コラム

2017年6月7日

【佐藤健志】炎上とツイン・ピークス

From 佐藤健志

6月18日に文春新書より刊行される藤井聡さんとの共著
『対論 「炎上」日本のメカニズム』が
おかげさまで先週、無事に校了しました。
すでにアマゾンでは予約受付が始まっています。
http://www.amazon.co.jp/dp/4166611283/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1495700793&sr=1-1

今回の本、藤井さんと私が交互に3章ずつ論考を展開し、そのうえで60ページを超える対談を行うというもの。
目次をご紹介しましょう。

第一章 現代の「炎上」の基本メカニズム(藤井聡)
第二章 ジャン・アヌイの作劇に見る炎上の魅惑と詐術(佐藤健志)
第三章 炎上における「隠蔽」の構造(藤井聡)
第四章 炎上にひそむ「知性のめまい」をさぐる(佐藤健志)
第五章 炎上のメカニズムへの挑戦(藤井聡)
第六章 仮相と炎上の戦後史(佐藤健志)
第七章 対談 炎上はコントロールできるのか(藤井聡・佐藤健志)

素晴らしく充実した仕上がりになったと思いますよ。

2014年、中野剛志さんと
『国家のツジツマ 新たな日本への筋立て』を出したときも思いましたが、
同世代の最も優秀な知性と、こうやって一緒に本をつくれるのは、じつに幸せなことですね。

ちなみに文藝春秋は1992年7月、私の出世作となった評論集
『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』
でもお世話になったところ。
早いもので、25年前になります。

若さゆえ、最近の著作に比べると文章が硬いものの、
わが国における本格的ポップカルチャー分析の古典としての地位は、今なお揺らいでいないと自負しています。
いずれ、文庫か電子書籍で復刊させたいですね。

さて。

『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』が刊行されたころ、わが国で話題となっていたのが
アメリカのテレビドラマ『ツイン・ピークス』。

『イレイザーヘッド』や『ブルーベルベット』など、カルト系の作品で知られていたデヴィッド・リンチ監督が
プロデューサー・脚本家のマーク・フロストと組んで、テレビに進出した作品です。

ドラマの構成は、
・パイロット版
・第一シーズン(1〜7話)
・第二シーズン(8〜29話)
の三段構え。

各回1時間枠(※)ですが、パイロット版と第8話は2時間枠。
(※)CMが入るので正味は48分です。
ヨーロッパや日本では、パイロット版に独自の結末(約15分)が追加され、ひとつの完結した作品としてビデオ発売されました。

アメリカ北西部の静かな田舎町ツイン・ピークスで、ローラ・パーマーという美人女子高生が殺害される。
別の州で起きた殺人事件と関連があるのではないかということで、FBI捜査官デイル・クーパーが派遣され、
町の保安官トルーマンと事件解決に努めるものの、
ツイン・ピークスの人々はそろいもそろって、不倫、乱交、風俗通い、DV、ドラッグなど、暗い秘密を抱えていた。
さしずめ、昼メロ的スキャンダルのてんこ盛り。

片やクーパーはクーパーで、
愛用のテープレコーダー(1990年前後の話なのでICではありません)に捜査報告と称してあらゆる些事をいちいち吹き込んだうえ、
「チベットの人々への共感をもとに、夢の中で思いついた」
というオカルト的捜査方法を披露するワケワカな人物。
ついでにコーヒーとチェリーパイに目がなかったりします。

殺人ミステリー+昼メロ+オカルト!!
この組み合わせだけで、もはや十分ぶっ飛んでいます。
しかるにデヴィッド・リンチは、まだ足りないと言わんばかりにシュールな不条理演出を敢行。
かくして、深遠なのか「何でもあり」なのか判然としない世界ができあがりました。
で、いったい誰がローラを殺したのか?

捜査は難航するものの、第二シーズンに入って真相が明かされます。
ツイン・ピークス周辺の山林には、「ブラック・ロッジ」という異次元に通じる空間があったのです!
そしてロッジから出没する悪霊「キラー・ボブ」が、さまざまな人々に取り憑いては、殺人を繰り返していたのです!!

・・・いや、本当にそういう話なんですよ。

本国アメリカでは1990年4月、パイロット版に続いて第一シーズンがスタートしたときこそ社会現象レベルのブームになったものの、
あまりに「何でもあり」だと思われたのか、同年9月に第二シーズンが始まると人気が急落。
1991年6月、第二シーズン終了をもって番組は打ち切りとなりました。
1992年に公開された映画版『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の七日間』も、興行・批評の両面で失敗しています。

ただし日本では第二シーズンになっても人気が持続、『ローラ・パーマー最期の七日間』もヒットしました。
当時、『ツイン・ピークス』全29話がすべてビデオ化されていたのは、なんと世界でわが国だけだったのです(※)。

(※)今はアメリカでも、全話収録のブルーレイやDVDセットが出ていますが、このころは第一シーズンしかビデオ化されていませんでした。

そして!
『対論 「炎上」日本のメカニズム』刊行と歩調を合わせるかのごとく、
『ツイン・ピークス』も今年、25年(映画版公開より)の歳月を経て復活!!

アメリカでは5月21日、新シーズンの第一話と第二話が連続放送されました。
日本でも7月22日から『ツイン・ピークス The Return』 という邦題で、WOWOWが放送するそうです。
http://www.wowow.co.jp/drama/tp2017/

・・・というわけで私も、目下『ツイン・ピークス』の世界を振り返っているのですが、
とかくワケワカと呼ばれたこの作品も、四半世紀が過ぎてみると非常に明快に思えます。

簡単にまとめてしまえば、リンチとフロストが描こうとしたのは
「アメリカの魂は果たして善か悪か」
という点をめぐるドラマなのですよ。

ツイン・ピークスは、古き良きアメリカの象徴のような町。
保安官の名前がハリー・S・トルーマンというくらいです。
つまり第二次大戦終結時の大統領と同じ。

ところがその町で、みんながスキャンダラスな秘密を抱えている。
古き良きアメリカにも、ダークサイドがあったわけです。
そしてダークサイドの最たるものが、殺人を繰り返す悪霊キラー・ボブ。

第二シーズンの最終話、クーパーはブラック・ロッジでボブに取り憑かれたあげく、善と悪の二人に分裂してしまいます。
これは上記の解釈に基づけば
〈アメリカの魂が引き裂かれて二重化された〉
ことを意味するでしょう。

そして新シーズンでは、善のクーパーがブラック・ロッジに閉じ込められたまま、悪のクーパーが現実世界を跳梁している。
じつに分かりやすいではありませんか。

・・・してみると1990年代はじめの日本で、『ツイン・ピークス』が本国以上のブームとなったのも、
〈自国が徹底した改革志向、ないしアメリカ化という「キラー・ボブ」に取り憑かれつつある〉
と、人々がどこかで感じていたためかも知れません。

のみならず現在のわが国では、健全なナショナリズムという善はずっと隠蔽されたままで、日本否定のグローバリズムという悪が現実世界を跳梁している。
まさに『ツイン・ピークス The Return』的状況ではありませんか。

だ・か・ら、
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
https://www.amazon.co.jp/dp/475722463X(紙版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B06WLQ9JPX(電子版)

ちなみに。
映画版『ツイン・ピークス』のサブタイトルは、日本語だと「ローラ・パーマー最期の七日間」ですが
オリジナルの英語題は「FIRE WALK WITH ME 」(炎よ、われと共に歩め)。
劇中に出てくる有名な呪文にちなんだフレーズです。

そう、『ツイン・ピークス』は炎上をめぐるドラマでもあるのですよ!

ポップカルチャー分析を通じて戦後日本の魂を探求した『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』から25年後、
炎上をテーマとする本の刊行を目前にして『ツイン・ピークス』が復活したのは、まさに偶然を超えた符合と言えるでしょう。
事実、『対論 「炎上」日本のメカニズム』は、先の呪文をもじった、こんな言葉で終わります。

「仮相と化した現実の闇を、魔術師は見通さんと欲す。真剣さと遊びの狭間(はざま)で唱えるのだ──炎よ、われと共に歩め!」

新シーズンは18エピソードで完結するそうですが、デヴィッド・リンチがどんな結末を提示するのか、今から楽しみです。

・・・あ、それから。
本が発売された直後の6月22日(木)、新宿レフカダでスペシャルトークライブを行います。
題して、
「歴史に筋を通す〜勝手にしやがれ、天下国家!」

時間は19:00〜21:00。
司会はあのsayaさんです。
http://peatix.com/event/269504

会場となる新宿レフカダはJR新宿駅東口から徒歩15分、新宿三丁目駅のC7出口から徒歩5分ほどのところ。
面白いイベントになると思いますので、 ぜひいらして下さい!

本紙執筆陣の中からも、来られる方がいるかも知れませんよ。
詳細は上記のイベント情報ページか、主催団体「カルティベイトの会」までどうぞ。
http://peatix.com/group/52292
cultivate1group@gmail.com

なお次週、6月14日は都合によりお休みします。
6月21日にまたお会いしましょう。

<佐藤健志からのお知らせ>
1)6月16日発売の『表現者』73号(MXエンターテインメント)に、評論「『信用』が人間を裏切るとき」が掲載されます。

『シェルタリング・スカイ』『コズモポリス』という二本の映画(および両者の原作小説)を題材に、中野剛志さんの大著『富国と強兵』を論じました。ぜひご覧下さい。

2)『ZAITEN』7月号(財界展望新社)に、インタビュー記事が掲載されました。
「『右の売国、左の亡国』現状では日本消滅は避けられない」
http://www.zaiten.co.jp/zaiten/201707.shtml

3)日本文化チャンネル桜の番組「闘論! 倒論! 討論!」に出ました。

テーマ:日本人として安倍政権に物申す
https://www.youtube.com/watch?v=Wez5V3EB8V0&feature=youtu.be

4)戦後脱却が「何でもあり」に陥ったあげく、「構造改革とグローバル化」という悪霊に取り憑かれたことをめぐる体系的論考です。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)

5)わが国の保守、および左翼・リベラルは、敗戦の焼け跡という「ブラック・ロッジ」から生まれた分身同士なのかも知れません。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

6)次のうち、戦後日本の歴史を最も的確に形容するフレーズはどれでしょう?
a)ミステリー b)昼メロ c)オカルト d)何でもあり

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

7)「政治家たるもの、迷信にもプラスに活用できる要素がないか探るべきである」(187ページ)
クーパー捜査官ではありませんが、時として政治にもオカルト的な手法が必要なのです。

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

8)「苦難の旅を続ける乙女を受け入れよ! そして人類を救うべく、すみやかに自由の神殿を築くのだ」(169ページ)
死んで蒼白となったローラ・パーマーの顔は、自由の女神像を想起させます。やはり『ツイン・ピークス』はアメリカの魂をめぐる物語なのでしょう。

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

9)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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