From 佐藤健志
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・・・中国経済は、高騰していた不動産価格、株価がともに大幅に下落し、バブル崩壊の苦境に直面している。この状況に対する解釈は二つに分かれている。
一つは「単なる景気後退」あるいは「投資主導の経済から消費主導の安定成長への過渡期」とする見方、もう一つは、、、
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php
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人間とは厄介なもので、正義感やら使命感に駆られると、とかく自己陶酔に陥りやすくなります。
〈世の中を良くするために立ち上がるんだ!〉と思っていたはずだったのが、いつの間にか、〈世の中を良くするために立ち上がっている自分(たち)は、なんて素晴らしいんだ!〉にすり替わっている次第。
すると、不可避的にエゴが入りこむ。
〈世の中を良くするために立ち上がっている自分(たち)は、とても素晴らしい存在なのだから、広く注目を集めて当然のはずだ!〉
という話になるわけです。
この論理的帰結はお分かりですね。
そうです。
〈世の中を良くするために活動しているつもりでいながら、じつは注目を集めたいがために活動している〉状態にいたるのです。
ここまで来ると、自己陶酔を通り越して、自己欺瞞の域に達していると言わねばなりません。
そして正義感や使命感が自己欺瞞に陥ると、いろいろ困ったことが起きる。
とくに問題なのは、〈世の中が本当に良くなったら、「世の中を良くするために立ち上がった人々」は用済みになる〉という厳然たる事実です。
世の中を良くすることを本当にめざしているのであれば、不満を抱くいわれはないはず。
「自分たちの活動が不要になるくらい世の中が良くなった、めでたしめでたし」となるでしょう。
しかし〈世の中を良くしようとしているつもりで、じつは自分たちに注目を集めたがっている人々〉にとっては、これは由々しき問題。
裏を返せばそういう人々は、うわべの主張とは逆に、〈世の中が悪いままでありつづけること〉、さらには〈世の中がもっと悪くなること〉を、ひそかに望みはじめるのです。
むろん、この点を自覚することはないでしょうが、それこそ自己欺瞞の自己欺瞞たるゆえん。
福田恆存さんなど、1950年代の時点で〈日本の平和運動は、戦争の危機が高まると喜ぶ気配がある〉という旨を指摘していました。
なぜか?
もちろん、平和運動への注目も高まるからです。
〈自分たちが相手にされなくても、戦争の危機など起こらないほうがいい〉とはならないのですよ。
自己陶酔や自己欺瞞が正義感をどう歪めるかについては、「愛国のパラドックス」でさらに詳しく論じましたので、興味のある方はぜひご覧ください。
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さて。
ご存知のとおり、今年の日本では安保法制が大きな議論を呼びました。
〈恒久平和〉や〈憲法九条〉にこだわる人々にとって、これは戦争の危機が高まったことを意味しますから、みなさん、さぞ喜んで・・・もとへ正義感や使命感に駆られていることでしょう。
と思ったら、案の定、こんな記事が出てくるんですね。
どうぞ。
SEALDs、デモでの「臓器売買」発言を撤回、謝罪 「事実確認をしていなかった」
安全保障関連法案に反対する学生団体「SEALDs(シールズ)」の公式ツイッターアカウントが2015年10月21日、デモの中で出た「(日本では)子どもの学費のために裏で自分の内臓を売り、生活をくいつなぐ母親がいます」との発言を撤回、謝罪した。
発言は、東京・渋谷で10月18日に開かれたデモで飛び出した。同団体の男性メンバーが、日本の貧困問題を説明する中、事例として挙げた。しかし同日、同団体公式アカウントが発言を書き起こしてツイートすると、「そんな事実は無い」「本当にあるなら犯罪だ」といった批判が相次いで寄せられた。
21日、団体公式アカウントは発言を事実誤認と認め、「当人は、あるシンポジウムで出た話を勘違いしてしまい、事実確認をせずに発言してしまった」と明かした。同時に、その発言を書き起こしたツイートも削除された。
http://www.j-cast.com/2015/10/21248466.html
シンポジウムで出た話を勘違いしてしまったというのも、分かったような分からないような弁明です。
元の話はどういうものだったのか?
それをどう勘違いしたのか?
こう言っては何ですが、あまり説得力がありません。
とはいえ、これについては脇に置きます。
問題はくだんの男性メンバーがなぜ、そんな勘違いをしでかしたか。
事実確認をしないまま、デモにおけるスピーチで持ち出したのですから、要するに「飛びついた」わけですよね。
今までの話を踏まえれば、理由は明らかでしょう。
このメンバーは、「子供の学費のために自分の臓器を売る母親」に存在してほしかったのに違いない。
なぜか?
そんな事例があるということは、現政権がいかに悪いかの証拠であり、政権を倒そうと活動している自分たちがいかに素晴らしいかの証明となるからです!
論より証拠、「臓器売買」発言の前後はこうなっていました。
安倍首相は日本を〈美しい国〉、〈すべての女性が輝く社会〉、〈一億総活躍社会〉にしたいそうです。しかし現状はどうでしょうか。この国には、進学を諦めキャバクラで働き家族を養わなければならない十代の子がいます。
この国には、子どもの学費のために裏で自分の内臓を売り、生活をくいつなぐ母親がいます。この国には、何度も生活保護を申請したが拒否され、食べるものもなくやせ細り、命を失った女性がいます。この国には、ひとりぼっちで、誰にも看取られることなく、冬の寒空の下、路上で命を落としていく人々がいます。
そしてそんな彼らに対して、〈今まで何してたんだ?〉〈努力が足りないんじゃないか?〉と切り捨てる、それが今の日本の政府です。
(明らかな誤記を修正、および表記を一部変更)
http://togetter.com/li/888929
貧困の問題が、深刻なものとなっているのは否定しません。
けれども無視できないのは、上記の論法にしたがうかぎり、現在の政権のもとでこれらの人々が救われたりしたら、SEALDs(ないし、少なくともこの男性メンバー)にとっては不都合なこと。
だってそうでしょう。
その場合、「美しい国」だろうが「すべての女性が輝く社会」だろうが、はたまた「一億総活躍社会」だろうが、大いに結構ということになりますからね。
弱者を切り捨てる政府の姿勢を批判しつつ、そういう自分も、弱者が悲惨な末路をたどることにひそかなメリットを見出している。
これが自己欺瞞でなくて何でしょうか。
そして自己欺瞞とは、自分で自分を騙すこと。
だからこそ事実とウソの区別がつけられなくなり、「子供の学費のために自分の臓器を売る母親」の話に飛びついたりするのですよ!
なお来週は、都合によりお休みします。
11/11にまたお会いしましょう。
ではでは♪
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〈佐藤健志からのお知らせ〉
1)10月16日発売の「表現者」63号(MXエンターテインメント)に、評論「道に迷った『偉大なる行進』」が掲載されました。
この号には7月31日に行われたシンポジウム「戦後70年 隘路(あいろ)にはまるか、日米同盟」の採録も載っています。ぜひご覧下さい。
2)目下、リハビリと並行して新著の追い込みにかかっていますが、より詳しくご紹介できるまでは以下をどうぞ。
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3)そして、ブログとツイッターは以下の通りです。
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