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2014年5月27日

【藤井聡】『国家のツジツマ』をあわせよう!

From 藤井聡@京都大学大学院教授

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今日の日本では、実に様々な「改革」に関する議論が進められています。

先週お話した国立大学法人の「改革」のお話もそうですし、債権にかかわる「民法」の改革や、農協も含めた「農業改革」の議論も、今盛んに進められています。

こうした流れは、90年代の橋本内閣での行政改革、2000年代の小泉内閣での構造改革へと引き継がれ、現在でも、規制改革会議などで、「成長戦略」の一環として「岩盤規制」の改革が、様々に議論されています

今週は、「個別的な改革」についての具体的なお話は全て(!!)さておき、あくまでも、

「一般論」

としてお話いたしますが、こういう改革は、やればやるほど「合わなく」なってしまうものがあります。

それが、辻褄(ツジツマ)です。

そもそも、改革をしてツジツマを合わせるためには、古いものをすべて破壊して、新しいものにすべて作り変えることが必要です。そうでなければ、古いものと新しく出来上がったものとの間のツジツマが必ず合わなくなってしまうからです。

でも、それは土台無理な話。

なぜなら、究極的に言うなら、「改革をする人」それ自身を消去することはできない一方、その人物そのものは、「改革前の世界」で作りあげられたものだからです(その最たるものが、言葉、ですね)。

どれだけ頑張ったところで、旧体制の中で育った改革者それ自身は、その新しい世界それ自身に矛盾無くフィットすることができないのです。

そういう滑稽な姿は、例えば「改革好きの初老男子」に実に多い。

筆者もこれまでに、そんな「改革好きの初老男子」を山ほど見てまいりました。彼らは皆だいたいよく似た感じで、「改革だ!」といつも叫んでいるのですが、立ち居振る舞いは至って古風。だいたい、若い世代に「改革だ!」なんて威圧的にしゃべりまくるということ自体、旧体制そのものですよね(大笑)。

そしてさらにおぞましいのは、そんな「バカな改革付きの初老男子」に、気に入られようとする「バカな若造」もまた、今やもう、その辺にウジャウジャ生息しています。彼等は自分の頭で考えて「改革」を主張し出したのでは決して無く、「上司や世間からの良い評判」を得たいがためだけに、改革を叫びだした、典型的なおバカさんです。

いわば、受験勉強と同じノリで、言論や政治について意見を持ち出してしまう、というパターンです。ガッコの先生の言う通りにお勉強したように、世間一般で言われているエライ人達の言う通りに、政治や経済についてお勉強してしまう、というわけですね。

さて、そうやってお勉強してしまったおバカさん達が厄介なのは、そういう言説を、エライ人達の口まねをして、でまかせに、折に触れてその場の空気に合わせて話し続けている内に、その内容を心の底から信じ込んでしまう、っていうところです。

そうやって、彼自身、ツジツマ不在のメチャクチャワールドにどっぷりと浸かっていくわけです。。。。。。。

さて、そんな「改革をすればするほどにツジツマがあわなくなっていく。。。」姿を、現代日本有数の知性であられる、佐藤健志氏と中野剛志氏が、徹底的に対談されたのが、

『国家のツジツマ』
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という書籍です。

この本ほんっとに面白い(!)。

佐藤さんが『震災ゴジラ』や『僕たちは戦後史を知らない』で書いておられる、戦後日本人のおぞましくも屈折した潜在意識の形成物語を

「縦軸」

として、中野さんが『TPP亡国論』や『日本防衛論』などで描写された、アホでバカな現代日本の状況描写を

「横軸」

として、今日の日本では、あらゆるところでツジツマが合わなくなって「いる」という「今日の姿」と、あらゆるところでツジツマが合わなくなって「きた」という「歴史的経緯」が、実にツジツマが合う一本「筋」が通った形で描写されています。

そかも、この対談、折に触れて保守主義や自由主義を含めた実に多様な「思想」が踏まえられて展開されていますから、通すことがトンデもなく難しい、一本の細い細い我が国日本の「筋」が徐々に浮かび上がっていきます。

それはまるで、一本の「戯曲」です。

まずは、「ヨーロッパの近代」の「ツジツマの合わなさ」(英語では、インコヒーレンスincoherence)が語られ、

それが黒船と共にやってきて来たことで始められた「明治維新」の「ツジツマの合わなさ」が語られ、

そのなれの果てとして立ち至った「大東亜戦争」とその「その戦後の日本」の「ツジツマの合わなさ」が語られ、

そして最後に、それらを踏まえて展開されている「現代ニッポン」の超絶なレベルの「ツジツマの合わなさ」が語られていきます。

これだけの度重なるメチャクチャを繰り返した結果、今日のインコンヒーレンス(支離滅裂さ)たるや、もうメチャクチャなレベルに達しています。

「デフレ脱却が大事だ!」って一方で叫びながら、もう一方で、デフレ脱却の取り組みを真剣に訴える人々を貶め続け、挙げ句に、デフレを「促進」する取り組みにご執心なおバカなエコノミスト。

「保守」を売りにして、伝統が大事だって一方で叫びながら、あらゆる工作を駆使して影でこそこそ伝統をぶっつぶす改革をやろうとするバカ(もちろん、自分ではそれに気付いちゃいない)。

「伝統だ!」「国体だ!」などと叫びながら、そんな伝統や国体を破壊するバカを、徹底的に支持しようとするさらなるバカ(これももちろん、自分ではそれに気付いてない)。

こういう人々は皆、全くツジツマが合わなくなってるわけです。

そして、こんな「ツジツマの合わなさ」=「インコンヒーレンス」=「支離滅裂さ」によって、今、日本の社会は混乱し、弱者を中心に多くの国民の安寧と幸福、さらには生命までもが失われる一方、国際的地位は凋落し、そして、外国の経済的軍事的脅威に蹂躙されると同時に、巨大災害によって根底から破壊されようとしているわけです──。

こうして、この戯曲『国家のツジツマ』では、欧州における近代の誕生から今日に至るまでの歴史が、一幕一幕、「一貫」した「筋」が通る形で「ツジツマ・メチャクチャ物語」として語られ、それを通して、「今日のメッチャクチャな日本」が生まれ出でた歴史が明らかにされていくわけです。

そして、そのラストで、「この歴史を認識し、自分たち日本人の超絶な情けなさをマジマジと見つめ、認識し、さらには、その歴史の全てを受け入れよ。ただし、決してめげてはならない。謙虚に、かつ、誇り高く、毅然と日本の歴史を一歩一歩、重ねていくべし!」というメッセージが我々読者に投げかけられます(注:これは全て、本戯曲に対する筆者の勝手な解釈ですw)。

残念ながら、インコンヒーレントで支離滅裂な状況に、もう何年も何十年も身を捧げ続けた人生を歩まれている方々には、本書は受け止めがたいものでしょう。。。。したがって、そういう方は、本書を闇の底に隠蔽し続けたい衝動に駆られるでしょう。そしてそれ故に、本書や本書と同趣旨の指摘をする人々に、ツジツマの合わない誹謗中傷を、まるで動物園のゴリラが糞を投げつけるように投げつけ続けるでしょう。

が!

そんな末人達、畜群達のbull shit(牛の糞)は、本戯曲の登壇者二人には、全く届かないでしょう。手足のないウジムシがどれだけ肩や腕に降り積もろうとも、ササッと一降り、二降りすれば、全て払い飛ばされるだけですから(大笑)。

・・・

と言うような印象を、筆者は持ちましたが、お読みになった方は、どんなご感想を持たれましたでしょうか?

兎に角(!)、現代日本に生まれ落ちて生きている人間は、一度くらいは、「集団精神分析」の診断とも言える本書にお触れになっても良いのではないかと、ホンットに思います。

是非是非、皆様も、佐藤さん、中野さんの『国家のツジツマ』に一度お触れになってていただき、一度、ご自身と我が日本国家の「ツジツマ」をチェックなさってみてください(笑)。

では、また来週!

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【藤井聡】『国家のツジツマ』をあわせよう!への6件のコメント

  1. しきしま より

    遅まきながらのツッコミですが・・・「改革好きの初老男子」と言えばあんな方やこんな方の顔が浮かびます・・・与党にも野党にも(笑)

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  2. メイ より

     日本人は劣化したと、多くの人が指摘し、ある程度の共通認識でもあると思いますが、藤井先生がそれに類する事を仰ったのが、失言だと思って喜ぶ方々がいらっしゃるようですが・・。何と申しますか、小物感が情けないほどですね。 そんなにまで藤井先生を貶めたいのは、日本を弱体化させたい人達にとって、よほど大きな脅威なのでしょうか。  重箱の隅をつつくような感じで、言葉の定義やらが「自分たちと完全に同じでないと許せない。敵だ」という事なのかもしれませんが、それはあまりに無理な要求である事が、ご理解頂けないようですね。左翼的な(必ずしも左翼の全てを否定する意味ではありませんが)同調圧力みたいなものを連想しました。 また、京大の先生と、一般人の能力は差があって当たり前で、そのことを不満に思われる、というのは、平等思想に影響を受け過ぎて、道理が見えなくなっているように思うのですが・・。 先生が、嫌な思いをたくさんされたのではないかと、なぜこんな事をされなくてはいけないのかと、憤りすら感じます。 「国家のツジツマ」、読みましたよ。 「震災ゴジラ」と共に、「読んで良かった」と思えるご本でした。 我が国のツジツマの合わなさ、矛盾、ジレンマがどこにあるのか、浮き彫りになっていくようでした。そして、「左翼だ」「右翼だ」と攻撃しあい、さらに本音や建前が入り混じって、混乱を極めているように思えるなか、この本を読んだ事で、「立場は違っても、本当は国を想っている方々」が、ひとつになれる可能性も感じたのです。 (「国を想う」どころか、悪意を持って攻撃してくる存在もあると思うのでそちらは難しいかもしれませんね)。 対談して下さった、中野剛志先生、佐藤健志先生は、何という明晰さをお持ちなのでしょうね。 素晴らしいご本に感謝です。 今は、「大衆」である自分にとって必要な、藤井先生の「大衆社会の処方箋」を読んでいるところです。

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  5. 三須雅彦 より

    「国家のツジツマ」は読んではいないのですが、以前から疑問に思っていたことがあります。憲法記念日が、なぜ5月3日なのかということなのです。日本国憲法は、大日本帝国憲法の改正という手続きで成立しました。帝国憲法の昭和21年改正というべき憲法です。我が国の近代成文憲法の施行日を祝うのならば、帝国憲法の施行日が祝日になるはずですが、そうではありません。帝国憲法は無かったことになっているようです。次に疑問に思うのは、大日本帝国はいつ滅びたかということです。江戸幕府は大政奉還で終わりをつげ、滅びた年もわかるのですが、大日本帝国の滅びた理由や原因はわからず、年月日もわかりません。当初、戦勝国アメリカも日本帝国宛てに交渉をしていました。戦勝国からすれば交渉相手ですから、消滅されては困るはずです。だから戦争に敗れただけでは、歴史からは消えないとも言えます。最近、集団的自衛権の話題があり、マスコミでは日本を戦争のできる国にしようとしていると言っています。日本は戦争のできない国だと思っているようです。サンフランシスコ講和条約は、戦争を終わらせるための条約です。戦争ができない国家ならば、そもそも戦争を終わらせるという法的権利を持っているのか、そして、それが行使できるのかということが問題になるはずです。しかし、講和条約締結行為が憲法に違反するのではないかということは、今まで政治問題になったことがないと思います。また、戦争を終わらせるという行為が必要だということは、戦争を実行していなければなりません。我が国は、日本国憲法が成立してからも戦争をしている国家であったということです。これらの私の疑問に答えようとすれば、戦前と戦後は完全に断絶していることを前提にした答えが返ってくるのでしょう。断絶したと考えなければ、現在を肯定できず、過去がよみがえる。一度、辻褄が合わなくなると、どこまでも誤魔化し続け、過去を否定し続けなければ、生きていくのもつらくなるのかもしれません。

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  6. 拓三 より

    最近、インフレと景気を、ごっちゃにして考えてる奴が、多すぎるやん。金融政策が為替に対して有効なんは、誰もが認めとる。そやけど、景気の話になったら、お花畑や。「雇用が増えれば、賃金が上がる。正規雇用しないと企業は、損になる」ほんだら何で、労働者のパイを増やす話出てくんねん。パイ増えたら賃金上がらんやんけ。ほんだら何で、正社員を、切りやすくする話出てくんねん。正社員の意味無いやんけ。ワシが心配なのは、金融政策派が、悪い悪い奴に利用されがちなとこや。藤井はん、険しい道のり、頑張って下さい。

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