From 佐藤健志
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少子高齢化に伴う生産年齢人口比率の低下。
深刻化する人手不足の中、鈍化する日本の成長。
しかし、この人手不足こそ次なる成長への鍵だった。
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2015年4月、『セシウムと少女』という映画が公開されました。
インディ系の作品で、監督は才谷遼さん。
http://cesium-to-shyoujyo.com
「ふゅーじょんぷろだくと」という会社を主宰する方ですが、若い頃から映画監督志望。
それが還暦を過ぎて、ついにデビューを飾ったのです。
東京は阿佐ヶ谷にあるミニシアター「ユジク阿佐ヶ谷」をはじめ、全国各地で上映されましたが、なにぶんインディ系作品ですので、聞いたことがないという方も多いでしょう。
ただし『セシウムと少女』、海外の映画祭ではなかなかの好評。
カンヌ、ベネチア、ベルリンの、いわゆる三大映画祭にこそ出ていないものの、25の映画祭に正式招待されました。
そして20の賞にノミネートされ、そのうち10の賞を受賞!
インディ系(つまり低予算)で、しかも監督デビュー作であることを考えれば、十分に立派な成績でしょう。
これを受けて6月18日から7月29日まで、ユジク阿佐ヶ谷での凱旋上映が行われています。
https://yujiku.wordpress.com
さて。
私は昨年2月、完成試写でこの作品を初めて観たのですが、非常に面白いと思いました。
映画のパンフレットにも解説を寄稿しています。
このパンフレット、昨年の公開には間に合わず、今回の凱旋上映にあたって、やっと完成したもの。
埋め合わせというべきか、全168ページで、カラースチール満載の仕上がりです。
「パンフレット」より「特集本」に近いですね。
そこで今週は『セシウムと少女』を紹介することにしたものの、ならばこの映画、何が面白いのか?
むろん映画の面白さは、観る人それぞれで違っていて良いのですが、私が注目した点はこちら。
『セシウムと少女』は、社会的・政治的な問題意識を強く持っている作品です。
しかるに当の問題意識、「右か左か」(=保守系か、あるいは左翼・リベラル系か)という二者択一の図式では、まったく割り切れません。
わが『愛国のパラドックス』のサブタイトルではありませんが、まさに「〈右か左か〉の時代は終わった」という映画なのです。
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では、どんなふうに割り切れないのか?
放射性降下物として知られる「セシウム」(厳密にはセシウム137を指すと思われます)がタイトルに含まれることが示すとおり、『セシウムと少女』は2011年に発生した福島第一原発の事故を大きなモチーフにしています。
これに関する映画のスタンスは、明確に「反原発」。
「反核」の視点もハッキリ盛り込まれていました。
そのかぎりでは左翼・リベラル色が強い。
ところがお立ち会い。
パンフレットの冒頭にも収録された映画の企画書には、こう記されているのです。
これは17歳の少女の成長譚と冒険譚である。
同時に東京という大都市の都市論でもあり、近代日本論でもある。
近代論/近代の到達点としての福島原発事故。
果たして近代は失敗したのか。
戦前と戦後は貫通しているのか。
日本論(。)
残ってきた日本的な(いい)モノ(考え方もふくめて)、そして継承すべきもの。
(一番目以外のカッコは原文。以下同じ)
ここで表明されている問題意識を整理すれば、次のようになります。
・近代、および近代文明の見直し。
・戦前と戦後の関係についての問いかけ。
・日本の伝統的な良さは何なのか、それをどう受け継いでゆくのかという点をめぐる考察。
ずばり、保守(主義)の発想ではありませんか。
だいたい『セシウムと少女』は、いわゆる「社会派問題作」ではありません。
原発事故の影響で、セシウムまじりの雨が降った東京を舞台に、ちょっと変わり者だが元気のいい少女「ミミちゃん」が、雷神、風神などの日本古来の神々と出会うという奇想天外なファンタジー。
神々のみなさん、急激な近代化によって力を失い、ヨレヨレになっている存在として描かれます。
ミミちゃんは神々と一緒に時空を超えて、自分自身のアイデンティティと、日本という国のあり方をさぐってゆく・・・
ふたたび企画書から引用すれば、
全ての問い、疑問、否定ではなく肯定で答えていく(これを彼女と神様連中がみつけることができるか)の旅の話でもある。
とのことです。
映画の中盤、ミミちゃんは1942年、つまり戦時中の東京にタイムトリップして、まだ少女だった自分自身の祖母と友達になったりするのですが、このくだりはとくに興味深い。
戦時下の暮らしというと、とかく深刻ぶった重苦しいトーンで描かれるのが通例ながら、ここでは「戦争が行われていようと、人々は楽しみや喜びを見つけて明るく生きていた」という描き方になっていました。
同時に有名な詩人・北原白秋が、「雨ふり」「待ちぼうけ」「揺籃(ゆりかご)のうた」といった童謡のみならず、国威発揚的な歌を書いていたことも触れられます(※)。
いよいよ保守色が強くなってくるではありませんか。
(※)映画では触れられていませんが、1933年に日本が国際連盟を脱退した際、北原白秋はこれを支持する「脱退節(ぶし)」という歌を作詞しました。イギリスのEU離脱が決まった現在、注目に価する事実だと思います。
すなわち『セシウムと少女』、左翼・リベラル色と保守色とが、どちらも濃厚な形で同居している作品なのです!
ついでに映像表現の面でも、実写とアニメが同居。
「相反する(と見なされている)ものを混ぜ合わせる」ことが、いろいろなレベルで行われているんですね。
そしてそこから浮かび上がってくるのは、近代日本、とくに戦後日本の矛盾したあり方。
わけてもアメリカとの関係について、ちゃんと総括しなかったことがもたらしたツケの大きさです。
その点では、『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』にも通じていると言えるでしょう。
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実際、最初に観たときに私が実感したのは、
「3・11」(=福島原発事故)は、「3・10」(=東京大空襲)の翌日なんだなあ・・・
ということ。
両者の間には66年間の隔たりがあるものの、われわれはその間、堂々めぐりを繰り返してきたのでは、という話です。
敗戦処理に関する不備が、現在の閉塞につながっている、そう形容することもできるでしょう。
『僕たちは戦後史を知らない』の世界ですね。
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そんなわけで試写後、才谷監督(じつは以前より面識があるのです)に、
「3・10と3・11のつながりがテーマなんでしょう?」
と聞いてみました。
監督は一瞬、考えていわく。
「そういうことにするっ!」
よって本記事の解釈は、公認のものとお考えください。
ユジク阿佐ヶ谷での『セシウムと少女』凱旋上映は、連日10:30からの一回。
もっとも7月9日と10日は、20:50からのレイトショーとなります。
このときは才谷監督と、ミミちゃんを演じた白波瀬海来(しらはせ・かいら)さんの舞台挨拶もあるとのこと。
興味のわいた方は、ぜひどうぞ!
なお次週、7月6日は都合によりお休みします。
7月13日にまたお会いしましょう。
ではでは♪
<佐藤健志からのお知らせ>
1)8月20日(土)、「表現者シンポジウム」の第一部に登壇します。
・時間 19:00〜21:30(18:30開場)
(※)これはシンポジウム全体の時間です。
・場所 四谷区民ホール
・会費 2000円
参加ご希望の方は、郵送ないしファックスで下記宛にお申し込み下さい。
西部邁事務所
〒157-0072 東京都世田谷区祖師谷3-17-22-303
03-5490-7576
お申し込みの際は、お名前、ご住所、電話番号、参加人数を記入していただきたいとのことです。
2)近代日本の矛盾したあり方については、こちらもどうぞ。
『夢見られた近代』(NTT出版)
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3)「右翼」「左翼」の区分は、もともとフランス革命から生まれたもの。同革命の問題点を振り返ることは、「右か左か」という発想の限界を知るうえでも有益です。
『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
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4)アメリカとの関係を総括するには、まず同国の本質を知らねばなりません。そのためにはこちらを。
『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
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5)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966
ーーー発行者よりーーー
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