From 藤井聡@京都大学大学院教授&内閣官房参与
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●月刊三橋最新号のテーマは「2015年の世界と日本」。
アベノミクスは失敗し、日本は再デフレ化確定。
ユーロはボロボロ。そして、中国が、、、、
三橋貴明が解説する「2015年」が聞けるのは、1月10日まで。
https://www.youtube.com/watch?v=eQUSqYvie2s
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新しい年を迎えましたが,今年は,「成長と財政再建」の双方を果たすべく,日本経済の8%増税ショックの傷を癒し,10%増税に耐えうる基礎体力をつける重要な一年となります.
そのためには,国家が採用しうる経済政策を可能な限り柔軟に遂行していく必要がありますが,そのためには「政府の手足を縛る『岩盤』のような不条理な国家的規制」を撤廃していく必要があります.
そんな「政府の経済政策」にとっての「岩盤規制」の筆頭としてあげられるべきものが,
・プライマリーバランス(PB,基礎的財政収支)の2015年半減目標
・プライマリーバランス(PB,基礎的財政収支)の2020年黒字化目標
の二つであると,筆者は考えています.
そもそも,政府の諸活動の多くは政府予算に依存している一方で,上記のようなPB目標は,政府予算の規模を制約してしまいますから,結局は,政府の経済政策の自由度を著しく奪い取ります.
結果,「日本経済の8%増税ショックの傷を癒し,10%増税に耐えうる基礎体力をつける」という2015年の日本国政府が絶対になさねばならない責務が放棄されてしまうことにつながります.
この点を考えるだけでも,PB目標が国益を損なっていることが見えてまいりますが,PB目標の不条理性はそれにとどまりません.
PB目標を掲げているそもそもの根拠は,「名目GDPに対する政府債務の割合=債務対GDP比(名目)を抑制するため」なのですが,少なくともデフレ期においては,PB赤字を抑制すればするほどに債務対GDP比(名目)が悪化する….というトンデモナイ傾向がある,ということは,以前お示しした通りです.
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/12/23/fujii-122/
つまり,PB目標を掲げることは,政府の自由な経済政策の障害となっているばかりではなく,デフレ下においては「財政再建」の障害にすらなっているわけです.
では,デフレの今日,債務対GDP比(名目)を改善するにはどうすればよいのかといえば,それは,
名目GDP成長率
を高めていくことに他ならない,という点もまた,以前お示しした通りです.
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/12/30/fujii-123/
本日はまず,この点についてもう少し詳しくお話したいと思います.
下記グラフからも明らかなとおり,名目GDP成長率が高まれば,債務対GDPが改善していく一方で,名目GDP成長率が低下していけば,債務対GDPが悪化していきます.
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=605651032869177&set=pcb.605651319535815&type=1&theater
これは一つに,名目GDPが成長すれば,債務対GDP比(名目)の「分母」が拡大していくことになりますから,必然的に債務対GDP比(名目)は縮小(=つまり改善)していくからです.
しかしそれに加えて,名目GDPの拡大は税収の増加,ならびに社会保障費の支出の縮小を意味します.結果,名目GDPの拡大は,PBそのものを改善します.
そして,その傾向は,特にデフレ期において明白となります.
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=605647299536217&set=pcb.605651319535815&type=1&theater
(※ これは,デフレ期には社会保障費が特に大きく,かつ累進性のある法人税や所得税については激しく縮小している一方で,名目GDPが拡大し,デフレが緩和されれば,社会保障費は大きく縮小するとともに,法人税収や所得税収が,その累進性ゆえに大きく拡大していくからです)
すなわち,名目GDPが拡大すれば,
・債務対GDP比(名目)の「分母」である名目GDPが拡大すると同時に,
・債務対GDP比(名目)の「分子」である債務(の増加率)が縮小する
ため,これらの「ダブル効果」によって,債務対GDP比(名目)が,低下(改善)していくのです.
......
では,どうすれば,名目GDPは拡大するのでしょうか?
これについては,様々な意見があるところですが,筆者はこれについては,何度も論じてきました通り,デフレ下の今,「財政政策」こそが何よりも重要であると考えています.そしてそのことは,様々な実証データで裏付けられており,かつ,スティグリッツ,クルーグマン,サックス,カレツキーといった世界中の様々なエコノミストに支持され,しかも,近年ではIMFやOECDといった主要機関も大きく強調しはじめているところです.
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/12/16/fujii-121/
http://blogos.com/article/92975/
......
以上が,「成長と財政再建」の双方を目指す「一本の道」とは何かをめぐる議論ですが,以上をまとめると,次のようになります.
<1>「成長と財政再建」のためには,「財政再建のためのPB目標」を撤回すべきである
<2>その代わりに「債務対GDP比(名目)の改善」を,財政再建目標とすべきである.
<3>「債務対GDP比(名目)の改善」のためには「名目GDPの拡大」が不可欠である.
<4>「名目GDPの拡大」のためには,「政府支出の(効果的な)拡大」が不可欠である.
以上の4段階のそれぞれの段階の根拠については,これまでのメルマガで一つずつ論じてまいりましたので,「復習」が必要な場合は,ぜひ,下記をご参照願えますと幸いです.
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/12/16/fujii-121/
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/12/23/fujii-122/
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/12/30/fujii-123/
で,これら4つがすべて正しいとすると,
「財出を拡大すると,名目GDPが成長し,債務対GDP比(名目)が改善していく」
(あるいは逆に,「財出を縮小すると,名目GDPが停滞し,債務対GDP比(名目)が悪化していく」)
ということが「予想」されることとなります.
(※ なお,リフレ派と呼ばれる方々は,一般的に<4>を否定されるものの,<1>〜<3>までは同意される傾向が高いようです.ついては,最後の段階<4>はさておき,少なくとも<1>〜<3>についてだけは,いわゆる「部分共闘」できる可能性が期待できます.しかし,<1>〜<3>だけではもちろん,成長も財政再建も不可能となります)
では,この 「予想」通りに事が運んだ事例があるのかといえば….それは,明確に存在しています.
その典型例が,アメリカの1929年の大恐慌時のデータです.
下記グラフをご覧ください.
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=605396856227928&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=1&theater
ご覧のように,29年の大恐慌時,33年まではフーバー大統領が,増税と財政縮小を行い,その結果,上記の「予想通り」に,債務対GDP比が悪化していきます(なお,その間,名目GDPは約55%にまで,過激に縮小しました).
ところが,33年からのルーズベルト政権では,財政を拡大し,名目GDPは拡大していきます.そしてその結果,債務それ自身も拡大しますが,肝心の「債務対GDP比(名目)」は,「予想通り」に低下していったのです.
あるいは,下記グラフをご覧ください.
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=605669342867346&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=1&theater
このグラフは,日本,ギリシャ,中国の三カ国について,2001年からの「名目GDP」と政府の「債務」推移を,縦軸と横軸に示したものです.(2001年のGDPの水準を100としています.オリジナルの分析は,http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20141216 にて紹介されていました)
「政府支出を拡大」した中国は,債務も増やしましたが,「予想通り」,それ以上に成長を果たし,結果的に債務対GDP比は約6割も縮減しました.
一方,「政府支出を抑制した」ギリシャと日本は, 成長できずに,ただ債務を増やしていきました.結果,これもまた「予想通り」に,債務対GDP比は2001年から2〜2.5倍にまで拡大してしまいました.
このほかにも, 1990年代のアメリカのクリントン政権も上記の理論的予想を裏付けるものですし,
http://www.choujintairiku.com/fujii15.html
http://www.nicovideo.jp/watch/sm25227030
https://www.youtube.com/watch?v=dekVEn-JAxE
日本の高橋是清財政の時なども,同様のケースだと考えられます.
・・・・
この様に,「成長と財政再建」を達成するためには,拡大的な財政政策を果敢に実行していくことこそが,今,求められていることだと,筆者は考えています.
そしてそのことは,理性的な論理からも明確に指示されることであると同時に,あらゆる実証データと世界中の信頼性高き論者達がその正当性を支持されているのが実情です.
したがって当方は,一学徒として,そして内閣官房のニューディール政策担当の参与として,
「PB目標ではなく債務対GDP比(名目)を財政再建目標に据えたうえで,
適切な支出項目を吟味しながら積極的かつ十分な財政政策を展開していくことこそが,
安倍総理が主張する『成長と財政再建』を同時に達成する『唯一の道』である」
と,断定的に強く主張いたしたいと思います.
本稿での議論が,適切な経済財政政策に結びつき,本年がデフレ脱却元年となりますことを,心から祈念申し上げます.
PS
今週までの四週間分の記事は,連続する「四部作」となりました.全体を俯瞰なさりたい方は,是非,久々に配信した「超人大陸」をご覧ください.
http://www.nicovideo.jp/watch/sm25227030
https://www.youtube.com/watch?v=dekVEn-JAxE
http://www.choujintairiku.com/fujii15.html
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