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2015年7月11日

【青木泰樹】ギリシャ危機は対岸の火事ではない

From 青木泰樹@経済学者

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●●朝鮮人強制連行、慰安婦性奴隷、南京事件、、、
なぜ、真っ赤な嘘が報道され、事実のように広がってしまったのか?

「歴史」と「歴史認識」の違い、そして、その闇とは?

月刊三橋の今月号(7/11配信)のテーマは、「歴史認識問題」です。
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv2.php

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ギリシャ危機は対岸の火事ではない。

この手の論評が目に付くようになりました。
確かに、私もそう思います。
しかし、ギリシャ危機から何を教訓として学ぶのでしょうか。そこが問題です。

財務省シンパと思われるマスコミの論調は、概ね一致していますね。
一言で言えば、「身から出た錆(さび)」。
ギリシャ危機を招いたのは他ならぬギリシャ自身の放漫財政の結果であると。
放漫財政のツケは必ず払わなくてはならない。まさに今のギリシャ危機がそれを物語っているのだと。

そして例によって、「翻って、日本の場合はどうなのか」というお決まりのパターンが続くわけです。
今回驚いたのは、ギリシャが2014年度に基礎的収支(プライマリーバランス:PB)を黒字化していたことでした(三橋先生が前にブログで指摘されて初めて知りました)。
「我が意を得たり」と思ったかどうかはわかりませんが、マスコミの論調もヒートアップします。
曰く、「ギリシャは日本より財政は健全であったにもかかわらず破綻寸前。ましてや日本は危機目前。早急に財政再建を」となるわけです。

確かに、ギリシャの政府債務対GDP比は180%くらいで、日本のそれは200%を超えています(もちろん幾つかある政府債務の定義のうちの一つの場合ですが)。
また日本は2020年度のPB赤字解消さえ危ぶまれているとマスコミは報じていますから、国民の危機感を煽るにはギリシャ財政との比較は格好の材料なのでしょう。
「消費税再増税も歳出削減も、日本のためなのだ。財政出動などもっての外だ」と言いたいために。

しかし、財政健全化の指標とされる政府債務対GDP比の国際間比較は、実はほとんど意味はありません。
外国と比較して多い少ないではなく、その比率が中長期的に一定の枠内に収まっていれば問題ないのです
以前、サラリーマンの住宅ローンを組む時の目安は、年収の五倍程度までと言われておりました。
つまり住宅ローン対年収比率は500%までが健全ということです。

もちろん、まだまだ債務を膨張させられると言いたいのではありません。
あまり目くじらを立てるほど神経質になる必要はないと言っているのです。

以前からお話ししているように、国債問題とは民間保有の国債残高が累増し、利払い費が膨張することです。
本年中に日銀は国債発行残高の3割を保有することになるでしょうから、国債問題は事実上解決したのも同然なのです。
後は適当な時期に政府と日銀間で、すなわち広義の政府部門内で処理すれば良いだけの話です。
政府が新しい債券(例えば長期のゼロクーポン債)を発行し、それと日銀保有の国債を交換すれば済むことです(そうすれば、万一金利が上がっても日銀のバランスシートは痛まない)。
それによって民間の債権債務関係が変更するわけではないので、民間経済に悪影響は及びません。

政府債務対GDP比の国際間比較以上に意味がないというか、逆に経済成長にとって最悪なのが「PB目標」、すなわち基礎的収支を単年度で均衡させる財政目標です。

財務省、そのシンパのマスコミ、経済学者、評論家、政治家たちはギリシャ危機から財政再建の重要性を学ばねばならないと考えているのでしょう。
日本も、2020年度のプライマリー赤字解消に向けて9.4兆円歳出削減をしなければならないと息巻いていた自民党の政調会長もいましたね。

その方たちに是非、ギリシャ危機の本質を学んでいただきたい。
まさに対岸の火事ではないのです。
なぜギリシャ危機が生じたのか。その原因は何なのかを。

それは財政均衡主義がもたらした災厄なのです。
まさしく経済思想が現実経済を潰した事例なのです。

欧州委員会(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)という三者、いわゆるトロイカに押し付けられたPB目標を達成しようとして、ギリシャは忠実に増税と歳出削減を履行し、結果的に経済を破綻させました。
5年間でGDPは25%減少しました(日本に置き換えて考えるなら、日本の名目GDPは約490兆円ですから、120兆円以上が消し飛んだことになります)。
失業率も平均で26%超、若年層に至っては60%超です。
若者が希望の持てない、未来のない国にしてしまったのです。
万死に値する所業です。

ここまで経済を破壊して得たものは何か。
若干のPB黒字だけです。
それによって財政再建はかなったのでしょうか、財政破綻の危機は去ったのでしょうか。
とんでもない、PBを黒字化しても財政破綻寸前です。
PB目標の達成は、国家の安寧も財政再建も、何ももたらさなかったという歴史的事実が残ったのです。
これを教訓とせずして、何を教訓とすべきでしょうや。

PB目標の達成のためには、増税と歳出削減しかありません。
しかし、公的支出を削減すれば、総需要が減り、名目GDPが減り、税収も減る。
増税分を国内で使えばまだしも、対外債務の返済に充てれば、ますます名目GDPは減る。
民需か外需が公需の減少した分を補てんするだけ増加しなければ、国民経済は縮小する。
ただの足し算引き算です。

この誰にでもわかることを財務省も、トロイカも、特にドイツのメルケル首相はわからないのです。
それは、「入を量りて、出を制す」という財政均衡主義の原点である個人の経済感覚に根ざすものなのでしょう。
部分だけを見て全体を顧みない。
財政を均衡させれば、万事うまくいくと思っている。
救いのない頑固脳。
そうした経済通念から脱却しない限り、為政者の思い込みによる経済破壊が続くのです。これは本当に人災です。

果たして、財政均衡主義の犠牲となったギリシャはどうなるのでしょうか。
トロイカは、金融支援の替わりにより厳しい緊縮策をギリシャに要求しております。
増税(付加価値税における軽減税率廃止)によってGDP1%分の増収を、そして歳出削減策(年金制度変更)によってもGDP1%分の増収を目指せと言っています。
他に軍事費も4億ユーロ削減せよと要求しております。
ギリシャの国防にまで口を出してきています。

到底、声は届かないでしょうがギリシャのチプラス首相に二つ助言を送っておきましょう。
先ず財政支援に関して。
歳入=税収+国債収入(国債を中心とする借入金)。
歳出=一般歳出(国債費を除く政策経費)+国債費(利払い費および償還費等)
ですね。財政赤字は「税収<歳出」です。
他方、プライマリー均衡は、「税収=一般歳出」です。

ギリシャはプライマリー黒字の状況ですから、問題は国債収入が確保できない(金融支援=借金ができない)ということです。
それゆえ借金の返済(国債費)ができずにトロイカに支援を仰いでいるわけです。
この状況を打開するためにチプラス首相はこう言えばいいのです。

「私が金融支援を仰ぐのは(追加の借金したいのは)、あなたたちに借金を返すためだ。」と。
さらに、あなたの右のポケットにあるカネを貸してくれ。すぐにあなたの左のポケットにそれを入れるから」と言えばよいのです。
つまり、トロイカのカネはギリシャ政府経由でトロイカに戻るのです。
トロイカに損はない。
これによってギリシャの銀行は救われ、実体経済をこれ以上毀損することなく、問題を先送りできるのです。

先送りが大切なのです。
世の中には、先送りを嫌悪する人達が一定数おりますが、それは物事の二面性を理解していないことを表明するに等しい。
先送りの対語は、拙速です。
拙速にならずに、じっくりと時間をかけて解決することが適切な場合も多々あるのです。今回のギリシャのケースがまさにそれです。
経済を立て直して、ユーロからドラクマに移行する時間稼ぎが必要なのです。

もう一つ、チプラス首相は緊縮策を受け容れないほうが良いのです。
これ以上、ギリシャ国民に貧困の淵を覗かせてはならないのです。
メルケルに従って、若者の失業を増やしてはなりません。

その代り、次のように逆提案すればよいのです。
「ギリシャは経済成長を成し遂げることによって、トロイカに債務を返済することを約束する。ついては、成長のための資金を融資してくれ。これまで、トロイカの要求に素直に従ってきたが、結果は最悪だった。経済を潰してしまった。あなたたちの論理でギリシャを救えないことが分かった。あなたたちもわかっただろう。成長によってのみ、ギリシャは救われ、ユーロも命脈を保つことができる(ただし、一時的ですが)。ギリシャには世界に誇れる観光資源がある。それを中心にギリシャ強靭化計画を実施することで再生を図りたいのだ」と。

もちろん、なかなか難しいでしょう。
ギリシャはユーロ通貨を導入したことで、先の見えない将来を自ら造ってしまいました。
以前の通貨ドラクマのままでいれば、現況以上に再生は可能であったと思います。
厳しい時期が到来しようと、未来に希望が持てれば生きていけるものですから。
ユーロ圏に留まる限り、ひとたび金融支援が滞るとギリシャの銀行システムは破壊されます
今後も繰り返し、そうした状況が続きます。
それが実体経済にとって最も厳しいことなのです。決済ができないと商売が成り立たないからです。
その辺の事情、通貨の信認をめぐる通貨価値の問題と為替レートの話は、また別の機会に譲ります。

PS
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月刊三橋の今月号(7/11配信)のテーマは、「歴史認識問題」です。
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PPS
次号(8/11)のテーマは「<戦後70周年特集>大東亜戦争」です。
米軍による占領という亡国の期間に
日本人が忘れてしまった日本の歴史観を解説します。

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【青木泰樹】ギリシャ危機は対岸の火事ではないへの3件のコメント

  1. 空き缶 より

    ところがトロイカは国有資源を売ればいいと言っているそうでパルテノン神殿を売っぱらったお金で借金を返してギリシャに未来はあるのか・・・

    返信

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  3. nagado より

    英語が公用語になるとは思いませんが、日本語しか話せない日本人が生きずらくなる日本国ではお先真っ暗だと思います。ギリシャは対岸の火ではないと言うことは、同様なことが日本でも行われているということですね。地震や津波、台風に備え、日本人を守るための国土強靭化の予算はついたのでしょうか?財務省が予算を削減しているとの事ですが、彼らを動かしているのはグローバル企業のロビーイストですか?グローバル企業の資金源は国際金融資本家ですよね。とすると彼らの餌食にならないようにするには、銀行の力を削ぐしかないですね。法律で守られている彼らですから、貨幣発行権を持つ国にまで借金を背負わす彼らですから、緊縮財政を強いてデフレを起し、同時に大規模増税をし、日本人を死に追いやる彼らですから、法的に彼らの力を削ぐしかないと思います。リンカーンやケネディが行おうとした、銀行から借金をするのではなく、国家貨幣を銀行に販売して、電子信号で財務省に入金してもらう予算を日本人の生きる力として必要十分なベーシックインカムを、国家事業を展開し、日本人に思いっきり働いてもらうことしか明るい未来はないと思います。

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