をウォッチする術がありません。なので、赤池さんの活動状況を見逃すこともあり、これが続くと赤池さんのFacebookを見るモチベーションが下がり、今では見ていません。今回の参院選の赤池さんはネットの影響で当選された一面もあるかと思いますので、ぜひともフォローやリストを許可してくれればなどと思っています。以前、赤池さんにこの件でメッセージを投げたのですが変化が無いので今では諦めています。場違い・筋違いなコメントで汚してしまい申し訳ありません。赤池さんにこのコメントを読んでもらえるといいのですが。偉そうですみません。

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  4. 通りすがり より

    おっしゃる気持ちはわかりますが、高尚な理想だけでは人は動きません。古今東西、渡世の原理である「個人の利の獲得」を棚上げしては何も始りません。この原理を認めないとすれば、それは全体主義または狂信カルトです。そんな世の中は嫌です。原理を認め、原理を利用して目的を達するのが当世風ではないでしょうか。なんて思いました。

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  5. daido より

    いつも三橋さんのご活躍を楽しみにしている者です。その中で、最近の三橋さんご自身の事について、僭越ながら少し小言を言わせて頂きたいのです。最近の三橋さんの動画は、中身は相変わらず大変勉強になるのですが、ご自覚かどうかは分からないですが、話し方が多少、特に対談や討論の形式において、態度が横柄に感じられる場面が多くなってきたように思われます。原因は、主に二つあると思います。1・相手の話の途中に自分の話を被せてしまう2・タメ語が多すぎるこの二点を、出来れば改善して頂きたいのです。相手や話の内容によっては、語気荒く攻める場面も当然でてくるでしょうが、それ以外は、基本丁寧な対応を心掛けるべきかと存じます。それによって、今以上に三橋さんの言論に深みと説得力が増すはずなのです。三橋さんの話し方は特に気にならない、という方もいらっしゃるでしょうが、結構ヒヤヒヤしながら見守っている方も多いのではないでしょうか(笑)。お忙しい中ぶしつけな意見で恐縮ですが、ご検討下されば幸いです。ではこれからも引き続き、応援させて頂きます。

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  6. 名前はまだ無い より

    岡田 英弘氏の著作の中で明治期にヨーロッパの近代語を日本に取り入れたときに中国語の熟語をあてたために誤訳がいっぱい生じたという話がありました。まあどうしてもそういうことは起こらざるをえないですね。もちろんどんどん日本語に翻訳してヨーロッパの思想、概念を取り入れていくということ自体がすごい知恵だと思いますが。economyに対して『経世済民』という言葉をあてたのはどうだったのでしょうか?西部先生が良くお話しされていますがeconomyは『家の秩序』のような意味ですよね。とするとやっぱり国家財政を家計と混同する合成の誤謬を含みやすいものなのかと思います。対して『経世済民』には民を済うという思想が自ずと入っているように思えます。とするとeconomicsを『経世済民のための学問』とまで言うのはあまりにも素晴らしすぎる意訳かも知れません(間違いとまでいうほど離れてはいないと思いますが)。少なくともテレビによく出るような経済学者が「世を経め民を済うには・・・」と常に頭に置いて発言されているようには到底思えません。『経済=お金の話』ぐらいが一般的な認識でしょう。しかしお金は経済活動を円滑にするためのツールであり『経済』の一部分に過ぎません。なんにせよ『経済』というのはいい言葉です。この素晴らしい言葉本来の意味に立ち返って国家のあり方が議論されることを望みます。(『既得権益』とか『バラマキ』のような空疎な言葉でなく)

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  7. 古事記 より

    今回の指摘は非常に重要な指摘です。公より私の利益や安全を優先し、日本の国家国民を他国の権力、暴力の手先となり批判し、時には人権、福祉、を叫びながら、その実は自らの安全と利益の為に生きている。(ここ十数年は人権利権、福祉利権、差別利権が幅を利かしている。)その典型が日教組であり、自治労、大手労働組合員、規制悪玉論の経済人達です。そして最も利権の恩恵の与りながら甘い蜜を吸い、まるで正義の味方の様に振る舞い、利益誘導を平気で行うマスコミ。個人主義を訴え、自らの矛盾をごまかす無責任の代表、日教組の教育が蔓延するまではもっと日本国内に真面目に考える人間が多く存在し尊敬に値する学者、経済人、権力者が戦前の世代には多く存在し戦後の日本をここまで豊かにして来た。これらの先人は国や地域を思い憂い、志をもって人生を送り、学者は専門の隣に有る学問も勉強し、経済人は製品サービスの向こう側にある関係者の事を考え、労働者、や組合は関係業者と共に繁栄するように気を使い。日本を成長発展させて来た。今は団塊の世代とその親が日本の舵取りを行い危うい状況に思えてならない。 * 三橋グループの影響を受け、賛同する向上心有る、国民が増えるように、経済も政治も法律も日本の国、国民の為が優先で無ければならない。反日左翼、反日経済人に負けないように拡散をお願い致します。(本当に今回の政権は重要な局面での舵取りです、無知であっても反日売国政策は歴史に名を刻む局面、騙す気が無く真面目な行動でも、責任ある者(地位、役割ある者は無責任な言い訳の “知らざるの罪” は通用しない時代局面です)

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