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2013年4月5日

【施 光恒】「時代の流れ」って、ヘン

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From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

おっはようございま〜す (^_^)/

少し前になりますが、TPPに関する共同通信の世論調査がありました。賛成が63%、反対が24.7%でした。
このなかで賛成派があげた第一の理由は、「貿易自由化は世界の流れで、日本にとっても不可欠だから」というものであり、賛成理由のうちの約6割を占めました。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130224/stt13022419300004-n1.htm

根底にあるのは、「(貿易自由化のような)グローバル化やボーダレス化は『時代の流れ』だから、それに抗うことはできない」という見方だと思います。

皆さんも、よくご自身の周りでお聞きになりませんか?
「TPPは細かいことはよくわからないけれども、結局、グローバル化は時代の流れなんだから、取り残されるわけにはいかない」、「ボーダレス化こそ時代の趨勢なんだから、国なんかにこだわるべきではない」というような意見を。

ボーダレス化やグローバル化って、現代の一種の「歴史法則」みたいに扱われていますよね。

多くの現代人が、半ば無意識に、次のような法則めいた「時代の流れ」観をもっているように思います。
「人間社会の進歩とは、土地に根差した小さな共同体(村落共同体)から、国民国家を経て、だんだんと大きな、普遍的共同体へと発展していくことだ」というものです。

つまり、図式化すると次のようなものを「進歩」「時代の流れ」とみるんですね。

「村落共同体 → 国民国家 → (EUや東アジア共同体のような)地域統合体 → グローバルな枠組み(グローバル市場やグローバル・ガバナンス)

いわば「土着から普遍へ」と進んでいく一方通行的な発展過程の想定です。そして現在は、「国民国家」から「地域統合体」への過渡期だというわけです。
こういう「時代の流れ」観が背後にあるので、いわゆる「バスに乗り遅れるな!」論がでてくるのではないかと思います。あるいは「国民国家の枠組みなどもう古い!これからはグローバル化の時代だ!」といった陳腐ないいかたが流行るんだと思います。

「進歩」や「近代化」に対する最近よくある見方ですが、この想定、とても一面的だと感じます。

たとえば、「進歩」の最たるものとされる西欧の近代化の過程をみても、必ずしも「土着から普遍へ」と単純には描けません。

「世界史」の時間に習ったことを思い出してみてください。(と書きつつ、私が高校時代に世界史を習ったのはもう25年前なんだ!と気づいて、ちょっとうろたえますた…)
(゚∇゚ ';)' ウロタエ〜

世界史の時間、西欧の近代化のはじまりを告げたものとして、「宗教改革」が出てきました。
宗教改革を特徴づけたのは、聖書の翻訳だったとも習います。

そうなんですね。中世の欧州では、ラテン語が「共通語」、つまり「普遍的な言葉」だと認識されていました。貴族や聖職者などの特権階級は、公式の言語としてラテン語を用いていました。

聖書は主にラテン語で書かれ、教会の儀式もラテン語で行われていました。
哲学などの学問も、ラテン語で記述され、論じられていました。

こういう状況のなか、宗教改革では、マルティン・ルターやウィリアム・ティンダルらは、聖書を、地域の言葉、つまり庶民が日常生活の場で用いている言葉に翻訳したのです。現在のドイツ語や英語のもととなった言葉に訳したんですね。

これは実際、画期的な出来事でした。各地域の一般庶民が、聖職者や教会を介さずに直接、聖書の言葉や神学的知識に触れられるようになったからです。それまでに比べ圧倒的に多くの人々が聖書を直接に学べるようになったんですね。
φ(・ω・ )フムフム

哲学の世界でも同じようなことが起こりました。

西欧では中世の哲学は、ほとんどラテン語で記されていました。ですが近代に入ると、哲学は日常生活の言葉で書かれ、論じられるようになりました。

近代哲学の幕開けとなった、「われ思う、ゆえにわれあり」で著名なデカルトの『方法序説』は、フランス語で書かれた最初の哲学書だといわれています。

デカルト以降、近代の哲学者は、ラテン語ではなく、日常生活の言葉である各地域の言語で書くようになりました。ホッブズは英語、ヴォルテールはフランス語、カントはドイツ語でそれぞれ書いたのです。哲学以外の学問も、それぞれの国の言葉で論じられるようになっていきます。

聖書の翻訳が行われたことや、学問がラテン語ではなく各国語で行われるようになったことには、とても大きな意味がありました。

聖書や学問的な書物が各国の日常生活の言語で記されるようになったため、一般庶民でも、ちょっと努力すれば、当時の多種多様な先端の知識に触れられるようになったのです。

近代化以前の西欧世界では、宗教や学問は、いわば「ラテン語派」とでもいうべき当時のグローバルな特権階級に牛耳られていました
それが近代以降になると、各国の日常生活の言語で宗教や学問が論じられるようになり、各国の一般庶民にとって学びやすくなったんですね。庶民の知的世界はずっと広がりました。

言語の側からみれば、ラテン語の語彙が各国の言葉に翻訳され、取り入れられるようになって、それぞれの国の言葉は充実してきました。それで近代になると、法律もそれぞれの国の言葉で書かれ、社会制度も各国語で運営されるようになっていきました。

結局、「近代化」というのは、「翻訳」の力が大きかったんだと思います。
「翻訳」によって、各国に、各国の普通の人々が、外来の多様な先端の知識に触れ、それを学び、能力を磨き、活力を発揮しやすい社会空間が成立しました。

中世の世界では、「ラテン語派」の人たちしか先端の知識を学べず、庶民は社会参加しにくかったのですが、近代以降は、「翻訳」を通じて、各国の庶民が、それぞれの国にできた、それぞれの国の言語で動く社会に参加し、活躍できるようになりました。

それまで社会から排除されていた数多くの庶民が、社会参加し、さまざまな新しい知識に触れ、能力を磨き、活力を発揮できるようになったわけです。

「近代化」というのは、それまでよりも圧倒的に多くの普通の人々が社会参加するようになり、こうした人々の力が各国の社会空間に結集されるようになって生じたものだといえます。いわば庶民の力の結集こそ、各国の近代化のエネルギーだったんですね。

このようにみてくると、西欧の近代化って、「土着から普遍へ」という流れというよりも、むしろ「普遍から複数の土着へ」という流れだとみたほうがいいように思います。

「普遍的な言葉」(ラテン語)で書かれた先端の知識を、各々の地域の言語に翻訳し、それぞれの土着の文化的文脈に取り込んでいくことによって、各国の多数の一般庶民が格差なく参加し、多様な知識に触れることができ、能力を発揮しやすい社会空間が各地にできたことこそ、近代という時代の成立にとって決定的に重要だったのですから。

こうみてくると、最近の「時代の流れ」観って、ヘンですよね。

現在、日本で叫ばれている「ボーダレス化」「グローバル化」とは、「翻訳」と「土着化」の過程を通じて、各国の一般庶民にとって参加しやすく能力を磨いたり発揮したりしやすい社会を作っていった昔の西欧の近代化の流れと、まったく逆行しているように見えます。

現在の「グローバル化」や「ボーダレス化」って、結局、(英語を使うアングロサクソンの、それも多国籍企業関係者など以外の)大多数の人々にとっては、よそよそしい、参加しにくい世界を作っていく流れのわけですから。

日本人にとってもまさにそうです。滑稽なことに、「グローバル化」「ボーダレス化」という掛け声のもとに、大多数の日本人にとって、文化的にも言語的にもよそよそしい、参加しにくく能力を発揮しにくい社会を自分たちでわざわざ作ろうとしているわけです。

明治の日本人はもっと賢明でした。振り返ってみると、明治日本の近代化は、西欧の近代化の過程とよく似ていますよね。明治の日本の近代化でも、「翻訳」と「土着化」が徹底的に行われました。この場合、「ラテン語」ではなく、「英語」(あるいはそのほかの欧米諸語)という「普遍的な文明の言葉」だと思われていたものからの翻訳だったわけですが。

私は以前、当メルマガの記事(「日本印度化計画」、2012年12月14日付)で、明治の最初のころの「英語公用語化論争」について触れたことがあります。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2012/12/14/se-2/

そこで書いたように、約140年前の明治の最初のころ、「日本は、日本語ではなく英語で近代化するべきだ。学校教育は英語で行い、各種の社会制度も英語で運用するようにすべきだ」という一種の英語公用語化論が、提案されていました。
明治の日本人は、結局、この提案を受け入れず、翻訳によって日本語の語彙を増やし、日本語で近代化する路線をとりました。

母語である日本語で近代化したからこそ、フィリピンやインドのように外国語である英語での近代化を強いられた国と違って、日本では、極端に大きな格差は生じず、多くの一般国民が社会参加しやすく能力を発揮しやすい近代的な国づくりがうまく進められたのです。

また長くなってきました…。まとめます…。

結局、何が言いたいかといえば、TPPなどの最近のグローバル化の議論の背後にある「ボーダレス化は時代の流れだから」という見方は、非常に一面的で正しくない!ということです。
m9(`・ω・_)キリッ

つまり、「時代の流れ」や「人間社会の進歩」とは、「土着から普遍へ」と向かう一方通行的過程だとみるのは適切ではありません。

「近代化」とは、西欧でも日本でも、「翻訳」と「土着化」を通じて、「普遍」だと思われていた外来の先進の知識をうまく取り入れ、各国の一般庶民が参加しやすく、なおかつ多様性に富み、能力を磨き発揮しやすい社会空間を、各国それぞれが独自に作り上げたことから生じたとみることができます。

つまり、「時代の流れ」とは「土着から普遍へ」ではなく、「普遍(だと思われるもの)から複数の土着へ」と描くことも大いにできるのです。むしろこっちのほうがしっくりくるように思います。

ですので、「時代の流れ」とか「人間社会の進歩」とか「近代化」を重視するのであれば、今後も、各国の一般庶民が、格差なく社会参加し、各々の能力を磨き、活力を発揮しやすい独自の社会空間を作っていけるようにすることが大切だといえるのではないでしょうか。

日本でいえば、外国からの多様な先進の知識を今までと同様、積極的に摂取しつつも、それを徹底的に「翻訳」し「土着化」し、日本の一般国民がその恩恵をいっそう広く容易に享受できるようにすべきです。

そして、日本の一般的人々が、なじみやすく、参加しやすく、能力を磨き発揮しやすい国づくりをいままで以上に行っていくことだと思います。

そう考えると、TPP加入は、まったく「時代の流れ」に即していませんね。それどころか逆行しています。なぜなら、日本の近代社会をぶち壊し、一般国民にとってよそよそしい、参加しにくく能力を磨いたり発揮したりしにくい社会を作ろうとしているようにみえるからです。

「グローバル化」「ボーダレス化」をナントカの一つ覚えのように叫びつつけ、「TPPはマストだ」「いっそうの構造改革が必要だ」などと繰り返し唱えている人々は、日本の「中世化」を狙っているようなもんですね。庶民が参加しにくく、能力を磨いたり発揮したりしにくい日本社会を実質的に作ろうとしているわけですから。

いつもながら長々と失礼しますた…
<(_ _)>

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【施 光恒】「時代の流れ」って、ヘンへの4件のコメント

  1. フォー より

    なぜ、TPPだけ問題視して、先日交渉そのものが行われた日中韓FTAは完全スルーするのでしょうか?かなり奇異に感じます。今の世界銀行総裁が誰だか知らないのですか?まさか、アジアの成長を取り込むとか本気で信じているのですか?

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  2. ずんどろお(SF小説キャラパクりm(_ _)m) より

    (施先生の“流れ”の新聞読書中、沸き起こったコメントをしてたら、途中変暴しました。お許しください。) 一方では核兵器、弾道兵器(バイオ兵器もか?)を傘に露骨な武器開発誇示で戦争不安を煽られ。一方ではアジア協調(あるいはパンダによるパンダの為の協調)を強調し、陰で金盲者操作による公用、民営メディア侵食による精神不安攻撃。一方では、世界協定の名の基の世界均衡画一化(ある意味、見せかけのネズミ講擬き)による、置いてきぼり不安を煽るものの、ある意味においては奴隷戦略。 なんとなく、突き詰めると本当は、どれも同じような「流れに流された」奴らからのカモフラージュされた地球略奪作戦ではないのか?。 そんなアホらしい事を考えなからも、おかずの魚の小骨を抜いて、骨抜きにした魚を突くじる(自分だって新学期新卒時期にはそんな事考えも及ばず、今日の給食のおかずは嫌だとか牛乳にミルメークが付いてないだとかしか考える事しかできない骨抜きにされていた学童時代)食事をしている自分も同じような行動原理で生きているのかもしれないと堂々巡りをしながら、地域に密着したバラエティー番組を報じながらも反面自虐的歴史感ニュースも報じるラジオNHKのスイッチをムカつきながらポチッと切る小指に力が入りすぎて、ボキッ。ンガァーッ!。怒りの矛先を間違えたーっ。自業自得。先生ぇ。診てくだせぇ。「ん?。君は患者か?。それならまず、この民間保険”米シティ保険”の加入に記入しなさい。」先生ぇ指が痛ぇんですよ。「問答無用ぉーっ。あんたっ、スマホはポチポチやっとるやんっ」終わり。

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  3. hehehenohe より

    >そう考えると、TPP加入は、まったく「時代の流れ」に即していませんね。それどころか逆行しています。なぜなら、日本の近代社会をぶち壊し、一般国民にとってよそよそしい、参加しにくく能力を磨いたり発揮したりしにくい社会を作ろうとしているようにみえるからです。ではなぜ安倍首相はTPP加入に積極的なのか。竹中平蔵を政権に参加させているのか。単に嘘も方便(政治)なのか。

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  4. Yuriya Kaito より

    【ラテン語→(英語,ドイツ語,フランス語…)~~普遍→土着。】新自由主義に対する思想的な(砦,防波堤,反撃力…)を有り難うございます。もやもやしていた部分をスッキリさせて頂きました。

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