アジア

2018年8月23日

【小浜逸郎】静かな侵略

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

メコン川といえば、東南アジア最長の川ですね。この大河は、中国のチベット高原に源流を発し、雲南省を通って、ミャンマー・ラオス国境、タイ・ラオス国境、カンボジアを通過し、ベトナムへと至り、南シナ海に注いでいます。
何と6か国にまたがる流域を持っているのです。
このことは、この川をめぐって水利や発電や環境にかかわる複雑な政治問題を生む原因になっています。
というよりも、水源と上流を中国が押さえているということ、この事実が東南アジア諸国への強力な圧力行使として利用される結果を生んでいるのです。

ラオスは中国とわずかに国境を接していますが、東南アジアでは最貧国です。
メコン川にいくつもダムを作って、発電を行い、その供給が国内需要を上回るので、周辺諸国に輸出していますが、逆に他から輸入もしています。
ラオスは自力ではダムや発電所の建設ができないので、多くの部分を中国からの借款に依存しています。
支払い不能になれば、すぐにでも中国の銀行が差し押さえるでしょう。
https://fujinotakane.amebaownd.com/posts/3997388

またラオスには鉄道がありません。
中国は「一帯一路」の東南アジア版で、昆明を起点としてシンガポールにまで至る高速鉄道の計画に着手しています。
当然、ラオスを通過するルートもありますが、ラオスの資金不足や政界上層部の反対もあって、工事は進捗していません。
結局、これを実現させようとすれば、中国は、中国資本をつぎ込み、資材や技術や労働力はすべて本国から、といういつものやり方を取るでしょう。関係国には何の経済効果ももたらしません。
こうしてラオスは、事実上、中国の植民地なのです。
https://fujinotakane.amebaownd.com/posts/3997369

またラオスだけではなく、他の東南アジア諸国もこうした中国の強引な圧力を受けざるを得ません。

話をメコン川に戻しましょう。
数年前、海抜1800mの山岳地帯にある昆明がにわかに超高層ビルの林立する大ビジネス都市に変貌しました。
ここを根拠地として、メコン川上流の中国領地内に、水力発電が次々に3つ作られ、さらに12のダムを計画中。
いくつもの国を通過する大河の上流に、他国との正式な合意も、きちんとした環境影響評価もなされないまま、勝手にダムを作れば、困るのは、下流域の国々です。
カンボジアでは、食料供給の大部分を川に依存しています。
年に一度の氾濫がなければ、この地域はほこりだらけの土地となり、ひいては都市を維持することもできなくなります。
カンボジアの農業生産は絶妙な水量のバランスの上に成り立っており、それが崩れることで、大規模な飢饉と壊滅的な洪水が発生する可能性が大きいのです。
最初の中国のダム建設以降、水位は低下し、捕らえられた魚は小さく、漁獲量は4分の1に減少したそうです。
また、水位の低下によりフェリーが立ち往生するため、チェンライ(タイ)からルアンパバーン(ラオス)までの航行は、以前は8時間で行けたのに2日間を要するようになったそうです。
ダム建設が計画通り行われるとさらに深刻な影響を及ぼすことになるでしょう。
下流域諸国は環境破壊と汚染に加え、低い水位が魚の遡上を妨げ、産卵ができなくなるという、川の閉塞問題にも直面します。
中国の身勝手な姿勢を他国は非難し、ダム建設の中止を求めましたが、空振りに終わりました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%B3%E3%83%B3%E5%B7%9D

これは、単に自国中心主義の勝手なことをやっているというだけではなく、中小国を流れる大河の水利の管理を掌握することによって、政治的経済的な支配を押し進めようという、長期戦略の一環なのです。
こうして中国は、国際世論も無視して中華帝国主義を平然と進めているのです。
もちろんタイやベトナムは、このやり方に反発し、さまざまな抵抗を試みています。
しかし東南アジア諸国は結束力が不足しているので、本来なら、日本のような大国がASEAN会議などでリーダーシップを発揮して、中国への対抗措置を取る必要があります。
でも日本は、企業同士の利権獲得競争には参加しても、政治外交面では、中国との緊張を恐れて何もやらないでしょうね。
日本の弱腰外交は、中国の思うつぼです。

さてその日本ですが、以前にもこのメルマガで書きましたように、日本には不動産売買についての外資規制がなく、中国資本に北海道その他の土地を爆買いされています。
その総面積は、全国土の2%、静岡県全県に匹敵します。
https://38news.jp/politics/12044
https://38news.jp/economy/10151

この問題を粘り強く追及している産経新聞の宮本雅史氏が、最近、次のような記事を発表しました。
《 買収目的のわからない事例の一つに日高山脈の麓の平取町豊糠(びらとりちょうとよぬか)地区がある。幌尻岳(ぽろしりだけ)の西側の麓に位置し、過疎化と高齢化で、住民はわずか12世帯23人ほど。冬季は雪深く、袋小路のような地形の集落は陸の孤島になる。
この豊糠地区で、平成23年に中国と関係があるとされる日本企業の子会社の農業生産法人(所在地・北海道むかわ町)が約123ヘクタールの農地を買収した。地区内の農地の56%にあたる広さだが、農業生産法人は何の耕作もせず、放置するという不可解な状態にあった。》
《 農作物を作れば利益が期待できる広い農地を放置しているのはなぜなのか。買収が行われた7年前から、住民の間で一つの仮説が立てられていた。
「農地を荒れ地にしておき、いずれ地目(ちもく)を『雑種地に変更するつもりではないか。制約の緩い雑種地になれば自由に売買でき、住宅や工場を建てられる」
豊糠地区は抜け道のない行き止まりにある集落で他の地域との行き来も少ない。豊かな水源地でもあることから「土地が自由に利用できるようになる時期まで待って、何者かが意図的に隔離された地域を作ろうとしているなら、これほどうってつけの場所はない」と懸念する住民もいた。》
《不可解な集落の丸ごと買収、非耕作地で放置された農地、空を舞う正体不明のヘリ、不釣り合いな高級車の来訪、日本国籍を得た者に対する「仲間に入れ」という強い勧誘、中継基地計画…。情報提供者らは「不可解なことだらけだ。いったい何をやろうとしているのか。年月がたつに従って不安と危機感が膨らんでいる」と話した。》(強調は引用者)
https://www.sankei.com/affairs/news/180817/afr1808170009-n1.html
「いったい何をやろうとしているのか」――これは明らかですね。
雑種地になってから資本をつぎ込んで、オフィスビルやマンションを建て、そこに大量の中国人を居住させ、やがては昆明と同じようなことを始めるつもりでしょう。
こうしてわが国土ばかりでなく、国の主権そのものが長期戦略のターゲットとして、すでに着々と奪われつつあるのです。
静かな、そして合法的な侵略です。
その100年先を見た長期展望と戦略の巧妙さには舌を巻くばかりです。
日米同盟の強固さを睨んだ中国は、軍事的な刺激を与えることを控え始めました。尖閣にばかり視線を集中させていては、はなはだ不十分です。
うかうかしていると、わが国がラオスをはじめとした東南アジア諸国と同じように、中国の冊封体制に組み込まれる日が、そう遠くない将来やってくるかもしれません。
この巧妙さに打ち勝つには、一刻も早く不動産売買の厳格な外資規制を法律で定めるのでなくてはなりません。

関連記事

アジア

【三橋貴明】アンフェアなグローバリズム

アジア

【島倉原】ユニクロのジレンマ

アジア

【三橋貴明】未知の世界

アジア

【三橋貴明】パラダイムシフト

アジア

【三橋貴明】日本国を亡ぼす情報の間違い

【小浜逸郎】静かな侵略への3件のコメント

  1. たかゆき より

    日本は日本人だけのものではない

    とのことですので

    日本政府が切り捨てた地方に 支那さまに投資していただく

    とても素敵なことかと、、、

    ロシアは択捉島に軍事基地を建設してくださるとのこと、、

    いっそ チャンコロさまや露助さまにも 過疎地を開放して 軍事基地を
    造っていただいては
    いかが かと。。

    アメ公 一国だけに守っていただくのは
    とても とても 不安でございますもの ♪

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  2. Takashi Jono より

    The Economist Feb. 13th, 2016
    Essay: The Mekong
    に同様の内容が書かれています。
    同じく同紙、July 28th, 2018
    Briefing: China’s Belt and Road Initiative
    も興味のある記事です。
    Just for your info.

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  3. 神奈川県skatou より

    SFですいませんが、オーダー66、というのをご存知でしょうか。

    某共和国の軍事力の根幹をなす、クローン技術で製造された兵士たち、そのすべてに対して、指導層の人間を即座に抹殺するための命令が、オーダー66です。
    直前まで戦友として戦っていたクローン兵が、たったひとりの権力者によってその命令が発せられるや、人間のリーダを次々と・・・
    考えたくもない恐怖ですね。共和国制の、いや主権の崩壊です。

    さて、現実の日本では、主権を担保するための根幹としての航空支配を担保する戦闘機について、次期開発プランを内外に募集したところ、米LM社から「自社現有機の改造開発を行い、その機体の半分の製造を日本に許してもいい」という回答を出したとか。

    日本の主権を守る戦闘機の、半分だけ自由にしていい、と?

    いまや軍用機の根幹はエンジンではなく飛行制御を行うソフトウェアです。むろん日米共同開発などすれば、日本(日本の会社)のすべては新規取り組み(共同開発の枠内)なのですべて開示し、米国(米国の会社)の根幹は、既存技術(共同開発の枠外)なので、ブラックボックスです。
    いったいそこになにがあるのか。なにを仕込むのか。。

    カネがかかるから国際開発、割高でガラパゴスな自国開発や少量生産なんてナンセンスだ、、、そういう意見がわが国の官僚、政治家には強いようですが、問題はカネなのか。

    主権意識の欠如の果ては、当然の帰結になりそうです。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です

名前

メールアドレス

ウェブサイト

コメント

メルマガ会員登録はこちら

週間ランキング

  1. 1

    1

    【藤井聡】「消費増税を凍結せよ」運動は、日本の「黄色いベスト...

  2. 2

    2

    【三橋貴明】経済の問題。

  3. 3

    3

    【 小浜逸郎】みぎひだりで政治を判断する時代の終わり

  4. 4

    4

    【小浜逸郎】水道民営化に見る安倍政権の正体

  5. 5

    5

    【三橋貴明】唯物史観

  6. 6

    6

    【藤井聡】「リーマンショック級」の経済下落 ~2019年には...

  7. 7

    7

    【三橋貴明】詐欺師に騙され、喜劇を演じる日本国民

  8. 8

    8

    【三橋貴明】水を売り飛ばした日本政府

  9. 9

    9

    【saya】70年ぶり漁業法の抜本改正 理由は“あー、まあ、...

  10. 10

    10

    【三橋貴明】水を売った日本政府

MORE

月間ランキング

  1. 1

    1

    【小浜逸郎】水道民営化に見る安倍政権の正体

  2. 2

    2

    【藤井聡】壊れかけた日本 今一番大切なのは、当たり前のことを...

  3. 3

    3

    【藤井聡】「リーマンショック級」の経済下落 ~2019年には...

  4. 4

    4

    【藤井聡】「消費増税と緊縮」で日本経済は最悪「ミャンマー級」...

  5. 5

    5

    【藤井聡】「消費増税を凍結せよ」運動は、日本の「黄色いベスト...

MORE

最新記事

  1. 政治

    日本経済

    【藤井聡】貞観地震後に「減税」を決断した清和天皇 ~天...

  2. 日本経済

    【三橋貴明】経済の問題。

  3. 政治

    【三橋貴明】唯物史観

  4. 日本経済

    【三橋貴明】詐欺師に騙され、喜劇を演じる日本国民

  5. 政治

    未分類

    【 小浜逸郎】みぎひだりで政治を判断する時代の終わり

  6. 日本経済

    【藤井聡】「消費増税を凍結せよ」運動は、日本の「黄色い...

  7. 日本経済

    【三橋貴明】水を売り飛ばした日本政府

  8. 日本経済

    【三橋貴明】第二国土軸の建設を

  9. 政治

    日本経済

    【三橋貴明】水を売った日本政府

  10. 日本経済

    【藤井聡】「リーマンショック級」の経済下落 ~2019...

MORE

タグクラウド