日本経済

2020年7月15日

【藤井聡】「半自粛と財政政策でコロナを乗り越える」という「第三の道」を選択せよ。

From 藤井聡@京都大学大学院教授

 

今、政府はGOTOトラベルだとか何だとか言って、「経済を回そう!」なぞと口走っています。

僕はこれを見てると、「この人達、正気か?」と思ってしまいます。

もちろん多くの国民も今、「GOTOトラベルなんてやれば感染が広がるじゃないか!政府はおかしい!」と、この政府方針を批判しているようですが、当方の批判はそれとは別の角度です。

そもそも政府の腹づもりは、GOTOトラベルを通して、「政府支出」だけじゃなくて「民間の活力」も活用して経済を復活させよう、という典型的な新自由主義的なもの。

・・・ですが、やらないよりはやった方が(特に観光業にとって)幾分は役に立つかもしれませんが、そんなもんで、このコロナ大不況を乗り越えるなんて絶対無理です。

だいたい、このGOTOトラベルというプロジェクトは、国民が代理店などを通して旅行に行く時の旅行支出の補助をする、というものですが、そもそもその予算は1.35兆円だけ
https://www.jiji.com/jc/bunshun?id=38988

しかも、その申請には何やかやと手続きが面倒なので、この1.35兆円が全部執行されるかどうかも怪しい代物。

だからこんなセコイ対策じゃぁ、今、コロナ禍でGDPが1割や2割、つまり、50兆円や100兆円がぶっ飛ぶかもという話をしている時に、焼け石に水にしかなりません。

なんでこんなバカな話になっているのかというと、それは偏に、コロナ禍対策についての議論が貧困だったからだと考えます。

そもそも、このGOTOトラベル券は、今の政府や維新の人達と、自粛推進を主張される皆さんとの間で交わされている、

「自粛+政府支出のセット」論vs「自粛緩和で、経済を回す」論

という二項対立の議論から出てきました。

で、今の政府や維新(のいわゆる新自由主義者達)が、経済を回すための対策として、打ち出したのがこのGOTOトラベル券な訳ですが・・・そもそも、この二項対立で物事を捉える姿勢そのものが、愚かな態度なわけです。

なぜなら自粛をどれだけ緩和したところで、それだけでコロナ不況が終わるはずが無いからです!

第一に、日本の自粛を全部緩和したところで、世界はリーマンショック級のコロナ大恐慌中。そもそも、リーマンショックの時、日本国内は誰も自粛なんてしてなかったのに、メチャクチャ経済が冷え込んでいたではありませんか。だから、自粛緩和したところで超大型財政政策が必要なのは、当たり前です。

第二に、リーマンショック時よりも酷いのは、今、国際的な人の流れが徹底的に抑制されているが故に、リーマンショック時には期待できた「インバウンド需要」が全く期待出来ない、という点。だから国内の自粛を全部緩和しても、リーマンショック級「以上」の被害が生じています。

第三に、コロナ問題が襲来する以前の昨年10月の10%への消費増税が、東日本大震災級以上に、日本経済に大打撃を与えていたのも、よく知られた事実。だから、仮に、コロナ自粛を完全に緩和したところで、10%消費増税の大被害に、日本経済は晒されているわけです。

つまり、現在の日本経済は、

1)10%消費増税による東日本大震災級以上の大打撃
2)リーマンショック級の世界恐慌による外需の冷え込み
3)インバウンド需要の喪失
4)コロナ自粛による内需の喪失

の四重苦に苛まれているのです!

これを踏まえれば、先に指摘した、

「自粛+政府支出のセット」論vs「自粛緩和で、経済を回す」論

の二項対立でものごとを捉えるという態度は、上記の1)~3)の三重苦がゼロだというあり得ない前提に立って議論しているようなものなのです。で、そんな愚かな議論に明け暮れていたものだから、GOTOトラベルなぞという、セコイ対策が大真面目に政府提案されてしまうに至ったわけです。

一方で筆者は、「4)のコロナ自粛による内需の喪失」を「半自粛」路線(https://38news.jp/economy/15822)で幾分緩和した上で、1)~3)の需要減少と、「半自粛」路線によってもたらされる4)による需要減少の全てを勘案した上で、財政政策を徹底的に拡大すべきだ、と考えています。

(余談ですが、筆者が唱える「半自粛」戦略は、自粛論との対比でみれば、経済活性化策という側面がありますが、芸術防衛、文化防衛、社会防衛という側面があるのです。しばしば誤解している方々を見かける事がありますが、筆者は何も、経済対策として「だけ」半自粛政策を唱えているのではありません。むしろ、芸術・文化・社会の防衛のためにこそ、自粛論を緩和する半自粛論が必要だと考えているのです)

つまり、我々は、「自粛+政府支出のセット」論、「自粛緩和で、経済を回す」論とは一線を画した第三の道として、

「半自粛と財政政策でコロナを乗り越える」論

を考えるべきなのです。より具体的に言うなら、

「半自粛&消費税ゼロ&真水100兆円」のセット論

が必要なのです。

・・・勿論「半自粛」の時に求められる財政支出は、「自粛」の時に求められる財政支出額よりも低いでしょうが・・・今のこの状況下では、安倍内閣が「自粛」の時に求められる財政支出額を十分に支出することはほとんど期待できません。

さらには「半自粛」の時に求められる程度の財政支出額すら支出する可能性もほとんどないでしょう。

なぜならそもそも、安倍内閣が誕生してからこの約8年の間、誰も自粛していない経済状況下で求められる程度の財政支出額すら、安倍内閣は全く出してこなかったのです。だから、誠に残念な話ですが、半自粛下で求められる程度の支出額を十分に出すなんてことすら、期待することが難しい政治状況にあるのが、今の日本の実情なのです(これはもちろん、内閣官房参与としての経験と、現時点での人脈を通して知り得る情報から推察した当方の感覚、です)。

・・・・だとしたら、日本を救うにはやはり、

「半自粛と財政政策でコロナを乗り越える」論

を強力に推進していく他に、現実的な選択肢は無いのではないかと・・・筆者は真剣に考えています。

当方のこの論理がわかりにくいという方がおられるようでしたら是非、もう一度上記をお読みいただきたいと思います。決して難しい話では無いはずです。

そして、もしも、筆者のこの説にご賛同される方がおられましたら、是非、この議論を共に強力に推進して参りましょう。そして、筆者の主張に疑問をお感じの方がおられるなら、是非とも誹謗や中傷ではなく、公明正大な理性的議論を大いに展開して参りましょう。

誠実な議論だけが、私達の未来を切り開く力を湛えることが可能となるのです。

追申1:この度、「半自粛と財政政策でコロナを乗り越える」論という「第三の道」の指南書とも言うべき別冊クライテリオン『「コロナ」から日常を取り戻す』を、この度緊急出版しました!是非、ご一読下さい。
https://www.amazon.co.jp/dp/4828422072

追申2:コロナを巡る「第三の道」をしっかりと選択するためにも是非、下記をじっくりご一読下さい。『なぜ、コロナについての自粛を巡る議論は人を狂わせるのか』から考える、「バランス感覚」と「謙虚さ」の重要性
https://foomii.com/00178/2020071115150668504

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【藤井聡】「半自粛と財政政策でコロナを乗り越える」という「第三の道」を選択せよ。への5件のコメント

  1. 大和魂 より

    わたくしは消費税増税とコロナ禍と東京五輪の延期による状況を打開するための方針だと思います。それで安倍政権は是が非でも消費税増税の失敗だけは認めたくないのと、東京五輪の見込み分をGOTOトラベルとインバウンドと高プロの移民政策で補うつもりだと解釈しております。ただ私も余りにも愚かな知識人とか政治家のふがいなさと乏しさで後ろ髪を引かれる思いの中でつい先程、豪雨災害による災害ボランティアの保険に加入して参りましたので明日からボランティアに参加する予定です。何はともあれお互いに頑張って参るしかないと考えつつもその隙をついて低次元の維新の連中やら竹中などのショックドクトリンだけは監視からの追放の対象です!

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  3. まーやん より

    藤井先生の提唱する半自粛を更に望ましい形に整える為にも、作家の佐藤健志さんと、ツイッターで交流してみてはいかがでしょうな。きっと気づきがあると思います。

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  4. アラフェナミドフマル より

    >「政府支出」だけじゃなくて「民間の活力」も活用して経済を復活させ

     良いようには聴こえますが、
    デフレを治さないまんま民間投資…ってことで、
    パイ(需要)を拡げないまんま過渡競争、構造改革…の十年前と変わらないですね。

     経済を復活させるにはデフレを治すしかなく、

    政府の赤字借金(貨幣供給、需要創出、公共事業)拡大しかないのに、

    相変わらず堂々巡りの破綻思考の政府内閣府。

     ため息ばかり。

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