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2015年6月17日

【佐藤健志】自滅的な言動をもたらすもの

From 佐藤健志

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●●日本は「発展途上国」へと転落するのか? 豊かで安全な日本を後世に残すための条件
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

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先週の記事で書いたように、最近のわが国では
〈右〉も〈左〉もみずからのあり方に重大なパラドックスを抱えており、しかもそれを自覚していない
という傾向が顕著に見られます。

その結果、どちらの側でも自滅的な言動が目立つ。
主観的には憲法九条を守りたがっている人々が、九条の無意味さをアピールしてしまうとか、
主観的には安保法制を通したがっている人々が、同法制を違憲と見なす学者を参考人として推薦するとかです。

主観的には現憲法を擁護したがっている学者が、憲法の正当性が脆弱であることを暴露してしまう、というのも起きました。

やってくださったのは、京都大学名誉教授の佐藤幸治さん。
じつは自民党、最初はこの方を参考人として国会に呼ぼうとしたものの、しっかり断られたのだそうです。
佐藤教授も安保法制違憲論者ですので、自民党は〈自分たちの重要政策に反対する立場の人間を参考人として呼ぼうとしたあげく、断られた後も別の反対派に話を持って行った〉ことに。

これまた自滅的な振る舞いですが、佐藤教授も負けてはおりません。
6月6日に開かれたシンポジウム「立憲主義の危機」で、こんな発言をされたのです。
以下、毎日新聞の記事より。

基調講演で佐藤氏は、憲法の個別的な修正は否定しないとしつつ、「(憲法の)本体、根幹を安易に揺るがすことはしないという賢慮が大切。土台がどうなるかわからないところでは、政治も司法も立派な建物を建てられるはずはない」と強調。
さらにイギリスやドイツ、米国でも憲法の根幹が変わったことはないとした上で
「いつまで日本はそんなことをぐだぐだ言い続けるんですか」
と強い調子で、日本国憲法の根幹にある立憲主義を脅かすような改憲の動きを批判した。
http://mainichi.jp/feature/news/20150606mog00m040002000c.html?fm=mnm

憲法改正の際にも「本体、根幹を安易に揺るがすことはしないという賢慮が大切」との主張は正論です。
これをくつがえすと、所定の手続きさえ踏んでいれば、憲法をどんなふうにいじっても良いことになる。
一党独裁を定めても構わないし、特定の個人に終身の支配権を与えても許されるわけです。

・・・ところが。
日本国憲法は、大日本帝国憲法の改正という形を取っているにもかかわらず、天皇をめぐる位置づけや、戦争の放棄など、大日本帝国憲法の本体や根幹を揺るがすような変更がなされている

岩波文庫『世界憲法集』(高橋和之編)も、この点について「日本国憲法の制定は明治憲法の改正ではなく、新たに主権者となった国民が新憲法を制定したのである」と述べました(554ページ)。
しかし日本国憲法が、大日本帝国憲法の改正という形を取っていることも、揺るがない事実なのです!

つまり佐藤教授の主張は、
1)日本国憲法の正当性自体、かなり疑わしいものにすぎない。
2)したがって、そのような憲法を守れと叫ぶ護憲派も、賢慮を欠いた主張をぐだぐだ言い続けている点では変わらない。
という含みを持つことに。

ご自分の首を鮮やかに絞められたわけですが、いくらパラドックスを抱えていると言っても、どうしてここまで自滅的な言動をしてしまうのでしょう?

関連して連想されるのが、トラウマ(心的外傷)の概念。
ご存じ、苦痛と恐怖に満ちた体験によって、心に傷を負い、それにとらわれてしまう状態です。

トラウマをもたらす体験として挙げられるのは、虐待、レイプ、戦争、犯罪被害、事故、災害など。
そしてトラウマが刺激されると、ヒステリー状態が断続的に発生する。
恐怖に駆られた精神がパニックに陥るのです。
放置しておくと、やがて幼児返り現象にまでいたるとか。

〈主観的には憲法九条を守りたがっている人々が、九条の無意味さをアピールしてしまう〉
〈主観的には安保法制を通したがっている人々が、同法制を違憲と見なす学者を参考人として推薦する〉
〈主観的には現憲法を擁護したがっている学者が、憲法の正当性が脆弱であることを暴露してしまう〉
これらの言動、まさにヒステリーやパニックと呼ぶべきものではないでしょうか?

ここから浮かび上がってくるのは、日本人はイデオロギーの左右によらず、敗戦の衝撃から今なお立ち直っていないのでは? という点です。
そのため、国の将来にたいする不安という形でトラウマが刺激されると、主観的には物事にちゃんと対処しているつもりで、自滅的な言動をしでかす次第。

安保法制に限りません。
〈瑞穂の国の資本主義〉を謳いながら、新自由主義的なグローバリズムをめざしているのが現政権。
〈地方創生〉を謳いつつ、自治体同士を積極的に競争させるべきだとする主張もなされています。
競争の結果、格差が生じても(=創生どころか、衰退する地方があっても)当たり前なのだとか。

自己矛盾がここまで際立つとなると、もはや方針が正しいとか、間違っているとかいうレベルの話ではありません。
ずばり、
〈ヒステリーやパニックに陥ったあげく、自分がいかなる方針に基づいて行動しているのか分からなくなった
という話ではないでしょうか?

となると、日本を望ましい方向に進ませるには、「正論を繰り返し説く」だけでは足りないかも知れません。
ヒステリーやパニックの根源となっているトラウマに向かい合い、それを克服する努力が必要となってきます。
さもないと、「いくら正論を説き聞かせても、平然と間違った行動を繰り返す」結果に終わるのではないでしょうか?

ちなみに。
与党の推薦した参考人までが安保法制を違憲と述べたことにたいし、菅官房長官は当初、「まったく違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」と発言しました。
けれども具体的には3人の名前しか挙げることができず、「数(の問題)ではない」と発言を修正するにいたります。

違憲だと表明している憲法学者は200人以上いるのですから、官房長官のお気持ちは分からなくもありません。
ついでに「正論であれば少数派の意見が、多数派の意見をくつがえしてもよい」というのは、なかなか立派な見識です。
ただし、この論理を衆議院の議席数に当てはめたらどうなるか?

そうです。
採決で賛成多数になったとしても、安保法制の正当性は保証されません。
なにせ「数ではない」のですから!
ではでは♪

PPS
「大阪都構想」騒動とは一体、何だったのか? 三橋貴明が解説中
https://www.youtube.com/watch?v=ox0dS84nBHQ

<佐藤健志からのお知らせ>
1)トラウマ脱却の第一歩は、自分がどんなパラドックスに陥っているかを直視すること!
三橋貴明さんも「読んで『これだ!』と思った」と絶賛!

「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

2)6月16日発売の「表現者」61号(MXエンターテインメント)に、評論「汝の右手がなすことを」が掲載されました。

3)「文藝春秋スペシャル 教養で勝つ大世界史講義」に掲載された評論「ウェストファリア条約〜『宗教戦争』の終わらせ方」が、以下でもご覧いただけるようになりました。
文藝春秋スペシャル公式サイト
http://hon.bunshun.jp/category/bungeishunju-special
BLOGOS
http://blogos.com/blogger/gekkan_bunshun_2015summer/article/

4)単行本「福田恆存 人間・この劇的なるもの」(河出書房新社編、同社刊)に、評論「福田恆存の劇的精神〜敵が立派なのは良いことだ」が収録されました。

5)敗戦の衝撃に起因する国民的トラウマが、どのように形成され、現在にいたったかの記録です。
「僕たちは戦後史を知らない 日本の『敗戦』は4回繰り返された」(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

6)「いかなる物理的破壊よりも恐るべきは、隷従に甘んじることが人間の精神に及ぼす破壊的影響だ。(中略)隷従に甘んじることの影響は、社会のあり方のすみずみに及ぶうえ、末代まで根深く残る」(261〜262ページ)
アメリカ独立前夜に発せられた言葉に、われわれも耳を傾けるべきではないでしょうか。

「コモン・センス完全版 アメリカを生んだ『過激な聖書』」(PHP研究所)
http://amzn.to/1lXtL07(紙版)
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7)「革命派はいい加減な理屈をこねまわし、声高に叫ぶことを得意とする。(中略)国民議会は国民議会で、人権を高らかに宣言したり、あるいは踏みにじったりするのにテンテコ舞い」(279〜280ページ)
225年前の警告は、重要性を失うどころか、かつてなく切実です。

「〈新訳〉フランス革命の省察 『保守主義の父』かく語りき」(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj_(紙版)
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8)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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