政治

2020年9月3日

【小浜逸郎】安藤裕衆議院議員を自民党総裁に

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

 

日ごろ筆者は、「政治評論家」と称する人々をあまり信用していません。
政局の変化に応じて個々の政治家や派閥の動向を、競馬の予想屋のようにああだこうだとマスコミで語りますが、その知識は競馬場や厩舎の周りをうろうろするところから得てきたもので、日本のこれからにとってどんな政策をとるべきかといった肝心な問題について真剣に議論しようとする姿勢がないからです。
すべてを信用しないと言っては、少数の立派な人に失礼ですから、「概して」と断っておきましょう。

さて8月28日に安倍首相が辞意を表明し、新しい自民党総裁が9月14日に選出されることになりました。菅、岸田、石破の三氏が出馬表明をし、当選者の予想や、ポスト安倍の政策運営をだれだれはどうするといったにぎやかな「政治評論家」的議論が交わされています。そんなに大騒ぎすることかなと筆者などは思うのですが、国民の多くも冷ややかに見ているだけではないでしょうか。
安倍路線を引き継ぐにしろ、少しばかり新機軸を示すにしろ、彼らにこの沈みゆく難破船「日本丸」を劇的に救い出すことなどできるはずがありません。なぜなら、安倍首相一人が辞めても、彼を取り巻いてきた、竹中平蔵に代表される諮問機関の委員たち、経団連、経済同友会などグローバリズム企業の代表機関、それに財務省、さらにその向こうにアメリカや中国の「日本食い」勢力などががっちり包囲網を固めているからです。

今さら去りゆく安倍政権の負の「レガシー」をあげつらってみても仕方がありませんが、現在の日本丸がどういう惨憺たる状況にあるかをおさらいするためには、少しは意味があるかもしれません。

ここに、三橋貴明氏が安倍政権の「負のレガシー」を手際よくまとめた一覧がありますので、少しだけアレンジして借用いたします。
https://38news.jp/economy/16605
●緊縮財政系:
・プライマリーバランス黒字化目標堅持。
・新規国債発行減額。
・二度の消費税増税。
・公共投資、地方交付税交付金、科学技術予算、教育支出、防衛費、防災費、診療報酬、介護報酬などの抑制と削減。
・公共病院統廃合と病床の削減。
・国民の社会保障負担の引き上げ。

●規制緩和系:
・派遣拡大、残業代ゼロ制度。
・混合診療拡大。
・水道民営化。
・非正規公務員割合の拡大。
・モンサント社(現バイエル)の農薬グリホサートの安全基準引き上げ。
・種子法廃止(種苗法改定法案も閣議決定)。
・農協改革、農地法や農業委員会法の改定。
・漁業法改定。
・国家戦略特区にてグローバリズム政策を実行。
・電力自由化。
・民泊拡大や白タク解禁の検討、シェアリング・エコノミー推進。
・IR法(カジノ解禁)。
・法人税減税。

●自由貿易系:
・TPP、日米FTA、日欧EPAなどの自由貿易協定。
・移民受け入れ拡大。
・インバウンド依存推進のためのビザ緩和。
・外国人の土地購入推進。

いやはや偉大なレガシーですね!
これだけ国民を苦しめる政策を一貫して取り続けた政権は、歴史にその名を刻まれて「名誉ある地位」を占めるでしょう。
その結果、何が起きたかも見ておきましょう。
・25年続くデフレの継続・悪化
・実質賃金:マイナス15%
・2019年10~12月期におけるGDP:前期比年率マイナス7.1%
・2020年1~3月期におけるGDP:前期比年率マイナス2.2%
・民間最終消費支出2014年4~6月期:前期比マイナス4.8%
・民間最終消費支出2019年10~12月期:前期比マイナス2.9%
・鉱工業生産指数2014年消費増税時:前期比マイナス4.9%
・鉱工業生産指数2019年消費増税時:前期比マイナス9.1%(東日本大震災時よりも悪化)
・民間設備投資2019年消費増税時:前期比マイナス4.7%
・世帯収入中央値:95年550万円から、2017年には423万円に
・2017年世帯所得分布:年収100万円台~300万円台が41%に
・ワーキングプア:96年の800万人から安倍内閣発足後1100万人を突破し、以後高止まり。
・生活保護世帯数:97年(63万世帯)以降激増し、2014年160万世帯を突破、以後高止まり。
・金融資産ゼロ世帯割合:95年に8%、以後急増し、2012年に30%を突破、以後高止まり。
・非正規労働者割合:2014年に37%を突破、以後高止まり。
・非正規労働者の平均賃金:正規労働者の65%(2018年)、地方公務員は三分の一未満。
・子ども食堂:2012年ごろ開設。2016年319か所、2019年3700か所。

というわけで、「一億総活躍」してきたわけでございます。
そこにコロナがやってきて、2020年4~6月期GDP前期比年率マイナス27.8%という仕儀に至りました。
上記総裁候補のだれも消費税に手を触れようとしませんし、仮に触れたとしても、期間を1年に限って2%の減税がせいぜいのところでしょう。これでは、景気回復効果はゼロに等しく、財務省やそのまわりをうろつくゴロ学者、マスゴミどもに「ほら、減税してもやっぱり効果がなかったじゃないか。さあ、これからはコロナ税で取り返さなくっちゃ」という口実を与えてしまいます。池上彰センセイ、万歳。おまけに、「財政出動、緊急時だからこそこれだけやってあげたんだぞ」とばかり、再び「財政健全化」に勢いづくこと疑いなしです。

さて、どうしましょう。
安藤裕衆議院議員が代表を務める自民党の議員連盟「日本の未来を考える勉強会」では、コロナ以前から消費税ゼロ、大胆な財政出動を主張してきました。このたび、ひどい経済的なコロナ禍から少しでも回復方向に舵を切るために、第二次補正予算の成立に獅子奮迅の働きを示したのはこのグループです。もちろん、まだまだこんなものでは足りません。第三次、第四次が必要でしょう。
そのため安藤グループは、消費税の廃止、休業を余儀なくされた経営者への100%粗利補償、真水100兆円の国債発行など、真に実効性のある政策を提言しています。
野党勢力も含めて、いまの政界の中で、このグループと西田昌司参議院議員以外、まともな提言を掲げている勢力はいません。彼らを応援し、安藤代表に14日の総裁選に立候補してもらう――これが現在考えられる唯一希望の持てる選択です。
安藤グループは、インフレ率の制約さえ守れば、政府がいくら財政出動をしても一向に困らないという事実を理解している数少ない人たちです。窮乏化した国民を救い日本の経済を立ち直らせることこそは、国家の役割です。この人たちは、そのために財源など気にする必要がないことを、理論的根拠をもってしっかりと認識しているのです。
もちろん、諸般の事情から見て、上記の政策提言が、そのまますんなり通るのは至難の業でしょう。また安藤代表はまだ三回生で、上層部を占める支配勢力が、その言い分を素直に聞くとも考えられません。しかし、これ以外に日本の危機を救う道が考えられないのだとすれば、この際、少なくとも一つの重要なステップとして、安藤氏に立候補してもらい、その存在感を内外に印象付けることには、大きな意義があるのではないでしょうか。ほとんど安藤氏や参議院議員の西田昌司氏だけが、現職の有力国会議員の中で、与党という有利な立場にいつつ、しかも正しい主張をしているのですから。

仮に万一、安藤氏が総理大臣になったとしても、先に述べたような強大な勢力に阻まれて、何もできないで終わってしまうのではないか――こういった悲観論を言う人もいます。もっともな意見と思います。もしかしたらそうかもしれません。しかし、スタートラインの前でこのまま足踏みし続けていたのでは、日本丸はブクブクと沈没を進行させていくだけです。やってみなければわかりません。
総裁選告知日は8日です。筆者は、この数日の間に安藤氏が立候補の届け出をしてくれることを、切に期待して已まない者です。
「絶望の虚妄なることは、まさに希望と相同じい」(魯迅)

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【小浜逸郎】安藤裕衆議院議員を自民党総裁にへの3件のコメント

  1. 大和魂 より

    このままだと快刀気どりで意味不明の結果を強調した安倍政権を引き継ぐ菅義偉の総裁が有力の情勢となりそうです。しかし腹臣で懐刀のアホ丸出しの河井夫妻の逮捕の時点で菅は総裁に出る幕ではないですね。それは庶民がどれだけの辛酸を受けて喘ぎ苦しんでいるのか。またその反動が議員とか役人にその恩恵があり優遇されていること自体も理解できてない低次元だから総裁選に出られるのでしようね 。なのでどんな理由であれ菅総理大臣が成立したら金輪際、自民党に投票しません!ちなみにこの二十年ほども自民党には一切投票していませんからあしからずで、その対立候補の共産党にも何度も投票して実力行使を実行中。さてさてこの先どうなることやら日本の総理大臣は誰がやってもあまり変わらないのにバカが!

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  2. 赤城 より

    後釜にすげたい菅内閣は
    安倍内閣の構造をそのまま引き継いで日本をより属国売国させていくための
    つまりはハンドラーによる傀儡しやすい内閣を作らせてるんでしょう
    安倍内閣が彼らにとって美味しすぎたから同類で続けたいだろう

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  3. その通りだと思います より

    菅氏は強烈な新自由主義者ですね。ネオリベの本音は株で不労所得を得たいというもので株をかえない会社なんてないも同然。平成の構造改革で進行したネオリベの病は結局労働者から株を保有している資産家に金が吸い上げられ賃金が増えず、少子化を増進し、国力が低下させただけでした。
    安倍総理やその取り巻きが一番許せないのは、そういった新自由主義の政策を実施しながらも、保守思想をきどり,国を思う人たちをだまし続けたことです。

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