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2015年6月23日

【藤井聡】「PB改善」のためにこそ「公共投資の拡大」を

From 藤井聡@京都大学大学院教授、内閣官房参与

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●●日本は「発展途上国」へと転落するのか? 豊かで安全な日本を後世に残すための条件
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

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政府は6月上旬、財政健全化のために、プライマリーバランス(基礎的財政収支)を、「健全化計画の中間時点の18年度で(GDP比)1%程度を目安とする」という方針を明らかにしました。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDE02H02_S5A600C1PP8000/

現在、プライマリーバランスはGDP比で3.3%(16.4兆円)ですから、これを、今から3年間でおおよそ三分の一以下にする、という方針です。

本メルマガでも(都構想の言論戦を始める直前まで)再三説明してまいりましたが、プライマリーバランス(以下PB)に基づいて、経済財政政策を考えるためには、少なくとも以下の3つの「事実」だけは認識しておかねばなりません。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/12/23/fujii-122/

(1)_ _ _PBは、財政再建のための「目標」でなく、「債務対GDP比(名目)」を引き下げるための、「手段」に過ぎない。

(2)_ _ _PBを「緊縮財政」で「無理矢理に引き下げる」と、景気が後退し、税収が減少し、「かえってPBが悪化」する(過去、それが繰り返されてきている)。

(3)_ _ _一方で、「積極財政」を展開すれば、財政支出を拡大した年次のPBは悪化したように見えるが、翌年以降、景気回復と税収増がもたらされ、中期的にはPBが改善していく。

以上の(1)は公式文書に明記されている事実ですし、(2)(3)の傾向は、1998年以降の実証データを用いた分析から明らかにされているものです。

特に(3)について具体的に申し上げるなら、1兆円の中央政府の公共投資の拡大は、2.5兆円の中央と地方を含めたすべての「一般政府」の公共投資の拡大につながり、それらを通して、最終的に1.6兆円の税収増加がもたらされる、ということが、実証的に明らかにされています。
http://www.union-services.com/sst/sst%20data/2_57.pdf

今回、こうした傾向が改めて確認するために、再びデフレになった1998年以降のデータをあれこれと分析したところ、やはり(2)(3)が確認されたのですが、その中で、大変に興味深い傾向が見出されました。

それは、

「『ある年次』の『PBの悪化の度合い』(PB変化量)と、
『翌年』の『公共投資額が政府総予算に占める割合の減少量』との間に、
正の相関がある」

という傾向です。

つまり、PBが悪化すれば、その翌年の公共投資額が減る、という傾向があることが示されたのです!

その相関係数は、プラス0.47(ちなみに、p値というものは0.063という、一般に統計的に有意な傾向があると言われる水準です)。

これは、考えれば考えるほどに、「恐ろしい」傾向です。

そもそもこれは、「経済システムの自然な帰結」として、現れ出でた傾向ではありません。なぜなら、公共投資額は、

「政府の意図的な意思決定」

によって決せられるものだからです。

だから、因果の方向は未来から過去へは向かい難いことを考えると、この相関をもたらした因果メカニズムは、

「前年度のPB悪化が原因したから、政府が、公共投資額を削る意思決定をした」

というもの以外には、考えられないのです。

……返す返す、これは本当に恐ろしい傾向です。

なぜならこの結果は、

「わが国では、公共投資額は、『どういう公共投資が国益上必要なのか?』という論理で決められているのはない」

という事を示しているのみならず、

「1998年以降のデフレ時期であるにも関わらず、『わが国では景気が悪くなってきたのだから、景気を刺激するために公共投資を拡大しよう』という、世界中の先進国家にとっては常識的な論理がほとんど採用されてこなかった」

ということを示しているからです。

むしろこの統計結果は、

「PBが悪化してきたから、とりあえず、公共投資でも削っておこう」

という意思決定を、わが国は下し続けてきた、ということを、実証的に明らかにしているのです!

すなわち、デフレになった1998年以降のわが国の政府は、『緊縮財政の思想』によって完璧に支配されてきたのであり、少しでもPBが悪化すれば公共投資を削りシロにして、支出カットを繰り返してきた、という次第なのです。

これこそ、
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp-content/uploads/2015/02/douro/douro.pdf
のP15に示した様に、諸外国において公共投資額が拡大している中、わが国一国だけが、デフレ期であるにも関わらず公共投資額を過激に削減してきた

「政治的意思決定メカニズム」

なのです!

ここで、上記(3)にて述べたように、積極財政を行えば、税収が増える、という実証的関係が存在していることを思い出してください。

この傾向を考え合わせれば、わが国には、

「PBが悪化すれば、公共投資を削減する」という『政治的メカニズム』が存在していると同時に

「公共投資を削減すれば、税収が減って、PBが悪化する」という『経済的メカニズム』もまた存在している、ということになります。

だからわが国には、この「政治的メカニズム」と「経済的メカニズム」の「合わせ技」によって、一旦、PBが悪化すれば、公共投資を削り、それを通してさらにPBが悪化し、それによってさらに公共投資を削り……という「悪魔のサイクル」が存在し続けてきた、ということになります。

この「悪魔のサイクル」を断ち切るには、どうすればいいのでしょう?

言うまでもなく、「経済的メカニズム」を変えることはできません。それはいわゆる自然の摂理だからです。

ですが「政治的メカニズム」は変えることなど、容易くできるはずです。PBが悪化したからといって、公共投資を削ら「ない」ようにする、ことくらい、本来なら容易いことです。

むしろ「経済的メカニズム」を考えれば、PBが悪化した時こそ「逆説的」に税収を上げるために積極財政に転ずることが、その後の「PB」を改善するためには得策となるのです。なんと言っても、1兆円の中央政府の公共投資は、1.6兆円の総税収の増加を導いてきた、というのが、98年以降のわが国の実情なのです。

もちろん、PBが悪化した時に、PBをさらに悪化させるかの様に見える「公共投資の拡大」を政治的に決断するには、

「勇気」

が必要なのかもしれません。

しかし、「デフレ下の公共投資拡大⇒景気回復⇒税収拡大⇒PB改善」という「経済メカニズム」の存在と、それを裏付ける上記のような統計データの存在を理解するだけの

「知性」

があれば、公共投資の拡大という方針を、決して「蛮勇」ならざる「勇気」でもって「決断」することは決して難しい話ではないはずです。

是非ともわが国政府に、財政再建と経済成長の「二兎」を手に入れるための「知性」と「勇気」があられんことを、心から祈念いたしたいと思います。

PS
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PPS
「大阪都構想」騒動とは一体、何だったのか? 三橋貴明が解説中
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【藤井聡】「PB改善」のためにこそ「公共投資の拡大」をへの6件のコメント

  1. 菱沼 より

    藤井さんにしろ、三橋さんにしろ本来であれば「PB改善の為に」などという話はナンセンスのはず。それをしなければならないという事自体が、財政再建派の方たちが方針を変える気配がこれっぽっちも無いんだろうなということが推察され、暗澹たる気持ちになって来ます。

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  2. ぬこ より

    PB黒字(短期的に)を護ることで(結果的に中長期的に赤字にして)、何か財務官僚に得があるのでせうか?金融ばっかり蒸して、ウォールさまを富ませる事が目的なのでせうか?ケケ中らの民間議員と言われる人達と、リフレ派の人達、なんで同じ様な臭いがするのでせうか?

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  3. 學天則 より

    まあ、行政が暴走するのあらぬ方向へ暴走するのは歴史的に当たり前田のクラッカー。だから議会があるが、その議会を動かすのは国民の力。その国民を創るのは教育と地方自治への参加。経済の為に公共事業をやるのではなく、国民の要望があって公共事業をやるという方向でないと政治家は身動きできないのではないでしょうか。

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  4. たかゆき より

    漆黒のPB♪いつどんなときでもPBを黒くしなければ気が済まない、、、ほとんど病気ですね。しかも彼等に聞く耳はなさそう。。。いまPBを真っ黒にされてはこちらが真っ青になってしまいます。内閣支持率は低下しているようですから、、財政出動してもらうには内閣支持率を消費税率なみに下げて彼等にも真っ青になっていただくのがよろしいかと。

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  5. 古事記 より

    国を家庭や個人のフトコロに喩えて破綻を叫ぶ詐欺師の様な人。詐欺師に騙されてますよ、と教えてあげても聞く耳を持た無い人。猫に小判__豚に真珠__昔の賢人は解りやすく上手く良く喩えてくれてます。我欲や目先の欲に囚われる愚かなる者には正しい事、本当に価値がある金言が判らずに豚や猫と同じく小判や真珠をぶつけると怒り噛み付いて来る。知恵有る者ならニコニコと喜ぶのに。 経営者が良く言う事で会社分析して投資戦略が示せ無いで経費節約しか言わ無い経営コンサルタントは自らのコンサルタント費用を受け取る為に会社に寄生し社員のヤル気を削ぐだけの害虫みたいな者。と言われている、緊縮やPBしか言わ無い政府関係者や経済学者は民を疲弊させるだけで経営コンサルタントを騙る詐欺師と同じ。賛同者は何度も何度も欲に駆られて被害に合い懲り無い被害者。20年騙されデフレスパイラルに落とし入れられても同じ愚を侵すのか。

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  6. 拓三 より

    ホンマに経済と魚釣りは瓜二つ。海でグレ(メジナ)を釣るには、まず撒き餌をバンバン討ち魚の活性を上げそこに付け餌を投入し、魚を喰わすのが基本で御座います。(ふかせ)これを今の日本経済に置き換えると、海水温13度(デフレ状態)の中で撒き餌さ(財出)はカネが懸かるから討つのを辞め、つけ餌だけを海に流している状態と同じです。これで釣れれば交通事故みたいな物なのですが釣れない理由を、付け餌が悪いだの仕掛けが悪いだの竿が悪いだの、挙げ句の果てには、「こんな釣り方は古い、これからはルアー釣りだ」と言う始末。そもそもルアー釣りは水温が上がり、魚の活性が高い時(インフレ状態)に数が上がる釣り。(ちなみにブラックバスを餌釣りすると入れ食い状態で御座います)また、水温が15度位(リフレ派の妄想)に上がったとしても、やはり付け餌だけでは数は上がりません。今、日本がやるべき事は、撒き餌さ(財出)をバンバン討ち、魚(経済)の活性を上げる事こそ正しい道ではないかと自分の趣味と照らし合わせる今日この頃で御座います。

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