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2014年6月27日

【施 光恒】昭和六年の暑い夏

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

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●●中国大暴走。日本は国家存亡の危機を回避できるのか?
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おっはようございま〜す(^_^)/

サッカーのワールドカップは残念でしたが、今度は高校野球の季節ですね。昭和生まれらしく(?)野球好きの私は、高校野球の予選が沖縄と北海道から始まったというニュースを耳にして、もうすぐ夏だなあと思いました。

ということで今回は高校野球にちなんだ話題を。

ご存知のかたも多いと思いますが、今春、台湾でヒットした映画に『KANO』があります。カノウとは「嘉農」、つまり台湾にあった嘉義農林学校の略称です。

戦前は、日本本土だけでなく、日本の統治下にあった台湾、朝鮮、満州の学校も参加して、甲子園の大会(全国中等学校優勝野球大会)が開催されていました。嘉義農林は、昭和6年(1931年)の大会に台湾代表として甲子園に初出場し、みごと準優勝に輝きました。

『KANO』は、嘉義農林を指導した熱血日本人監督と、選手たちとの交流を軸に、その史実を描いた台湾映画です。

台湾映画ですが、監督役の永瀬正敏など日本人俳優もたくさん出演しています。

『KANO』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=pmG6LuRxilw

日本での公開は、まだ先になるらしく、実は私もまだ観ていないのですが、観た人からの情報や各種のサイトや新聞によると、次のようなあらすじのようです。

***
1920年代、台湾代表として全国中等学校優勝野球大会へ出場するのは、毎回、日本人のみで構成された台北商業。

一方、のんびりしたチームの嘉義農林学校野球部は連敗続き。しかし新しい監督として着任した日本人の近藤兵太郎監督による厳しくも愛情ある指導と、それに応えた部員の猛練習により、嘉義農林は徐々に強くなり、甲子園を本気で目指すようになった。

1931年(昭和6年)、ついに台湾商業を決勝で下し、嘉義農林は甲子園に初出場。

大会前の下馬評は芳しくなかったが、ふたを開けてみると、「打撃に長けた台湾人、足の速い高砂族、守備がうまい日本人」の各選手がそれぞれの長所を活かし、一致団結し、抜群の結束力を見せて相手チームを投打に圧倒。初出場で夏の甲子園大会決勝戦まで勝ち抜いていく。

決勝の相手は、東海地方代表の中京商業。結末はいかに…。
***

嘉義農林を率いた日本人監督・近藤兵太郎氏は選手に大変慕われていたようです。近藤氏は、1888年(明治21年)松山市の生まれ。松山商業から早稲田大学と野球名門校でプレーし、松山商業の監督に就任。その後、台湾に渡り、1928年(昭和3年)から嘉義農林を指導しています。

近藤監督は、「魂のある野球」がモットーで、「情熱、純情、友情」「球は霊(たま)なり」という言葉を好んだそうです。スポ根ですね〜。
(^_^)

嘉義農林が準優勝した昭和六年夏の甲子園大会の様子を、当時の新聞で調べてみました。当時は、都道府県別ではなく、北海道、奥羽、東北、北関東、南関東、東京、甲信静、信越…といった地域別の区分けで、22校の代表校が戦う形でした。

嘉義農林は打棒爆発だったようで、2回戦から出場し、神奈川商工(甲信静代表)を3対0、札幌商業(北海道代表)を19対7、小倉工業(北九州代表)を10対2と破って、決勝に進出しています。

決勝では、自慢の打線が抑えられ、0対4と中京商業に敗れてしまいましたが、判官びいきもあってか、甲子園では嘉義農林は大人気だったようです。

嘉義農林の特徴は、「あらすじ」でも触れましたが、台湾人、台湾の先住民である高砂族、そして日本人の三民族の混成チームだったことでした。

決勝戦のオーダーは下記のとおりですが、エースで4番だった呉明捷投手の戦後のインタビュー記事(『朝日新聞』1978年5月19日付朝刊)によると、「平野、上松、東、眞山の各選手は高砂族、呉、蘇の両選手は台湾人、あとは日本人」だったそうです。高砂族4人、台湾人2人、日本人3人となりますので、まさに混成チームです。

一番(レフト)平野
二番(センター)蘇
三番(ショート)上松
四番(ピッチャー)呉
五番(キャッチャー)東
六番(サード)眞山
七番(ファースト)小里
八番(セカンド)川原
九番(ライト)福島

呉選手のこのインタビュー記事によると、呉選手は、バッテリーを組んだ東捕手に毎日600球受けてもらうという猛練習の末、コントロールを鍛えたそうです。(さすがにこれは投げすぎで肩に悪いでしょうが…)。(^_^;)

中京商業の優勝と嘉義農林の健闘をたたえる決勝戦翌日の新聞(『朝日新聞』昭和6年8月22日付)に、作家の菊池寛が、「涙ぐましい… 三民族の協調」と題する観戦記を寄せています。なかなか名文なので、少し引用してみます。

***
僕はラジオを通じて甲子園の野球は放送される限り聞いておる。(略)

僕は嘉義農林が神奈川商工と戦った時から嘉義びいきになった。内地人、本島人、高砂族というかわった人種が同じ目的のため協同して努力しているということが何となく涙ぐましい感じを起こさせる。

実際甲子園に来てみるとファンの大部分は嘉義びいきだ。優勝旗が中京に授与されたのと同じ位の拍手が嘉義に賞品が授与される時に起こったのでもわかる。ラジオで聞いているとどんなドウモウな連中かと思うと決してそうではない。皆好個の青年である。

そして初めて内地に来て戦っているせいか何となく遠慮深いというところがあるようだった。(略)

連日の成績を見ると甲子園の優勝旗なるものはくじ運もあるがしかし実力を具備したナインが粒々辛苦の末ようやく取り得るものだという事がしみじみわかった。(後略)
***

菊池寛も「甲子園に来てみるとファンの大部分は嘉義びいきだ」と書いているように、嘉義農林は大変人気があったようです。特に、エースで4番の呉明捷選手が打席に立つと、「GO、GO、呉君」という「呉コール」で球場が沸いたそうです。

日本人は、今も昔も判官びいきで、また一致団結して努力する姿勢を好むのでしょうね。

日本では現在でも変わらず「部活もの」のマンガや映画、ドラマは根強い人気があります。

普段、我々はあまり意識しませんが、学校の部活動は日本独特のものです。日本では、多くの一般生徒が普通にスポーツや文化活動に打ち込み、学校側も部活動を大切な「教育の一環」であり「人間形成の場」だと捉えますが、これは日本に特有の現象です。

中国や韓国などでは、儒教文化の影響のためか、運動部などの部活動にはあまり重きが置かれず、不活発です。

欧米の学校も、日本とはだいぶ違うようです。部活動の研究をしている中澤篤史・一橋大講師によると、日本の運動部の部活動は「一般生徒の教育活動」として特徴づけられますが、米国の部活動は「少数エリートの競技活動」、英国の場合は「一般生徒のレクレーション」だそうです(中澤篤史「学校運動部活動研究の動向・課題・展望──スポーツと教育の日本特殊的関係の探求に向けて」『一橋スポーツ研究』第30巻、2011年)。

米国では、運動部はシーズンごとに組織され、毎シーズンごとにトライアウトによって参加できる生徒が選抜されるという形態をとるところが多いのです。つまりその種目に秀でた一部の生徒による競技活動という位置づけになります。英国の学校の部活動も、日本のように教育や人格形成の一環としてはみなされず、レクレーションの一つという位置づけです。

戦前の日本人は、日本独特の教育とスポーツの捉え方を台湾に持ち込んだわけです。日本的な「部活動」を通じた成長物語である『KANO』が現在の台湾で人気を博し、多くの台湾の人々の共感を呼んだということは嬉しいことですね。

部活動では、「皆がコツコツ努力して自分を磨くこと」、「皆で心を一つにし、協力し、助け合うこと」「団結心や組織力を学ぶこと」などが強調され、身に付けるように期待されています。これらは、日本人が次世代を担う子どもたちに大人になるために身に付けてもらいたいと半ば無意識に願ってきた事柄でしょう。

ですが、これ、今後はどうなってしまうのでしょうかね。

新自由主義的改革がますます進むこれからの日本社会では、「コツコツ努力すること」や「協調性」「助け合い」「団結心」などは、あまり評価されなくなってしまうかもしれません。自己主張が強く、要領がよく、少々強欲な「グローバル人材」のほうが好まれるようになりそうです。

また、「部活動に打ち込んだ子」よりも、「TOEFL」の点数が高く英語の発音がネイティブみたいな子のほうがエラいと思われるようになってしまうんじゃないでしょうか。そもそも大学入試のTOEFLとか大学の英語で行う講義に対応するために、高校生の短期語学留学などが今後流行るでしょうから、部活動に打ち込む子が減ってしまうかもしれないですね。

私は、「コツコツ努力すること」や「協調性」「助け合い」「団結心」を身に付けた子が評価される日本の経済社会を作ることのほうが大切だと思います。

しかし実際は、「国際競争力の強化」「グローバル人材の育成」などを旗印に、「中等教育の抜本的改革」(その実、中等教育で企業が稼げるようにする改革)とかが始まってしまうんじゃないでしょうか。やですね。
(_・ω・`)

だらだら長文、失礼しますた…
<(_ _)>

PS
日本人は中国共産党の幹部をなめすぎていないか?
本当は怖い中国の話を三橋貴明が解説中
http://youtu.be/ns-sXQ-Iey0

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【施 光恒】昭和六年の暑い夏への4件のコメント

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  2. 野口英巳 より

    施さん、いつも、ありがとうございます。励まされる事が多く、長文とは感じません。 私は、学問とは縁遠く、憲法で日本人の定義が、曖昧である事を知らずに生きていました。 かつての大東亜文化圏なるものによって、これまでの価値観が、壊される危機感を強く感じて過ごす毎日です。 着物で日常を過ごそうと決心した、要因のひとつに、文化ごと他国に奪われるのは、我慢できないという気持ちが、あります。 上手に着られないので、観ていなかった時代劇など参考にしています。台詞の端に、「人には、受け取っては、いけない”お金”ってものが、あるんだよ。」なんて、聞いてしまうと、これまでの日本が失われる事に、なんとも言い難い悲しみがこみあげます。 心の奥に、大切にしまっておきたいものが、あります。たとえ、どんな状況に見舞われてしまっても、・・・。

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  3. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    >新自由主義的改革がますます進むこれからの日本社会では、「コツコツ努力す>ること」や「協調性」「助け合い」「団結心」などは、あまり評価されなく>なってしまうかもしれませ内申書目当てに部活でも入っとくか、みたいなスレッカラシがいなくなると思うと、せいせいする。他者の評価を待たないと持たない「美徳」なんて無価値です。

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  4. poti より

    そして、グローバルに適応した子供たちが大人になる頃にはグローバル社会そのものが崩壊しておりましたとさ、めでたしめでたし

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