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2013年8月6日

【藤井聡】米国の要求項目

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授

日経新聞で,次の様な記事が掲載されていました。

米「車の規制統一を」
〜TPP対日協議で提案へ-燃費や騒音、販売増狙う〜
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF0300F_T00C13A8NN1000/

そのおおよその内容は,こうです。

「環太平洋経済連携協定(TPP)交渉と関連して7日から始まる日米協議で、米国が日本に提示する要求項目が分かった。」

とのことで,その内容は,

「日本に自動車の燃費や騒音の規制を統一し、性能基準の見直しを迫る。日本 市場で米車の販売を増やすのが狙い」

とのことで,その具体的な内容は,

自動車の騒音規制は日本だと時速50キロメートルで72デシベル以下、もっと速いと76デシベル以下と定めている。」のですが,この規制が邪魔で,アメリカのクルマをそのまま日本では売れないので,アメリカは日本に騒音規制の「段階的緩和」のみならず「撤廃」を迫る方針だそうです。

さらには「燃費や衝突安全テスト」でも「米国方式」を採るように求めるそうで,さらにさらに,「排気量が大きい車ほど税金が高くなる自動車税の見直し」もまた,要求項目の一つだそうです。

。。。ということで,日本人がこれまで様々な議論と実践を重ねながら,一生懸命作って,そいでもって全ての日本人が真面目に従い続けてきたいろいろな「安全」や「環境」「騒音」などについての制度や仕組みを,アメリカは,自国のクルマを日本で売りやすくするために「緩和せよ!」「撤廃せよ!!」と要求してきた,ということであります。

もちろん,日本政府はこうした要求を「拒否」する方針とのことですが,いずれにせよ,ここだけ切り出せば,日本国内にいろいろな意見(反発!)が出てくるのも当然だと思います。

しかし!!!

忘れちゃならないのは,これらの事項は、「日米の二国間協議の交渉のテーブル」の上で,あくまでも「普通」に「ごくごく当たり前の手続き」でもって,突きつけられてきた要求だ,ということです。アメリカが悪いんじゃ無い。このテーブルに着いたらこうなるのも当然だ,という話であります。

しかも,これまでの日米間の自動車に関する交渉の経緯を踏まえれば,アメリカ側からこうした事項が要求されることは,十分に「わかっていた」ことです。

そうなりますと重要なのは,
「我が方は,先方にどんな要求をしているのか!?」
という一点になります。

そもそも交渉というのは,それぞれ要求を突きつけて,その折り合いを付けていくプロセスです。だから仮に先方が,こちらの要求を「全て」のんだとすれば,こちらは先方の要求の「全て」を拒否するわけにはいかなくなる。。。わけです。

————————————————————

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・・・ということで,交渉なるものは,それが「はじまる」時点において,双方が,「どれくらいの要求を互いに突きつけ合っているのか!?」という一点に超絶に左右される,ということになります(←ここポイント!)。

・・・ということで,我が国がこの交渉において,先方にどの様な要求をしているのかというと。。。。

「米 国が日本車にかけている関税(2.5%)の撤廃時期をできるだけ早くするように要求する」

のだそうです!!つまり,双方の要求を比較すると,

◆アメリカ側の要求
「日本国民の安全や環境を護るための規制の緩和や撤廃!」

◆日本側の要求
「自動車の関税2.5%の撤廃はきまってるけど,できるだけそれを早くして下さい!」

ということなわけですねぇ。。。正直,皆さん,どう思いますか?

ちなみに,TPPを巡っては,さんざんいろんな議論がありましたが,そんな中でよく言われたのが,

「交渉に参加しないなんてあり得ない。交渉についてから,判断すればいい!」

というお話でしたが。。。繰り返しますが,交渉ってのは,それがスタートする時点で,「互いが何を要求するのか」のバランスに超絶に依存するもんなわけですから,ほしいものが大して無いけど,先方からメッチャクチャ大量の要求をされる見込みがあるんだったら,交渉に参加しないのは,当たり前ですよね。

ちなみに,「知性ある人間様が,知性の無いお魚さん達に釣り針を仕込んだ餌を見せびらかせて食いつかせて,釣り上げて食べちゃう」なんて「釣り」っていう娯楽が,我が人類,とりわけ日本人は好きですが,この釣りという娯楽が成立するのは,

1)それが始まる前から,双方の要求には超絶に格差がある(片や餌を食べる,片やその身を全て奪う!)
2)それにも関わらず,そんなを成立させられる程の「知性の格差」がある,

という二つの前提が成立する場合に限られます。

(ちなみにちなみに,知性のあるお魚さん,ってのはおられるもので,マキ餌は全部食べるのに,針の付いたサし餌には絶対食いつかないという事は,特に大物のお魚さんになると往々にして有るんですよねぇ。。。で,そんな釣り好きの当方にしてみると,頭の良いお魚さんを相手にした釣りなんてものは,いわゆる「釣り」って言うよりは,むしろ「交渉」と言った方がしっくり来るような代物です 笑)

で,この娯楽,釣る方は面白いのですが,つり上げられる方はたまったもんじゃないです(!),が,上記2)の条件があるんだったら,残酷な話ですが,仕方ないですね。

だから後はしっかり,知性のある方が,知性のない方をきちんと料理してきれいに平らげて差し上げるのが,命に対する礼儀というものなのですが。。。。

あっ! そういえば,アメリカでは「残さずに全部きちんとたべなさい!」なんていうお母さんの躾けもなさそうですから,それもされないのか。。。。と思うと,何とも不如意な世の中だなぁ。。。。なんて思ってしまうのは,わたしだけ?

などと,書きましたが,もちろん!

第一に,
上記の日経報道に,交渉の全てが掲載されているわけもなく,ここに報道されていない大量の要求を日本政府がしている可能性もありますし,

第二に,
万一,自動車分野における要求内容は,報道の通りだとしたとしても,自動車分野だけで,メリットデメリットをバランスさせる必要も無く,自動車が仮に犠牲になったとしても他分野でそれを上回るメリットを得られるなんてことも,可能な論理空間としてあり得ますよね。

なので,以上の「釣り」の比喩は必ずしも現状の日米関係を表しているわけではありませんよっ! という点だけはガッツリご理解くださいね(そこんとこだけは一つ,ヨロシクお願いします 笑)。

。。。が!

日米関係が,そんな関係に堕してしまう様なことを避けるためにも,「瑞穗の国の未来を慮る日本国民」の皆様方は是非,この交渉の推移を徹底的に見守り,冷静に認識し,判断していくことが必要だ,ということだけは百バー言い切ることはできますよね(!)。

という,まぁるいメッセージで,今回はおしまいにさせていただきたいと思います。

では,また来週!

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もしあなたが、「TPPで日本がアメリカのコピーになるのを防ぎたい」
「日本国民がグローバル資本家の搾取の対象になるのは許せない」
とお考えなら、、、「月刊三橋」がお役に立つはずです。

「中国大炎上〜破壊しつくされた大国の断末魔」の配信は、8/10まで。
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【藤井聡】米国の要求項目への11件のコメント

  1. Arthure Der Fleissige より

    断片的な情報で恐縮ですが2−3日前のロイターによれば某アメリカの自動車衝突安全性テストに於いて、日産の某アメリカ名車種が「不可」の判定を受けたそうです。もしアメリカの安全基準が日本のそれよりレヴェルが高く、TPPによって日本により高い安全基準が導入されることになるのなら、私達日本の消費者にとって喜ばしい事ではないでしょうか?

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  2. 航海長 より

     英語が堪能な官僚を多数送り込んでいる?それ、まずい。 経済や国益について、一端ことを言っているように見えて実は国益をじゃんじゃん売り浴びせてしまうような「英語バカ」の官僚が、どれくらいいるかは分かりません。が、交渉力を英語力のことだと勘違いして、さらに規制緩和や自由化こそ経済の活性化に繋がると考えているとなると、やばいです。 「国益のことを考えたTPPとは、国益を売り浴びせることだ」と勘違いしている状態で、どんな結果が表れるのかは未知数です。もはや、無理かも・・・・。

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  3. 青丸 より

    それにしてもアメリカの他国を自分と同じようにしないと気がすまない性格は相変わらずですね。なにがなんでも自分が指導したとおりのフォームでバットを振らせたがるコーチのようです。「認知的複雑性」の欠如ってやつですか。他人の話を聞かないわけではありませんが、自分に合わないと思うなら相手の機嫌をなるべく損ねないように上手に自分を貫きたいところです。場合によっては機嫌を損ねることもやむを得ないでしょう。機嫌を損なうのを過度に恐れてしまう人は自分に合わないフォームを受け入れてしまい、己を見失ってスランプに陥っていくのです。過去の自分を反省しつつ、いまの日本を思う。

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  4. ちゃぶ台 より

    〉このテーブルに着いたらこうなるのも当然だ、という話であります。星一徹の出番だということですね。わかります。

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  5. 大徳 忠秀 より

    安倍首相は日本で規制が緩和されても、日本人自身はそんな危ないもの買わない。そう思っているのかもしれませんね。今、そう思いました。

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  6. 夏みかん より

    自民党内の、藤井先生を中心とした、良識的な流れ…自民党のスティグリッツを応援して、フリードマンを撃退しなければならない時に、自民党を支持する保守派の多数は、その“全て”を肯定してしまった。一方で、自民党を否定する者は、その全てを否定している。なんか、両極端なんですよね。党内で、少数派ながら奮闘してらっしゃる藤井先生に対して、日本国民として、申し訳なく思います。「保守派」や「愛国者」は以前より多くなっているそうですが、「瑞穗の国の未来を慮る日本国民」は、まだまだ少ないようです。

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  7. こじこじ@京都 より

    藤井先生、これかなり踏み込んでるよな、、、大丈夫か。でもそこまでしても言いたかったんだろうな.、、、。畜生、悔しいなぁ。

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  8. 東田氏はTPP関連でご多忙か? より

    「瑞穗の国の未来を慮る日本国民の皆様方」が注視・抗議したところで、貴方方政府が聞く耳持たないなら何の意味もないですね。

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  9. kourin より

    騒音規制の撤廃。ひどい話ですね・・・。こういった事が他分野においても徹底的に要求されるのでしょう。日本はどうなってしまうのだろうか。

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  10. 官僚さんよ、医学でいうテクニシャンはいくら優秀でもでかい仕事はできないよ より

    報道によると今回TPP交渉において政府は官僚のなかでも選りすぐりの優秀で英語も堪能な官僚を100人も参加させているというが、TPPというそもそもなにを得るつもりなのか目的のあやふやな仕事に無駄に人件費高額かつ大量のワークロードを投入するひまがあるなら、人手が足りない東北復興や福島東電放射能だだ漏れ対策や、今やアメリカで目に見えてかつ現在進行形で日本の国益を損なっている韓国、中国の捏造歴史反日プロパガンダに徹底的に対抗する仕事(恐らく能天気外務省はほとんどなにもしていない)をさせたほうがよほど国益にかなうだろうに政治家や官僚がB/Cの意識欠如を指摘されなければならないとするなら、TPPみたいになにが目的かわからない無駄なワークロードよりまさにこういった今そこにある危機に対する当事者としての仕事意識の欠如を批判されるべきですね大丈夫か?安倍政権

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