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2012年8月14日

【藤井聡】経済学の「奇妙な理屈」は、こう強化された!

_FROM 藤井聡@京都大学

これまで、ロバートスキデルスキー氏が
「簡単には記せない」と指摘する程の
凄まじい害悪を世界に与え続けてきた
「新古典派経済学イデオロギー」についてお話して参りました。

前回は、そんな「奇妙」なイデオロギーが暴走してしまったのは、

 「(オーム真理教の上九一色村のサティアンの様な)
  新古典派経済学イデオロギーを培養するような
  閉鎖的なムラを作っちゃった事」

だという事を指摘しました。

で、その「サティアン」というのは、言うまでもなく、
アメリカのシカゴ大学等を代表とする
「特定大学の経済学部」です。
(が、もちろん、全ての大学が、という訳ではありません!)

で、なぜ、そんなサティアンができたのか….について、
今回はお話したいと思います。

話はずっと遡りますが、新古典派経済学の始祖と言えば、
ご存じ、アダムスミスです。

アダムスミスの経済学と現在の新古典派経済学とでは、
相当に異なるのですが、「始祖」といえば、
やはり、アダムスミス、ということになります。

そして、彼の理論は、「自由主義経済」を正当化する
論理として、大いに活用されるようになっていきます。

ここで重要なのは、そういう風にアダムスミスの経済学を
「活用」したおしたのが「英国」だった、という点です。

当時の英国は、産業革命を自国内で成し遂げたことによって、
文字通りの世界一の経済大国となっていました。

そんな国では、十分に生産力が高い訳ですから、
自由貿易を進めれば進めるほどに、
ドイツやロシアといった経済後進国との競争に打ち勝ち、
それらの国々の成長を阻み、
後進国のまま「固定化」させることに成功します。

つまり、英国にとっては、「自由主義経済」は、
モロに「国益」に適うイデオロギーだった訳です。

一方で、ドイツやロシアにとっては、「自由主義経済」は
国益に適わない….そんな背景があったからこそ、
ドイツで、フリードリッヒ・リストの「経済ナショナリズム」が、
ロシアで、マルクスの「マルクス経済学」が、
それぞれ誕生したのですが….(そのあたりの詳しいお話は、
中野剛志氏の『経済はナショナリズムで動く!』をご参照下さい!)

….で、そんな流れが現代にどう繋がっているか….
ついてはぐっと時代を下って現代について
お話申し上げると、現代の世界一の経済大国は、
いわずと知れたアメリカです。

ですから、アメリカにとっては、
自由主義経済を推し進める事が、
トータルとしての「国益」に適うのです。

(ちなみに、アメリカがその地位を手に入れる今日までの間は、
 建国以来、凄まじい非自由主義政策・保護主義政策を
 採り続けてきたのは、よく知られた事実です!)

そういう時、国益の増進を図る政府は、
国益増進に適う「学問」の保護と育成を徹底的に図ります。

ついてはアメリカ政府は、
自由主義経済を推進する「経済学部」を、
過剰といって良いほどに保護・育成していくことになります。
すなわち、学部の設置、ポストの増強、
国費研究費の投入等々…です。

(#そもそも、経済学部があるのが当たり前だと
  お感じの方が多いかもしれませんが、
  よくよく考えればそれは不思議な話なのです。
  社会科学部も社会学部も心理学部も歴史学部も無いのに、
  「経済学部」だけが作られているというのは
  そういう意味があったんですね。
 #さらに言うと、ノーベル社会学賞、ノーベル社会科学賞
  ノーベル歴史学賞なんてものがないのに、
  無理からに経済学賞だけがつくられたのも、
  そういう背景があったからだと言えるわけですね)。

一方、こういう流れは、「経済学部」が「国益」のみならず、
「資本家の利益」にも資するという点から、
「ウォール街」の影響を受けつつ加速していくこととなります。

そしてさらに近年では、その流れは、
「ウォール街」の影響が「米国政府内」で強くなればなるほどに、
さらにさらに加速していくこととなってきました。

こうして、経済学部に対して「巨大な国力」が
米国内で投入されていくこととなります。

….こうして、しばしば市場「原理主義」と言われる教義を「培養」する
超絶に排他的な「新古典派経済学サティアン」が形成されていったわけです。

そもそも大学とは文字通り、最も優秀な頭脳を国中から
(そしてアメリカの場合には、文字通り世界中から)集めてくるシステムです。

そこで、「新古典派イデオロギー」が、文字通り、
数年間も朝から晩まで、教育される訳です。

言うまでもなく、そんな超優秀な卒業生達は、政府、政界の要人になり、
財界、金融界、マスメディアの要人になっていきます。

そうすると、このサティアンは、さらにさらに、国力を結集して
保護され、育成されていくようになっていきます。

そして、この「新古典派経済サティアン」での「教え」が、
スキデルスキー氏が「簡単には記せない」と指摘する程の凄まじい害悪を
世界に与え続けることになってしまったわけです。

….いやぁ…..ほんっっとに恐ろしいお話です….

では、そんなサティアンが、我が国にはどんな「害悪」を、
どうやってもたらしているのか….これについて、
次回はお話致したいと思います。

ではまた!
京都大学 藤井聡
http://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII?ref=ts

 

PS
もし、あなたが「サティアン」が撒き散らす害悪によって
日本の国力が損なわれることを危惧するなら、
こういう実務的な考えにも触れてみてください。
http://amzn.to/M27kl5

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【藤井聡】経済学の「奇妙な理屈」は、こう強化された!への2件のコメント

  1. 山科 より

    疑問君>覇権が米国に移ったときは変動相場なので、変動相場制になったスミソニアン体制崩壊は1973年米国が金兌換を停止した時点でも1971年年表読んでからコメントしましょうね。

    返信

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  2. 疑問君 より

    > そんな国では、十分に生産力が高い訳ですから、自由貿易を進めれば進めるほどに、産革当事は為替が固定相場なので自由貿易を進めるほど経済的に強い国が優位に立てるのは分かりますが、覇権が米国に移ったときは変動相場なので、経済が強い国ほど通貨が買われて自由貿易は不利になりますよね。米国でリバタリアニズム〜シカゴ学派が台頭したのは、要するに米国の建国理念が自由の国だから自由主義こそ米国のあるべき姿という思いがあるだけの話だと思いますが。このお話は、自由主義を貶める洗脳をしたいだけにしか読めませんね。

    返信

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